料理にとろみをつける

 ソースや汁っぽい料理を「トロ」っとさせるのは、料理を美味しくするための重要なポイントです。
 
西洋料理の歴史を見ても、料理にいかにとろみをつけるかが、料理を革新させるポイントになっていると言っても過言ではありません。

 ソースがしゃばいと、料理にソースがのらず滑り落ちてしまうことと、舌もすぐ通過してしまうので、味わいが軽くなってしまいます。
 ソースに限らず、スープや汁物、サラダのドレッシングなどでも、とろみがあるほうが濃厚に感じるのはそのためです。
 例えば中華料理でも、あんかけにとろみがあるかないかで、味わいは全く別のものになります。

 一般的には、単純に煮詰めて濃度を上げるか、でんぷんでつなぐか、乳化させることでとろみをつけます。

 煮詰めて濃度が上がればそれが一番楽です。
 バルサミコ酢なんかがそうですね。煮詰めることですぐにとろみがつきます。

 ですが、例えば出汁系になると、ほとんどそうはなりません。
 そこで
「でんぷん」が使われます。中華では片栗粉がよく用いられ、日本料理では葛や砂糖が使われます。
 西洋料理では、古くはパン粉を使い、それが小麦粉に代わり、それがルーになり、近代フランス料理ではコーンスターチが用いられます。
 フランス料理や洋食では、ソースなどにとろみづけして仕上げることを、「リエする」と言います。

 乳化は、水分と油分が混ざり合った状態のことですね。エマルションとも言います。
 マヨネーズやオランデーズソース、サラダのドレッシングなんかがその代表ですね。
 パスタでオイル分と水分を乳化させると、ソースがトロっと良い感じに麺にまとわりついて美味しくなるのも、良く知られた話です。
 九州のとんこつラーメンなど、白湯系のスープがとろっとしているのも乳化現象です。

 ただ、煮詰めたり乳化させることでとろみづけ出来るのは、素材の成分であったり、油分と水分のバランスであったりと、条件が限られています。
 なので、多くの料理ではでんぷんでとろみをつける必要が生じますが、それを何でつけるかで味わいが大きく変わるので、その知識と技術が重要になります。

 古くはパン粉…というか、パン屑が使われました。
 理由は単純で、十六世紀くらいまでは、フランスにはフォークやスプーンといったカトラリーはなく、王侯貴族ですら手掴みで料理を食べていました。
 なので、汁気はサラサラしたままでは食べづらかったので、スープや煮込み料理などでも、パン屑を浸し、ドロドロにして
食べていたというわけです。

 そこに、小麦粉を混ぜることでとろみをつける技法が生まれ、そこからバターと小麦粉を合わせた「ルー」の技法が生まれます。
 これが古典フランス料理の基本技術になり、現在の洋食でも使われるベシャメルソースやドミグラスソース、ビーフシチュー、カレーといった料理にとろみをつけるベースになりました。

 そして二十世紀になり、フランスではフェルナン・ポワンというコックが、コーンスターチでとろみをつける手法を編み出します。
 小麦粉ベースのルーだと、どうしても味が重く、小麦粉臭くなりますが、コーンスターチだとくせがなく、素材の味をすっきりと出せるからです。
 これがヌーベル・キュイジーヌの原点で、現在でもソースのリエゾンに多用されています。

 ただ、そうしたでんぷんを用いたリエゾンだと、料理に濃度がなくとも簡単にとろみがつけられるので、イージーに使うと人工的に感じられて逆に安っぽい味になってしまいます、
 糊のようなカレーや、味は薄いのに不自然にドロドロしたつけ麺のタレなんかがそうですね。
 なので、手を抜くために使うのはあまりよろしくありません。

 二十一世紀になると、スペインのエル・ブジに代表されるように、炭酸ガスを使って泡状にする「エスプーマ」が流行しました。
 スープの仕上げに電動ミキサーで泡立てたりして、舌触りをまろやかにするとともに香りを立たせる、といった技法や、乳化しにくい素材のドレッシングに、キサンタンガムを加えてとろみを安定させる、といった科学的な手法を用いられることも現代にはあります。

 このように、ソースにいかにとろみをつけるか? は、料理の進化とともに変化し、味わいも変えていきました。
 ソースに深みがない、と思った場合、とろみをつけただけでぐっと味が良くなったりします。
 和食で、鶏や野菜を醤油・みりん・砂糖で炒めたり、みりんを使って煮魚を作る時も、タレが具にとろりとまとわりつくかどうかで、美味しさは別次元です。この場合は糖分によってとろみがつきます。

 片栗粉とコーンスターチの使い分けとしては、ソースに色があまりつかないのは片栗粉ですが、冷めると粘りがなくなりサラサラになってしまいます。なので、熱いうちに食べる料理に向いています。
 コーンスターチは、白っぽく色が濁るので、色を大事にしたいソースには不向きですが、冷めてもとろみが残るので、後からかけるソースや、冷たい料理・菓子用のソースに向いています。

 和洋中問わず、ソース・タレ作りには、「とろみづけ」を意識し、それが上手に出来るようになると、料理のレベルが上がります。
  


 


 →料理豆知識indexへ