アメリカン・イタリアン

 洋食の世界には、アメリカン・イタリアンというジャンルがあります。

 厳密に言うとアメリカ料理の中の一つのジャンルですが、戦後のアメリカ進駐軍や、高度成長期のチェーンレストランの増加とともに、日本にも広まった料理のジャンルです。

 イタリア系移民がイタリア料理の文化をアメリカに持ち込み、そこからアメリカで独自進化したアメリカ風イタリア料理、それがアメリカン・イタリアンです。

 代表的な料理は、アメリカ式のピザや、パスタ料理でしょう。

●アメリカのピザ

 イタリア料理であるピザ(pizza)が日本で広まったきっかけは、1970年代以降のマイカーブームとともに、全国に広がったファミリーレストランがメニューに入れたことと、1980年代頃に宅配ピザが流行して一気にメジャーになったことが挙げられます。
 この時広まったピザは、アメリカンスタイルのピザです。
 何故アメリカだったかというと、ファミレスのモデルはアメリカのレストランで、宅配ピザもアメリカのチェーンだったからです。

 最近ではナポリピザをはじめとして、本場イタリアのピザが認知されるようになりましたが、2000年代になるまでは、日本でピザと言えばアメリカンスタイルのピザが主流でした。

 アメリカンスタイルのピザの特徴は、何といってもスパイシーなトマトソースと、使うチーズでしょう。

 イタリアのトマトソースのピザは、シンプルにトマトを潰しただけのものを用いたりするくらいですが、アメリカのトマトソースのピザは、香辛料や調味料をミックスした、味の強いものが多いです。

 チーズも、イタリアでは、モッツアレラチーズを代表とするフレッシュ感のあるチーズを使用することが多いですが、アメリカではゴーダチーズがよく使用され、保存性の高いプロセスチーズが使用されることもあります。
 何故モッツアレラが使われなかったかというと、モッツアレラチーズは保存がきかないので、冷蔵庫や冷蔵輸送が十分に発達していなかった時代では調達が難しかったからです。
 日本でピザ広まりだしたのは1970年代からですが、やはり当時はモッツアレラチーズは流通量も少なく、保管も難しかったので、ゴーダチーズやエダムチーズがよく使われていました。

 現在ではモッツアレラチーズを使用した本場のスタイルのピザ店が増えましたが、日本でもよく知られているアメリカ発祥の老舗ピザチェーンの多くは、今でもゴーダチーズをメインに使用しています。

 また、アメリカのピザには、シカゴスタイルのピザのような特徴的なものもあります。
 シカゴのピザは、「スタッフド・ピザ」や「ディープ・ディッシュ・ピザ」などと呼ばれ、高さが5cmくらいもある、鍋のような形にこねた生地に、たっぷりの具とチーズ、ソースを詰めこんで焼き上げるという、イタリアには存在しないシカゴ独自のピザです。

 このように、アメリカには独自のピザ文化があり、日本の初期のファミリーレストランのモデルはアメリカのコーヒーショップだったことや、宅配ピザもアメリカのチェーン店を日本に持ってきて展開したものが多いので、日本のピザは長らくアメリカ色が強かったのです。

●アメリカのパスタ

 アメリカン・イタリアンを象徴するもう一つの料理は、アメリカ独自のパスタでしょう。
 代表的な料理としては、スパゲッティ・ミートボールや、フェットチーネ・アルフレッド、マカロニ&チーズなどがあります。

 スパゲッティ・ミートボールは、正確には"Spaghetti with meatballs"と言い、ミートボールの乗ったスパゲッティです。

 この料理はイタリアではほとんど見られませんが、アメリカのレストランでは非常にポピュラーなメニューで、日本でもかつては、戦後に米軍基地でコックをしていた人が開いた洋食屋やファミレスなどでよく提供され、ナポリタンやミートソース同様に、一般的なスパゲッティ料理として認知されていました。

 1979年に公開された、モンキーパンチ原作・宮崎駿監督のアニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』で、主人公のルパンと次元大介が、食堂で奪い合うようにしてスパゲッティを食べるシーンがありますが、その時食べていたのもスパゲッティ・ミートボールでした。

 ミートボールは、小型のものをゴロゴロ乗せたスタイルが多いですが、自分が以前カリフォルニアのイタリアンレストランで注文したスパゲッティ・ミートボールは、ソフトボールのように大きなものをドンと乗せたものでした。

 フェットチーネ・アルフレッドは、アメリカでパスタ料理を出すレストランなら必ずメニューに載っていると言えるくらいポピュラーな料理で、これもイタリアにはほぼ存在しない料理です。

 この料理は、アメリカの映画俳優メアリー・ピックフォードとダグラス・フェアバンクス夫妻が、1920年にイタリアのローマにあったレストラン「アルフレード」に新婚旅行で訪れた際に、オーナーのアルフレード・ディ・レーリオ氏が提供した料理でしたが、二人がこの料理に感激して、アメリカに帰ってからハリウッドの仲間に広めて有名なったものです。

 こうした経緯から、アメリカでは全土で知られるほどメジャーなパスタ料理になったという面白い料理です。

 アルフレード氏のオリジナルレシピは、フェットチーネにバターとパルミジャーノ・レジャーノを合わせた料理でしたが、アメリカではそこに生クリームを加えたクリームソースのパスタとして普及しています。

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 フェットチーネ・アルフレッド(調理:管理者)

 もともとイタリアには、パスタ・イン・ビアンコ("pasta in bianco")や、カチョ・エ・ペペ("cacio e pepe")のように、パスタとチーズを合わせたシンプルパスタがあり、オリーブオイルだけでなくバターを使うこともあるので、もしかするとその際に出されたのも実はそうした料理だったのかも…? と思ったりします。

 実際、そうした料理を作る時、単純にチーズをおろして和えるのではなく、ペコリーノやパルミジャーノをゆで汁で溶かしてレストランらしくソースに仕上げると、白くクリーミーで、まるでクリームを使ったソースかのように見えます。
 特にアルフレードはローマのレストランですから、ローマの3大パスタといわれるパスタの一つ、カチョエペペが提供されていたとしてもおかしくありません。

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 カチョ・エ・ペペ・レストラン仕立て(調理:管理者)

 なので、メアリー・ダグラス夫妻が、アルフレッドで食べた料理の印象をアメリカで伝えた時、アメリカ人のコックがその言葉でのイメージを再現した結果、クリームを使った「アルフレード」が誕生したのかもしれません。

 

 マカロニ&チーズは、茹でたマカロニにたっぷりのチーズを乗せてオーブンで焼いたもの。
 ガーリックやオニオンなどで味を加えることもあり、マック&チーズという略称でも親しまれ、肉料理と一緒に食べる付け合わせとして人気があります。

 これ以外にもアメリカのパスタ料理は、アメリカの各地域ごとの食文化の影響受けてアレンジされ、ニューオリンズやテキサスといった地域に行くと、ケイジャン料理("Cajun")や、テックスメックス料理("Tex-Mex"。テキサス-メキシカンの略)の影響を受けた、スパイシーなパスタ料理もあり、これらもイタリアには存在しないパスタ料理です。

 日本ではバブル期のグルメブーム以降、パスタ料理というと本場イタリア式こそ本物のような風潮があったからか、こうしたアメリカン・イタリアンのパスタ料理はレストランのメニューからすっかり姿を消し、アメリカ料理をウリにするような店でしか見られなくなりました。

 しかし、クミンやパプリカ、ガーリックなどでスパイシーに仕上げたメキシコ風パスタなどは、本格的なイタリア料理店では食べることの出来ない、とても美味しいパスタ料理だと思うので、日本で出している店が少ないのは、もったいないような気がします。

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 チキンとパプリカのメキシコ風スパゲッティ(調理・管理者)

 
 


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