美味しいピカタ最近のレストランではほとんど見ませんが、昔の洋食屋では定番だったメニュー「ピカタ」。
正確には"piccata"(ピッカータ)というイタリア料理で、欧米のレストランでも見かけることはありますが、逆に本家イタリアでは今やほとんど存在しないという、古いイタリア料理です。しかも、日本やアメリカ、ドイツなどでピカタというと、「溶き卵にくるんで焼く」というのが一般的な作り方なのですが、なんと、元々のイタリアのピカタは卵を使わず、小麦粉をつけて焼くだけだそうです。
なぜイタリア以外の国では卵でくるむようになったのかはわかりませんが、日本でこの料理を広めたのは、1927年に開業した横浜ホテルニューグランドの初代総料理長、サリー・ワイル氏で、ワイル氏のピカタは卵を使う作り方だったので、日本でもこのスタイルが定着したようです。
ワイル氏がニューグランドでメニューに入れた料理に、「ピカタ・ナポリタン」という料理があり、これはスパゲッティナポリタンを皿に敷き、そこに卵の衣をつけて焼いた仔牛肉のスライスを盛り、マデラソースをかけてレモンを絞ったもので、ニューグランドの人気メニューだったそうです。
また、イタリアでも仔牛肉を使うのですが、日本やアメリカでは、豚肉や鶏肉、魚でもピカタにします。
これは単純にバリエーションと考えても良いですが、ニューグランドのワイル氏の特別料理の一つに、「チキン・カルメリータ」と名付けたピカタがあり、これは鶏の胸肉に小麦粉をつけて溶き卵に浸して焼き、マッシュルームのクリームソースをかけ、付け合わせにリゾットを添えた料理で、鶏肉を使ったピカタは日本では歴史のある料理です。卵が貴重だった時代はともかく、今となってはあまり特別感がないので、次第にレストランのメニューからは姿を消し、今ではマイナーな料理になってしまいましたが、何ともったいない!今食べても、すごく美味しい料理だと思います。
人気が落ちた理由には、作り方にも問題があるんじゃないか?と思います。
街のレストランでピカタを出している店を見ると、イタリア料理だからか、トマト系のソースをかけてる店が多いように思いますが、クリームソースのほうが相性が良いと思います。パン粉をつけたカツレツや、小麦粉だけをつけて焼くなら、衣が油分を吸ってコクが出ますが、卵の場合は油を吸わないため、どうしてもタンパクな味になりがちです。
そこにさっぱりしたトマト系のソースでは、あっさりし過ぎて物足りない。
これでは、人気が出なくてもしょうがないと思います。そこで濃厚なクリームソースと合わせると、ピカタは美味しさが引き立ちます。
ピカタに使う素材は、ワイル氏と同じく鶏の胸肉がおすすめです。
鶏の胸肉は、安価なものの、そのまま焼くとすぐに固く締まってパサパサになってしまうため、美味しく調理するのが難しい食材です。しかし、卵の衣をつけたピカタにすることで、火がやさしく入るため、簡単に柔らかくジューシーに仕上げることが出来ます。
それこそジャストな焼き加減なら、びっくりするほどの美味しさで、下手なフレンチの鴨や鳩のローストなんかより、よっぽど美味しいです。
ピカタは、安い鶏の胸肉の美味しさを最大限に発揮させることができる料理だと思います。
●ピカタの作り方
開いた鶏の胸肉を叩いて少し薄くし、塩コショウをして小麦粉をまぶし、パルミジャーノを混ぜた溶き卵に浸し、熱したフライパンで焼きます。表面が焼けたら、ひっくりかえして裏面を焼き、焦らずゆっくり火を入れます。
そして、中心まで火が入るか入らないかの直前に火からおろし、余熱で中心まで火を入れます。
ソースとしてのおすすめは、キノコとチーズを使ったクリームソースです。
シメジやマッシュルームをじっくりソテーして旨味と香りを引き出したら、白ワインをしてチキンブイヨンを入れ、煮詰まったら生クリームとバターを加え、おろしたパルミジャーノをたっぷり入れてさらに煮詰めます。全体がとろっとしたら、焼きあがったピカタにかけて、出来上がり。
柔らかくジューシーな鶏の胸肉に、濃厚なクリームソースがジャストマッチします。なお、ニューグランドでワイル氏の補佐を務めた荒田勇作氏が書いた『荒田西洋料理』によると、ピカタは一枚肉を焼くのではなく、3枚くらいの小片にして焼きます。
ピカタはニューグランドのスペシャリティだったので、戦後の洋食屋でピカタがメニューにある店は、たいていニューグランド出身のコックだったり、ニューグランド系コックが開いたレストランで修行したコックであることが多かったので、そんな視点でレストランのメニューを眺めてみるのも面白いと思います。
鶏のピカタ・ポルチーニ茸のクリームソース、ナポリタン添え(調理:管理者)