アフターコロナでも生き残れるバーガー屋
 

 コロナ前から日本ではバーガーブームが起きつつありましたが、コロナでテイクアウト需要が激増し、マックやKFCといったファーストフードチェーンの売上が絶好調になったので、雨後の竹の子のごとく、バーガー屋が増加したように思います。

 中国製のチキン問題などで一時は苦境に立たされたこともあったマックですが、現在は巻き返し、コロナ下での強さは言うまでもなく、アフターコロナでも間違いなく生き残るでしょう。

 一方、新しく生まれたバーガー屋たちは、オープン直後は激しい行列になったりしますが、たいがいあっという間にガラガラになっているように思います。

 一時とはいえ行列ができるのなら、消費者心理としては興味が高いということです。
 しかしそれが定着しないのは、その店の実力に過ぎないのでしょうか…?

 というわけで、どういう店を作ればアフターコロナで生き残れるかをここで考えたいと思います。

●生き残れるのは「幸せを提案する店」

 「幸せ」とは、何とも抽象的で感傷的な表現かも知れませんが、その全体感こそが本質だと思ってます。
 人が、一年365日・24時間のライフサイクルの中で、「外食」という選択肢を選んだ時、ふとその店を見ると、

 「この店で買えば幸せな体験を獲得できるかも知れない」

 と思わせること。
 
そして、その店を知る人が「今日は何か食べて帰ろうかな…」と思った時に、

 「あ、○○バーガーに行きたいな…!」

 と、その店のやわらかな映像が頭に浮かぶとともに、幸せな感覚を呼び起こさせる。
 
 そんな店、ということです。

 ただの理想論に聞こえるかも知れません。
 しかし、成功している店は、すべからくそうした店です。
 なので、そこから逆算して要素分解せずに、成功する店が作れるはずがないのです。

 高い満足度が得られるからといって高級店とは限りません。
 安いけど居心地がいいとか、味はそれなりだけどリーズナブルにお腹いっぱいになるとか、イメージはそれぞれです。
 いずれにしろ、そうした「幸せ」イメージを人に付与できる存在であり、それ相応の商品を提供する店、ということです。

 では、そうしたバーガー屋とは具体的にどんな店か? を考えてみたいと思います。

●「特別」を提案する店

 日常の延長上にはない空間と、家庭では味わえない味覚と香りの喜び。
 物理的価値だけではなく、「この店は普通じゃない」と思わせてくれるバックボーンやストーリーに心を躍らせられ、マンネリな日常とは一歩離れた「精神的な特別感」を満たしてくれる店。

 そうした特別感をプレゼンテーションし、提案してくる店となると、まず、ファサード(店構え)は、決してチープではいけない。
 イートインスペースのない100%テイクアウトの店だったとしても、決して無表情な窓口販売ではなく、温かみのあるエントランスで、店内はお洒落なパティスリーのように適度な広さがあったほうがいい。
 店内の棚には、バーガーを持ち帰ってからより美味しくアレンジを楽しめるための、個性的なソースや上等なタルタルソース、プレートやナイフ・フォークなども販売され、実際の盛り付け例が紹介されていてもいい。
 単純なバーガー屋ではなく「ライフスタイルを提案する」ような店。

 この「ライフスタイルを提案する」ことがすごく重要だと思います。
 何故なら、モノに溢れた今の時代、単に「味覚」だけでは、人は幸福になれません。
 目にするもの、手が触れるもの、体が感じるもの、そしてストーリー性と、その時空間による物質的・精神的体験の全てがエクセレントでなければ、高い幸福感を得られません。

 だから、その店のストーリーのはじまりであるファサードの視覚効果は重要で、イートインするなら店内環境はもちろん重要だし、テイクアウトするなら、それを家で食べた時に、幸せを感じられる時空間をイメージできるようにしなければなりません。だから、食器類の販売なども重要なのです。
 お客さんがそれを実際に買うかどうかは別として、イメージできないことにははじまりません。お客さんが販売されている食器を買わず、自分の家にある食器でやったとしても、それは成功なのです。

 コストをかける分、値段はそれなりになるでしょう。
 その代わり、商品には普通の家庭では使われないような上質な素材や多彩なスパイス・ハーブ類が使用され、家では味わえない世界観を満喫できる。
 特に個性や非日常感を出すには、フレッシュハーブやホールのスパイスなどを駆使し、店の仕込みや焼きたて・作りたてを大切にして、「香り」にこだわるのが重要だと思います。
 何故なら、家に持って帰って袋を開けたときに、ふわっと香りたつことが、自宅での幸せ感を演出するのに非常に有効だからです。
 香辛料にこだわるのは、決して奇抜な風味を出すことが目的ではなく、
ありきたりの素材では非日常感を出すのは難しいからです。

 テリヤキバーガーを売るのなら、ソースは自家製にし、こだわりの醤油とみりんを使い、しょうがやにんにく、甘味と風味づけのフルーツを店で毎日ミキシングして仕込むくらいしたほうが良い。
 これは、今の時代、スーパーやカルディなどにいけばマニアックな調味料が簡単に手に入るので、既製品の味で特別感を出すのは難しいからです。
 素材感のある作りたてにしか出来ない味わいこそ、特別感を生み出せると思います。

 といって、店仕込みは手間が大変なので、売り切りご免の数量限定販売で良いでしょう。
 
品切れをしてはいけないと考えるのは繁華街や観光地に出店するチェーン店的な発想です。
 たとえば焼きたてのパン屋や手作りケーキ屋なんて、昔から売り切れご免は当たり前です。最近ではラーメン屋などでもそれが当たり前になっています。

 非日常を売る領域で大事なことは「高い幸福感」であって、利便性ではありません。
 むしろ品切れして希少性が高まる方が、利用者にとっては価値が高まります。

 いつでも安価に安定供給することは、客にとって有益に見えて、むしろ逆に特別感や価値を下げてしまいます。
 チェーン店は機会損失が発生することを非常に嫌いますが、それは立地で稼いでいた古い時代の手法です。
 観光地のように通りすがりの一見客相手に商売するなら、注文したいものがない、というのは大きな損失ですが、目的来店の店の場合は、今日売り切れなら次回買おう、という意識になるから問題ありません。

 デザイン・内装は、清潔感があることは絶対として、無機質で先鋭的なテイストより、やわらかくナチュラル路線で、といって無難なカフェ風ではなく、異色さが出ない程度に個性的で「アーティスティック」あることが必須。

 ナチュラル路線を推す理由は、ここが日本だからです。
 日本人は歴史的も文化的にも「木造」がベースなので、それが一番落ち着きを感じます。
 スタイリッシュ過ぎるテイストは、「意識高い系」の人は好むかも知れませんが、大半の一般人からすると、すごく他人行儀で「疲れる」存在になってしまい、ライフサイクルの中に定着しないと思います。
 場所自体が非日常で落ち着きなど必要のない観光立地なら、尖った店のほうが良い場合もありますが、生活に密着した街のバーガー屋となると、気取りが求められる店は逆にハードルとなって障害になります。

 また、「カフェ風」を避ける理由は、ナチュラルテイストの素朴なカフェ風はもう大衆化し、特別感が出にくいからです。
 少し前ならメイプルウッドやオークウッドのようなライトな色合いのナチュラルテイストが流行りましたが、今では家庭用の家具類でもそうした路線は当たり前になっています。
 まして「多少お金を出してでも良い物を」という感度の高い層に対しては、もはや特別感は与えられないでしょう。

 ある程度の感度をすでに備えている客層を相手にする場合は、凡人では発想できない、自分より高みの存在だと思わさせるような、アーティスティックさは必須だと思うのです。
 そのためには、多少の工業製品的なテイストはむしろ必要だと思います。

 素朴な感じというのは、親しみやすい反面、特別感が出ず、今や「ありきたり」です。
 だからこそ、「プロの仕事」を思わせる、工業製品的な作り込み感も必要だと感じます。
 とはいえ、
工業製品感が強すぎると、チェーン店っぽくなって陳腐に見えてしまいますが、といって個人任せにし過ぎると、ごちゃごちゃして余計に安っぽくなったり、カオスで汚らしくしら見えてしまいます。

 このバランス感覚にはアーティスティックなセンスが必要で、建物の構築的な部分や、仕上げや塗装や統一感があって整頓された工業的完成度を出しつつ、内装には個人趣味を思わせるような調度品を置き、お手製の商品案内の飾り付けがあり、メニューは手書きにする、といったトータルデザインを考えることが大切です。

 最近このあたりをうまくやっているのはラーメン店でしょうね。
 あまりにも素人っぽくて安っぽい店構えだと、美味しそうに見えない。
 といって、あまり綺麗に作り過ぎると、チェーン店っぽく見えて、ありきたりの味じゃないかと先入観を持たれてしまう。
 だから、明らかにプロに依頼して作らせた丁寧な外装だけど、オリジナリティと手作り感を残して安っぽくない店が、一番期待度を持たれやすい。

 結局モノをいうのは「センス」です。
 少しずるい説明だと思うかもしれませんが、それは当然のことで、その店が
自分よりレベルの高い存在だと思えるからこそ、人はより多くのお金を出そうと思えるものでしょう。

 特別感のある店とは、そういう店だと思います。

 「ライフスタイル提案型」になるためには、決してモノ単体の売り方ばかりを考えるのではなく、世界観を提示することが重要です。
 その店の提供する商品が、日々の生活シーンにおいてどういう時のどういう存在として有効で、どんな「幸せ」を体験できるかを表現することは不可欠です。

 通常の外食店は、店舗の内装、食器類、そして接客やサービスでそれらを表現しますが、テイクアウト主体の店になるとどうしてもそれが伝えきれません。
 だからこそ、外観や内装にこだわるのはもちろん、自宅でもこんなお皿にこんな盛り付けをしてデコレーションすればこんなに素敵になりますと、といった提案まで踏み込み、イメージの世界だけでも特別感が膨らむようプレゼンテーションし、購入者の想像力を刺激することが非常に重要なのです。

 ここで書いたのはあくまで個人的な表現の形なので、もちろん他の表現方法もあると思いますが、人が外食に求めるものとして、手軽さメインでない領域でビジネスをするならば、「非日常感」「特別感」の演出は不可欠です。
 味だけでなく、エントランスから、内装、空間、商品、そしてそれを自宅に持ち帰ってからの楽しみ方に至るまで「その店と商品に接する全ての瞬間を特別な時空間」としてトータルプロデュース・プレゼンテーションする仕掛けこそが、バーガー業態で成功するための本質だと思います。

 バーガーの高価格帯の領域としては、「グルメバーガー」と言われて数多くの店がすでに存在しますが、それで成功している店はどこも、消費者が納得できる何らかのストーリーや世界観の構築に成功している店ばかりです。
 失敗している店は、モノは良いのかも知れないが、どんな価値があってどんな幸福感を満たしてくれるのかがさっぽり伝わらない店だったり、逆に見せかけや能書きばかりが先行して中身が伴っていなかったりと、ちぐはぐな店です。

 当たり前と言えば当たり前なのですが、それを実現するにはそれを徹底する意志の強さに加えて、アーティスティックなセンスも必要になるので難しいのだと思います。

 そしてここで、先ほど領域としては「高級店とは限らずリーズナブルな店もある」と書きながら、あえて特別路線を狙うべきなのかを説明します。

●リーズナブルな領域では勝てない

 バーガー業態において、リーズナブルな領域のニーズは確実に大きく存在しますが、リーズナブルなバーガー屋を作ってもまず成功しないと思っています。
 
その理由は簡単で、その領域には「マクドナルド」という無敵の王者が君臨しているからです。

 食べ物屋の価値を単純に二極化すると、「ごちそう感」と「コスパ」の二つが対極になると思います。
 そうなった時、「バーガー屋」というジャンルでは、「リーズナブルさ」や「コスパ」においてマクドナルドに太刀打ちすることはほぼ不可能でしょう。

 コロナの前から、日本の食の志向は「お金を出してでも良い物」か「安くて腹いっぱいになる物」に二極化していると言われていましたが、コロナで外食する機会が激減してから、その志向はより先鋭化したと思います。

 あえて「行きたい」と思わない店にはわざわざ行かなくなり、どうせ行くなら「値段はともかく絶対満足できる店」か、単純に「コスパと利便性だけで行く店」への使い分けが、はっきりしたのではないでしょうか。

 そう考えると、安く手っ取り早く腹を満たすバーガー屋という選択肢では、マクドナルドに対抗できる店を作るのは果てしなく困難です。
 せいぜい、マクドナルドがない地域か、いつもマックで飽きたから……という理由で、たまに来て貰えるレベルの店が限界で、常時繁盛する店を作るのは極めて困難でしょう。

 それでも、「高級とまではいかなくとも、マックより少し高いけど美味しい」という領域もあるのでは……?
 と考える人がいるかも知れません。

 しかし、そもそもマックにもその領域はラインナップされていて、キャンペーン商品がまさにそれにあたります。
 マックは、100円強のハンバーガーやチキンクリスプなどをラインナップしつつ、中価格の季節商品の投入にも余念はなく、次から次へと新商品を発表し、それを楽しみにしているファンもいるくらいです。

 つまり、マックはすでに低価格〜中価格の領域までを支配しているのです。
 そこにパイが全くないわけではなく、単にその領域はマックに勝負を挑むと同等であり、
大きく食い込むのは至極困難なのです。
 また、中価格帯には「モスバーガー」という強豪もいます。
 そもそも中価格帯の領域、つまり1食600円〜1,000円の領域にとなると、街の定食屋やラーメン屋、そして中食とも真っ向勝負しなければならない、飲食業において最も激しいレッドオーシャンです。

 世界第二位のシェアを誇り、「一度ワッパーを食べたらマックなんて食べる気がしない」という味の評価を受けながらも、日本に何度上陸してもうまくいかず、店が増えたり減ったりを繰り返している「バーガーキング」を見れば、バーガー業態がその領域で戦うことがいかに難しいかは明らかでしょう。

 多少味の優位性があったところで、低価格〜中価格のリーズナブルな領域ではマックに勝つどころか、存続することすら難しいのです。

●「美味しさ」「感じの良い接客」の落とし穴

 また、中価格帯で戦うのが難しい理由として、価値の判断が極めて難しいことです。

 自分も飲食業界の人間だからよくわかるのですが、何か店を作ろうとか、売上を上げようとすると、えてして「味」や「接客サービス」にばかり神経が向かいがちです。
 そうして、当然のように、より美味しく、よりよいサービスをしようと、あれこれ必死に試行錯誤します。

 しかし、はっきりってそれは時間の無駄だと思います。

 「何いってんだ? 飲食店はそれが基本だろ? QSCって言葉を知らないのか?」

 と業界の人からは言われそうですが、これこそが一番、むしろ飲食業界の人間だからこそ過ちを犯しやすい「落とし穴」だと思っています。

 まず「味」なんてものは、そもそも嗜好性が強いものです。
 さすがに不味いのは論外ですが、それなりのプロがそれなりに考えて開発した商品なら、それなりの美味しいのは当然です。
 しかし、人間の味覚なんてものはいい加減なもので、一部の敏感な人を除くと、ほとんどの人が、その他の要素によっても味の印象なんて変わるものです。

 それこそ「接客」の影響がそうで、「どんなに美味しい料理でも、接客が最悪だと美味しく感じなくなる」という現象がまさにその最たる例でしょう。

 しかし、接客にしても、人によって感じ方は千差万別です。
 感じが悪いのは問題外ですが、ホテルのように洗練されたサービスが好きな人もいれば、食堂のおばちゃんの気さくなサービスのほうが落ち着くという人もいるし、慣れ慣れしいサービスは鬱陶しいと思う人もいるし、テンション高い居酒屋のサービスを活気があって楽しいと思う人もいれば、それをうざいと思い、静かな店を好む人もいる。

 清潔感はさすがに大原則と言いたいが、それでも「キタナシュラン」というジャンルの存在が示すように、小汚い雰囲気を風情だと感じる人もいます。
 実際、かつて僕の実家の近所にあった中華料理店で、まるで戦後のバラックのように小汚い店だけどいつも繁盛している店がありましたが、儲けたお金で改装し、小綺麗な中華料理店に改装した途端、味もサービスも何も変わらないのに閑古鳥になって潰れた……という現象を目の当たりにしたことがあります。

 何が言いたいかというと、中価格帯の領域では、使える素材や人件費の制限が非常に厳しいため、「圧倒的な美味しさ」や「素晴らしサービス」の表現は不可能に近いのです。
 そのため、味にしろ、サービスにしろ、内装外装にしろ、落としどころの判断が難しく、多分に「主観」でしか決められなくなるからです。

 380円の吉野屋の牛丼が数十円上がっただけでも客数が大幅に落ちてしまうのが、低価格〜中価格帯の戦場です。
 
しかし、10円20円の付加価値やサービスレベルの差を、どれだけ顧客に明確に表現できるでしょうか?
 この味が10円分、このサービスなら20円と、その価値をどうやって判断出来ますか??

 数十円の売価の中に占める材料費や人件費の比率なんて、わずかなものです。
 その範疇で「こっちのほうが旨いだろ」「サービスはこうしたほうがいい」などと議論したところで、ほとんど好みの差でしょう。
 うまくいったとしても、それはもう「キタナシュラン」のように、奇跡的なバランスでニーズと合致した、ほとんど偶然の産物だと思います。
 1+2+3は6。それを3+2+1に変えても6。2+2+2にしても6。この組み替えに労力を費やすのは時間の無駄です。
 それならいっそ、3+3+3=9にして、その分価格を上げ、戦うステージを上げるべきなのです。
 むしろ、3+3+3+3+3=15、というように、味やサービスに加え、ファサードや内装、雰囲気の改善、魅力あるストーリーの提示で価値を高めるといった、別の要素いに力をかけたほうがよっぽど有益です。

 それでも、食べ方・味付け・嗜好性のバリエーションが無数にある、和洋中から世界の各国料理のジャンルであれば、遊びの余地が多分にあるため、要素の組み替えだけでも戦える余地はあるかも知れません。

 しかし、それが「バーガー業界」となるとどうでしょう…?

 バーガー業界の低〜中価格帯の領域で勝利を得る方法があるとしたら、マックやモスと同等の品質・サービスのものを、大量仕入れや流通改革などで価格破壊し、より安価に提供できてこそ実現できるでしょう。
 しかし、マックやモス相手に、その勝負をしかけますか?

 そもそも、そうした大量仕入れ実現しているのが、マックやモスです。
 
当然彼らも、日々、商品開発・サービスの改善に努めています。
 そうした、
すでに1,000店以上の規模でバイイングパワーを発揮して市場を支配している相手に対してゼロから戦いを挑むのは、無謀に過ぎないということです。

●「比べる」のではなく「離れる」

 では、どうすればそうした血みどろの世界より上の領域で戦う方法が見つかるか? というと、それはそうした競合他社から「離れる」ということが重要だと思います。 

 飲食店をやっていると、近所で流行っている店の値段が自分の店より安かったりすると、つい、「もっと安くしないと客が来ないんじゃないか」とか考えてしまいがちです。
 そうして、値段を下げるか、お得感を出すために
「量を減らす・増やす」とか、値引きやセット価格といった、どんどん小手先の対応に陥ります。

 そうした時に発生する問題は、いったいこの店では、来店される客の人生の中で、どういった「幸せな時間」を提案するつもりだったのか? を見失うことです。
 
マックより美味しいこと単体では、それにはなり得えません。
 モスバーガーより安ければリーズナブルの証明にもならない。
 なのにいつしか、「自分の店がどうしいたいか」よりも、他の店との比べあいっこに陥ってしまうのです。

 「比べあいっこの何が悪いのか? 他の店と比較研究することは大事だろ?」

 という声もあるでしょう。

 ただ、ここで言いたいのは、「他を見て比べる」のではなく、「他を見て離れるべき」ということです。
 
飲食に限らず、どんな店、企業、アニメ、YouTuberに至るまで、大きな成功をしているものに共通しているのは、「独自のポジションを築いている」ということです。

 けれども、それこそ飲食に限らず漫画でも、音楽でも、成功している他者を見ると、つい自分もそれに寄せたくなってしまうのが人間心理というものです。

 しかし、冷静にならなければなりません。
 成功者はすべからく「独自のポジションを築いている」のに、他者のマネをしたのでは永遠に成功にはたどり着けないはずです。

 ただ、飲食の歴史は「パクリあい」であり、特に日本の外食チェーンの多くは、アメリカといった外食先進国の店をパクったり、その看板をそのまま持ってきて成功した店が多数あるので、パクること自体が常套手段のようになっているのは事実です。

 個人料理店が個人料理店をパクるのは、アリだと思っています。
 なぜなら、戦う装備や条件が一緒なので、個人の技術の差や工夫の差によって、本家と同等かそれ以上になることが可能だからです。

 しかし、バーガー業態でそれはどうでしょう??

 個人経営で評判を得ているグルメバーガー店をパクって、離れた地でやるのであれば、上手くいく可能性はあると思います。
 ですがやはり、マックやモスのような巨人のいる土俵に戦いを挑むのは自殺行為でしょう。
 これから1号店を開こうという段階の人が、マックより安くパティの原料やチキンナゲットの原料を安く仕入れることは不可能です。
 大塚家具がカジュアル路線に走って失敗したのも、ニトリやイケヤ、無印といった、すでにその市場を強力に支配している相手のいる
領域に攻め込んでいったから自滅したのです。

 だから結論は、そうした巨人が支配している領域からいかに「離れる」か。

 他社と重複しない「ライフスタイル」を設計し、それに見合った値付けをして店作りをする。
 これこそが、商機を見つけるポイントだと思います。

 おそらくそれを実現するには、個性を出すためにも、店舗でそれなりの手間をかけた仕込みが不可欠になるでしょう。
 市販品やNBの業務用食品をそのまま使っているようでは味の差別化が出来ないからです。
 そしてアッパー路線には、ストーリー作り・ブランディングは非常に重要です。
 ハイブランドには必ず相応のストーリーがあり、裏を返すと相応のストーリーがあるからこそブランドとなり得るのです。
 先の大塚家具の例でいくと、大塚家具から分裂し、高級路線を進んだ匠大塚の業績が今ひとつ芳しくないのは、お家騒動によってブランドイメージが失墜し、「しょうもないストーリー」になっているからだと思います。
 高級感を出すことよりもまず、失ったストーリーの再構築こそが生き残るカギなんだろうと思います。

●まとめ

 長々と書きましたが、いつまでも存続できる飲食店というのは、「そこにしかない価値」がある店、という原理原則どおりに落ち着くのですが、何よりも「その価値が顧客に伝わっている店」ということです。

 それをバーガー屋で表現しようとした場合、「リーズナブルさ」を価値とする領域においてはマクドナルドという巨人がいるので勝ち目はないので、高付加価値の路線で、唯一無二の価値を提供し、その価値がしっかりと表現され、きちんと顧客にも理解されている店、ということになります。

 もちろん高付加価値路線なら簡単というわけではありあせんが、アッパー領域にはマックのような全体王者が君臨しているわけではないので、やりようはある、ということです。

 ある意味、モスバーガーはそれに近い存在だったように思います。
 注文が入ってから作り始めるので、時間がかかる。
 ファーストフードといいながら、全然ファーストじゃない。
 それでも、そのへんのバーガー屋では得ることができない、モスでしか味わえない特別な体験を楽しみに、客は待ってでも買ったわけです。

 ただ、モスも今となってはリーズナブル領域に近い存在なので、バーガー屋で特別感味わえる店となると、個人店のような小さい店ばかりです。
 なので、まだま領土を獲得する余地はあるように思います。
 そこで中途半端なことをやってしまうと、良くてバーガーキング止まりです。
 どれだけふりきれるか、どれだけ「個性的」で「特別感」を「高いセンス」で表現できるかがカギになると思います。

 

 


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