「旨味」は西洋料理の基本

 洋食の世界においても、いかに「旨味」がしっかりあるかは重要であり基本的要素です。

 よく、「旨味に気付いたのは日本人」「西洋人に旨味はわからない」といった都市伝説のようなものがありますが、全くの大間違いです。
 かつて、ヒトが味を感じる要素は「塩味・甘味・酸味・苦味」の4つとされていたところ、1908年に池田菊苗氏が、昆布の旨味成分であるグルタミン酸を発見したことで、「旨味」が5つめの味の基本要素とされました。
 このことから、旨味に気付いていたのは日本人だけ、と誤解されがちですが、池田菊苗氏は、「旨味」成分を特定し、世界で初めて化学的に分離することに成功したのであって、西洋の人々が旨味を感じていなかったわけではありません。

 西洋料理においても、素材からいかに「旨味」を引き出すか、料理の旨味を増強するかは、古くから重要な技術でした。

 古代ローマには、魚の内臓を塩漬けにして発酵させて作った「ガルム」という魚醤がありますが、魚を発酵させることで生まれるのは、旨味成分であるアミノ酸に他なりません。
 紀元一世紀に書かれた『ラルス・マギリカ』という料理書では、ほとんどの料理にこの「ガルム」が使われていたそうです。

 そもそも、食材の「熟成」という行為は、たとえば肉ならタンパク質を分解させてアミノ酸を増やす作業です。
 生ハムやパンチェッタを熟成させるのはそのためだし、チーズを発酵・熟成させるのもそうだし、アンチョビもイワシを熟成させて旨味を凝縮させたものです。

 日本に「出汁」があるように、西洋料理にも「フォン」や「ブロード」といった出汁があり、それらは素材から旨味を抽出されたもので、それなしに西洋料理は成立しません。
 フランス料理では「デグラッセ」といって、肉や野菜を煮たり焼いたりする過程で出てくる、鍋やオーブンの天板にこびりついた茶色い焦げ色のようなものを、いかにこそげ落として料理の中に入れ込むかが重要ですが、このこびりついた焦げ色(料理用語で「シュック」と言います)こそ、素材からでた「旨味」そのものです。

 つまり、西洋の人々も、旨味をはっきり認識していたからこそ、ハムやチーズを熟成させたり、フォンを作っていたわけです。

 というわけで、洋食を作る時にも、調理工程の中にしっかり「旨味」があるかどうかを意識すると、美味しさが格段に上がります。

 旨味には、大きく分けてアミノ酸系、核酸系、有機酸系の3種あり、単一よりもその複数種が合わさると相乗効果が生まれ、何倍も旨味を強く感じられるようになります。

 アミノ酸系の旨味といえば、グルタミン酸。「味の素」の90%以上はこのグルタミン酸ナトリウムで、核酸系のナトリウムも何%か入っています。アスパラギン酸もアミノ酸系の旨味です。
 
グルタミン酸は「昆布の旨味」と良く言われますが、西洋食材ではチーズやトマト、アンチョビ、そして鶏ガラや牛骨の骨髄などに多く含まれています。アスパラギン酸は、その名の通りアスパラから発見された旨味ですが、にんじんやソラマメなど野菜類によく含まれています。

 核酸系の旨味といえば、「イノシン酸」や「グアニル酸」があります。
 イノシン酸は、肉や魚の旨味で、グアニル酸は椎茸の旨味です。

 有機酸系の代表は、アサリに多く含まれているコハク酸などが代表です。

 和食の出汁を昆布と鰹節で取るのは、グルタミン酸とイノシン酸の相乗効果があるからです。(もちろん風味もありますが)
 洋食の出汁を肉類と野菜から取るのも、肉類のイノシン酸と野菜のもつアミノ酸系の旨味との相乗効果を出すためで、出汁を取るには骨付き肉を使うのも、骨髄の中にはグルタミン酸が含まれているので、肉のイノシン酸との相乗効果を発揮させるためです。

 このように、和食も洋食も、味のベースは「旨味」にあります。
 なので、料理を作る時は、「旨味」要素がしっかりあるか、それをいかに強化するかが重要になります。

 もちろん、どんな素材にもそれ自身に旨味成分は含まれていますが、それだけでは旨味が十分でない場合もあります。
 だから和食や中華では化学調味料が使われるのですが、そういう意味では、洋食も同じなんですね。

 ただ、和食を化学調味料なしで作る場合は、丁寧に出汁を引けば良いので、それほど大変でないかも知れませんが、洋食の場合、家庭で濃厚なフォンを用意するのは、お金も手間もかかって容易ではありません。

 そこで、無化調で洋食を作りたい場合におすすめする食材は、粉チーズです。(パルミジャーノがおすすめ)

 熟成されたパルメザンチーズには、グルタミン酸が豊富に含まれています。
 パルミジャーノであれば風味もまろやかだし、何より溶けやすいので、料理に味が足りないと思ったら、調味料代わりにパルミジャーノをバサっと入れると、簡単に旨味ある料理になります。

 カルボナーラやシーザーサラダなどは、チーズの旨味が主体であり特長です。
 パルミジャーノを容赦なくバッサバッサ入れることで味わいが重厚になり、カルボナーラらしさ・シーザーサラダらしさが生まれます。
 トマトソースやクリーム系のソースには特に相性が良いので、味が足りないと思ったらパルミジャーノを加えてみましょう。味が格段に深まります。

 
 


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