パスタのアルデンテ

 
 日本ではすっかりお馴染みの「アルデンテ」("al dente")
 中心にちょっと芯を残した茹で加減のことですが、この言葉はパスタだけでなく、野菜やリゾットの茹で加減にも使われ、クタクタになるまで火を入れず、少し歯ごたえを残した状態が一番美味しい「アルデンテ」とされます。

 イメージはわかるとして、本場のパスタのアルデンテってどれくらいのカタさなのかな?というのは、料理好きなら誰でも気になるところです。

 しかし、実際にはイタリアでも地域によってかなりバラつきがあり、個人によっても差異があり、もっと言うと、料理によっても使い分けがあり、「これ」というはっきりした基準はないそうです。

 そう言ってしまうと身もふたもないのですが、イタリアで修行してきた人なんかでも、その人が修行してきた地域や店によって、言うことが違うので、一つの答えにするのは難しいです。

 これは、日本の米の炊き加減と一緒かもしれません。
 
日本の米飯も、地域により、家庭により、かため・柔らかめの状態は様々で、それぞれ好みの炊き加減があり、それも茶碗飯なのか、寿司飯なのか、うな丼の飯なのか、料理に合わせた炊き加減があるのと同じです。

 なお、乾麺は南イタリアのナポリで生まれたので、ナポリ近郊の地域では硬めのアルデンテが多いですが、生麺が主流の北イタリアでは、意外にもアルデンテという概念が希薄だそうです。

 手打ちの生麺にも茹で加減によってかため・柔らかめはあり、それをアルデンテと表現することはあるのですが、南イタリアほど言われないそうです。
 乾麺ほどには中心と表面との水分差が発生しないので、はっきりと中心に芯が残るようなアルデンテにはならないからです。
 だから、乾麺の「アルデンテ」と生パスタの茹で加減は別物と考えたほうが良いでしょう。

 また、実際にイタリア人がどれくらいこだわっているかというと、それも微妙なところで、そもそも本場イタリアのレストランならどこでも茹で立てのパスタを出すかというとそうでもなく、大衆食堂レベルだと、パスタやリゾットを茹で置き・作り置きしてる店は結構当たり前にあります。

 これも、日本の和食の店なら、どこの店でも本格的に仕込みをしてるかといったら、そんなことはないのと同じでしょう。

 ちなみに、日本で「アルデンテ」と称してパスタを硬めに茹でることについて、1990年頃のイタメシブーム時に、メディアやグルメ漫画などが誇張して広まった謝った認識で、イタリアではそんなに硬く茹でない…と言っている人がいますが、そんなことはないと思います。

 明治時代に横浜の外国人ホテルで外国人コックから西洋料理を学んだ荒田勇作氏が1963年に書いた料理書『荒田西洋料理』には、パスタの茹で方について、少し芯を残して茹でるのが本式である、と書かれているので、芯を残す茹で方というのは、日本の洋食界では昔から知られてた知識だと思います。

 もちろん、それが一般家庭まで有名になったのは、メディアや漫画の影響だと思いますが…。

 そんなわけで、本場のアルデンテを目指したい人は、あまり深く考えずに、茹で過ぎだけに注意し、あとは好みだと割り切って考えて良いと思います。

 ただ、日本の専門店では、イタリアに比べてややカタ過ぎる傾向にあるのは本当かも知れません。
 これは、本場を知らない日本において「アルデンテ」であることを印象付けるため、わかりやすいほど「カタめ」に調理しているのが実情ではないかと思います。

 それに加えて、日本人特有の嗜好もあるのかも知れません。
 日本の麺好きは、マニア度が高い人ほど、うどんでもラーメンでも、「カタめ」を好む傾向があるように思います。
 大衆のうどんでは、関西や九州のように柔らかい麺もあるわりに、「通」好みのうどんとなると、讃岐を代表としてだいたいコシの強い麺です。

 ラーメンでも九州ラーメンがわかりやすい例で、通ほど「バリカタ」を好む傾向があるのではないでしょうか。
 だから、日本人は、パスタでもマニアになるほど「カタめ」志向になり、「バリカタ」なパスタにハマってしまう人が多いのではないかと思います。

●家庭でのアルデンテのポイント

 ただ、日本の家庭のパスタとなると、茹で過ぎになりがちです。
 この原因は技術的な問題で、パスタを茹で上がった瞬間はアルデンテだけど、ソースと合わせているうちにのびてアルデンテじゃなくなってしまう、ということがほとんどだと考えます。

 缶詰のソースやレトルトソースをかけるだけなら、そのタイミングでもうまくいきますが、ちゃんとソースを手作りし、フライパンで合わせて調理すると、結果的にそこで熱が入ってのびてしまってるんですね。

 熟練されたプロのように、茹で上がりと同時にソースも出来上がり、麺と合わせて一瞬で味も決まるなら、ほとんどタイムラグは生じませんが、麺が早く茹で上がってしまったり、麺と合わせてから味を調えたりソースを詰めたりするのに時間がかかったりして、食べる頃にはアルデンテではなくなってしまうわけです。

 特に、オイルベースやトマトソースのパスタなどは、麺をフライパンに投入すると麺が水分を吸うので、そこでフライパンで麺とソースをしっかり馴染ませながら仕上げるのが美味しい調理法なので、そこまでが最終の茹で上がり状態と考えたほうが良いでしょう。

 ちなみに、ウィキペディアのアルデンテのところでは、「茹で上がり時の状態がアルデンテであり、皿に盛られ口にする時というのは誤った認識」と書かれていますが、あれはどうかと思いますね。
 そもそもアルデンテの基準自体に個人差がある上に、レストランで料理を作る人間からすると、お客さんのテーブルに出した時の状態が、コックにとっては狙った料理の状態です。

 なので、パスタの中心まで完全に茹で上がった状態で出したいか、芯が残った状態で出したいかは、そのコックの考え方次第であり、「アルデンテは茹で上がり時の状態が好ましい」と断定できるものではありません。

 実際、南イタリアのレストランでは、硬茹でのパスタを提供する店もありますから。これは完全に主観の話です。

 というわけで、自分の調理ペースを考慮して余裕を持って、自分の狙うパスタの状態よりも少しカタめに茹で上げることが、思った通りの硬さに仕上げるコツだと思います。

    


 →雑学indexへ