鍋の旨味

 「鍋の旨味」なんて書くと、鍋に味があるのかと思われたかも知れませんが、正確には「鍋やフライパンについた旨味」のことです。
 
これは洋食の基本で、特にフランス料理では重用される基本知識です。

 鍋やフライパンで肉を焼いたりすると、鍋底に、焦げのようなものがつきますよね?
 実はここに、「美味しさ」が多分に含まれています。

 例えば、鶏肉をソテーパン(手鍋)で焼きます。
 油を引き、最初は強火で。焼き色がついたら弱火でじっくり。
 焼きあがった時には、鍋底に、茶色いお焦げのようなものがへばりついていると思いますが、これは、肉から染み出た肉汁がメイラード反応によって褐色化したもので、香ばしい香りとアミノ酸が凝縮されています。

 フランス料理用語ではこれを「シュック」と言います。
 洗い流してしまったらもったいないですよ!
 この旨味成分を利用してソースを作ったりするのが、フランス料理では欠かせない調理工程です。

 ただ、焼くための油や、皮や肉の脂身から出た脂分は余分なので、それは取り除きます。
 そのことを「デグレッセ」と言います。

 そして、こびりついたシュックを、何らかの水分で溶かします。
 このことを「デグラッセ」と言います。

 その水分には、白ワインとか、ブイヨンとかを使うのが普通ですが、ソースそのものでも良いです。

 白ワインをして火にかけ、シュックを溶かしながら軽く煮詰めて、いい感じになったところでソースにして仕上げます。
 例えばクリームソースなら、ブイヨンを入れ、生クリームを入れてさらに煮詰め、最後にチーズと白コショウを入れて仕上げるとか。

 でも、家庭料理レベルなら、ぶっちゃけシュックを白ワインで溶かして煮詰めたのをチキンにかけるだけでも十分美味しいと思います。
 流石にワインだけだとつまらないなら、ガーリックチップとオリーブオイルを入れたり。
 塩加減は、肉本体にどれくらいかけているかによりますが、僕としては肉自体にしっかり塩をして、ソースには塩をあまり使わない方が美味しいと思います。
 肉本体にしっかり塩をしていれば、鍋底にも塩が残っているので、ソース作りに塩はほぼ足さなかったりするくらいです。

 この手法は、焼き物・炒め料理には共通の技術です。
 炒め物やパスタだと、勝手に焼き汁と合わさるから意識しませんが、ステーキやグリルものだと、ソースは別で作ったり、市販のものを買ってかけたりするだけだったりするので、鍋やフライパンは焼いてそれでおしまい、という方も多いと思うので、これを意識すると料理の味がグっと上がります。

 これは鍋だけでなく、オーブンなどでも一緒です。
 肉をローストしたりしたら、その鉄板にこびりついているシュックを活用しない手はありませんよ。
 煮込み料理でも、鍋の縁に旨味が茶色くこびりついたりしますが、これも、こそげ落として中に溶かしましょう。

 気を付ける点は、完全な焦げです。
 焼いている時に完全に黒く焦がしてしまうと、それをデグラセしたら焦げまで入ってしまい、美味しくありません。
 なので、火加減や、スパイスなどを入れるタイミングは重要です。
 また、
黒いフライパンだと、焦げてるのかどうかわからないのでその判断が難しくなります。

 ちなみに、テフロン加工されてるフライパンや、酸化被膜が良い感じになっている鉄のフライパンだと、シュックが肉の表面にくっつき、フライパンにはほとんどこびりつかないので、デグラッセ効果はあまり出ません。
 (ただこの場合、その旨味が肉についてるわけですから、料理としてダメなわけではありません)
 

 
 


 


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