カルボナーラ


 数あるパスタ料理の中でも、日本でカルボナーラは屈指の人気料理ではないでしょうか?
 意外と奥が深い料理なので、カルボナーラの雑学をいろいろ書いてみようかと思います。

●カルボナーラの意味

 カルボナーラとは「炭焼き」を意味し、スパゲッティ・カルボナーラをイタリア語で書くと正式には"Spaghetti alla carbonara"で、「炭焼き風スパゲッティ」の意味になります。

 「炭焼き風」と言いながらも実際には焼きません。名前の由来としては、炭坑夫の間でお手軽料理として食べられていたものが広まったとか、全体にかける黒コショウが炭のように見えるから、といった説がありますが、イタリアでも諸説あって、料理自体の起源はよくわかっていません。

 今日のパスタ料理としてはイタリアではもちろん、世界各国で定番のようですが、イタリアの料理書などで名前が確認できるのは第二次世界大戦以降らしく、比較的歴史の浅い料理です。

 カルボナーラが誕生した経緯として有名な説には、第二次世界大戦後、戦争に負けたイタリアのローマに駐留したアメリカ軍が、支給品としてベーコンと卵を大量に持ち込んだので、それを活用して生まれた料理、という説があり、年配のイタリア人はカルボナーラを見るとアメリカ軍を思い出すからあまり好きじゃない…なんて書かれていたのを昔の料理の本で読んだ記憶があります。

 あくまで説の一つではありますが、アメリカ軍の影響で生まれた料理かどうかはともかく、カルボナーラが定着した背景には、アメリカ軍の影響が少ながらずあるかも知れません。

●イタリアのカルボナーラ

 日本で良くイメージされているカルボナーラは、ベーコンと生クリームとパルメザンチーズを使った、クリーミーなパスタ料理でしょう。
 ですが、イタリアのカルボナーラでは、必ずしも生クリームは使用しません。

 イタリアのカルボナーラは、パンチェッタ(豚肉の塩漬け)と卵とチーズを基本材料として、色々なバリエーションがあり、生クリームを使うのはカルボナーラのバリエーションの一つです。

 チーズはパルメザンではなくパルミジャーノを使用しますが、カルボナーラの本場と言われるローマでは、ペコリーノを使ったり、パンチェッタの代わりにグアンチャーレを使うこともあり、卵も卵黄しか使わないこともありますが、いずれにせよ生クリームは一切使用しないベーシックなスタイルで、香りづけにガーリックを加えることすら邪道、という人もいるそうです。

 パンチェッタとはイタリアのベーコンのことで、一般的なベーコンと異なる点は、非加熱で燻製していないところです。
 グアンチャーレはパンチェッタの一種で、豚トロの部分で作ったものです。ペコリーノは羊の乳で作ったチーズで、パルミジャーノよりも風味が強く、塩分も強いチーズです。

 パンチェッタと卵とチーズのみで作られる基本のカルボナーラは、日本ではよく「ローマ式」とか「ローマスタイル」と言われますが、日本で一般的にイメージされているであろう、クリームパスタ的な料理とは材料からして違うので、味も見た目もかなり異なる料理です。

 ローマ式カルボナーラの作り方は、フライパンでパンチェッタをカリっと炒め、パスタの茹で汁を少々そのフライパンに加えてフライパンにこびりついているパンチェッタの旨味をよく溶かし、それを溶き卵の入ったボウルに入れ、茹で上がったスパゲッティを加えて、さっと混ぜ合わせます。

 そして、お湯が沸騰した寸胴の上にそのボウルをあて、手早く混ぜ合わせながら、蒸気で熱を加えていきます。
 卵が凝固しはじめ、ソース全体がもったりとしてきたら、お皿に移し、仕上げにチーズとブラックペッパーを削って全体にふりかけて出来上がりです。

 ポイントは温度で、温度が低いと、ソースがゆるくて卵も水っぽく、味わいに欠けます。
 逆に温度を上げ過ぎると、卵がスクランブルエッグ状態になってしまい、こうなると完全に失敗です。

 カルボナーラの調理のポイントは、この卵への火の入れ加減が全てといっても過言ではなく、卵だけで作るカルボナーラはごまかしがきかないので難易度が高いです。

 フライパンで直接火にかけながら作ると失敗しやすいので、パスタを茹でる鍋の沸騰した蒸気を利用して、湯煎状態にして作る方がやり易いです。

 生クリームを使うと失敗しにくくなると言われていますが、それでも卵の凝固のタイミングは瞬間勝負なので、ベストな状態に仕上げる難しさは同じです。

 ただ、クリームスパゲッティだと思ってしまえば、卵の状態にそこまで敏感にならなくても、クリーム自体でソースとしてのなめらかさを担保できるので、料理としては失敗しにくくなります。

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 ローマ式カルボナーラ(調理:管理者)


●日本のカルボナーラ

 日本のカルボナーラのイメージは、クリームパスタの一種としてでしょう。

 明確な統計があるわけではありませんが、レトルトやコンビニ弁当のカルボナーラなどはどれもクリームスタイルなので、おそらく一般のイメージはそうだと思います。

 イタリアでは必ずしも入れない生クリームが、何故日本では基本材料になったのかはわかりませんが、その理由は、日本にスパゲッティ料理を広めたパイオニア的なレストラン、「壁の穴」のカルボナーラが、クリーム系だったからではないか?と個人的には推測しています。

 「壁の穴」は、1953年に東京で開業したスパゲッティの専門店で、「たらこスパゲッティ」や「納豆スパゲッティ」、「若者のアイドル」など、数々の和風スパゲッティを生み出した名店で、日本のスパゲッティ屋の多くは、この店をモデルにして広まりました。
 その壁の穴のカルボナーラは、生クリームを使用したスタイルでした。

 「壁の穴」創業者の成松孝安氏は、アメリカのCIA長官の執事をされていた方なので、アメリカ式のパスタ料理がベースにあると思いますが、アメリカのカルボナーラもクリームを入れている店は多く、以前カルフォルニアのレストランでカルボナーラを注文すると、生クリームを使ったカルボナーラが出てきました。

 アメリカのカルボナーラではクリームを使うか使わないか、どちらが一般的かはわかりませんが、英語版のwikipediaのカルボナーラの項を見ると、イタリアではクリームを使うのは一般的でない、と書かれています。わざわざそう書くということは、アメリカでもクリームを使うケースが多いからでしょう。

 それに、アメリカの冷凍食品のカルボナーラもクリームを使ったものが多いので、アメリカも日本と似たような状況なのかも知れません。

●正統派カルボナーラ談義

 日本では長らく(今でも?)クリームスパゲッティの一種だと思われていたカルボナーラですが、最近のパスタ通の間では、クリームを使ったカルボナーラは本物ではない、卵のみで作ったカルボナーラこそ正統なカルボナーラ、というような風潮が一部であるように思います。

 これについて、発祥の地とされるローマスタイルという点では確かにそうかも知れませんが、イタリア全土で見れば、クリームを使ったものや、基本材料以外の材料を加えたカルボナーラはいくらでもあるので、そこまで頑なに正統・邪道を唱える必要はないように思います。

 ことに日本においては、カルボナーラとの出会いはクリーム系のカルボナーラ、という人のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか?
 それでカルボナーラが美味しいと思ったのであれば、素直にその美味しさを評価すれば良いと思います。

 それに、卵だけで作ったローマ式のカルボナーラは確かに美味しいですが、クリームを使ったカルボナーラとは別種の美味しさです。

 いくら正統とはいえ、「カルボナーラを食べたい!」と思ってる一般の人にローマ式のカルボナーラを出したら、ガッカリされる気がします。濃厚な豚骨醤油ラーメンを食べたいと思って期待してる人に、鶏がらの塩ラーメンを出すようなギャップがあるのではないかと…。

 個人的には、ローマ式のカルボナーラが知られた今だからこそ、あらためて、アレンジされたクリーミーなカルボナーラの魅力を再評価してはどうか?と思ったりします。

 ローマ式のカルボナーラって、日本で言えば、「釜たまうどん」みたいなもんじゃないの??って思います。

 釜たまうどんも、茹で立てをさっと生卵とあえて、うどんの熱で卵が半熟状態になってねっとりからみつくのが最高です。それに合わせる醤油がチーズであり、コショウが七味、パンチェッタは天かす、みたいな感じでしょうか??

 釜たまうどんは、うどんそのものの美味しさを楽しむ究極の食べ方の一つではありますが、あくまで一つのスタイルに過ぎないし、むしろ素朴な食べ方です。

 カルボナーラも、もとは労働者が手軽に栄養摂取していた料理という俗説が生まれるくらいですから、これも本来は素朴な料理だと思います。

 なので、これを料理としてアレンジするところに醍醐味があり、ベーコンにきのこやほうれん草をソテーし、そこに生クリームを加えて軽く詰めたところに卵とパスタを加え、ねっとりと仕上げたクリーミーカルボナーラは、本場ローマ式とは遠くかけ離れた味かもしれませんが、そもそも比較すること自体が無意味な、素敵なスパゲッティ料理だと思います。

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 洋食屋風カルボナーラ(調理:管理者)

 

    


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