バイトを休む時は代わりを探す?

 『「バイトに代わりを見つけさせる」という職場運用は法的に問題』という記事がネットに出ていました。

http://news.nicovideo.jp/watch/nw916959

 それによると、

  バイトが欠勤する場合、代わりを手配する責任は、あくまで会社側(使用者側)にあり、
  そのバイトが、代わりの人を探せという会社の命令に従う必要はない。

 という弁護士のコメントを根拠に、「休みたい」というバイトに「代わりを探せ」と要求するのは、違法行為なので従う必要はなく休んでよいという趣旨の記事です。

 しかしこれ、とんでもなくおかしな記事です。
 アルバイトは、自分が休みたい時には無条件に好きなように休めるって法的に認められてるってことですか?

 そんなわけがない。
 
だから、実はその弁護士の説明をよく読むと、欠勤するアルバイトに対しても、

法律上は債務不履行責任を負うことになり、
会社に損害が発生した場合には、損害賠償義務を負担し、
金銭を会社に支払わなければならないケースはある。

 という一文があります。
 つまり、お店側も、その欠勤したバイトを損害賠償で訴えて良い、ということです。

 考えればわかることです。
 飲食店なんかで突然の欠勤が発生したらどうなるか?
 当然ながら、営業に何らかの支障が発生します。
 
サービスや料理の品質の低下を招いたり、繁盛店であれば売上の機会損失が発生したり、本来発生しないはずの社員の残業が発生したり。支障がないなら、「代わりを探せ」などと言う必要がありません。

 そもそも、法的には社員もバイトも区別はありません。
 無期契約で月給制のフルタイマーか、有期契約で時給制のパートタイマーかの違いくらいがベースで、責任の重さなどは法律と無関係です。
 アルバイトがいつ欠勤しても自由というのなら、社員だっていつでも欠勤して良いことになってしまいます。

 この弁護士の説明を正しく解釈するなら、「欠勤するからといって代わりを見つける義務はなく、出勤しなくてよい」「しかし、欠勤するなら、相応の賠償責任が発生する」

 つまり、法的に重要なことは、「たかがバイト」でも、急な欠勤をするということは、「法的にも賠償責任が生ずる行為」だと言うことが先ではないでしょうか?
 「代わりを探す責任はない」というのは二次的な側面であって、その一面だけを切り取って記事にするのは片手落ちにもほどがある。

 ただ、それはそれとして、「代わりを探せと言ってくるのは別問題だ」という話を強調したい人もいるでしょう。

 そこで、ある喩え話をしましょう。
 車と車で接触事故を起こせば、賠償責任を負います。
 物損は刑事事件ではないので逮捕はされませんが、どちらが悪いかを決めるには、民事上の裁判になります。
 ですが
、実際には裁判なんかしてたら大変だから、「示談」で解決するのが一般的ではないでしょうか?

 実は、バイトの欠勤も同じことなのです。
 
バイトが欠勤したからといって、店は損害賠償の裁判なんていちいちやってられません。
 手間と費用が見合わないからです。
 
だから、店側はそのバイトに対し、賠償責任を負いたくなければ、「代わりのバイトを探すことでOK」という示談交渉をしてるようなものです。 

 現実的には、アルバイトが欠勤したことで損害賠償の裁判を起こすことはまずありません。
 それは、損害賠償が認められないからではなく、認められたところでたいした額にはならないので、訴訟するほうが手間も費用も掛かって無駄になるからです。
 欠勤によって発生する、サービスや料理の遅れ、従業員の残業、乱れた営業による従業員の精神的被害などを証明できる形で資料作成して提出しようとなると、膨大な作業が必要になるでしょう。
 
だから、アルバイトのほうが立場が有利なのです。

 つまり、言ってしまえば、代わりを探さずに一方的に欠勤するバイトは、お店が裁判なんて起こせないことにつけこんで、その法的責任を踏み倒しているに過ぎない、ということではないでしょうか?

 それを、「代わりを見つける義務があるか」だけをクローズアップして、FAのようにするのは、いくら質問がその部分だったとしても、不十分すぎる解答に思います。

 これでは、「バイトは休みたい時にいつでも休んでいい」と、法的に認められている、と勘違いされるだけではないでしょうか??

 ……ただ、自分は、そんな法的な解釈を議論したいわけではありません。

 弁護士の法的解釈を持ち出したところで、現実的に、それがどれだけ意味のあることでしょうか?
 お店側は、欠勤したバイトに対して賠償請求をしたいのでしょうか?
 バイト側としても、こうした法的知識を知ることで、店に「代わりを見つけろ」と言われた時に、「強要するなら訴えます」と言って店を起訴するのでしょうか?

 それこそアルバイトしてる側も、そんな面倒なことは誰もしないでしょう。
 バイトとしても、人間関係をこじらせてまで、バイトを続けたいとも思わないでしょう。
 
バイト先がクソだと思ったら、解雇されるまでもなく、自分から辞めるでしょう。

 つまり、そこにあるのは結局、「人間関係」ではないでしょうか?

 急な欠勤をすると、どういう問題が起こるのか?
 欠勤によって、その日働いている他のメンバーに迷惑をかけてしまうことを、本人がどう思うか?

 それが、本質的な話だと思います。 

 たとえば、友達から、「草野球の大会に出よう」と誘われて、参加を約束していたところ、当日に急用が入ってしまったら…?

 労働契約どころか、ただのお遊びの口約束だから、その約束に法的義務も何もありません。
 実際に行くか行かないかは、本人の自由です。

 でも、自分が行かないせいで、チームが大会に出られなくなったら、チームの他のメンバーに迷惑がかかるので、予定を調整したり、代わりを見つけるのが、「人として」常識的な行動ではないでしょうか…?

 バイトだって同じだと思います。
 
「会社」「店」なんてのは、抽象的な単語に過ぎません。
 急な欠勤で困るのは、つまるところ、その職場の仲間です。

 軽々しく欠勤が許される職場は、本当に働きやすい職場でしょうか?

 例えば、二人で深夜営業を守るコンビニで、相方が急に欠勤したら、ひとりぼっちで全部の仕事をしなければなりません。
 
事務仕事でも、本来二人で分担して終わらせる作業を、一人で全部こなさなければならなくなったら、誰が嫌な思いをするのでしょうか?
 
急な欠勤がオッケーされて楽だと思うのはその瞬間だけで、欠勤が当たり前になったら、会社が困ると言うより、他の職場の仲間が嫌な思いをするだけでしょう。
 そ
こで、店舗責任者の責任だと押し付けたところで、生じたメンバーの負担が軽くなるわけでもない。
 
欠勤者が頻繁に発生し、スケジュールがボロボロで、まともに適正人数が揃わず嫌な思いばかりさせられるようなバイト先だったら、誰も長く働きたいとは思わないでしょう。

 「法的義務はない」ことをタテに、「バイトは急に欠勤してもオッケー」なんてことが社会の常識になったら、間違いなく世の中はめちゃくちゃなことになります。

 ただ、だからといって、代わりが見つからなければ、親が倒れようとも、熱があろうとも来い、というのは、もちろん間違いであり、パワハラです。
 
実際には、のっぴきならぬ事情で急な欠勤をしてしまうこと自体はあると思いますし、それはバイトだろうと社員だろうと関係なく、当然のことだと思いますし、明らかにやむを得ない事情であれば、その欠勤を非難する人はいないでしょう。

 ただ、それはそれとして、チーム意識や、仲間に迷惑をかけないよう、最大限努力しようという意識も大切だということです。

 もっとも、この記事の弁護士の発言は、あくまで法的な見解を求められて答えただけなので、弁護士の回答がおかしいわけではありません。

 だから、おかしいのは、こんな記事を書くライターです。

 最近の「ブラック企業」「ブラックバイト」の話題に便乗して、ハナからいかにも「弱者保護」を装うようなスタンスで、企業や雇用側を悪者にする記事を書こうとしているのがミエミエです。

 でも、本当に志のある記者であれば、こんな皮相的で陳腐な内容をメシの種するのではなく、もっと社会の深層や物事の本質まで探究した上で、「若者たちよ、法律上はこうだが、道徳的にこうあるべきではないか?」と投げかけて、社会を啓蒙するような記事を書いてほしいものだと、せつに思います。

 

 


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