野菜の旬と産地リレーよく「旬の野菜」というけれど、いざ聞かれるとわかりにくいと思ったことはありませんか?
筍や山菜なら春、夏はトマト、秋ならキノコ、冬なら根菜…といったように、何となくイメージを持っている人は多いと思います。
でも、トマトは夏より冬のほうがスーパーに安く沢山出てくるイメージがあるし、根菜は冬といいつつ、じゃがいもの大産地である北海道の冬は雪で埋まっていて、春に新たまねぎが出てきたりするし、そもそもハウス栽培してると年中作ってるし、一体旬っていつなんだろう?? と思う人もいることでしょう。それもそのはず、日本の野菜の旬は地域によって異なるのです。
大雑把にいうと、野菜の旬は南からだんだん北上していきます。
これは気温の動きそのままで、春の野菜は、南の九州の気温が上がってくると出始め、そこから関西、関東、東北、北海道へと産地がリレーするように移動していくのです。
たとえば「そら豆」は春を代表する野菜ですが、鹿児島からは早くも12月に出始め、そこからだんだん北上し、春になるとまさに千葉や茨木などから沢山出荷され、本土で「旬」を迎えた感じになり、初夏になると関東のものが無くなるかわり、東北の宮城から出てくる、といった感じです。
夏のイメージのあるトマトは、気温的に初夏くらいの気温が適しているので、10月終わり頃に熊本から全国に出荷がはじまり、春〜初夏にかけては全国の産地から出荷されるようになり、夏になると福島、青森、北海道へと産地が移動していきます。感覚的に、春は山の野菜、夏は果菜類、秋は根菜類、冬は葉菜類が旬を迎えます。
春は草木が芽吹いて野菜が獲れそうなイメージがあるかも知れませんが、実際は端境期で一般的な葉菜類は少なく、本格的に野菜が出てくるのはゴールデンウィーク明け頃からで、初春の時期はもっぱら山菜や筍といった、山の野菜類が一番多い時期です。夏はトマトや茄子、きゅうりといった実ものが旬で、とうもろこしも夏。ただ、気温が30度を超えてくると野菜もやられてしまうので、猛暑になると物が悪くなり、出てこなくなったりします。また、雨が多いと水を吸って実の味がぼやけてしまい、味が落ちます。なので、トマトの旬は初夏〜夏といいながら、梅雨の時期は状態が悪くなりがちで、夏も暑くなると流通途中での痛みを避けるためにかなり青いまま出荷されるので、実際に流通しているトマトの美味しい時期は晩冬〜春頃だったりします。
秋はじゃがいもやカボチャといった根菜類の収穫時期です。ですが、芋類はすこし寝かせたほうがでんぷんが糖化して美味しくなるので、収穫シーズンとしては秋でも、食材として美味しくなるのは冬です。
秋というとキノコのイメージがありますが、一般的に流通しているぶなしめじやしいたけといったキノコ類の大半は工場で栽培されているので、通年品質が安定しています。天然のキノコはべらぼうに高価で、松茸を除くとそもそも流通しません。
また、食べ物が美味しいイメージの秋ですが、野菜的には端境期で、9月〜10月中頃までは一番野菜が少ない時期です。特に猛暑になると夏に蒔いた種がやられてしまい、10月になっても野菜がうまく出てこなかったりします。一方、魚は脂がのりはじめて美味しくなっていく時期で、果物はぶどう・梨・柿・りんごなどが出てきて華やかになります。そして冬ですが、ほうれん草、キャベツ、レタスといった定番の葉菜類が旬を迎え、大根、にんじん、蕪といった熟成させない根菜類、そして秋に収穫した芋類も美味しくなり、実は野菜が一番美味しいのは冬だと思います。菜の花やブロッコリーといったアブラナ科の野菜も冬が旬です。菜の花というと春のイメージがあるかも知れませんが、それは花が咲く時期であって、アブラナ科の野菜は花が咲いてしまうと葉はかたくなって甘味もなくなり、食用としては味が悪くなるので、冬が旬なのです。
また、季節の本質は「気温」なので、単純に南から北にリレーするのではなく、比較的温暖な四国や静岡では、春や初秋といった、産地が切り替わる端境期にものが出てくる重要な産地になり、長野や群馬のような高地は、夏にレタスのような葉菜類の主要産地になります。よく旬で誤解が生じるのが、「新キャベツ」「新じゃが」「新たまねぎ」といった「新物」です。
先ほどキャベツは「冬」と書きましたが、通常「新キャベツ」は「春キャベツ」を指し、その言葉だけだと「キャベツの旬は春」と思う人もいることでしょう。
ただこれは、そもそも春のキャベツと冬のキャベツは品種が違い、びっしりひきしまってパリパリした一般的なキャベツは「冬キャベツ」のことで、「春キャベツ」というのは一般的なキャベツより巻きがゆるく、葉の水分が多く、柔らかくて瑞々しい別種のキャベツです。
「新じゃが」は、芋が未熟なうちに掘り起こした芋で、熟していないのででんぷんも甘味も少な目ですが、皮が薄く瑞々しい芋です。夏頃に出荷され、静岡などでは5月頃から出荷がはじまります。品種は同じでも、しっかり成長してから掘り起こした芋とは味わいや料理での使われ方が異なります。
「新たまねぎ」は、収穫してすぐに出荷されたたまねぎのことです。というのも、一般的にスーパーなどで年中出回っているたまねぎは、長持ちするように表面を乾燥させたたまねぎなのです。根菜に見えるたまねぎは実は葉っぱで、旬は春〜夏。2月には温暖な九州や静岡からたまねぎの収穫がはじまり、淡路玉ねぎで有名な兵庫県では4月頃、北海道では夏に一年分を収穫し、それを乾燥させて貯蔵し、それが出荷されています。
「新たまねぎ」は、乾燥させずにそのまま出荷されたものなので、水分が多くて瑞々しく、辛みもやわらかいのが特長で、サラダや香味野菜としては向きますが、カレー用に飴色に炒めようとすると、水分が多いので時間が掛かり苦労します。ハウス栽培だと年中作れて旬がないと思っている人がいるかも知れませんが、真冬に春夏の野菜を作ろうとすると暖房のエネルギーコストがかかるし、真夏に秋冬の野菜を作ろうとすると冷房のエネルギーがかかるので、基本的に季節外のものは作りにくく、作れても非常に高価になります。
水耕栽培で比較的通年で作れるものもありますが、それでも暑さに弱い作物を夏場に育てるのは非常い難しいです。