鶏肉は高級食材だった!

 肉料理といえば、牛・豚・鶏の三つが一番メジャーでしょう。
 値段的には、牛が他二つを引き離して高く、次いで豚、一番に安いのが鶏。
 特に鶏肉は、ブラジルなどからも安い冷凍肉が入るので、相場も安定し、安く購入することができる庶民の味方です。

 しかし、実は戦前までの日本では、鶏肉が最も高かったのをご存知でしょうか?

 鶏肉が安くなったのは、ブロイラーという大量飼育用に作られた品種が戦後にアメリカから導入され、鶏肉を日本でも大量生産するようになってからです。

 それまでは、鶏肉が最も希少で、鶏肉料理は牛肉料理よりも高価な高級料理でした。
 戦前の洋食屋の「カツレツ」の値段などは、チキンカツが一番高く、その次にビーフカツ、最も安いのがポークカツでした。

 いや、ちょっと待てよと。
 明治や大正時代の話に、屋台の焼き鳥屋が出てくることがあるから、鶏肉が高かったなんていうのはおかしい!
 ……と思う方がいるかも知れません。

 確かに、明治や大正時代にも、安い焼き鳥屋はありました。
 ただ、そうした店では、卵を産みつくした廃鶏を使っていたそうです。
 そういう鶏は、旨味はあるけれど身が非常に堅いので、挽肉にされるか、加工食品の原料となり、処分されることもあるくらいです。
焼き鳥のようなグリル料理に使われることはほぼありません。

 現代の感覚で食べるような若鳥のもも正肉や胸肉は、非常に希少で、牛肉以上に高級な食材だったのです。

 それが、ブロイラーはものすごい早さで促成飼育されているので、コストが安く抑えられます。
 運動量が少ないため、肉質はやや水っぽいですが、柔らかくて食べやすく、このブロイラーが普及したことによって、安価に鶏肉を購入できるようになったのです。

 戦前に、横浜ホテルニューグランドの総料理長だったサリー・ワイル氏は、自分の恋人のために、「チキン・カルメリータ」という特別料理を作ったそうです。
 その料理は、チキンの胸肉をひらいてピカタにし、マッシュルームのソースをかけたものだそうですが、現代の感覚からすると、特別料理にしては安あがりな料理だと思われるかもしれません。
 これがとっておきの料理に成りえたのは、それだけ当時は鶏肉や鶏卵が貴重だったからでしょう。

 ですが、価格のフィルターを外して味覚上の感覚だけで考えれば、鶏肉って明らかに美味しいですよね??
 安いと思うから、精神的満足感は低いかもしれませんが、成分的にも旨味たっぷりの鶏肉は、食材としての実力は相当高いです。

 普段、何気なく食べている鶏肉。
 外食や買い物をした際に、今日はちょっと節約して安いチキンにしよう、なんて思った時に、でもかつてはチキンのほうが高級食材だったんだな……なんて考えると、チキン料理が今までよりもずっと美味しく感じられる!
 …かもしれません。


 


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