直売所の青果はなぜ美味しい?畑の近くや、山の国道沿いなどに、よく野菜や果物の直売所がありますが、そうしたところの青果は、街のスーパーなどで売っているものに比べて安くて美味しいことがあります。
畑のそばの直売所で無人販売していいるトマトだったり、夏に山梨の国道沿いで農家のおばちゃんが手売りしている桃であったり、そういったものは、値段は普通なのに、デパートで売っている高級品より美味しいこともあります。
東京のスーパーで売っているからといって、千葉の工場で工業生産された桃ってわけでなく、同じ山梨産だったりするのに、何故そうなるのでしょうか?
鮮度の違いだとしたら、桃なんかは、とりたてが一番おいしいとは限りません。
傷む寸前くらいが一番甘くて美味しいという人もいるでしょう。では、どこにその違いがあるのでしょうか?
小売りの流通品と、直売所の違い。それは、鮮度と熟度です。
●鮮度と流通
葉物野菜やキノコ類などは、鮮度が如実に表れます。
葉物野菜の瑞々しい美味しさは、とれたてが一番です。葉物類は特に鮮度落ちが早いので、収穫してからはすぐにしなびてしまいます。だから、家庭でもレストランでも、葉物野菜は、一度水にさらしますよね?そうすることで、野菜が水を吸って、またシャキっと、もとの元気を取り戻します。
でも、やはり、後から水を与えて元気になったものと、太陽と土からたっぷり栄養をたくわえ、その養分そのものを全身に含んだ、とれたての美味しさには戻りません。
キノコ類の場合、とれたてのキノコをかじると、ジュワっと汁が出てきてびっくりするほどジューシーで、香りも非常に強いです。
しかし、一日もすると、その瑞々しさは失われます。
しめじなんかを炒めたり天ぷらにすると、油っぽくなってしまうのは、水分を失っている分、それだけ多くの油を吸ってしまうからです。カナダ産や中国産のマツタケが国産品より美味しくないのは、決して品質が低いわけではなく、輸送している間に鮮度が落ちて香りを失ってしまうからだと言われています。
そもそも、青果類が収穫されて街のスーパーの店頭に並ぶまでには、想像以上に時間が経っています。
例えば、千葉県は、レタスをはじめとして、日本でも有数の野菜の産地ですが、千葉にあるスーパーなら、生産地が近いから、鮮度の良い野菜が食べられるか?というと、実はそうではないのです。朝、千葉の畑で、農家の人が野菜を収穫すると、その野菜を集荷場まで運びます。
それを農協が千葉の卸売市場に運び、それを東京の大田市場の大卸が買います。
そして大田市場に並んだ野菜を仲卸が買い、それを小売り(スーパーなど)のバイヤーが買います。
そして小売りのバイヤーが、買い付けた野菜をいったん自社の配送拠点の倉庫に集め、そこからスーパー各店舗に配送します。
そうして、ようやく店頭に野菜が並び、一般の主婦などが買う、という流れです。これだけでも相当の時間がかかってることがわかりますが、これは、千葉のスーパーであっても同じことで、千葉で採れた野菜だからといって、そのまますぐ千葉のスーパーに運ばれるわけではなく、わざわざ東京を経由して、一日以上かけて千葉の店に並ぶなんてことは、ごく当たり前のことなのです。
「なぜそんなムダなことをするんだ」と、非効率に思う人もいるでしょう。
しかしこれは、むしろ効率化のために流通を整備した結果なのです。スーパーでは、様々な食材を仕入れて、店頭に並べます。
そうなると当然、一つの産地で全ての食材を仕入れられるわけではありません。
レタスなら千葉、玉ねぎなら北海道、ニンニクなら青森、ダイコンなら東京…というように、産地は全国に分かれているので、それをスーパーがバラバラに買い付けて運んだのでは、非常に手間がかかり、コストもかかります。そのために卸売市場があり、野菜なら、全国津々浦々の青果が集まる東京の大田市場、魚介なら東京の築地市場、というように、卸売業者が全国の様々な食材を集めて揃えているから、街のスーパーや飲食店などが、効率よく購入・配送することできるというわけです。
●熟度と流通
こうした流通の仕組みを理解すると、もう一つのポイントとなる、熟度の問題もわかってきます。
葉物類は鮮度が命ですが、トマトや果物のような実モノは、どれだけ熟しているかどうかが美味しさのポイントになります。
その熟し方に違いがあり、摘み取った後のトマトや果物でも、置いておけばだんだん熟していきます。
最初は緑がかったトマトでも、日ごとにだんだん赤くなります。しかし、やはり美味しいのは、「木熟」と言われる、木の実としてなっているままに熟したもので、それが一番味が濃く、甘みも強くて美味しいのです。
木から切り取られた後に、栄養を取れずに熟したものは、見た目は熟していても、木熟に比べると断然味が落ちます。一般のスーパーで安価に売られている果実類のほとんどは、木で熟す前に摘み取られて出荷されています。トマトなどは、赤くなってからでなく、緑の状態で摘み取り、出荷してスーパーの店頭に並ぶまでの流通経路の間に赤くなっているのです。
何故そんなことをするんだ、と思う人もいるでしょう。
それは、いわゆる「完熟」の状態というのは、まさに成長のピークであり、それ以降はあっと言う間に傷んでしまうのです。つまり、完熟してから摘み取ると、市場流通している間にグズグズになってしまうし、店頭では、その日で売り切らなければ傷んでしまいます。
また、買う人とにとっても、買ったばかりのトマトや桃が、一日も持たなかったら困ってしまうでしょう。つまり、市場流通している実モノの青果は、保存性を優先して、美味しさのベストの状態ではない前提で出荷されているのです。
これでおわかりでしょうけれど、全く同じ畑で同じように育てられたトマトでも、スーパーなどで売っているものは、緑の状態で出荷され、流通過程で熟して赤くなっているもので、直売所で販売されているものは、流通にかかる日数をはさまないので、しっかり木熟したものが売られたりするわけだから、美味しさに違いがあるのです。
もちろん、「直売」と称しながら、どこぞの会社が仕入れて売っている場合もあるので、全てがそうとは限りません。
でも、生産者の人が自ら、市場に回す分とは別に直接販売している本物の直売所では、もともとの食材自体は市場に出荷しているものとは全く同じなので、値段はそのままに、しかし鮮度も熟度も市場モノよりも格段に良いので、美味しいというわけです。