カラスミではなく自家製ボッタルガを作る南イタリア、サルディーニャ地方の名物のひとつボッタルガ。
ボラ(またはマグロ)の卵を乾燥・熟成させたもので、カラスミのイタリア版といった感じです。購入すると高いですが、意外と簡単に作れるので自家製で作ったほうが贅沢に使えます。
ボラの卵の時期は11月〜12月ですが、基本的に飲食関係者が買い占めるので、街のスーパーなどに出回るとしたら最盛期の11月の一時期くらいかもしれません。イタリアのボッタルガと日本のカラスミでは作り方が違い、風味も異なり食べ方も違うのですが、日本ではイタリアンの専門店でもカラスミの作り方をしている店もあるようなので、ここではあえてイタリア式の実用的な作り方のポイントをご紹介します。購入ポイントはよく太っていることと、血管の血の色が鮮やかな血の色をしていること。
ボッタルガは生食するので鮮度は最重要です。血の色が悪くなっているのは鮮度が落ちているので、美味しくないだけでなく危険なのでやめたほうが良いでしょう。まず、全体を水道水で綺麗に洗います。魚の内臓は雑菌が多いので、特にビブリオ菌対策として重要です。
そして次が、ボッタルガやカラスミ作りの最大のめんどくさいポイントの血抜き。ここが一番めんどくさい工程ですが、結論としてこの血抜きは完璧にやらなくても大丈夫です。血の部分が生臭さの原因になるのはボラ子でも同じで、徹底的に血抜きをしたほうが澄んだ味のボッタルガになるのですが、実際のところ雑にやっても十分美味しいです。これはカラスミ作りでも同様で、血抜きを全くやらないで作っている店も少なくありません。とはいえ、ボッタルガはカラスミと違って酒につけないので、ある程度はやったほうが良いですが、大きな目立つ部分をやっておけば十分です。やり方は、まち針のような細い針で、太く血の入っている血管を刺し、その針で優しく掻き出します。細かい血管まで刺してしまうと膜が破れてしまうので、器用さと時間のある人以外は、むしろ細い血管は放置でよいです。膜が大きく破損するとそこから卵が漏れ、劣化の原因となるので、深追いをしないほうが良いです。
血を掻き出すといっても徹底的にやる必要は無く、ある程度気を遣うのは真ん中に入っている太い血管部分くらいで良いしょう。
そうして目立つ部分の血管に穴をあけて血を出したら、再び水道水でよく洗い、タッパーなどに水道水を入れ、冷蔵庫で3〜4時間ほど漬けます。こうすることで穴をあけた部分から血を抜き、真水に弱いビブリオ菌を追加殺菌します。
血抜きが終わったら水分をよくふきとり、くっついている魚部分を切り落とします。これをつけたまま塩漬けにする人もいますが、腐敗させないためにこの部分にも塩を使わなくてはならなくなるので、自分はここで切り外します。
そして、バットやタッパーなどに塩を敷き、そこに卵を置き、卵部分が見えなくなるくらい塩をして全体を塩漬けにし、冷蔵庫に少し傾けて置いて、8時間ほど寝かします。
すると水分が出ているはずなので、その水分を捨て、卵の水分もよく拭き取り、さらに追い塩をして、冷蔵庫で半日寝かします。
また水分が出ているはずなので、また水分を捨てて、卵の水分もよく拭き取り、さらに追い塩をして、冷蔵庫で半日寝かします。
また水分が出ているはずなので、また水分を捨てて、卵の水分もよく拭き取り、今度は塩で全体を埋め尽くし、今度は傾ける必要は無く、そのまま冷蔵庫で一週間寝かします。
ここで塩を遠慮する必要はありません。というか、塩をけちると腐敗するので、大量の塩はマストです。最初は卵から出る水分を除去することが重要です。これをしないと雑菌繁殖・腐敗の原因になります。一週間の塩漬けすると、固く平べったくなっていると思いますが、次に行うのがプレス作業です。
塩を良く洗い流し、水分をしっかり拭き取り、まな板など平らな2枚の板にはさみ、とくに盛り上がっている部分を抑え込むつもりで、軽めの重しを乗せて常温でプレスします。(家庭で卵2〜3本なら1〜2kgくらい)
5〜8時間くらいしてでっぱりがある程度へこんだら、今度はもっと重くして、全体が同じ厚みになるよう半日ほど常温でプレスします。(家庭で2本くらいの卵なら3〜4kgくらい)これは厚みを均一にするために行う工程で、重さと時間に決まりがあるわけではなく、いきなり重量をかけると卵が破裂してしまうので、徐々に負荷をかけているわけです。厚みにムラがあると、乾燥させた時に内部にムラができてしまいます。
全体が均一の厚みになったら、乾燥工程に入りますが、家庭なら台所用の水切りネットや洗濯ネットに入れて、窓際など風が通る場所に洗濯もののように吊せばよいでしょう。
屋外だと雨に降られたりするとアウトなので、むしろ屋内のほうが良く、ただし暖房をつけると腐ってしまうので、10℃〜15℃くらいの秋冬の気候での常温乾燥がベストです。
また、複数干す場合は卵同士がくっつくとその部分が乾燥しないため、ちゃんとばらけるよう一つずつネットに入れるなどしましょう。
重要なのは湿度・温度管理で、雨などで濡れてしまったらカビ・腐敗の原因なので禁物ですが、屋内でも暖房をきかせていたり湿気があると危険なので、風通し良いところで乾燥させるのが重要でs。そして乾燥させること約一ヶ月で、ボッタルガの完成です。
日本のカラスミ作りでは、焼酎につけて一度塩抜きしたり、乾燥させながら霧吹きでお酒をかけるといった工程がありますが、ボッタルガではやりません。
カラスミは半生のようなねっとりした食感と酒の風味が味わいになり、そのままつまみとして食べるので塩抜きし、乾燥し過ぎないように作りますが、伝統的なイタリアのボッタルガは、完全に乾燥させ、風味は純粋な魚卵の熟成香を楽しみ、使い方としても調味料的に使うので、お酒のような風味は足したりせず、塩抜きも必要ないのです。ただ、乾燥させて2週間くらいの、半生のボッタルガの味わいもなかなか良く、カラスミのようにスライスしておつまみとして食べても美味です。塩抜きしてないので少ししょっぱめですが、それもまた味わいです。半生品は長期保存に向かないので、作ったその時期にしか食べられない贅沢な食べ方です。
乾燥させたボッタルガは、たらこのような魚卵特有の磯の香りに加え、乾燥ポルチーニのような枯れた香りが立ってくるのが不思議です。
1ヶ月以上乾燥させるとカラカラになりすぎて熟成しなくなるので、そこでいったん乾燥を終え、あとは密封して冷蔵庫で熟成させます。
一ヶ月時点で十分に使用可能ですが、熟成させるとさらに旨味・風味が増します。
ただ、一度カットするとそこから劣化がはじまるので、熟成させる時は卵の皮膜に包まれたまま寝かします。なお、干していると表面が白くなっていったりしますが、タンパク質が凝固して白くなっているので問題ありません。
ワタのような白いものがついた場合は白カビなので、諦めて処分しましょう。ただ、きちんと湿度管理していればカビは生えません。乾燥完了したボッタルガは、皮膜を外し、おろし金ですりおろしてパウダーにしてパスタやリゾットなどに使いますが、味わいに変化をつけるためにスライスしたものを合わせても良いでしょう。
作りたての時期なら、乾燥させたパウダーと、2週間くらいの半乾燥のスライスの2種類を使うのも贅沢な食べ方です。パスタにする時は、ペペロンチーノにするのが本場サルディーニャではド定番にして究極とされます。何かを加えるならレモンゼスト(レモンの皮)を少し入れるくらいで、あれこれ食材を入れるのは邪道扱いらしいです。
純粋にボッタルガの風味を最大限に味わうのが、本場イタリア、特にサルディーニでのボッタルガの味わい方だからです。
もちろん、ボッタルガもシーフードなので、ケッパーやバターなど合わせてもめちゃくちゃ美味しいのですが、そうするとボッタルガの個性が弱まるので邪道扱いだそうです。ガーリックも控え目、イタリアンパセリも軽く入れるくらいがサルディーニャ式。
ただ、イタリア式のボッタルガは塩気が強いので、ペペロンチーノ作りでは茹で汁を使いすぎず、真水を使ったほうが良いです。ボッタルガの風味を最大限に味わうために、ガーリックも1片くらいであまりきつね色にせず、むしろ香りだけ立たせたら取り除くのが本式ですが、ガーリックたっぷりで香ばしくきつね色にし、そこにたっぷりのボッタルガをあわせるような重厚ボッタルガパスタも、それはそれで美味しいと思います
このあたりは、料理において何を大切にするかなので難しいところで、個人的には邪道でもケッパーの塩漬けを加えたボッタルガのパスタも好きです。
入れるタイミングは、ボッタルガの風味を活かすために後からかけるのが本式ですが、火を止めてパスタを乳化させる時に半熟や乾燥のボッタルガを少し入れてあおり、全体に馴染ませるとより味が全体に乗ります。ただ、明太子同様、火を入れすぎると風味がなくなってただの旨味の素になってしまうので、やはり仕上げにかけたり乗せたりするのがメインです。
あと、乾燥させたボッタルガは水分を吸うので、ソースの水分は通常のカルボナーラよりも多めのほうがちょうどよくなります。水分が少ないと、ねっとり重くなり過ぎます。(それはそれで美味しいという人もいるかも知れませんが)
自家製ボッタルガのスパゲッティ(調理:管理者)