嗣永桃子さんとカントリー・ガールズ

 嗣永桃子さんは、ハロープロジェクトに所属されていた元アイドルです。
 2017年の6月に、芸能界を引退されました。
 十年くらい前、テレビのバラエティなどに「ももち」としてよく出ていたから、知っている人が多いかも知れません。

 僕はアイドルがあまり好きでないため、嗣永さんに関心を持ったのは最近ですが、嗣永さんは「アイドル」という職業を真剣に考えて取り組まれた、素晴らしいプロフェッショナルだと思いました。

 所属していた「ベリーズ工房」「Buono!」「カントリー・ガールズ」といったグループでそれぞれ見せていた顔はどれも違い、テレビのバラエティで見るイメージとも異なり、多彩な顔を使い分けていました。
 
バカっぽいキャラを演じていながらも、下品なことはしない明確なスタンスも個人的に好感が持てます。
 
最後は盛大な引退ライブで有終の美を飾り、すっぱりと芸能界から去った引き際の良さも含めて、とてもリスペクトしてます。

 ちなみに、バラエティでのふざけた嗣永さんしか知らない人のために説明すると、嗣永さんはちゃんと歌が上手い。
 最近はまともに歌えないアイドルも少くない中、実は正統派です。

 聴いたことがない人はご参考までにこちらをどうぞ⇒Buono!「You're my friend
 2番のBメロが素晴らしい。(アイドルは好きじゃないと言いながら、Bouno!に関しては良曲が結構あるので聴きます)

 そんな嗣永さんが残した興味深い仕事の一つが、「カントリー・ガールズ」というグループ。

 このグループは、つい先月、2019年の12月に活動休止、というか事実上解散しました。
 
嗣永さんつながりでこのグループの存在を知ったのですが、youtubeではじめて見た時は、ただのロリコン向けアイドルグループくらいにしか見えなかったので、特に興味は持ちませんでした。

 ですが、嗣永さんの引退ライブの終わり方がすごいというネット情報を見て、その動画を観てから印象が変わり、そこから過去の動画を漁って観たわけですが、「カントリーガールズ」というグループには、何ともいえない「もののあわれ」(?)がありました。 

 彼女たちの活動を一言で表現すると、「青春ドラマ」です。
 アイドル活動とはいえ、どこか自分の青春時代の部活を思い出させられたからです。

 このグループは、2014年にハロプロの新人で結成されたアイドルグループですが、ベテランの嗣永さんはマネージャーとして指導者も兼任されていました。
 一人だけ歳の離れた
嗣永さんは数年で抜ける前提だったようで、初期の頃の映像を見ると微妙に脇役的な感じでした。

 それが、デビュー曲でセンターを務めた島村うたさんというエースが、半年で芸能界から引退してしまいます。
 カントリーのデビュー時は「うたちゃんフィーバー」と言われるくらい島村さんがずば抜けた人気を誇っていたようで、嗣永さんは島村さん引退のショックを受け止められないと当時のブログに綴られており、その痛手は甚大だったようです。

 そしてこのグループの運命を決める決定的な出来事は、2017年に嗣永さんの引退が決まると、残りのメンバー五人中三人は、バラバラに他のグループを兼任することになったことです。
 兼任といっても、兼任先の活動がメインとなる実質的な「移籍」で、カントリーガールズの活動は休眠状態になります。
 ネットでは「事実上のカントリー解体」などと評されていました。

 これは明らかに、カントリーガールズが商業的に厳しかったことが推察されます。
 といって、クビというわけにはいかないから、継続できる仕事場として兼任という形で移籍させたのだろうと思います。

 ただ、カントリーガールズは、そもそものコンセプトがダメだったと思います。
 
メンバー全員が小柄で「可愛さ」を前面に出した、アイドルの王道路線がコンセプト。

 ですが、2014年というと、AKBグループやももいろクローバーZらの全盛期。
 アイドルビジネスの成功要件については
別の記事に書いたのでここでは詳しく書きませんが、そんな時代にこのコンセプトは無謀だったと思います。
 同じ頃、王道アイドル路線でスタートした乃木坂も、スタイリッシュなお嬢様テイストにすぐ路線変更しています。しかも、運営もレコード会社もAKBとは別にし、あたかも別会社のアイドルグループのように仕立て直し、既存のAKBファンとは別の層
の取り込みに成功しました。
 「AKBのファン」という同じパイの中で人気の取り合いをしても意味がないと気付いた、秋元康氏のビジネス勘はさすがです。

 カントリー最大の失敗は、しょせんハロプロ内という決まったパイの中でファンを分け合っていたことでしょう。
 エースの脱退は痛手だったかも知れませんが、その「うたちゃんフィーバー」にしても、しょせんはハロプロファン内での話です。
 その上、商業的に難しいロリコンアイドル路線。失敗は必然だったと思います。

 ですが、そんなグループが僕の感性にひっかかったのは、嗣永さんの引退ライブの終盤に歌われた「VIVA!! 薔薇色の人生」を観てからです。
 そこでの彼女たちの歌には、気迫というか、押し寄せるような熱があり、引きつけられるものがあったのです。
 技術的には凄いわけでもないのですが、明らかにソウルフルでした。

 そこから興味を持って調べていくと、あの歌が何故あそこまで熱く感じられたのかがよくわかりました。

 カントリーガールズは、アイドルグループではおそらく珍しい「先生と教え子」という構造を持ったグループで、そのためこのグループには、金八先生の青春ドラマを観ているような物語性があったのです。

 そもそもハロプロは、ASAYAN時代からの流れで、成長物語自体を売りにしているところがありますが、カントリーガールのように「先生と教え子」が一緒にメンバーとしてデビューし活動するという事例は、さすがにないように思います。

 しかし、だからこそ、見ていて面白いドラマ性ありました。
 時代遅れのコンセプトであるが故に直面する売上不振。
 結果、「事実上の解体」という扱いになるのですが、それが何ともいえない、「もののあはれ」的な感傷を誘うのです。

 グループの方向性も、嗣永さんは脇役どころか、嗣永さんを中心としたファミリーのようなグループになっていました。
 
これはおそらく、カントリーガールズは整理事業だったので、一定の固定ファンがいる嗣永さんをきっちり利用したほうが経済的だと事務所は考えたからでしょう。

 彼女たちは、ロリっぽい「王道アイドル路線」というコンセプトにおいては、レベルが高いように見えました。
 モーニング娘。がブレイクしてハロプロが時代に乗り、タンポポやミニモニ、松浦亜弥さんといったチャーミングなアイドルがヒットした2002年頃に彼女たちが登場していたら、ブレイクしていた可能性はあります。

 しかし、「アイドル」というと「ロリ可愛い」イメージがありますが、その2000年前後の一瞬を例外として、ロリっぽいアイドルグループが社会的人気を集めるほどブレイクした事例は存在しないと思われます。
 理由は簡単で、世の中そんなロリコンだらけじゃないから。
 つまり、そもそもロリコン向けアイドルグループというのは、大手がやるには商業的に限界があるのです。

 それに、テイストも古い。
 彼女たちがモーニング娘。のメジャーデビュー曲である「モーニングコーヒー」を歌った
2018年のライブ映像がありますが、20年前の映像だと言われてもおかしくないくらいナチュラルです。それはすなわち、時代を映すスタイリッシュさには欠けているとも言えます。

 けど、彼女たちは、事務所から求められていた王道アイドルを、高いレベルでこなしていたと思います。
 
へぼいアイドルが売れずに解散してもドラマになりませんが、個々の素材は良いだけに、不遇な道を辿って消えていく姿が「もののあはれ」さを誘うのです。

 そして、そんな中での嗣永さんの存在と引退ライブは、ことさら彼女たちにとって大きな意味を持ったようです。
 アイドルには演出もあるので、メンバーが本音ではどう感じていたかはわかりませんが、少なくとも「先生と教え子」という関係性そのものが、他のアイドルにはないドラマ性があります。

 嗣永さんの引退ライブですが、まず、6/30に野外会場で開催したこと自体が普通じゃない。
 だって、6月ってまだ梅雨期です。どう考えてもリスクが高すぎる。
 これは嗣永さん自身の希望で、スタッフの反対を押し切っての決定だったそうですが、結果的には見事晴れました。
 しかも、午前中までは雨が降っていたのが、リハーサルになると雨がやみ、オープニングの夕刻には美しい夕焼け空が広がっていたというのだから、そのドラマチックな展開に、嗣永さんの教え子たちが、そこに神がかり的なものを感じたっておかしくはないでしょう。

 そしてこの嗣永さんの引退ライブは8,000人の会場。
 アーティストのライブ会場として8,000人の箱は特別でかくはないけど、当時凋落していたハロプロの状況からすると別格で、
単独でこれだけのラストコンサートを開けること自体がすごいことであり、ハロプロにいる以上は、これくらいの存在になりたいと彼女たちが憧れてもおかしくありません。

 ライブ自体は知らない曲ばかりでよくわからなかったのですが、カントリーガールズとして最後に歌った「VIVA!! 薔薇色の人生」、これはやばい。
 ソウルがこもっていなければ生み出せないであろう、熱いエモーションに満ちていました。

 山木梨沙さんによると、この曲はメンバーにとって特別に思い入れのある曲で、あまり軽々しく歌いたくない曲だとどこかで話されていました。
 というのも、この曲の詞は、波乱に満ちた道を歩いていたカントリーガールズの内情を知っている児玉雨子さんによって作詞され、カントリーメンバーの本音というか、彼女たち自身を励ますような詞になっているそうです。

 「未熟者は将来がある 未来しかなくてごめんね」「困難 荒波 大歓迎! 私たちは大丈夫です 薔薇色の人生!」と、強がりなまでに前向きな歌詞で、「私たち最高です」「みんなも最高です」と、どこまでもポジティブに歌うこの歌は、結成すぐのエース脱退、売上不振による事実上の解体……といった、苦しい道を歩いてきた彼女たち自身を映しているような趣があります。

 その曲が、嗣永さんの引退ライブでは、ただならぬ雰囲気をまとっていました。
 嗣永さん自身も、メンバーを教え子として特別な思いがあるのか、
最後のサビではフォーメーションをなくして6人が肩を組んで歌い上げるのですが、半数くらいのメンバーが泣きながら歌っているせいで、歌に独特の抑揚を生んでいたのも要素として強いでしょう。ランニングするベースラインのテンションの高揚と相まって、並々ならぬ熱気を放っていました。(ていうか、この曲は何気にベースがカッコいい)

 たとえは悪いかも知れませんが、甲子園やインターハイのような部活の大会や、アマチュアの音楽コンクールと似たような感覚です。
 技術的には未熟でも、凝縮された魂のようなものを感じる、
「一回きりの真剣勝負」的な空気があり、一人ひとりが、フレーズの一瞬一瞬を、手放したくなような思いで歌っているような感じが伝わって来ました。

 こうした「ソウル感」と「ライブ感」こそ、音楽の醍醐味です。
 ※なお、今youtubeにある音声修正された動画ではそんな熱量は感じられません。自分が観たのは当時あった生音の音声です

 まあ、引退ライブとかはそういうものなのかも知れませんが、こんなのを観せられたら、なんでここまでの熱を放てるのか!? と、興味を持たずにはいられません。

 嗣永さん引退以降の彼女たちの歩みを追っていくと、本当にドラマチックで、嗣永さんの引退ライブから五か月後くらいに開催されたカントリーガールズ結成三周年コンサートでは、一部のメンバーが終盤に泣きだします。
 アンコールのMCで、森戸知沙希さんがまず泣き出します。
 それも、悲しい涙というより、五人でライブできることが嬉しすぎて、感極まったかのような様子がエモい。(これが演技だったらすごい)

 そこから周りのメンバーにも波及し、その後に歌ったラスト曲では、船木さん、梁川奈々美さんが最後のサビで陥落。踊れないくらいに泣き出し、周りのメンバーが支えながら一緒に歌います。
 まるで里子に出された子供が久しぶりに実家に帰って家族に会い、心が緩んだかのような状態。
 一方、その時はまだ、カントリー専任の山木梨沙さんと小関舞さんのほうが余裕あのある印象で、特に小関さんはMCで超ポジティブトークをしていたし、全体的には総じて前向きな雰囲気でした。

 しかしそれが、さらに一年後の四周年コンサートでは、全体がもはや悲壮感漂いまくりに。
 三周年コンサートでは前向きだった小関さんが、「この一年、本当に寂しかったんです!」と叫んで泣く姿は、その後の一年間の不遇な内情を感じさせるようでした。
 そこにはメンバーの梁川さんの卒業が決まっていたからもあるでしょうけれど、おそらくその一年で、カントリーがもう整理事業になっていることを彼女たちは思い知らされたのでしょう。

 ただ、アイドルに限らず、採算が悪い事業は潰れて当然とはいえ、アイドルのライブで悲壮感が漂ってるというのは、少し異色に感じました。

 だいたい、本来アイドルなんて「戦い」だと思います。
 グループで活動していても、自分こそが一番、私がセンターをとる、という意気込みで活動し、仲間なんて本音では蹴落としたいライバルに思うくらいが普通で、ビジネス的にはその意気でやってくれるほうが健全なくらいだと思います。

 しかし、カントリーは良くも悪くも本当に仲良しらしく、しのぎを削り合っている間柄に見えない。
 こうした、仲間を敵と思うくらいに削りあわなかったことも、売れなかった理由ではないかと思う。
 そういう意味では彼女たちはプロっぽくなかった。

 ただその分、独特の世界観がありました。
 「嗣永先生と教え子たち」のような絆のグループだからか、商業アイドルらしからぬ雰囲気がありました。

 たいていのアイドルグループって、いかにも「事務所に集められたグループ」とでもいうか、人の集団としてはどこか他人行儀な空気があります。
 といって、クラシックの楽団だろうが、スポーツチームだろうが、プロの集団なんてのはそれが普通です。
 メンバー間が険悪ではイメージが悪いので「仲良し」を装うことはあっても、本当に仲良しである必要はない。

 ですが、カントリーの五人は、嗣永さんがいた頃は「嗣永さんと教え子」というバランスで固まり、嗣永さん引退後は、本当に家族のような絆でまとまったグループに見えました。
 普通ならビジネスパートナーに過ぎないメンバーを、そうやってまとめあげた嗣永さんの手腕を、僕は大変リスペクトしています。
 アイドル業を学生の部活で喩えるのは失礼かも知れないけれど、自分の青春時代の部活を思い出させるような彼女たちに、個人的にすごく惹き込まれました。

 ……ただ、スターは常に輝いていてこそなんぼでしょう。
 ライブのたびに泣かれても、背景を知らない人からすれば、なんのこっちゃわからない。
 これじゃあ新しいファンは増やせなかったでしょうね……

 

 そしてそれから、2019年12月26日。
 仕事が早く終わったので家でネットを見ていると、その日は偶然カントリーガールズのラストライブの日で、dtvで生中継されると書かれていたのでした。
 チェックしてたわけでもないのにそんなニュースが目に入るとは、これは何かの縁だと思い、わざわざdtvに登録し、ラストライブの中継を見ました。

 僕にとって、アイドルのライブ動画をまともに観るのは、嗣永さんの引退ライブと、鈴木愛理さん、そして二人の所属していたBuono! くらい。タイムリーに観るのはもちろん初めてです。

 ……で、観た結果、やっぱり青春ドラマそのものでした!
 しかもリアルタイムなので、感慨深いですね。

 このライブから、彼女たちのメンバー愛、そして彼女たちにおける嗣永さんの影響の大きさの二つをあらためて感じました。

 やはり彼女たちにとって嗣永さんは、ある意味、超えたい存在だったのでしょう。
 そして、嗣永さんに負けないような有終の美を飾りたいと。

 まず、最初のメンバー紹介で、メンバーごとにそれぞれ想い出の写真がスクリーンに映し出されるのですが、みなさん、嗣永さんのいた6人時代の写真が混ざっています。
 
嗣永ファン泣かせの演出かも知れませんが、「今は4人だけどカントリーガールズはこの6人」という意思を感じる演出にも感じました。

 ですが、ライブが始まってからは、MCとか含め、あまり嗣永さんを想起させる振る舞いはなかったように思います。
 
けど、そうして本編が終わり、アンコールの一曲目に選んだ曲は、「気ままな片想い」。
 確かにアンコールにふさわしい良曲ですけど、この曲は、ミッツマングローブさんが、嗣永さんに歌ってもらいたいと言って楽曲提供された曲です。一番が終わった後の間奏で流れるコーラスには、嗣永さんの歌声も入っています。
 この曲をアンコールにしたのは、深いですね。
 バックで流れる嗣永さんの歌声に、山木さんと森戸さんの二人は合わせて口ずさんでいました。
 こういう細かい演出も感じ入ります。

 その次の「アイドル卒業注意事項」。
 これこそ嗣永さんの卒業のために作られた曲です。
 彼女たちがこの曲を使うことは、ファンとしては想定通りなのかも知れませんが、自身の卒業と嗣永さんの卒業を当然のように重ねることに、彼女たちの世界観を感じます。

 その次の一人ずつのスピーチは、とにかくメンバー愛に溢れたものになっていましたが、小関さんのスピーチの最初には「ももち先輩」が登場し、その上で「認めてくださーい!」と、客席にいる(と思われる)嗣永さんに向かって叫んでいました。
 小関さんらしいといえばそうですが、これがこのグループの、そして小関さんのアイドル観を端的に示していると思いました。
 
小関さんは、この卒業公演直前のインタビューでも、嗣永さんからの影響の大きさを熱く語り、「影響を受けたどころの話じゃありません。私のお母さんです」と熱く語るくらいですから、自然な流れではあります。

 しかし、小関さんにプロとして独立したアイデンティティが確立していたら、このスピーチは、ファンに対して投げかけるものではないでしょうか。
 ですが、引退して一般人になった嗣永さんの存在を大事にし続ける小関さんは、まっすぐだ。
 
メンバーの中で一番人気が低かったのはそうした幼さにあるように思いますが、人間的な小関さんの良さなのでしょう。
 最後のブログの末尾に入れた、メンバーカラーを表すハートマークに、嗣永さんのピンクを入れた6人分にしていたのも、小関さんらしい。
 一方、森戸さんのブログでも同じようにハートマークを入れていますが、小関さんと違って最終メンバーの4人分だけなのは、プロ意識の高い森戸さんっぽい。
 他のメンバーが容易く泣き出す中、森戸さんは嗣永さんの「ファンの前で泣いちゃだめ」という教えを守るために、泣きそうになると派手に笑ってごまかす姿は健気だ。

 山木さんはもっと大人で、きちんと関係者やファンに向けたスピーチをされていましたが、感謝の言葉を綴る際、「言葉は少ないけれど……たくさん愛情を示してくれました」と、大きく間をとりながら言った時、ふと小関さんが叫んだのと同じ方向に視線を向けたので、名前こそ出さなかったけれど、嗣永さん個人への想いも入っていたんじゃないかと感じました。

 最後の曲は、当然のように「VIVA!! 薔薇色の人生」。
 嗣永さんの引退ライブと同じかそれ以上の気迫のこもった熱演で、いつも泣き過ぎの船木さん、すぐに泣いてしまう小関さんは想定通りとして、いつもはクールっぽく振る舞う森戸さんが、ごまかそうとしてるのに涙が出て困ってる風な様子がエモい。

 そして、Bメロ部分で森戸さんがちょっと顔を下げた時、森戸さんの肩を、後ろからそっと叩く船木さん。
 大丈夫とばかりに首をふる森戸さんですが、これって、嗣永さんの引退ライブでのVIVA!! 薔薇色の人生の逆の光景なんですよね。
 
嗣永さんの引退ライブでは、最後のユニゾンのところで、嗣永さんが順にメンバー一人ひとりの顔をしっかりと見詰め、メンバーも嗣永さんの顔を見詰め返すやりとりがあるのですが、最後に嗣永さんが「みんなも最高です!」と叫ぶと、船木さんは思わず顔を伏せて泣きます。そしてその時、森戸さんがポンと船木さんの肩を叩くのです。
 それがあったから、船木さんが森戸さんの肩を叩いたのは、まるで
その時のお返しのような仕草なのです。

 けれど、それだけでは終わらない。
 二番の同じBメロでは、さらにお返しとばかりに森戸さんが船木さんの肩をポンポンと叩くのです。
 狙い通りのごとく船木さんは泣きますが、そこで振り返った船木さんの顔を見た森戸さんは、自分で仕掛けておきながら泣きそうになって眼をしぱしぱさせます。

 これらが全て演出だとしても、カントリーガールズのストーリーがなければ成り立たない、ドラマチックな演出です。

 あと、ここでは山木さん、立派でしたね。
 最年長で実質のリーダーである山木さんは、直前のスピーチでは大粒の涙を流していたのに、歌がはじまると、嗣永さんの最後の姿を重ねるかのように、笑顔で最後まで歌いきりました。そしてその歌にも、いつも以上に感情の乗った表現のニュアンスが出ていました。
 泣きながら歌っている他の三人に比べ、一人余裕があるようなフリをしていますが、途中で何度か歌割を間違えたっぽいので、本当のところはいっぱいいっぱいだったのではないでしょうか。
 全体的に音程のピッチが高いのも、おそらくそのせいでしょう。
 でも、結果的にその微妙に上ずった山木さんの歌声が、この歌に張り詰めたような表情を与えています。
 最後のフレーズの、困難・荒波「大歓迎!」と歌う部分なんて、明らかに音程が上にズレていましたが、それが激しくソウルフルで最高でした。
 ※なお、今youtubeで上がってるようなライブの再配信動画では全て綺麗に修正されているので、こうしたテンションは感じられません。本番の荒っぽいままのほうが圧倒的にエモーショナルだと思うんですけどね……

 この、ずっと笑顔でいるというのも、嗣永さんの教えとリスペクトを感じさせます。

 この四人に先駆けて引退した元メンバーの梁川さんも、ライブ中ではよく泣き崩れていたのに、自身の引退公演では、涙は流しながらも顔だけはずっと笑顔のまま歌いきっていました。
 これも、嗣永さんの引退ライブでの嗣永さんの姿を意識してのことのように思えます。

 そして、カーテンコールも終えて、全てのプログラムを終了した時にエンディングとしてスクリーンに映された、四人のリハーサル映像。
 その
バックミュージックに「明日からはおもかげ」がかかったのには、特に感慨深いものがありました。

 ラストライブを観てる時、ふと「明日からはおもかげ」はやるのかな? と思ってはいました。
 この歌は、メンバーへのインタビューを元に詞が作られ、嗣永さんの引退ライブのために捧げられた歌なので、内容的に他のコンサートで歌える曲ではありません。
 けれど、カントリーのメンバーの性格を考えると、どこかでこの歌を歌いたそう……と、何となく思っていたので、それが最後の最後に使われた瞬間、しかも2番からの音源を使用したことで、「その手できたか!」と思いました。
 「ももち先輩」向けの歌詞のあの曲を今さら歌うのは変だ。でも、このやり方なら不自然じゃない。やりおる。

 カントリーのラストライブに関するネットの記事で、このエンディングに触れている人を全くと言っていいほど見かけませんが、これって、とどめといわんばかりにドラマチックな、最高の演出だったと思います。

 明らかに嗣永さんへの個別メッセージになってる1番は省略し、後半サビのユニゾンからのスタートでしたが、その詞を聞けば、メンバーのラストライブへの想いが集約されているように思います。

「たとえわたしが涙に甘えても
 しらんぷりをしてください
 なだれ始めた時代にのって
 希望だけを見据えて

 たとえこの世がかなしみに枯れても
 あなたはどこかで咲(わら)っていて
 まことの愛を教えてくれたひと
 明日からはもう おもかげ

 なだれ始めた時代にのって
 明日からはもう おもかげ」 
 (詞:児玉 雨子さん)

 まず、「わたしが涙に甘えても」というところでもう、見事なまでにドラマチックです。
 嗣永さんが「ファンを笑顔にしたかったらステージでは泣いちゃダメ」とメンバーに指導していたのはファンの間では有名ですが、それを枕にしながら、このライブでメンバーが泣くことは折込済みで、この詞から始まるのがすでにエモい。
 
リアルタイムでこの曲が耳に入ってきた瞬間、うわっ、と思いましたから。

 最後にこの歌を使った意味はおそらく、ファンへの感謝の気持ちの表現でしょう。
 元々は、引退する嗣永先輩に向けて歌われたものでしたが、この日は卒業する自分たちからファンへ、ということを意識されたものに違いありません。
 特にカントリーは、嗣永さん引退後、事務所から不採算事業のような扱いを受け、メンバーは辛い日々を送っていたと思われています。
 ラストライブも、夢を達成したハッピーエンドとは言い難く、志半ばでの解散と思われるかも知れない。
 けれど、そんな自分たちのことを最後まで応援し、カントリーガールズとしての自信を支えてくれたファンへの感謝。
 そして同時に、有終の美を飾って「おもかげ」となった偉大な先輩のように、自分たちのカントリーガールズも、美しい「おもかげ」として思い出に残っていてほしい。
 そして、後を託されていながら、このような形で終わってしまったけれど、自分たちは、カントリーで過ごした日々を胸に、それぞれの未来に向けて歩きますから心配しないでくださいという、ファンや全ての関係者、そしてももち先輩へのメッセージ。

 そうしたものを表現するために、この歌を最後に流したのではないでしょうか。

 あと、音源を使用したということは、一足先に引退した梁川さんの歌声も入っている可能性が高い。
 これは深読みし過ぎかも知れませんが、深い。

 そして、「明日からはもう おもかげ…」という歌声と共に、スクリーンいっぱいに映し出される四人の姿と、「五年間応援してくれて 本当にありがとう」というメッセージ。この文も、4人で分けて書いただろう微妙な筆跡。

 結成からの波乱に満ちた歩み、そして何より嗣永さんという特殊な存在の教えと伝説のラストライブ、そしてその後の5人体制での活動、それら全てがなければ、このラストは成立しません。

 そういう意味で、彼女たちのラストライブには、他のアイドルグループでは作り得ない、唯一無二の素敵なドラマがあったように思います。
 会場は1,800人のハコという、メジャーグループにしては大きくはない所だったせいか、チケットはプレミアがつき、転売の相場は当日になっても値崩れしないどころか高騰し、20万円とか超えたみたいですね。
 せっかくのライトライブが埋まらなければ逆に可哀想だと思って、事務所的には安全策をとったんだろうけど、ここまで高騰するのは極端過ぎる。
 このあたりからも、カントリーというグループが、いかに商業的に需供予測が難しいビジネスだったことかが伺えます。

 まあ、ここまで語れば十分だと思いますが、僕にとっては、間違いなく「おもかげ」になりました。
 アイドルだし、多分に演出なのかも知れないけれど、100%創作だとわかっているドラマや映画でも感動するのと同じように、彼女たちの活動は、素晴らしい青春ドラマになっていたと思います。
 
ファンというわけではなく、CDの一枚も買うわけでもなく、ほんとこの一か月くらいネットで調べて知った程度で言うのも申し訳ないですが、楽しい青春ドラマをありがとうございました。

 彼女たちに望むことがあるとするならば、このドラマの「おもかげ」が、ずっと素敵なものとして思えるよう、倫理観を疑うような事件は起こさず、真っ当な道さえ歩き続けてくれれば、と思うことくらいです。

 嗣永さんとカントリー・ガールズのみなさんのこれからの人生が、薔薇色でありますように!

(↓2022.9.3 追記)

 カントリーガールズの最後のメンバー、森戸知沙希さんが、6月にハロプロから卒業されました。
 森戸さんは、2017年からカントリーガールズとモーニング娘。を兼任し、2019年にカントリーが解散してからは、モーニング娘。のメンバーとしてアイドルを継続されていました。

 正直、モーニング娘。での森戸さんの活動は全く見てなかったのですが、卒業されるという情報を得て、ネットで色々と情報を漁ったところ、その中で特に興味深く感じた記事を紹介します。

https://nonno.hpplus.jp/article/87474

 この記事の中で、一番印象的に感じたのは、

「アイドルとしての基礎の部分はしっかりカントリーで作ってもらいました。その中には今モーニング娘。では全然やらないようなこともたくさんあったけれど、モーニング娘。でいろいろな活動をしていくなかで、『でも私はカントリーでやっていたこっちの表現もいいと思うから残しておこう、ずっと忘れないでおこう』って、今も自分の選択肢として持つことができているのもすごくよかったなと思っていますね」

 という部分です。

 森戸さんの言葉を追っていると、この記事以外のインタビューや発言含めて、カントリーからモーニングへ移籍したことって、まるで「転校」だったような印象を受けました。(それも、学年を進級せず、下級生への編入のような…)

 転校生が新しい学校で一番やってはいけないことって、前の学校のことを引きずることだと思います。
 僕が
小学校の時、年の途中にやってきた転校生がいましたが、前の学校のクラスメイトの写真を持ってるのが見つかったりすると、クラスの子からいじめられていました。

 また、会話の中でうっかり前の学校のことを言ったり、まして今の学校と比べるようなことを言ったりすると、一気に場がシラケてしまい、やっぱりそれでいじめられたりもしていました。

 森戸さんも、それに似た意識を持っていたのではないでしょうか。
 
兼任時代はともかく、カントリー解散後の森戸さんは、カントリーのことはほとんど話さなくなったように見えました。
 それに、
ビジネスとしても、今はモーンニング娘。の看板を背負い、そのファンに向き合ってるんだから、モーニングに全力の情熱を注いでないような誤解をされる発言は避けていたことは考えられます。彼氏・彼女の前で、元カレ・元カノのことを懐かしんだり未練があるようことを言うのは禁句なのと同じです。

 けれど、卒業間際になり、もうここまでくればと、このインタビューでは、短い言葉ながらにもカントリー時代のことを、今でもこれ以上ない「宝物」のように想い続けていることを感じさせるものでした。

 特に、ステージでの技術論として、「カントリーでやっていたこっちの表現もいいと思うから残しておこう」という言葉だけで終わらせず、

 「ずっと忘れないでおこう」

 という言葉をつなげた部分に、森戸さんの本当の想いを感じ、素敵に感じました。

 ただ、森戸さんは決して、カントリーに執着してモーニングでの活動は惰性だったわけではないと思います。
 時間はかかったけれどちゃんと自分の居場所を見つけることができ、別のインタビューでは、なかなかモーニングに溶け込もうとしなかった「当時の自分を叱ってやりたい」と言ったりと、モーニング娘。でも、充実した活動をされていたんじゃないかと思います。

 カントリーガールズのラストライブの最後の曲、「VIVA! 薔薇色の人生」の歌詞にある、森戸さん自身が好きなフレーズだと語っていた、「困難、荒波、大歓迎、私なら大丈夫です!」の通り、カントリー解散後の森戸さんは、しっかり困難・荒波を乗り越え、大丈夫だったようです。

 そんなわけで、卒業された森戸さんのこれからも、薔薇色の人生でありますように…!
 


 →TOPへ