アイドルビジネスの成功要件

 ここ二十年ほど、アイドルビジネスが盛んです。(2020年1月現在)
 アイドルビジネスは1990年代のバンドブームの到来によって一時衰退しましたが、1990年代の終わり、「モーニング娘。」
に始まるハロー・プロジェクト、いわゆる「ハロプロ」によって再び火がつきました。

 バンドブーム世代の僕はアイドル自体に興味はありませんが、アイドルビジネスの手法には高い関心があります。
 特にAKB〜乃木坂を生み出した秋元康氏の手法は、実に巧みで勉強になります。嫌いですけど。

 男性アイドルと女性アイドルとでは、ビジネスとしての手法は全く異なると思います。
 女性アイドルのビジネスを成功させるポイントは、

 @男性に疑似恋愛をさせる
 
Aファッション・サブカルチャーのトレンドを体現するエースを擁立する
 B女性の憧れに昇華させる

 以上の3つだと思います。

 ハロプロの全盛時代を築いたつんくさんは、AKBや乃木坂のブームに対して、何故あれが売れるのがわからないとtwitterでつぶいやかれていましたが、つんくさんは元バンドマンで、価値観として音楽やダンスといったアートを魅せるグループとしての思い入れが強すぎるから、パフォーマンスはおまけ程度に割り切れる秋元氏の手法が理解できないのではないかと思います。

 モーニング娘。が爆発的に売れたのは、狙っていたのかどうかはわかりませんが、上記の3つのポイントを見事に抑えていました。
 そもそもデビュー時は、アイドルグループというより、ASAYANのロックバンドデビューの企画から派生して生まれた歌唱グループです。
 テレビ番組の企画で生まれたため、色モノ的な空気はありましたが、真面目に歌を歌っていたし、曲も見せ方もごく普通の歌謡グループで、歌のヒットによって人気が高まり、ルックス的にはむしろアイドル感は低かったように思います。

 大ブレイクして現在のアイドル路線になったきっかけは、1999年の後藤真希さんの加入と「LOVEマシーン」の超大ヒットによるものなのはよく知られているところです。
 当時、つんくさんのインタビュー記事を何かで読んだ記憶では、人気に伸び悩み、どうしたものかと模索する中、ふざけ半分でふりきってやったのが「LOVEマシーン」で、当初はその路線で進むと明確に決めていたわけではなく、大ヒットしたことに自分でも驚いた、と答えていたように思います。

 後藤さんとLOVEマシーンのヒットの背景には、当時の「ギャルブーム」が大きくあったと僕は思います。
 1990年代の後半から、世間ではギャルブームが訪れ、金髪やコギャルファッションが大流行しました。

 そこに現れたのが後藤真希さんです。
 
後藤さんは、そうしたコギャルの完成形ともいうべき存在であり、絶対的エースとして瞬く間に絶大な人気を獲得しました。
 LOVEマシーンも、そうした時代のカルチャーとマッチした曲調で、詞もメロメロの恋愛ソングではなく、世代を限定しないノリだったことも大きいでしょう。

 女性アイドルグループのブレイクには、常にこうした時代の波とのリンク、そしてしれを体現する「絶対的エース」が存在するように思います。
 単に
男性に疑似恋愛を仕向けるだけなら、見た目だけである程度は可能です。
 しかし、人の好みなんて千差万別なだけに、疑似恋愛を求める相手だけの商売で時代を席巻するほどのブレイクするのは難しいでしょう。
 
そこに、その時代のファッションやカルチャーのトレンド性が加わると、同性、つまり女性の支持も得られます。
 後藤真希さんは、当時のギャルたちにとってもカリスマ的存在でしたし、後藤さんに限らず、一時代を築くアイドルは、多くの女性ファンを獲得しています。
 女性からも高い支持を受けるような存在は、アイドルオタクの男性だけではなく、一般的な男性も引き込むことができます。
 こうした構造になることで、そのアイドルグループは国民的支持を得ることができます。
 つまり、先の@ABは、個別のものではなく、相関関係にあって成立するものです。

 モーニング娘。のブレイクから、タンポポだとかミニモニといった派生ユニットが生まれ、そうして加護亜依さんだとか辻希美さんだとか、そして単独の松浦亜弥さんといった、「可愛さ」を売りにしたアイドルが人気を得ましたが、それまで衰退していたはずの「可愛いアイドル」が再び人気を得ることが出来たのも、当時の文化的背景があります。

 彼女たちがヒットした2000年代初期の頃は、ロリータファッションが再燃していました。
 ロリータファッション自体は1990年代から徐々に認知されつつありましたが、1990年代の終わりのビジュアル系バンドのブレイクによって「ゴスロリファッション」も人気になるなど、2000年代からは小ギャルルックとは別に、ロリータファッションもストリートで支持されるようになり、それら両方に共通する要素は「刺激的なまでの視覚的魅力」でした。

 言い方は悪いですが、あからさまな「見せかけ」が人気を集めた時代ともいえます。
 ロリータファッションは、日常的ではないファッションでなので、言ってしまえばマニアックでコスプレ的な扱いで、あまりおおっぴらにアピールできる嗜好ではなかったと思います。
 しかし、コスプレレベルに非日常ないでたちで歌うビジュアル系バンドが次々と出現してヒットし、そうしたファッションに憧れたり支持することが市民権を得たのが2000年頃です。

 そこにはおそらく、家庭用メディアの進化も背景にあると思います。
 DVDが普及し、安価でかつ手軽にパソコンで観れるようになり、インターネットの広がりによって、視覚で楽しむエンターテイメント性が今まで以上に注目を浴び、評価されるようになったからです。
 特にパソコンで自分だけでこっそり楽しみやすくなったことも、個性的なスタイルが受け入れられやくくなった理由として大きいでしょう。

 2000年代前半にブレイクしたハロプロ系ユニットやアイドルは、ロリータファッションというわけではありませんが、辻・加護さんにしろ、松浦亜弥さんにしろ、過度なまでにキュートないでたちでパフォーマンスする姿は、松田聖子さんや中森明菜さんといった、万人受けがベースにある優等生的な1980年代のアイドルの見せ方とは明らかに異なる手法であり、ビジュアル時代のカルチャーのトレンドと明らかにリンクしています。

 また、男女共通の「カルチャー」である点も重要です。
 同性人気が重要といっても、女性が好むファッションは必ずしも男性好みとは限らないので、女性目線だけを意識してもうまくいきません。
 それが、文化としてのトレンドとリンクしてはじめて、男性・女性両性からの支持が得られるのです。

 男性好みかつ、女性も支持するような存在になれば、一般男性まで気軽に興味を持つようになり、ファンと公言して恥ずかくなくなり、そうして日本全体としてのトレンドとしての流れを生みます。

 しかし、2000年代中期からは、トレンドの様相が急激に変化します。
 その理由は明確で、インターネットの普及に加え、高速ブロードバンド化により、大容量のコンテンツがより手軽に楽しめるようになったこと、そして何より、自分からの発信がしやすい環境が整ったからです。

 インターネットは1990年代からすでに存在していましたが、2000年以降から急速に広まり、2005年には普及率が七割を超えたそうです。
 そこで何が変わったか? というと、人々の「情報発信力」と「価値観の共有」の仕方であり、その結果もたらされた、「オタク文化」の社会的地位の上昇です。
 
それまでオタク的な感性や趣味は、どちらかというと社会的には日陰的な存在て、おおっぴらに楽しむのは憚られるような空気があり、個人でひっそりと楽しむものでした。

 そこに、個人ブログの流行、2ちゃんねる代表される掲示板といった交流ツール、2004年に登場した「ミクシィ」といったSNS。
 それらによって、それまで見えなかった「同志」の存在を知ることが出来るようになり、全国のオタクがつながり、いつしかオタクは日陰的な存在ではなく、社会において一つの領域を持ったサブカルチャーとして認知されるようになりました。
 ハロプロが一時代を築けたのも、インターネットの普及に伴って「アイドルファン」が少数でないことが認知され、「ハロオタ」という名までつき、あたかも一つの集団のような存在感になったからこそ、文化として広まり得たのだと思います。

 そうした時代の中で生まれたのが、「しょこたん」こと中川翔子さんのようなオタク出身アイドルのブレイクです。
 2004年頃から注目されるようになった中川さんはアキバ系アイドルの先駆けと言われ(中川さん自身はアキバ系ではないそうですが)、男女問わずネットのオタク民から絶大な支持を受け、スターに駆け上がりました。
 この頃から、オタク的なカルチャーがトレンドに大きく影響を与えるようになります。

 そこに目をつけたのが、2005年から活動をスタートした秋元康氏のAKB48です。
 元々芸能界において力のある秋元氏なので、まだAKB48が社会的認知も人気も得ていない時からテレビで冠番組を持たせてもらえたり、紅白に出演するといったアドバンテージはありましたが、それまで雑多に萌芽していたオタク文化を集約するような形でAKBグループは登場し、あれよあれよという間に時代の寵児となりました。

 人は誰しも、少なからずオタク的な感性は持ち合わせています。
 それを時代が肯定するようになり、それを形にして体現した存在がまさにAKB48。
 そこに君臨した絶対的エースが前田敦子であったことも、その時代性をよく反映していると思います。
 ぶっちゃけ申し訳ないですが、ルックス的には微妙でしょう。まだAKBが無名時代に前田さんが出演したとある映画では、確か「不細工な女の子」役だったような……

 ですが、それまで日陰的存在だったオタク文化が陽の目を浴びるという時代変化のプロセスとリンクし、AKBグループの成り上がりを体現する象徴的存在としては、ルックスが恵まれているわけでもない前田さんがトップスターに駆け上がっていくシンデレラ・ストーリーこそが最も適合し、人々を熱狂させたのでしょう。

 それまで人々の中に潜んでいたオタク的気質がネットの普及によって開放された時、AKBがその受け皿となったことで、男性からも、女性からも、瞬間的に絶大な支持を得ることが出来たのだと思います。

 そこにはもちろん、仕掛け方や見せ方の巧みさもありますが、時代の流れからすると売れるべくして売れたともいえ、その流れを見事に捉えた秋元氏の手腕が見事だったという他ありません。

 AKBがブレイクする一方で、かつて一時代を築いたハロプロは衰退の一途を辿っていました。

 モーニング娘。のブレイク以降、一時は様々なユニットを結成してヒットを飛ばしてはいましたが、つんくさんが次世代的な存在として送り出したのが「ベリーズ工房」(2004年)と「℃-ute」(2005年)というグループです。
 調べたところ、当時隆盛を誇っていたハロプロの中にあって、そこそこの人気は得たようですが、残念ながら社会的な人気を得るまではなっていません。
 その理由は、あくまで「モーニング娘。」の流れの派生形として生み出されたもので、時代の流れを体現していなかったからだと思います。

 AKBブレイクの背景からもわかるように、2004年あたりからは、時代はオタク的サブカルチャーに動いていました。
 しかし、つんくさんが仕掛けた両グループは、楽曲やスタイルに特徴を持たせてはいたようですが、あくまで「ハロプロ色」内での使い分けであり、所詮はモー娘。の成功事例の中のアレンジの一つに過ぎなかったと思います。
 そして、両グループ共に、時代のファッションやカルチャーのトレンドを体現するような絶対的エースがいませんでした。

 しかし最大の問題は、いくら次世代を期待するからとはいえ、小学生まで存在するような若年グループにしたことでしょう。
 これではロリコン向けアイドルグループと誤解されても仕方がない。
 僕の友人にハロオタがいたので、当時ベリーズ工房のことなどを教えてもらいましたが、歌や踊りがどうという以前に、メンバーが若すぎて、その時点で抵抗ありまくりでした。

 確かに、「SPEED」のように、歳が若くてもロリコングループとは思われず、幅広い世代から支持を得るグループというのはあり得ます。
 しかし、SPEEDはアーティスト路線で、純粋に歌と踊りで売ったからそう受け止められたのだと思います。

 つんくさん自身は、元バンドマンだから、ロリコン狙いなんて考えておらず、内容さえ良ければ年齢なんて関係ないとか、ASAYANに始まるハロプロの醍醐味は、メンバーが無名時代から自ら道を切り拓き、成長していく姿を見せることが一番のコンテンツだと思っていたのかも知れません。

 ですが、小中学生がコスプレしてファニーな曲を歌って踊るグループなんて、一般の人は近寄れません。
 職場で「ベリーズ工房のDVDを買った」「彼女たちが成長していく姿を応援したい」なんて言ったら、女性社員から間違いなくドン引きされるでしょう。
 ハロオタだた友人も、付き合っていた彼女にはハロオタであることを隠し、結婚する時にはハログッズを全て処分し、僕にも「ハロオタだったことは奥さんには内緒にしといて」と言われました(笑)

 また、2005年頃というと、マックの広告に起用された蛯原友里さんが大ブレイクし、「綺麗系」「お姉さん系」ファッションが急速にトレンドになった時代です。
 そんな時に、可愛らしいコスプレ衣装で歌って踊る中高生アイドルなんてものは、若年層ならともかく、一般女性が憧れる存在としては真逆の方向性だったと言えます。
 若年層人気がだめなわけではないけれど、彼等の購買力は低く、行動範囲も狭い。それだけでは商業的には伸びません。

 だから、ハロプロ内にどれだけ新グループが生まれても、結局ハロオタの間で人気を取り合っているだけで、新しいファンを増やすことが出来ない、つまりビジネスの拡大には至らなかった。

 つんくさんも、そうしたことを意識していたのかしていないのか、人気が低迷してからのハロプログループには、アイドル的な要素より、歌やダンスといったスキルを高めることをひたすら要求し、実力派グループとして支持を得ようとしたそうですが、一度ついてしまった「アイドル」という色眼鏡は、そう簡単に外せません。

 それに、確かにハロプロのステージパフォーマンス力は、秋元系のグループなんて足元に及ばないレベルにあると思います。
 ジャニーズですら、口パクであろうと、いかにも生歌かのようなフリだけはきちんとやっているのに、もはや口パクであることを隠しもしない秋元系のアイドルグループは、もはや音楽ユニットではないし、個人的にはその範疇として認めたくないくらいで、芸を売るグループとしての技量は最低レベルだと思います。

 しかし、秋元系よりスキルが高いからといって、ハロプロが本職のバンド並に聴けるか? というと、残念ながらそのレベルにはないと思います。
 ざっと観た程度ではありますが、最近のハロプロの様々な動画を観る限り、本当に「音楽」しているのを感じる歌い手は、鈴木愛理さんと小田さくらさん、惜しい所で高木紗友希さんくらいではないでしょうか。
 特に小田さんはすごい。歌割の短いワンフレーズを耳にしただけで、明らかに一人だけ別次元の音楽性を感じました。でも、それくらいです。

 ダンスはもしかするとそれなりのレベルにあるのかも知れませんが、そもそも日本のマーケットで、ダンスグループが国民的人気となった例自体がありません。

 だからハロプロはファンの裾野が広がらず、全盛期に獲得したファンを貯金として、後は消費するばかりだったのではないかと思います。

 一定の層の中で食い合いをしていたのはハロプロだけではありません。
 AKBが台頭し始めた頃から、雨後の竹の子の如く、無数のアイドルグループが誕生しましたが、どれもコスプレ的でマニアックな色合いの強いグループばかりです。
 2000年代中期以降のアイドルグループの潮流は、歌やダンスといったパフォーマンス力より、オタク的感性がトレンドとなったわけですが、結局がAKBが確立したそのその領域の間でファンの取り合いをしていただけだと思います。

 「ももいろクローバーZ」は少し異色で、歌やダンスを生で披露する点ではハロプロと同じで口パクのAKBとは違いますが、歌自体は普通のアイドルレベルです。
 ただ、このグループが優れていたのは、ハロプロともAKBとも違い、アイドルのステージ・エンターテイメント性に特化したグループで、ひらすら盛り上がりやライブでの一体感を追求した見せ方は、音楽グループのそれとも少し違い、一種のショウ・パフォーマンスのグループだと思います。
 あれだけのライブ動員数に対して、CDの販売数は異常に少なく、誰もが知るような大ヒット曲もありません。
 アイドルグループとしてはかなり特異なことです。
 しかし、それを一向に気にしてなさそうなところからも、歌唱グループとは違う戦略であることは明確です。

 こうして時代のトレンドを追ってみても、ストレートに歌やダンスを売りにしようとしたハロプロが衰退したのは必然だったと言えるでしょう。
 もっとも、AKB全盛期にも、道重さゆみさんや嗣永桃子さんといった人が一時的にハロプロの存在感を示したようですが、これは二人のトーク力やバラエティ対応力が凄すぎたからタレント的に活躍できたという個人技に近く、ハロプロの力とは関係ないように思います。

 そして、秋元氏が優秀なのは、AKB全盛期に乃木坂を作ったことです。
 一つのトレンドが永続的には続かないことを理解していた秋元氏は、次世代グループとして乃木坂を送り出し、妹分にような存在でありながらも「AKB公式ライバル」と銘打ち、オタク文化をコンセプトとするAKBとは別路線の、フレンチポップスをコンセプトとする王道アイドル的なグループにしました。

 これは、既存の主幹事業に依存しないポートフォリオ経営です。

 ただ、秋元氏が優秀だったのは、作った後にきちんと軌道修正したことです。
 AKBと別路線といっても、王道アイドル的な路線に目新しさはありません。
 その上、ライバルと銘打っておきながら、乃木坂のメンバーをAKBと兼任させたりして、見せ方が違うだけで、最初の頃はAKBの人気に相乗りした存在に過ぎませんでした。
 ハロプロと同じで、既存客の間で、選択肢を増やしたに過ぎない。
 結成時のセンターだった生駒里奈さんも、ルックスレベルは高いものの、といって時代のトレンドの体現者かというとそうではなく、独自性を確立する存在とは言えませんでした。

 ただ、その問題に敏感に対応したのが秋元氏です。
 当時、時代を席巻していたAKBグループですから、乃木坂もデビューするとそれなりに売れてはいました。
 しかし、ファンの反応や売上の傾向見て、このままでは次世代とは成り得ないと気付いたのでしょう。
 秋元氏は、乃木坂をAKBとは完全に切り離し、会社も別運営とし、コンセプトも、可愛らしい王道アイドルではなく、ナチュラルなお嬢様路線に切り替えました。
 その戦略が功を奏して、現在ではそうした経緯
を知らないファンは、秋元氏がプロデュースしたことは知っていても、乃木坂のバックがAKBと同じであることを知らず、むしろ「AKBとは違う。あんなのと一緒にするな」と思い込んでいるくらいです。

 このお嬢様路線は、2010年代後期のファッショントレンドと見事にリンクしています。
 一次は爆発的なブームに沸いたAKBであっても、一つのスタイルが延々に支持され続けるのは難しいことです。
 といって、オタク的コンセプトのAKBが、いきなり路線変更しても既存ファンはついてこれません。

 そこに機能したのが乃木坂です。
 AKBのオタク的カルチャーも、今は落ち着きました。
 コスプレやマニアックな感性を持った人は、それぞれの居場所を見つけ、AKB系だけに群がる必要はなくなりました。

 また、長い景気の低迷もあってか、日本では華美なファッションや、高級ブランドをこれ見よがしに身に付けるといったスタイルは流行らなくなり、むしろ否定的に思われるくらいになりました。
 むしろ、かつては「ダサイ」の代名詞にもされたユニクロを上手に着こなすのがお洒落だとされたり、極端になるとミニマリストといったスタイルまで話題になるくらいです。

 そうした流れににあっては、乃木坂のような、ナチュラルテイストで、一見すると清楚で慎ましそうなスタイルが支持されるのは自然の流れです。
 黒髪・長髪のお嬢様スタイルは、一定層の男性を疑似恋愛させるには十分です。
 さらにそこに「女性の憧れの容姿」という要素が加われば鬼に金棒で、それを端的に体現するのは言うまでもなく白石麻衣さんです。
 現在では「乃木坂風メイク」という言葉があるくらい、女性支持も圧倒的に高いのが乃木坂のスタイルです。

 そうした、時代のカルチャーを捉えた商品に仕上げたことで、既存のAKBファンからの移行はもちろん、それとは関係ない新規客の両方を取り込むことに乃木坂は成功したのです。

 しかしながら、これが二十年前のギャルブーム時代だったら、乃木坂の今のスタイルがこれほどの支持を受けることはなかったでしょう。
 茶髪・金髪が大流行し、渋谷109のカリスマ店員などがもてはやされた当時、黒髪長髪のお嬢様スタイルなんて、純情清楚に憧れる男性オタクからは支持を受けても、女性からは「昭和のアイドルみたいでダサイ」と思われた可能性も高い。
 現在の乃木坂人気を見ていると普遍的な支持を得そうに見えるかも知れませんが、トレンドが変わる可能性は十分にあります。

 こうした推移からしても、この先のアイドルのブームを予測するには、ファッションやカルチャーのトレンドを追うことが不可欠です。

 こうした過去の分析から、これから売れるアイドルがどんなものかを予想するとしたら、「双方向性アイドル」です。

 日本の景気が劇的に上向くことは当面ないと思うので、美容やファッションにお金をかけてそうな華美なだけのスタイルが支持されることは当面ないと思います。
 考えられるのはまず、すっぴんでも可愛く見えるタイプの顔であることが重要。
 何故なら、今の日本では一般人でもメイク技術がかなり上昇し、メイク美人は普通になりつつあるので、そこからの差別化をはかるとなると、もはやすっぴん段階でのレベルに行き着くからです。
 そこに、贅沢感を感じさせない、より身近でナチュラルな、好感度の高いファッション。
 で、手に届きそうに思わせておいて、「この顔とスタイルならなんでも可愛いでしょ! ずるい!」なんて思わせたら勝ち。
 (素朴に見えて、実は超高品質のオーダメイドであっても問題ない。ようは、そう思わせること)

 そして次に、単にCDやDVDを出したり、ライブを開くだけではなく、もっと幅広く面白い活動をライトにYoutubeなどで発信していくこと。
 
現代のアイドルというのは、歌やダンスといったパフォーマンスだけでなく、そのアイドル自体の性格や人間性までが対象になっています。
 実はそれが作られた虚像で、感じたものはファンの妄想であったとしても、観ている人にそう思わせるのがアイドルとしてのパフォーマンスの一部です。
 
もちろん、そうしたことはこれまでもテレビやネットを通じて見せていたとは思いますが、それを、よりリアルなスタンスで感じさせる活動ということです。

 例えば、綺麗系・可愛い系・清楚系・ギャル系の四人組でバンドを組み、その四人での色んな活動をYoutubeやインスタでアップしていく。
 歌う曲はオリジナルもあるけれど、ファンや視聴者の要望やコメントを元に、カバー曲を歌ったり。
 もしかすると、ファンからの要望やネタを元に新曲を作って披露したり。
 そして、歌だけでなく、それぞれのキャラクターに応じた連載なんかをアップし、そこでもファンとの対話があったり。
 趣味や買い物レビューなんかを、自然な形でアップしたり。
 そうした双方向性がこれからは強みになると思います。

 ただ、気をつけないといけないのは、個別対応に陥らないこと。
 お金を落としてくれるアイドルファンというのはたいがい個の推しが強いファンで、そういうオタクは総じて嫉妬と独占欲が強いので、一人の要望に応じたりすると、不満も高まります。
 広く意見を集め、個の意見を紹介するくらいはむしろすべきですが、対応するのは同意見が多く集まった時に対してのみすべきでしょう。

 もちろん、そうした判断を的確にし、対応出来るアイドルなんてそうそういないでしょう。
 だから、それは個人任せでやるのではなく、ちゃんと事務所とスタッフが仕掛けてサポートしていくのです。
 といって、ヤラセだったり嘘があると発覚した時に全てが崩壊するので、そこは素直でいいと思う。
 変にゴーストライターを使ったりするから問題の火元になるので、楽曲制作や企画はプロに依頼すると明言し、そこに一緒に参加するというスタンスにしつつ、そのプロセスから見せていくとかね。
 あとは、それをどんなシナリオで、どんな見せ方にするか次第です。

 売れるための要件として、まずは男性ファンに疑似恋愛をさせないといけないから、ルックスはもちろんのこと、賛否はあるだろうけどスキャンダル管理は重要。
 そして、身嗜みやファッションは、トレンドをしっかりおさえること。好き勝手ではいけない。
 そこもちゃんと事務所がコントロールする。でも、メンバーごとの個性や系統の違いはあっていい。

 言動、発言も、自然にやらせているようで、自由にやらせるわけじゃあない。きちんと、トークの常識教育をする。
 そもそも、教養の低い元ヤンとかは採用しない方が賢明。
 そうしないと、迂闊な発言でイメージダウンしたり、よくある「謝罪動画」なんて展開になったら水の泡ですから。
 質の高い商品としてトータルコーディネートし、いつでもどこでも常に「魅せて」いくことを常に意識する。
 「商品」だなんて、言葉が悪いと思うかもしれませんが、何のことはありません。これまでは、ライブステージやテレビ、イベント会場だけが「本番」だったのが、自撮り風のyoutubeやインスタライブの瞬間も、重要な「本番」の一つになるだけの話です。

 そして最後に、グループであれば絶対的エースを確立させること。
 全員がスターになれたらそれに越したことはないけれど、たぶん、女性のグループって「両雄並び立たず」なんだと思う。
 だから、四人で活動しながらも、競わせる。そして誰がエースかをはっきりさせる。

 女性アイドルって、競うことで輝く部分もあるように思います。
 バンドなら普通はボーカルになると思いますが、アイドルグループとしての見せ方次第では、意外にギターやベースを一番人気に仕立てるシナリオだって有り得る。例えば、楽曲作成や構成をメインでやっているのはギターの子で、しかもめちゃくちゃ上手くて、毎曲必ずソロを取り、それもライブのたびに違って、それが時には泣かせるようなフレーズだったり。
 でも、ギターの子に人気が出たら、ボーカルの子は悔しいでしょう。
 だから、負けじと曲を作ったり、詞を書いたり、色んな歌に挑戦したり。
 そんなプロセスも、アイドルファンの心を間違いなくくすぐることでしょう。
 その結果として、女性からも尊敬され、支持される存在になり、そうなればもう、間違いなく人気アイドルの誕生です。

 これからのアイドルの売れ方は、そんなんじゃないかと思いますね。

 


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