洋食の出汁のポイント

 西洋料理、特に「フランス料理」といえば「ソース」でしょう。
 日本の洋食でもおなじみの、よくハンバーグなどに合わせるドミグラスソースやグラタンに使われるベシャメルソースは、大昔のフランス料理です。
 フランス料理を食べに行くと、肉や魚に色とりどりの美味しそうなソースがかかってきますが、あれってどうやって作ってるんだろう? と思う人は多いのではないでしょうか。
 
 それらのソースのベースになるのは、日本的に言うと「出汁」です。
 フランスでは、フォンだとかブイヨン、イタリアではブロードなどと言われます。
 その出汁をベースに、アルコール類で香りをつけたり、野菜のピュレを入れたり、クリームを加えたりすることで、様々なソースに展開しているのです。
 
 家庭で、いや店ですら、本格的なフォンを仕込むのは大変です。
 いわゆる高級フランス料理とは、元は「宮廷料理」だったから当然です。
 お金に糸目をつけず、手間暇かけて贅をつくしたものであり、正式なものはそう簡単に作れるものではありません。
 
 ですが、そこまで高級とはいかなくとも、街場のビストロや洋食屋レベルのものなら、作り方も千差万別で、様々なレシピがネットや本屋で簡単に手に入ります。
 
 それだけに、作り方が変わるとどうなるのか? どこにポイントがあるのか?
 なんてことを考える人は少なくないと思います。
 プロのレシピを完全に真似するのは大変なので、少しでも簡略化したいと思うのが人の心ってものです。
 
 というわけで、洋風出汁を作る上でのポイントを説明していきます。
 
・「仔牛」じゃないとだめなのか
 フレンチの出汁といえば、「フォン・ド・ヴォー」。
 「ヴォー」とは仔牛のこと。正式には仔牛の骨と肉を使いますが、日本で仔牛は簡単に手に入らないので、普通の人はその時点で挫折します。
 ですが、結論から言って、仔牛でなくともそれなりのものが作れます。
 仔牛を使う理由は、クセがないからです。成牛だとどうしても牛の特有匂いが強く出てしまい、ソースのベースの出汁としては万能にならないからです。
 
 ですが、「味」という点では、成牛のほうがむしろしっかり旨味が出るくらいです。
 繊細なソースを作りたいなら別として、ステーキや羊料理のソースにするとか、ドミグラスのようなソースのベースにするのなら、普通の牛でも問題ありません。(成牛で作った場合は、フォン・ド・ブフになります)
 
・骨じゃないとだめなのか
 これはラーメンスープなどでも言えることですが、なぜ「ガラ」や「骨」を使うのか?
 その理由は二つあり、一つはコスト。出汁に肉を使ったのでは、材料費がかかり過ぎて商売にならないから。
 もう一つが、肉と骨では旨味の成分が違うからです。
 
 肉の旨味は「イノシン酸」がメインです。
 ですが、骨の中には、「グルタミン酸」が豊富に含まれています。
 旨味というのは、グルタミン酸とイノシン酸という別系統のアミノ酸が合わさると、相乗効果で旨味が増強されます。
 
 そのため、骨と肉の両方を使った方が美味しくなります。
 ただ、日本では牛の骨はその辺のスーパーで売っていないので、骨の入った牛テールや、鶏がらなどで旨みを補強するのもありです。
 
 ちなみに、骨付き肉や、骨に近い部分の肉が美味しいのは同じ理由です。
 骨から旨味が肉に移り、骨を付いたまま焼くことで、さらに骨の旨味が染み出して肉に移るので、骨付きカルビやTボーンステーキには、独特の美味しさがあるのです。
 
・なぜ焼くのか
 フォンづくりの工程では、必ず骨や肉を「焼く」、とあります。
 これは非常に重要なポイントで、最大の理由は「香り」です。
 焼いたり炒めたりすることで、臭みを飛ばすとともに、焼き色を付けることで、香ばしい香りを立たせます。
 これがめちゃくちゃ重要で、この「焼き」がないと、風味のない軽い出汁になってしまいます。
 
 肉は、焼くことにとって、茹でたり蒸したりでは味わえない「香ばしさ」が生まれます。
 肉を焼くと褐色になるのは、メイラード反応という化学反応で、ただ焦げているだけではありません。
 黒焦げになるのは、「炭化」という別の化学反応です。
 
 香りだけでそんなにも味に影響するのか? と思われるかも知れませんが、わかりやすい例としては、プリンなどのカラメルソースです。
 砂糖を加熱することで糖分がカラメル化し、独特の香気が生まれ、それが美味しさになっています。
 
 砂糖だけの化学変化であるカラメル化と、アミノ酸と糖の化学変化であるメイラード反応は異なる化学反応ですが、香りが立っただけで別種の美味しさを生むという点では似ています。
 
 フォンづくりにおいて、骨や肉を焼いて「焼き色を付ける」という工程は、外せないポイントです。
 ただ、黒く焦がしてしまうと、苦みや嫌な香りになってしまうので、あくまでも茶褐色に色づけすることが重要です。
 ドミグラスソースのあの独特の色は、そうして素材を焼いた色とトマトの色です。
 
 なお、その香ばしさや色が邪魔になる料理もあるので、あえて材料を焼かないで作る白いフォンや、白いブイヨンが使われることもあります。
 
・ポロネギって必要? 長ネギとは違う?
 ポロネギ(リーキ)なんて、そのへんのスーパーにも八百屋にも売っていないので、本当に必要なのか、似ている長ネギとかじゃだめなのか? と思う人もいるでしょう。
 結論から言うと、なくてもそれなりのフォンは出来ます。
 ただ、あったほうが、なお良いです。長ネギで代用にはなりません。
 
 ポロネギは、他の食材にはない特有の香りがあります。
 これぞある意味、「フレンチの香り」と思ったりもします。
 というのは、他の日本の食材にはない香りだからです。
 牛肉も、鶏も、にんにくも、たまねぎも、トマトも、今では和洋中の色々な料理に登場しますが、ポロネギは、フレンチくらいしか登場しない。
 だから、ポロネギを入れると、他にはない香りが加わり、風味がぐっと本格的になるので、手に入るなら入れた方が良いでしょう。
 
・タイムやエストラゴンっているの?
 タイムは必須。エストラゴンは好みで。
 肉と野菜の香ばしい香りに、パセリ、ローリエ、タイム、そしてそこにエストラゴンが合わさると、「これぞフレンチ」というような、何とも言えない香気が立ち上ります。
 ただ、エストラゴンは、これこそフレンチ的なハーブですが、クセがあって好みが分かれるので、無理に入れる必要はありません。
 この香りが必要な場合は、料理にした時に合わせたら良いと思います。
 
・大量の水を使う理由
 煮込む時には、大量の水を使います。
 水をたっぷり入れると、時間がかかりそうだし、薄くなりそうなので、迷う人もいるかも知れませんが、材料が見えなくなるくらい入れましょう。
 そうすることで、出汁がしっかり抽出でき、灰汁とりや脂取もしやすくするためです。(灰汁取りのことをエキュメと言います)
 材料が水に浸かっていなければ当然出汁は出ませんし、長時間煮込むと水分が蒸発していくので、材料が水に浸らなくなってしまいます。
 
・灰汁や脂は本当にいらないのか
 煮込んでいると表面に灰汁や脂が浮いてきますが、灰汁はともかく、この脂って全部取らないといけないの?脂も旨味になるんじゃないの?と思う人がいるかも知れませんが、綺麗に取り除いてください。
 灰汁には旨味はないので、ただの雑味になって、味を濁らせます。
 油脂分は、水が多量のうちは気にならないかも知れませんが、煮詰めていき、料理に使うとその油脂分が不要なことがわかります。
 
 フォンは、あくまでも旨味の素です。
 そこに油脂分が混ざっていると、非常に邪魔です。
 必要は脂分は、仕上げの際に、バターやクリームなどがその役割を果たします。
 
・どれくらい煮詰めるのか
 旨味が濃縮されるまでです。
 水っぽさがないくらいは、ブイヨンレベルです。スープの素ですね。
 ですが、ソースの素となると、濃縮された旨味が必要です。
 鍋一杯の材料は、カップ一杯くらいにしかならないので、びっくりするかも知れませんが、それがフォンです。
 もっとも、最後の詰めは料理をする際にすれば良いので、濃度をそんなに神経質に考えなくても良いと思いますが、煮詰め過ぎると、フォンというよりもグラス・ヴィアンになります。
 これはこれで使えますが、ここまでくると旨味メインで風味はあまりありません。
 
 と、こんなことに気を付けながら作れば、それなりの出汁が出来上がると思います。

 最後に、基本となる洋風出汁をざっと紹介します。

●フォン
 現代フランス料理では基本のソース用の出汁です。
 動物の骨や肉、野菜でとった出汁で、時間をかけ、材料と水を追加しながら、旨味が濃縮されるまで煮詰めて作ります。
 
【フォン・ド・ヴォー】
 「ヴォー」とは仔牛のこと。
 仔牛の骨を焼き、基本の野菜(ミルポワ)を炒め、トマトとハーブを加えて煮込んだもの。
 仔牛を使うのは、成牛よりもクセがなくどんな素材とも馴染むからです。
 フランスのソースの基本出汁です。

【フォン・ド・ヴォライユ】
 「ヴォライユ」とは鶏のこと。
 鶏がらとミルポワを煮込んで作った出汁。
 牛に比べるとコクと深みに欠けますが、旨味はむしろ牛よりも強く、これもどんな素材とも合う万能出汁。

【フュメ・ド・ポワソン】
 「ポワソン」とは魚のこと。
 魚のアラや骨とミルポワで作った出汁。
 旨味は強いですが、魚の匂いが強いため、魚料理に使われます。
 フォン・ド・ポワソンと呼んでも良いのですが、慣習的にフュメ、と呼んでいます。

●ブイヨン
 フォンと基本的な作り方は似ていますが、用途はソースではなく主にスープ用なので、フォンほどは味を濃縮させず、40分程度の短時間で取り切ります。

【ブイヨン・ド・ヴォライユ】
 基本のチキンブイヨンです。
 鶏とミルポワを煮込んで作ります。
 家庭でやる場合の個人的なおすすめは、手羽先。
 しっかりした出汁が出て、しかも出汁を取った後の手羽先も美味しく食べられて、無駄が出ません。

【ブイヨン・ド・レギューム】
 野菜だけで作ったブイヨンです。
 わざわざ作るというとり、野菜くずの活用法として出来あがる感じです。
 料理に水を足す際に、料理が水っぽくならないよう水代わりに使ったり、クセを出したくない料理に使います。

【クールブイヨン】
 白ワインや酢を加えて作ったブイヨンです。
 魚料理をポシェ(低温で茹でる)する時や、素材の下茹でに使います。
 素材の味を逃がさず、臭みを消し、逆に良い香りをつけることが出来ます。
   
【ブロード】
 ブイヨンのイタリア版です。
 ですが、宮廷料理ではなく郷土料理として発達したイタリア料理のブロードは、フランス料理のように手間をかけず、単純にはまぐりをゆでただけの汁を「はまぐりのブロード」と呼んだりします。
 奥行きはありませんが、日本の出汁のように、シンプルに旨味を加え、すっきりと仕上げることが出来ます。

 これでだいたい西洋料理の基本の出汁を説明しました。
 この雑な説明ですでにお気付きかも知れませんが、フォンもブイヨンも、基本構造はほぼ同じです。
 メインとなる肉(と骨)とミルポワを煮込んで作るだけです。
 
 ただ、そのプロセスのやり方によって、香りが違ったり、濃度が違ったりして、用途が変わります。 
 


 


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