魚の鮮度と熟成

 魚は何といっても鮮度が一番と思われがちですが、魚によっては獲れたてではなく、何日か置いたほうが美味しくなる魚もあります。

 鯛やヒラメ、カレイといった白身魚、アジのような魚をはじめ、マグロやクエのような大型の魚もそうです。
 タラやサワラなんかはすぐに食べた方が良い魚で、サバなどは、熟成するけれど、きちんと扱わないと劣化が先に進んでヒスタミン中毒になってしまうため、素人は熟成させないほうが良い魚もあります。

 これは、牛肉や豚肉の熟成と同じで、魚は死んでからタンパク質の中の成分が分解し、旨味の素であるアミノ酸になるからです。

 とはいえ、基本的に魚は鮮度落ちが早いので、きちんと手当てをしないと、熟成よりも先に劣化や腐敗が進んでしまいます。
 これは主に、雑菌や血の影響が大きいので、獲れた魚はすぐに、雑菌の多い内臓と臭みの素となる血合いを綺麗に取り除き、劣化しないように塩をして寝かせることが大切です。

 だから、家庭で魚の熟成を考える時は、刺身用に食べられる鮮度のよい丸魚を買った時だけです。
 購入時点で刺身にならないほど鮮度落ちの進んだものや、パックの切り身などは、そもそも獲れてから何日も経っているものなので、出来る限りすぐに食べた方が良いでしょう。

 養殖の魚も熟成にはあまり向きません。
 真鯛やブリなどは、熟成させたほうが明らかに旨くなりますが、養殖の真鯛や養殖ブリ(はまち)の場合は、寝かせると身がぐるぐすになってしまうのと、養殖のエサ特有の匂いが出てきてしまうので、鮮度の良いうちに食べたほうが美味しいです。

 とはいえ、鮮度が良い魚のコリコリした食感も、美味しさの一部ではあります。
 なので、熟成したほうが美味しいかどうかは、魚好きでも
意見が分かれることもあります。

 魚は、死んでから少し経って死後硬直が始まった時が、一番身が引き締まっています。
 それがだんだん緩むとともに熟成が進むのですが、天然の真鯛やヒラメは、3~4日経っても、プリプリした食感はしっかり残るので熟成に向いている魚と言えるものの、単に食感だけで言えば、3日目よりも2日目、2日目よりも1日目のほうが、コリっとした食感が楽しめ、それでこその魚の美味しさ、と言う人もいます。

 それが顕著なのがイカでしょう。
 九州の「呼子のイカ」のように、活きたまま捌いて、その食感を楽しむ食べ方もあります。
 ただこの場合、熟成されていないので正直旨味は少なく、あくまで食感と精神的な味わいを楽しむ食べ方です。
 ですがイカも、熟成させ、堅さもゆるんで旨味が乗ってきたほうが、味覚的には美味しいと思います。

 まあ、どちらが良いかは好みですね。

 また、熟成させて食べるのは刺身だけに限りません。
 煮たり焼いたりする場合も、当然、熟成させた魚のほうが美味しくなります。

 いずれにしろ、魚で大切なのは手当です。
 丸魚はもちろん、内臓を取ってあったとしても、綺麗に洗われているかは不確実ですし、何より血合いから臭みが出てしまうので、劣化する前におろして、血合いを取り除き、魚によっては少し塩をすることが大事です。
 寝かせてからも、一日目は巻いているペーパーを新しいものに変えるなど、丁寧な処理が欠かせません。
 それらが不十分だと、旨味よりも生臭さがすぐに出てしまいます。

 魚嫌いの人は、おそらく状態の良い魚を食べていないからではないか?
 と思います。

 最近は流通が良くなったのでだいぶん良くなりましたが、スーパーで売られている切り身の鮭やカレイなんかは、日本の子供を魚嫌いにさせた元凶ではないかと思います。

 鮮度が良く、きちんと手当てをされた魚には臭みは全くないのですが、加熱用に売られているパックの魚は、すでに生臭さが出てしまっているものが多いです。

 一度生臭さが出てしまった魚は、煮ても焼いてもその臭みは抜けません。

 以前、「カレイのに煮つけは匂いが好きじゃない」と言っていた友人に、活きの良いカレイで作った煮つけを食べさせたら、「カレイの煮つけってこんなに美味しかったのか。今まで食べてたのは何だったのか!」と感動していました。

 魚の匂いが気になって好きじゃない、という人は、煮魚や焼き魚をするにしても、「刺身用」と書かれた魚で料理してみましょう。
 魚の鮮度を目利きするのは経験がいりますが、「刺身用」と書かれていたら、それなりに鮮度は良いはずです。
 魚料理の認識が変わるかも知れませんよ。

 

 
 


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