なぜもっと「産地直送」をやらないのか「産地直送」という言葉には、こだわりの生産者のこだわり食材が中間業者を介さずダイレクトに届くという、鮮度的にもコスト的にも非常に良いことづくめのような響きがあります。
ではなぜ、相も変わらず卸売市場があり、JAとかを介していたり、生産者の名前が見えにくいのか?
これだけグルメ化が進み、ネットで全国津々浦々の情報が簡単に取れるようになり、地産地消といったムーブメントもある中、こだわりの生産者の食材を使った飲食店ばかりにならないのは、飲食業界の怠慢ではないか?
もし自分が飲食店をやるなら、全食材を産直にしたいくらいなのに、なんでやろうとしないの? 飲食の連中は思考停止してるんじゃないの??
と思われている方もいることでしょう。そこで、業界人としてそれが進まない理由を答えるとなると、非常にシンプルで、
「誰がどうやって運ぶ問題」
「量がまとまらない問題」です。
確かに、生産者から直接仕入れることができれば、もっともシンプルで効率よく見えます。
じゃあ例えば、東京のレストランで、長野のこだわりの生産者の朝採れレタスを使います、となった場合、実運用はどうなるでしょうか。
いったい、誰が長野の畑から東京の店まで届けてくれるのでしょうか。結論として、町場のフレンチやイタリアン、ホテルなどでそうしたこだわりの生産者の野菜を使うとなった場合、宅配送で送ってもらったりしているのが実態です。
それでいいじゃん、と思うかも知れませんが、毎日仕入れるということは、毎日宅配送ということです。
また、その生産者からはレタスを仕入れるとして、他の野菜はどうなるでしょうか。
トマト、茄子、きゅうりと、それぞれの別の生産者から送ってもらったとなったら、大変な宅配送費になってしまいます。
ある程度はまとめて送ってもらえば良いでしょうけど、野菜や魚は鮮度が重要です。せっかくの採れたてのレタスも、3日も4日も経ったのではあまり意味がありません。といって1日に使うレタス数玉分だけを毎日毎日宅配送で送ってもらったりしたら、実質的にとんでもない仕入れコストのかかったレタスになってしまいます。
それに、点で見ればたいした作業ではないように思えても、その取り組みを広げるということは、レストラン1店舗・1店舗に個別で直送するということで、そうなると毎日毎日、送り先1軒ずつ、野菜1箱ずつ宅配送の伝票を書かなければならないわけで、生産者にしてもなかなかの手間です。やはり、ある程度数がまとまらないとらちがあきません。
であれば、近隣の意識の高い生産者を集めて、まとめることで配送効率をあげるといった工夫をすればいいじゃないか、と考える人もいるでしょう。実際、そうやって地域の生産者をまとめてるリーダー的な人がいるような地域もあります。
しかし、野菜だけ見ても多種多様。それこそフレンチ、イタリアンでそれなりの店ともなれば、使う野菜も、サラダにスイスチャードやカステルフランコ、加熱素材にカーボロネロやビステッカといった、スーパーでは見ないような西洋野菜を使うかも知れません。
そうなったら、近隣の生産者だけで都合良く必要な素材を集めるのは難しくなります。季節やその地域に向いた素材であるかどうかの問題も出てきます。それを突き詰めていった結果が、集荷業者であったり、JAであったり、それをまとめる場所が卸売市場であり、店舗に配送するのが卸売り業者、ということなのです。
グルメ漫画などを見ていると、こだわりの素材や生産者を見つけるのがポイントみたいな話が良く出てきますが、一番ネックになるのは、「誰が運ぶのか問題」です。
中間を介さなければコストがかからないように見えて、点と点で結びつけるとなると、むしろコスト高になってしまうのです。
だからむしろ、こだわりの産直素材を用いているシェフの店は、産直で効率よく仕入れているのではなく、むしろ「高いお金をかけて仕入れている店」というケースがほとんどです。「美味○んぼ」にようなグルメ漫画を読んでいると、こだわりの生産者を見つけて使うことが偉いみたいなノリがありますが、そんな食材ばかり使おうとしたら高級店しか成立しません。配送効率をあげるとなれば、一つのルートで沢山配送することになります。
しかしそうなると、結果的に独自性や希少性は失われ、逆に言えば、独自性や希少性がないと思っているものは、効率化が実現できたから汎用的なものになったとも言えます。なので、素材にこだわるシェフの中には、都市部ではなく、あえて郊外や田舎に店を構えたりしますが、それは物流運用上そうせざるを得ないからそうしていると言えます。
この物流運用はなかなか一筋縄ではいかず、都内の生産者とレストランだったとしても、たとえば清瀬や昭島の圃場から23区のレストランに運ぶというだけでも、「誰がいつどうやって運ぶのか」問題は生じます。たった一軒の店に、その店に必要な分だけ運ぶというのでは商売にならないからです。
言うは易し、行うは難し。
これが「産地直送」の実情です。