嗣永桃子さんとカントリー・ガールズ

 嗣永桃子さんは、ハロープロジェクトに所属されていた元アイドルです。
 2017年の6月に、芸能界を引退されました。
 十年くらい前、テレビのバラエティなどに「ももち」としてよく出ていたから、知っている人が多いかも知れません。

 僕が嗣永さんに興味を持ったのは、2018年にソロ歌手として再デビューした鈴木愛理さんに興味を持ったことから、「Buono!」というユニットにも興味を持ち、そのユニットのリーダーが嗣永さんだったからです。

 それまでほとんど知りませんでしたが、調べるにつれてリスペクトするようになりました。

 個人的にアイドルは好きではないけれど、嗣永さんに関しては、アイドルという職業を高いレベルでこなす「技術者」のようで、その姿勢をすごいと思いました。

 メインの所属である「ベリーズ工房」、そして「Buono!」、そして最後に所属していた「カントリー・ガールズ」でそれぞれ見せていた顔は、バラエティでの嗣永さんとは異なる顔を使い分け、多彩な表情を見せていました。
 
嗣永さんが、信念と努力に基づくプロのパフォーマーであったことは、アイドルに詳しくない僕でも十分に理解できます。
 あと、バラエティなどでバカっぽいキャラを演じていながらも、下品なことはしないようにしていたのも個人的に好感が持てます。
 発言やネタの方向性はもちろん、ダンスなどでも、性的なものを連想させるような
動きは自分だけ動きを変えたりフォームを工夫しているのにも信念を感じました。

 「職業アイドル」というべき形を突き詰め、十五年もの活動を見事に全うしたのが嗣永さんだと思います。
 
最後は「伝説のライブ」と呼ばれるような素晴らしいラストで有終の美を飾り、すっぱりと芸能界から去ったその引き際の良さも含めて、職業アイドルの完成形の一つが嗣永さんだと思うのです。

 そんな嗣永さんの残した興味深い仕事の一つが、「カントリー・ガールズ」というグループです。

 このグループは、つい先月、2019年の12月に活動休止、というか事実上解散しました。
 
このグループを知ったのは、一年くらい前、Buono! ライブのゲスト出演での映像を見てですが、その時はよくありがちなアイドルグループといった感じで、特に興味は持ちませんでした。

 ですが、嗣永さんの引退ライブの動画を観てから印象が変わりました。

 それで過去の動画などを漁って感じた、彼女たちの活動を一言で表現すると「青春ドラマ」です。

 このグループは、2014年にハロプロの新人で結成されたアイドルグループで、一人ベテランである嗣永さんはそのメンバーでありながら、マネージャーとして指導者を兼任されていました。
 一人だけ年齢の違う
嗣永さんはあくまで指導者であり、後輩を鍛えたら数年で抜ける前提だったようで、初期の頃のPVを見ると、嗣永さんは脇役的な存在でした。

 それが、デビュー曲でセンターを務めた島村うたさんというエースが、僅か半年で芸能界から引退してしまいます。
 当時のネット評を見ても、カントリーのデビュー時は「うたちゃんフィーバー」などと言われるくらい島村さんがずば抜けた人気を誇っていたので、その痛手は甚大だったようで、嗣永さんも島村さん引退のショックを受け止められないとブログに綴られていました。

 そして2017年に嗣永さんが引退することが決定すると、カントリーの多くのメンバーは他のグループを兼任することになり、しかも兼任先がメインとなり、カントリーとしての単独活動はほとんどなくなります。
 ネットでは「事実上のカントリー解体」などと書かれていました。

 ……ただ、僕が思うに、カントリーガールズは、メンバーがどうこうではなく、そもそものコンセプトがダメだったと思います。

 カントリーは、メンバー全員が小柄で「可愛さ」を前面に出した、アイドルの王道路線がコンセプト。
 そういう意味では、かなり良く出来たグループだと思います。

 しかし、2014年というと、AKBグループやももいろクローバーZらの全盛期。
 アイドルビジネスの成功要件については別の記事に書いたのでここでは詳しく書きませんが、そんな時代にこのコンセプト自体が無理筋だったと思います。
 
少し前に王道アイドル路線でスタートしていた乃木坂も、スタイリッシュなお嬢様テイストに路線変更しています。
 また、AKBファン内で人気を分け合っても意味がないと思ったのでしょう。運営もレコード会社もAKBとは全て別の存在に仕立て直し、新規の一般客の取り込みに切り替えた秋元康氏のビジネス勘はすごいとしか言いようがありません。

 島村さんの脱退は確かに痛手だったかも知れませんが、その「うたちゃんフィーバー」にしても、しょせんはハロプロファン内での話でしょう。世間でフィーバーしたわけではないし、ハロプロ内でファンを分け合っているに過ぎない時点で限界のあるグループであったことに変わりはありません。

 ですが、そんなグループが僕の感性にひっかかったのは、嗣永さんの引退ライブの終盤に歌われた「VIVA!! 薔薇色の人生」を観てからです。

 曲自体は、キャッチーですが名曲と言うほどではないと思います。
 ですが、そこでの彼女たちの歌には、凄まじいまでの気迫というか、押し寄せるような熱があって、観ていて眼が離せなくなったのです。
 正直、技術的には凄いわけでもないのですが、明らかにソウルフルでした。

 そこからカントリーガールズのことを調べて活動を追っていくと、あの歌が何故あそこまで熱く感じられたのかがよくわかりました。

 カントリーガールズは、数あるアイドルグループの中でもおそらく珍しい、「先生と教え子」という構造を持ったグループでした。
 見てる側の勝手な「憶測・妄想」もあるでしょうし、アイドル的な演出だとしても、このグループには金八先生の青春ドラマを観ているような物語性があるのです。

 そもそもハロプロは、ASAYAN時代からの流れで、アイドルの成長物語を売りにしているところがあります。
 ただ、普通は研修生とかになって下積みしながらデビューしていくといった展開ですが、カントリーガールのように、「先生と教え子」という関係の両者が一緒にメンバーとして活動していく、というのは、かなり珍しいアイドルグループではないでしょうか。

 しかし、だからこそ、見ていて面白いドラマ性がありました。
 そして背景にあるのは、時代遅れのコンセプトであるが故に直面する売上不振。
 そのため、事務所から不遇な扱いをされていくことになるのですが、それが何ともいえない、「もののあはれ」的な感傷を誘うのです。

 特に島村さんの引退とメンバーの入れ替わりを経て6人体制になったくらいからでしょうか。独特の雰囲気になっていました。

 グループの方向性も、初期は、嗣永さん以外の若いメンバーを中心にした見せ方をしていたのに、いつのまにか嗣永さんを中心としたファミリーのようなグループになっていました。

 これは単に、カントリーとしては売上が獲れそうにないと見切った事務所が、すでに一定の固定ファンがいる嗣永さんの存在もきっちり利用したほうが回収が大きいと考えたからだと思います。

 レコードの販売数の推移などを見る限り、商業的に厳しいと判断されたのでしょう。
 
若手メンバーで人気を確立する予定だったのを、嗣永さんが引退するまでの間に、嗣永さん込みで売れるところまで売っておく、という方針に変えたのではないでしょうか。

 事務所サイドでは、嗣永さん引退後にカントリーを解体することは、早い段階から考えていたのではないかと思います。
 2017年にメンバーの兼任が決まった時点でもう、カントリーガールズは整理事業に入っていたのでしょう。
 せいぜい、兼任先で知名度を高めて、カントリーにも目を向けられる……といった効果くらいは狙っていたかも知れません。

 でも、何度も言いますがハロプロファンという同じパイの中で客を取り合ったところで知れてます。
 
カントリーが売れなかったのは彼女たちの実力とはあまり関係ない。
 「可愛い王道アイドル」という路線自体がもはやオワコンなのです。

 むしろ彼女たちは、「可愛いアイドル」としては相当レベルが高いように見えました。
 ルックスも、パフォーマンスも、一般的に「アイドル」としてイメージされるものを全て持ち合わせた、完成度の高い王道アイドルを体現していました。
 
時代が時代なら、相当売れたと思います。
 
モーニング娘。がブレイクしてハロプロが時代に乗り、タンポポやミニモニ、松浦亜弥さんといったチャーミングなアイドルがヒットした2002年頃に彼女たちが登場していたら、大ブレイクしていた可能性が高いでしょう。

 彼女たちがモーニング娘。のメジャーデビュー曲である「モーニングコーヒー」を歌った2018年のライブ映像がありますが、20年前の映像だと言われてもおかしくないくらいナチュラルです。
 このことも、彼女たちのテイストが「古い」ことのわかりやすい例だと思いますが、意図的にレトロ感を狙ったような曲やMVが他にもいくつもあります。

 しかしそもそも、2000年前後に一瞬だけ異例な時期があっただけで、1980年代の終わり頃から現在に至るまで、ロリっぽいアイドルが社会的人気を集めるほどにブレイクした例自体が存在しません。
 
つまり、時代はそれを求めていないのです。
 それだけのことだと思います。

 けど、彼女たちはきちんと王道アイドルをこなしていただけにドラマになる。
 へぼいアイドルグループが売れなくて沈んでいってもドラマにはなりませんが、時代のめぐりあわせが良ければ売れただろう魅力を持っているだけに、「もののあはれ」さを誘うのです。

 もしかすると、メンバー自身もそれに気付いていたかも知れない。でもアイドルは、与えられた役割を演じることが仕事です。
 本音ではどう感じ、何を目指したかったのか、彼女たちの内面の真相はわかりません。

 そんな中、嗣永さんの存在と引退ライブは、彼女たちにとって大きな意味を持ったことは間違いないでしょう。

 まず、6/30に野外会場で開催したこと自体が普通じゃない。
 これは嗣永さん自身の希望で、スタッフの反対を押し切っての決定だったとか。
 だって、6月ってまだ梅雨期です。どう考えてもリスクが高すぎる。
 自分の最後を飾る場で、なんでそんな冒険をわざわざ選んだのか? と思うところですが、結果的に、見事晴れました。
 しかも、午前中までは雨が降っていたのが、リハーサルになると雨がやみ、オープニングの夕刻には美しい夕焼け空が広がっていたというのだから、そのドラマチックな展開に、嗣永さんの教え子たちが、そこに神がかり的なものを感じたっておかしくはないでしょう。

 この嗣永さんの引退ライブは8,000人の会場。
 アーティストのライブ会場として8,000の箱は特別でかいとは言えないけれど、決して小さくはなく、当時凋落していたハロプロの状況からすると別格で、ハロプロ歴代メンバーの中でも単独の卒業コンサートとしては屈指の規模だそうです。
 
単独でこれだけのラストコンサートを開けること自体がすごいことであり、彼女たちも、ハロプロにいる以上は、これくらいの存在になりたいと、単純に憧れてもおかしくありません。

 ライブ自体は知らない曲ばかりでよくわからなかったのですが、十五年記念メドレーの時に一瞬映っていた、元ベリーズ工房や元℃-uteのメンバーを中心とする関係者席の尋常じゃない盛り上がりようがとても印象的でした。

 ただ、カントリーガールズとして最後に歌った「VIVA!! 薔薇色の人生」。
 これはやばい。
 ソウルがこもっていなければ生み出せないであろう、なんとも熱いエモーションに満ちていました。

 山木梨沙さんによると、この曲はメンバーにとって特別に思い入れのある曲で、あまり軽々しく歌いたくない曲だとどこかで話されていました。
 というのも、この曲の詞は、波乱に満ちた道を歩いていたカントリーガールズの内情を知っている児玉雨子さんによって作詞され、カントリーメンバーの本音というか、彼女たち自身を励ますような思いが込められた詞になっているそうです。

 「未熟者は将来がある 未来しかなくてごめんね」「困難 荒波 大歓迎! 私たちは大丈夫です 薔薇色の人生!」と、強がりなまでに前向きな歌詞で、「私たち最高です」「みんなも最高です」と、どこまでもポジティブに歌うこの歌は、結成すぐのエースの脱退、売上不振、大先輩の引退、兼任活動による事実上の解体……といった、苦しい道を歩いてきた彼女たちの心の叫びのような趣があります。
 そのせいか、カントリーファンの間でも、圧倒的に人気の高い曲だそうです。

 それが、嗣永さんの引退ライブでは、ただならぬ雰囲気をまとっていました。
 
特に最後のサビのユニゾンでは、フォーメーションをなくして6人が肩を組んで歌い上げるのですが、ベースがランニングするラインのテンションの高揚と相まって、並々ならぬ熱気を放っていました。
 特に嗣永さんの両サイドの梁川奈々美さんと船木結さんの二人、そしておそらく端に並ぶ小関舞さんも、泣くのをこらえながら歌っているので、それが独特の抑揚を生んでいるのも大きい。
 正直、彼女たちの歌自体はそれほど技術が高いわけではないけれど、何かがほとばしるような勢いが出ていました。

 言葉は悪いかも知れませんが、アマチュアの音楽コンクールと似たような感覚です。
 プロや音大生が仕事的にこなしている演奏って、音楽としては散漫として空っぽのように聴こえることがよくありますが、学生のコンクールの本番、特に最終戦となると、技術的とは関係なく、凝縮された魂のようなものを感じることがよくあります。

 嗣永さんの引退ライブでのこの歌は、そんな感覚に近かったのです。
 一人ひとりが、フレーズの一瞬一瞬を、手放したくなような思いで歌っているような感じが伝わって来ます。
 こうした「ソウル感」こそ音楽の醍醐味です。
 こんなのを観せられたら、興味を持たずにはいられません。

 ただ、それまでの映像では、この曲にそこまでの熱い雰囲気はなかったと思います。
 それが、この引退ライブ、そしてカントリーガールズが解体され、グループとしての活動機会が失われたくらいから、この曲を歌う時には深刻なまでの色合いを帯びるようになり、いつも熱いソウルに満ちているようになっていました。

 それが端的に表れているのが、間奏で行われる「アルプス一万尺」です。
 元々は可愛らしく行われていただけだったのに、嗣永さんのラストライブ以降、メンバーがその一瞬一瞬をかけがえのない時に感じているような、哀愁を帯びたシーンになり、そこで泣き出すメンバーが毎回のように出ます。

 いくら彼女たちの歩みを反映しているとはいえ、元々この曲って、そういうノリじゃなくて、オープニングでボルテージを上げるための曲だったんじゃないの……? と思います。

 それが、いつしか完全に別の意味を持つ曲になったようで、けれど結果的にそれがこの曲をファンの間でも名曲のようにしたんじゃないかと思います。
 たぶんこの歌は、このメンバー以外が歌っても響かない。
 そういう歌だと思います。

 アイドルグループでこういう曲って、珍しいパターンじゃないかと思います。

 過去の映像を辿っていくと、嗣永さんの引退ライブからまだ五か月後くらいに開催された結成三周年コンサートでは、五人で集まってライブ出来る幸せを噛みしめているような感じで、終盤でメンバーが泣き出すものの、総じて未来に向かって前向きで明るい雰囲気でした。
 特に、泣いたのが兼任メンバー三人であることも興味深い。まるで里子に出された子供が久しぶりに実家に帰って家族に会い、心が緩んだかのような状態。一方、専任メンバーの二人のほうが余裕あったのが印象的でした。

 しかし、その一年後の四周年コンサートでは、もはや悲壮感漂いまくりになり、今度は逆に専任の小関さんが「この一年、本当に寂しかったんです!」と叫んで泣く姿は、その一年間の内情を感じさせるようでした。
 そこにはメンバーの梁川さんの卒業が決まったこともあるでしょうけれど、そうなった経緯も含めて、おそらくその一年で、会社的にこのグループが整理事業になっていることを彼女たちは完全に思い知らされたのでしょう。

 アイドルに限らず、採算が悪う事業は何でもそうなるものだと思いますが、それにしても、彼女たちが見せる世界観はアイドルとして少し異色に感じました。

 だいたい、本来のアイドルというのは、ぶっちゃけ個人戦だと思います。
 グループであっても、自分こそが一番、私がセンターをとる、という意気込みで活動し、メンバーは仲間といっても、本音では蹴落としたいライバルに思うくらいが普通で、アイドルビジネス的にはその意気でやってくれるほうが健全なくらいだと思います。
 自分が
一番目立ってやる、と思ってステージに立ち、他を押しのける勢いでパフォーマンスをするからこそ磨かれ、光るのかも知れません。

 しかし、6人体制、いや、嗣永さん引退後の5人体制になってからのカントリーグループには、それがないっぽい。
 「仲良しグループ」を装うアイドルグループはあるけれど、カントリーはどうやら本当に仲良しらしく、ラストライブのスピーチでも森戸知沙希さんが「本当に仲の良い、奇跡のグループ」と言っていましたが、裏を返せば仲の良いアイドルグループはそれだけ珍しいということ。

 まあ、アイドルなんて虚像の集団だから、彼女らの仲良し演技に騙されているだけかも知れません。
 でも、あれが演技というのなら、それはそれで立派な演技力だと思います。

 ただ、本当に仲良しだったとしたら、アイドルは本来それじゃだめなんじゃないの? とも思います。
 むしろ、仲間を敵と思うくらいに削りあわなかったことも、いまひとつ売れなかった理由の一つかも知れない。

 しかし彼女たちは、そういう意味ではプロっぽくなく、その分、仲間としての結びつきが強いグループになっているようでした。
 嗣永先生、いや、小関舞さんの言葉を借りるなら、嗣永さんという「お母さん」の下で、家族のような絆を築いたグループだからか、商業アイドルらしからぬ、独特のものがありました。

 嗣永さんが引退してからは、その雰囲気がより強まっていました。
 アイドルグループって、いかにも「事務所に集められたグループ」とでもいうか、人の集団としてはどこか他人行儀な空気があります。
 といって、それはおかしなことではなく、クラシックの楽団だろうが、スポーツチームだろうが、プロの集団とはそれが普通ですが、この五人は、まるで自分たちで結成したグループのようでした。
 嗣永さんはどちらかというと仲間とも熾烈に争ってきた人だと思うし、ただ、嗣永さんがいた頃は、「嗣永さんと教え子」という絶妙なバランスでしたが、嗣永さん引退後は完全に「自分たちの意思」でひとつになったチームのようでした。
 ある意味、解体されたからこそ生まれた空気なのかも知れませんが、この世界観は、普通のアイドルグループには見られないものです。

 もっとも、解体後の彼女たちの売上が伸びなかったのは、そのせいもあると思う。
 僕はドラマのようだと評価しているように書いてはいますが、そんなの、歌やステージを観ただけでは、なんのこっちゃ分からない。
 やっぱり、スターは常に輝いていてこそなんぼ。

 ただ、アイドル業を学生の部活で喩えるのは失礼かも知れないけれど、そこに真剣な思いと誠実な情熱がある限り、予選で負けようが全国優勝しようが、その活動の価値に変わりはないと思っています。
 むしろ、全国優勝はしたけれど、勝つためだけに全てを犠牲にしてて、後から振り返った時、練習なんて何一つ楽しいことなんてなく、ただただ辛いだけだった、なんて言っている人の方が虚しいように思います。
 
だから、カントリーガールズも、商業的な意味では足りなかったかも知れないけれど、そこにかけた情熱と涙が本物であったなら、それはどんなアイドルにも負けない、「人として」素晴らしいグループだったと言えると思います。

 ……と、そんな、自分の青春時代を思い出させるようなそんな彼女たちに、個人的に惹き込まれ、そんなグループに育て上げた嗣永さんの演出手腕をリスペクトしているわけです。

 そして、2019年12月26日。
 仕事が早く終わったので家でネットを見ていると、その日がちょうどカントリーガールズのラストライブの日で、
dtvで生中継されると書かれていたので、そこでわざわざdtvに登録し、ラストライブの映像を見ました。

 僕にとって、アイドルのライブ動画をまともに観るのは、嗣永さんの引退ライブと、鈴木愛理さん、そして二人の所属していたBuono! くらい。タイムリーに観るのはもちろん初めてです。

 ……で、観た結果、やっぱり青春ドラマを観ているようなライブでした。
 しかもドラマではなくリアルなので、やはり感慨深いですね。

 このライブから、彼女たちにおける嗣永さんの影響の大きさと、彼女たちのメンバー愛の二つをあらためて感じました。
 
彼女たちがこのライブにおいて、嗣永さんのことをどれだけ意識していたか、その真相はわかりません。
 でも、プログラムや演出、スピーチからは、間違いなくそれを感じました。

 やはり彼女たちにとって嗣永さんは、ある意味、超えたい存在だったのでしょう。
 そして、嗣永さんに負けないような有終の美を飾りたいと。

 まず、最初のメンバー紹介で、メンバーごとにそれぞれ想い出の写真がスクリーンに映し出されるのですが、みなさん、嗣永さんのいた6人時代の写真が混ざっています。

 これは、彼女たちの本音もあるかも知れないけれど、明らかに嗣永ファン泣かせの演出ですね。

 ですが、ライブが始まってからは、MCとか含め、あまり嗣永さんを想起させる振る舞いはあまりなかったように思います。
 たぶんですけど、嗣永さん引退後の彼女たちは、意識的に「ももち先輩」の存在感を、あまり表には出さないようにしていたんじゃないかと思います。
 そりゃそうです。彼女らもプロですから、いつまでもいなくなった先輩の名前を引きずるのではなく、自立したアイドルでありたいに決まっています。 

 けど、そうして本編が終わり、アンコールの一曲目に選んだ曲は、「気ままな片想い」。
 確かにアンコールにふさわしい良曲ですけど、この曲は、ミッツマングローブさんが、嗣永さんに歌ってもらいたいと言って自ら楽曲提供された曲です。
 そして一番が終わった後の間奏で流れるコーラスには、嗣永さんの歌声が入っています。
 この曲をアンコールにしたのは、深いですね。
 その嗣永さんの歌声に、山木さんと森戸さんの二人は合わせて口ずさんでいました。
 こういう細かい演出、感じ入ります。

 その次の「アイドル卒業注意事項」。
 これこそ、嗣永さんの卒業のために作られた曲です。
 彼女たちがこの曲を使うことは、ファンとしては想定通りなのかも知れませんが、自身の卒業と嗣永さんの卒業を当然のように重ねることに、彼女たちの世界観を感じます。

 その次の一人ずつのスピーチは、とにかくメンバー愛に溢れたものになっていましたが、小関舞さんのスピーチの最初には「ももち先輩」が登場し、その上で「認めてくださーい!」と、おそらく客席にいる嗣永さんに向かって叫んでいました。
 小関さんらしいといえばそうですが、このグループの、そして小関さんのアイドル観を端的に示していると思いました。
 
小関さんは、この卒業公演直前のインタビューでも、嗣永さんからの影響の大きさを熱く語り、「影響を受けたどころの話じゃありません。私のお母さんです」と熱く語るくらいですから、自然な流れではあります。

 しかし、小関さんに独立したアイドルとしてのアイデンティティが確立していたら、おそらくこのスピーチは、ファンに対して「みなさんは当然認めてくれてますよね?」という語りかけになったのではないでしょうか。
 なのに、
自分を認めて欲しいと真っ先に言う相手が「お母さん的存在」である嗣永さんになっている時点で、今もなお嗣永さんから離れられない、言い換えれば親離れしていないようで、小関さんはプロとして幼いようにも思えました。

 でも、僕的には、そのことが逆に素敵に思えたのです。
 本来、アイドル業なんて、実態としてはライバルを蹴落としてなんぼの世界です。
 いくら大先輩でも、芸能界から引退して一般人になった相手にそれほど気遣いする必要はない
にもかかわらず、嗣永さんの存在を大事にする小関さんが、何とも真っ直ぐで清々しい。

 ルックスレベルは高いのに、メンバーの中では一番人気が出なかった原因はそのへんの幼さにあるように思いますが、たとえ職業アイドルとしては未熟だったとしても、そうした純粋で一途なところが小関の良さでしょう。
 最後のブログの末尾に入れた、メンバーカラーを表すハートマークに、嗣永さんの輝くピンクを入れた6人分にしていたのも、小関さんらしい。
 一方、森戸さんのブログでも同じようにハートマークを入れていますが、小関さんと違って最終メンバーの4人分だけなのは、プロ意識の高い森戸さんっぽい。

 山木さんはもっと大人で、広く関係者やファンに向けたスピーチをされていましたが、感謝の言葉を綴る際、「言葉は少ないけれど……たくさん愛情を示してくれました」と、大きく間をとりながら言った時、ふと小関さんが叫んだのと同じ方向に視線を向けたので、名前こそ出さなかったけれど、そこには嗣永さん個人への想いも入っていたんじゃないかと感じました。

 最後の曲は、当然のように「VIVA!! 薔薇色の人生」。
 嗣永さんの引退ライブと同じかそれ以上の気迫のこもった熱演で、いつも泣き過ぎの船木さん、すぐに泣いてしまう小関さんは想定通りとして、いつもはクールっぽく振る舞い、泣きそうになると過剰に笑うことでこらえる森戸さんが、笑ってごまかそうとしてるのに涙が出て困ってる風な様子がエモい。そして鼻がつまって高音を外しまくるのですが、それがさらにエモい。

 そして、Bメロ部分で森戸さんがちょっと顔を下げた時、森戸さんの肩を、後ろからそっと叩く船木さん。
 大丈夫と言わんばかりに首をふる森戸さんですが、これって、嗣永さんの引退ライブでのVIVA!! 薔薇色の人生の逆の光景なんですよね。
 
嗣永さんの引退ライブでは、最後のユニゾンのところで、嗣永さんが順にメンバー一人ひとりの顔をしっかりと見詰め、メンバーも嗣永さんの顔を見詰め返すやりとりがあるのですが、最後に嗣永さんが「みんなも最高です!」と叫ぶと、船木さんは思わず顔を伏せます。そしてその時、森戸さんがポンと船木さんの肩を叩くのです。
 それがあって、船木さんが森戸さんの肩を叩いたのは、まるで
その時のお返しかのような仕草です。

 けれど、それだけでは終わらない。
 二番の同じBメロでは、さらにお返しとばかりに森戸さんが船木さんの肩をポンポンと叩くのです。
 狙い通りのごとく船木さんは泣きますが、そこで振り返った船木さんの顔を見た森戸さんは、自分で仕掛けておきながら泣きそうになって眼をしぱしぱさせます。

 船木さんって、平生の状態だとせっかく可愛らしいのが、感情のまま泣いて表情が崩れると可愛く見えなくなってしまうのに、カントリーガールズのメンバーといるとお構いなしに泣きまくります。
 プロとしてどうかとは思いますが、これが船木さんであり、カントリーらしさだとも思える。

 これらが全て演出だとしても、とてもドラマチックな演出です。

 それと、そこに続く「でも 君の助演賞なら なんでも頑張れる」という部分で、普通なら端のメンバーを指さすのに、三人が周りから中にいる森戸さんを指さすのも、アイドルとして一人だけ残る森戸さんをこれからも応援するよ、というように取れて、なんか意味深い。

 あと、ここでは山木さん、立派でしたね。
 最年長で実質のリーダーである山木さんは、直前のスピーチでは大粒の涙を流していたのに、歌がはじまると、嗣永さんの最後の姿を重ねるかのように、笑顔で最後まで歌いきりました。そしてその歌にも、いつも以上に感情の乗った表現のニュアンスが出ていました。
 泣きながら歌っている他の三人に比べ、一人余裕があるように観せてはいますが、途中で何度か歌割を間違えたっぽく見えたので、本当のところはいっぱいいっぱいだったのではないでしょうか。
 全体的に歌のピッチが上ずり気味なのも、おそらくそのせいでしょう。
 でも、山木さんのその微妙な音程が、この歌にいつも以上の表情を与えたように思います。

 この、最後に泣かないというのも、嗣永さんへのリスペクトを感じさせます。
 この四人に先駆けて引退した元メンバーの梁川さんも、嗣永さんの引退ライブで「VIVA! 薔薇色の人生」を歌っている時はずっと泣いてたのに、自身の引退公演で最後にこの曲を歌った時は、他メンバーが泣いていても、本人はずっと笑顔のまま歌いきっていました。
 これも、嗣永さんの引退ライブでの嗣永さんの姿を意識してのことのように思えます。

 そして、カーテンコールも終えて、全てのプログラムを終了した時にエンディングとしてスクリーンに映された、四人のリハーサル映像。
 その
バックミュージックに「明日からはおもかげ」がかかったのには、感慨深いものがありました。

 ラストライブを観る前、ふと「明日からはおもかげ」はやるのかな? と僕は思っていました。
 この歌は、メンバーへのインタビューを元に詞が作られ、嗣永さんの引退ライブのために捧げられた歌なので、内容的に他のコンサートで歌える曲ではありません。
 けれど、カントリーのメンバーの性格を考えると、どこかでこの歌を歌いたそう……と、何となく思っていたので、それが最後の最後に使われた瞬間、しかも音源を使用したことで、「その手できたか!」と思いました。
 確かに、あの曲を今さら歌うのは変だ。でも、このやり方なら不自然じゃない。やりおる。

 カントリーのラストライブに関するネットの記事で、このエンディングに触れている人を全くと言っていいほど見かけませんが、これって、とどめといわんばかりにドラマチックな、最高の演出だったと思います。

 前半の嗣永さんへの個別メッセージ部は省略し、後半のユニゾンからのスタートでしたが、その詞を聞けば、メンバーのラストライブへの想いが集約されているように思います。

「たとえわたしが涙に甘えても
 しらんぷりをしてください
 なだれ始めた時代にのって
 希望だけを見据えて

 たとえこの世がかなしみに枯れても
 あなたはどこかで咲(わら)っていて
 まことの愛を教えてくれたひと
 明日からはもう おもかげ

 なだれ始めた時代にのって
 明日からはもう おもかげ」 
 (詞:児玉 雨子さん)

 まず、「わたしが涙に甘えても」というところでもう、見事なまでにドラマチックです。
 嗣永さんが「ファンを笑顔にしたかったらステージでは泣いちゃダメ」とメンバーに指導していたのはファンの間では有名ですが、それを枕にしながら、このライブでメンバーが泣くことは折込済みで、この詞から始まるのがすでにエモい。
 
リアルタイムでこの曲が耳に入ってきた瞬間、うおっ、と思いましたから。

 最後にこの歌を使った意味はおそらく、一番はファンへの感謝の気持ちの表現でしょう。
 元々は、引退する嗣永先輩に向けて歌われたものでしたが、この日は、卒業する自分たちから、ファンに向けて贈ることを意識されたものに違いありません。
 特にカントリーは、嗣永さん引退後、事務所から不採算事業のような扱いを受け、メンバーは辛い日々を送っていたと思われています。
 ラストライブも、夢を達成したハッピーエンドとは言い難く、志半ばでの解散と思われるかも知れない。
 けれど、そんな自分たちのことを最後まで応援し、カントリーガールズとしての自信を支えてくれたファンへの感謝。
 そして同時に、有終の美を飾って「おもかげ」となった偉大な先輩のように、自分たちのカントリーガールズも、美しい「おもかげ」として思い出に残っていてほしい。
 そして、後を託されていながら、このような形で終わってしまったけれど、自分たちは、カントリーで過ごした日々を胸に、それぞれの未来に向けて歩きますから心配しないでくださいという、ファンや全ての関係者、そしてももち先輩へのメッセージ。

 そうしたものを表現するために、この歌を最後に流したのではないでしょうか。

 あと、音源を使用したということは、そこにはたぶん、一足先に引退した梁川さんの声も入っているということです。
 これは深読みし過ぎかも知れませんが、深い。深すぎる……

 そして、「明日からはもう おもかげ…」という歌声と共に、スクリーンいっぱいに映し出される四人の姿と、「五年間応援してくれて 本当にありがとう」というメッセージ。

 結成からの波乱に満ちた歩み、そして何より嗣永さんという特殊な存在の教えと伝説のラストライブ、そしてその後の5人体制での活動、それら全てがなければ、このラストは成立しません。

 そういう意味で、彼女たちのラストライブには、他のアイドルグループでは作り得ない、唯一無二の素敵なドラマがあったように思います。
 会場は1,800人のハコという、大きくはない所だったかも知れないけれど、普通に考えたら年末に1,800人集まるなんてすごいことです。それに、チケットはプレミアがついて、転売の相場は当日になってもほとんど値崩れせず、四万円とか五万円とかになってたみたいですね。(転売はよくないが)

 まあ、ここまで語れば十分だと思いますが、僕にとっては、間違いなく「おもかげ」になりました。
 全てはアイドルとしての演出かも知れないけれど、それはそれで、見事なドラマだと思いますよ。
 100%創作だとわかっているドラマや映画でも感動するのと同じように、彼女たちの活動は、素晴らしい青春ドラマの一つになっていたと思います。
 
ファンというわけではなく、CDの一枚も買うわけでもなく、ほんとこの一か月くらいネットで調べて知った程度で言うのも申し訳ないですが、楽しい青春ドラマをありがとうございました。

 彼女たちに望むことがあるとするならば、このドラマの「おもかげ」が、ずっと素敵なものとして思えるよう、倫理観を疑うような事件は起こさず、真っ当な道さえ歩き続けてくれれば、と思うことくらいです。

 嗣永さんとカントリー・ガールズのみなさんのこれからの人生が、薔薇色でありますように!
 

 

 


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