ステーキを美味しく焼く

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 牛リブロースステーキ・マディラソース、じゃがいものガレット添え(調理:管理者)

 ごちそう料理の代名詞的存在、ステーキ。
 外で食べると美味しいけど高い。
 でも、
ポイントさえ押さえていれば、家でも十分美味しいステーキを焼けます。
 お店と家との違いについても触れながら、ステーキを焼くポイントを説明します。

●調理道具

 ステーキを美味しく焼くには、フライパンがあれば十分です。
 ただ、テフロンなどの加工フライパンでは美味しく焼けないので、鉄のフライパンか、アルミのソテーパンが良いです。
 2cmくらいまでの厚みのステーキであれば、家庭のフライパンでもお店と遜色ないステーキが焼けます。(そもそもフライパンで焼いている店も多いので)

 ステーキの専門店などでは、グリドルと呼ばれる大きな鉄板で焼いている店もありますが、あれは神戸の「みその」という、元はお好み焼き屋だった店が考案して流行した独特のスタイルで、西洋料理の調理法としては標準的なスタイルではありません。
 格子目の焼き目のついたステーキは、「チャコールブロイラー」(炭焼き器)と呼ばれる設備で焼いているため焼き目がつきます。あれは特にアメリカ人好みのバーベキュースタイルです。余計な脂を落としながら、高温で表面を香ばしく焼き上げ、遠赤外線効果で中にもじわりと熱を通します。この味わいはフライパン調理では難しいですが、「グリルパン」という溝のついた専用フライパンがあれば、同様の焼き目をつけることができます。

 家庭で焼くのが難しいのは、厚切りのステーキです。
 厚みが3cmを超えるようなステーキとなると、フライパンだけで上手に焼くのは難しくなります。最初にフライパンで表面に焼き色をつけたら、オーブンで火を入れて仕上げますが、これは家庭では真似が難しく、アメリカの高級ステーキハウスはこのスタイルの店が多いです。

 ともあれ、1cm〜2cm程度の厚さのステーキであれば、家庭のフライパンでも十分美味しく焼けます。

●素材

 美味しいステーキの条件としては、何よりもまず素材です。
 どんな部位でもステーキにして美味しいわけではなく、ステーキ用の部位として代表的なのは、ヒレ、サーロイン、リブロースです。

 肉は、人間の筋肉と同じで、運動すればするほど引き締まり、筋が太く、硬くなります。重たい頭を支えている首や、前足を動かし支える肩、後ろ足を支えるもも、そして体を支える前後の足の肉などは、筋が多く硬い肉なので、さっと焼いて食べるステーキや焼き肉には向ません。
 なので、比較的運動の少ない腰のあたりが、ステーキに向いた上質な肉で、頭側から数えて肋骨の6本目と7本目の間から10本目にかけての腰の部分が「リブロース」、10本目と11本目の間のところからが「サーロイン」、そしてサーロインの内側に「ヒレ」があります。

 リブロースは、肉の繊維が細かく、脂が霜降りのように内部に入りやすいので、比較的柔らかめの部位です。サーロインは、肉の繊維はほどよく細かく、赤味と脂身がわりとはっきり分かれた部位です。ヒレは、内臓に近い部分で、赤味の肉ですがほとんど運動していないので非常に柔らかい部位で、少量しか取れないため非常に高価です。
 ヒレは別格として、リブロースとサーロインのどちらが美味しいと感じるかは好みにもよるところで、値段もどっこいどっこいです。

 この3つがステーキの代表的な部位ですが、リブロースの手前の肩ロースでも、リブ寄りの部分は比較的柔らかいので、良質なものはステーキとして提供する店もあります。また、サーロインのお尻側の隣の部分は「ランプ」と呼ばれ、これも良質なものはステーキとして提供されます。
 「もも肉」をステーキとして提供する店や、スーパーなどで「ももステーキ」として売られていることもありますが、上記の部位に比べると落ちる部位です。

●ステーキの美味しさの要素

 ステーキを調理する上で、味が決まるポイントは、調味と肉汁と香ばしさの3つです。(熟成は家庭での管理が難しいので省きます)
 調味は塩のことです。どんなに上質な肉でも、塩なしでそれだけ食べてもほとんど美味しさは感じられません。肉の旨味は、塩味との相乗効果があってこそ発揮するので、塩加減は非常に重要です。
 肉汁は、肉そのものの旨味が詰まったエキスで、肉汁にこれをどれだけ流失させずに肉の中にとどめておくかが美味しさの差になります。
 香ばしさは、肉を焼くことでアミノ酸や糖分が化学変化を起こして茶褐色化し、そこから芳香が発生し、これこそがステーキならではの美味しさです。焼きが浅いと香ばしさは生まれず、焼き過ぎると焦げてしまうので、焼き加減も、ステーキの美味しさを左右する重要な要素です。

 つまり、美味しくステーキを焼く、ということは、「適切な調味で、肉汁を閉じ込めながら、香ばしく焼く」ということになります。

●焼き加減

 ステーキの焼き加減は、大きく分けてレア、ミディアム、ウェルダンとあり、どれが美味しいと思うかは好みによりますが、理屈上一番美味しいのは、ミディアムレア〜ミディアムでしょう。

 肉のたんぱく質は、50度くらいから変性し、80度を超えると全体的に固くなります。
 食感という点では、中心を50度〜60度くらいに仕上げるのが最も柔らかく感じ、これがミディアムレア〜ミディアムで、色が赤からややピンクっぽくなるくらいの状態です。

 肉を焼くと、内部の水分が膨張し、やがて肉の細胞が壊れ、肉の旨味とともに、肉汁となって流失していまいます。なので、単純に肉の旨味を最も保持している状態となると、「レア」ということになります。
 また、肉でも魚でも、生の状態でしかない肉自体の香りがあります。上質な肉程、特有の芳香がありますが、焼けてしまうとその香りが失われていきます。
 よく、グルメっぽい人が
レアを好むのはこれらの理由のためでしょう。

 しかし、レアの場合はまだたんぱく質が変質していないため、肉の繊維が結合したままなので、柔らかいようでいて、グニグニして必ずしも歯切れが良くありません。なので、せっかく肉の旨味を保持していても、よく噛まなければ味が出てこないので、ジューシーさには欠けます。

 逆に、ウェルダンになると、タンパク質がかなり凝固しているため、肉が固く感じます。そして、肉の細胞組織がほとんど壊れているので、かなりの肉汁は流失し、ジューシーさに欠けます。また。香りも、脂身からの香りは立ちますが、赤味部分の芳香は減少し、焼けた香りが全面に出ます。
 ただ、中心温度75度以上で1分以上熱を加えると、ほとんどの菌が死滅するので、食品衛生面からすると最も安全な食べ方と言えます。

 そこで、ミディアムレア〜ミディアムの場合は、たんぱく質が変質をはじめているので、肉の歯切れが良くなり、柔らかく感じるようになります。それに、細胞の損壊も表面に近い部分だけにとどまっているので、肉汁の流失が少なくジューシーです。香りも、表面からは香ばしさ、内面からな肉そのものの香りと、両方の香りと味わえます。

 なので、歯切れの良さとジューシーさ、そして香りの三面を併せ持っているミディアムレア〜ミディアムが、理屈の上では最もバランスの良い焼き加減、ということになります。

●焼き方

 それでは、肝心の焼き方です。
 まず、ステーキ肉は、冷蔵庫から出したてをすぐ焼くのではなく、常温にしばらく置いて、芯温を15℃くらいまで上げることが大事です。
 そうすることでバランスよく熱が中に入り、食感を柔らかく仕上げることができます。

 そして、焼く数分前に、肉全体に塩をします。
 ここでのポイントは塩の量です。お店のステーキは、おそらく一般の人が思っている以上に、しっかり塩をふってます。塩をしっかりきかせることで、肉の旨味を感じられるようになるからです。
 イメージとしては、肉の表面全体に、びっしり薄く塩がふられているような感じです。バランス良く塩をするには、塩をふったら、手で撫でるようにして塩を全体に広げ、全面にバランスよく塩味がつくようにしましょう。
 厚切りの肉の場合は、かなり濃い目にふり、側面にもしっかりかけます。
 薄切り肉の場合は、薄くふります。
 これは、一口で食べる体積に対しての塩分量を合わせるためです。

 数分前にかけるのは、味と風味を肉表面に軽く染み込ませるためです。
 最近の調理法では、塩は後からかける、としているものもありますが、後から塩をした場合、肉と味との一体感が欠け、旨味の相乗効果が弱くなってしまうように感じます。
 
ただ、塩をして長時間置き過ぎると、浸透圧で肉の内部の肉汁が表面に染み出してしまうので良くありません。
 このように、肉にしっかり下味をつけるので、ソースに塩分はあまりきかせません。
 肉自体だけで食べても十分美味しいくらいに程よく塩味がきいていて、ソースはそこに風味や旨味を付加する役割、というのが、ステーキの美味しさを最大限に楽しめるバランスです。

 フライパンは、強火にして油をしき、煙が出始めるくらいが焼き始めるのにちょうど良い温度です。
 肉をのせたら強火のまま焼き、肉をのせたことで下がってしまったフライパンの温度を再び上げるとともに、肉の表面を焼き固め、焼き色をつけます。
 
20秒程度焼いたら弱火にして、肉を少し持ち上げて、周りの油を肉の下に入れ込み、弱火のまま、じわじわと熱を入れていきます。

 この、最初に強火でしっかり焼き色をつけることが重要なポイントの一つです。
 こうして表面に焼き色を付けることを、料理用語では「リソレ」と言い、洋食では焼き物だけでなく、ソース作りや煮込み料理でも用いられる重要な技法です。
 肉は、焼けた時の香ばしい香りも重要な美味しさの一つで、焼き色のついてないステーキは、美味しさが半減します。
 ずっと強火のままだと、表面が焼けても中が生過ぎになってしまうし、中に火が入るまで強火で焼き続けると、表面が黒焦げになってしまいます。逆に最初から弱火だと、焼き色がつかず、蒸し焼きのようになってしまい、香ばしさが得られません。
 なので、最初だけ強火で、焼き色をつけたら火を落とす、という火加減調整が大切です。

 肉をひっくり返すタイミングは、肉の表面にじんわりの肉汁が染み出るくらいが、ちょうど良い頃合いです。
 ひっくり返したら、再び強火にして裏面にも軽く焼き色をつけます。
 焼き加減は、この裏面を焼く時間で調整します。肉の表面にじんわり肉汁が染み出てきたくらいが
ミディアムです。
 裏面を焼く時間は自分の好みに合わせて調整しますが、自分の狙う焼き加減の、少し早めに肉をフライパンからあげます。

 焼きあがった肉は、お皿の上にのせ、アルミホイルなどでカバーをし、数分休ませます。
 そうすることで、余熱で肉の内部に優しく熱が入り、また、加熱調理によって膨張した肉の細胞が落ち着きます。肉を休ませず、細胞がまだ膨張した状態で切ってしまうと、肉汁が激しく流出してしまいます。

 このように、しっかりした調味で旨味を引き立て、香ばしさとジューシーな肉汁を最大限に引き出すことが、美味しいステーキを焼くポイントです。

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 ミディアムの焼き加減

 
 


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