飲食業界はなぜブラックかE 業界を変えるために

 飲食業界がなぜブラックなのかについて長々と書き綴りましたが、飲食業がブラック産業から脱出するためにはどうすれば良いか、思う所を書いてみます。

 @洗脳教育を弾劾する
 A部下を酷使して出した成果は認めない
 B週に一回最低定休日を作る
 C客に媚びない

 この4つは、飲食業界をまともな業界にするために必要な認識だと思います。

 @の「洗脳教育の弾劾」については、飲食関係者はもちろん、社会全体で、洗脳教育を批判し、弾劾することです。

 洗脳教育は、してる人間がもちろん一番問題なのですが、やってる本人は正しいと思ってやってるので、それを自己改善させるのは難しいでしょう。

 多くの飲食マンは、その洗脳力を、高いリーダーシップとコミュニケーションスキルの証だと思ってるからです。

 洗脳教育に染まった飲食マンは、365日24時間無休で働き続けたとしても、それを「自分の夢の実現」「成長につながっている」と信じてやみません。
 人が一日8時間しか働かないところを24時間働けば、3倍早く夢に近づけると信じこまされているからです。

 はっきりいってそんなことをしても、3倍早く命を縮め、一般社会の常識から遠ざかり、人間が壊れるだけです。

 仕事は8時間にし、8時間は仕事以外の人生や社会に目を向け、残り8時間は体を休めるのが、健全な人間のあり方です。

 だから、飲食に従事ししてる人はもちろん、社会全体が、長時間労働を正当化するような洗脳教育をする経営者や上司・親方を徹底批判し、反社会的行為として社会認知させていくことが必要だと思います。

 Aについては、長時間労働している問題の本質を、その上司に目を向けることです。

 飲食に限らず、何かを学び、極めようと思ったら、昼夜問わず寝る間も惜しんで一心不乱に向かっていく、ということ自体は、人間行動の本質としてはおかしなことではないと思います。

 そう言ってしまうと@と矛盾するように思われるかも知れませんが、それはあくまで、100%自分の内面から生まれた衝動であった場合です。

 しかし問題となるのは、それを経営者や上司、親方が求めていた場合です。

 具体的に指示・命令すれば誰でも問題だと感じるでしょうが、実際に店や組織の中行われるのは、日々のコミュニケーションによって遠回しに「やる気があればそうなるはず」「そうならないのは本気じゃないからだ」などと嘯き、そうなるように仕向けていく。

 それこそが@の洗脳教育なわけです。

 そうして、結果的に長時間労働したり、サービス労働で仕事をこなしたり、家にも仕事を持ち帰ったりレシピを覚えたりする。
 そうやって、より長く働いて仕事を覚え、成果を出した人が、結果的に上司から評価される。

 そうしたサイクルが生まれると、元々は本人の本意ではないにもかかわらず、ある意味「自発的」に、長時間労働やサービス労働を行うようになり、ブラックな風土が醸成されていくわけです。

 ブラックな職場というのは、「評価されるために長時間働き、それを評価する上司」という構図があるから生まれるわけです。

 長時間労働やサービス労働が発生している時、それが本当に自由意志なものなのか、洗脳教育なのかの違いを見極めるには、上司がその実態をどう把握し、対応しているかが、最大の見極めのポイントです。

 上司が、長時間労働やサービス残業が良くないことだという常識を備えていれば、部下が長時間労働していたら、それを是正するよう、本気で求めるはずです。

 もちろん、残業代のコストがかかるからとか、体裁上悪いからとかではなく、何故長時間労働になるか、その原因をきちんと確認した上で、組織として対策を取り、そもそも業務量が多すぎたのであればそれを是正するし、「能率が下がってるからもう帰りなさい」とか、「そんなに早く来なくていい」と、ちゃんと言い切れるはずです。

 しかし、長時間労働を黙認し、サービス残業をして出した成果物をそのまま上司が享受するから、おかしなことになるわけです。

 例えば、どう考えても8時間で終わるはずのない量が上がってきたら、おかしいと思うべきなのです。

 もちろん、その部下の能力が高かったからなら良いのですが、評価されたいがためにサービス残業して他の人よりも多くの仕事量をこなすことを認めてしまうと、その人と同じ評価を受けるためには長時間労働しなければ追い付かないことになってしまい、従業員間で公正な評価が失われてしまいます。

 逆に、能力が足りなくて仕事が遅い場合は、評価によって反映すべきであり、それをサービス残業で埋め合わせることを認めてしまうと、仕事の遅れはサービス労働で補うことが暗黙のルールとなり、「お前は仕事が遅いから」などといって残業手当をケチるような風習も生まれ、ブラックな職場環境が形成されていくわけです。

 このように結局は、経営者や上司、親方が、職場の労働環境をどう把握して管理しているかが鍵になるわけで、そうした上司たちの管理手法を見ていれば、何が問題かはわかるはずなのです。

 そこで、間違っても長時間労働をしている本人だけを見るようなことがあってはなりません。
 それに対して上司がどう対策を講じているかを切り離して見てしまうと、
本人の仕事の進め方の問題だとか、能力の問題にすり替えられてしまうからです。

 フランスのレストランには、よく「スタジエ」と言って、自分自身の勉強のために、無給で働いている人がいます。
 フランスでは、そうした「スタジエ」たちは、長時間働ていることが多いそうですが、店からは一切指示命令がなく、自由に仕事を学べるそうです。

 働いても、働かなくても、本人の自由。つまり、100%自由意志なのです。
 だから、あくまでも自分の意志で、仕事を一日も早く覚えるために長時間働きます。

 それが、正式に給料を貰う立場になると、途端に時間ピッタリで帰るようになり、ほとんど残業はしないそうで、従業員はあくまで契約に基づいて仕事をし、オーナーもそれ以上のことは求めないそうです。

 一方、オーナーシェフは、早朝から市場に行って食材を見て、店に戻ったら夜の営業が終わるまで、ずっと店にいるそうで、それは、オーナーが自分の店を良くするために働くことは誰に強制されるわけでもなく、自分の意志として当然のことであり、そうしてミシュランの星を獲得したレストランのオーナーシェフなどは、フランスでは非常に尊敬されるそうです。

 このように、フランスでは個々の利害関係が明確で、そこには他人による強制や、洗脳教育によるサービス労働への誘導などは、一切ありません。

 それが日本では、給料なしで人件費が発生しないとなると、逆に変に気を遣って、もう帰っていいよ、そんなに頑張らなくていよ、と言い、それが月給制になると途端に、「給料払ってるんだから」とか、「ここが学校ならお前がお金を払うところを、お前の勉強に給料を出してやってるんだから有難く思え」などといって、長時間労働させてこき使うようになります。

 そして経営者や上司になると、部下に仕事を押し付けてふんぞり返り、上位者の特権とばかりに一番楽をしようとする。

 こうした点は、海外を見習ったほうが圧倒的にまともだと思います。

 長時間労働の実態があった場合は、まずは上司や管理者に目を向ける。
 そして、そうした部下の長時間労働の実態を知っていながら放置したり、ましてはそれを評価したり、そうなるよう仕向けていた場合は徹底的に弾劾し、そうした実態のもとに出来上がった成果物や運営手法は一切評価しない。

 こうした考え方に意識改革することが重要だと思います。

 Bの定休日については、本来法規制しても良いのでは?と思うくらいのことです。

 だいたい日本の飲食市場は過当競争をし過ぎです。こんなにも飲食店は要りません。
 だから、これによって潰れるような飲食店は、潰れてしまって良いと思います。公正で健全な市場形成のためにも。

 こうした問題は、個人の飲食店ではなく、チェーン店など大手の飲食店でよくある問題でしょう。
 個人のラーメン屋なら、店主が熱を出したら臨時休業します。
 しかし、チェーン店では、そういうわけにはいかず、店に出る従業員がいなければ、這ってでも出勤しなくてはならなかったりします。

 しかし、チェーン店だって、やむを得ない事情で営業できないのなら、いっそ一時閉店すれば良いのではないでしょうか?

 もちろん、お客さんからは苦情は来るでしょうけど、そんなのは、個人店でも同じこと。行こうと思ってたラーメン屋が閉まってたら、ガッカリするし、文句の一つもつけたくなるものです。でも、そんなこと気にしていたら生きていけません。

 売上損失はあるでしょうけど、そんなの、電線に鳥がフンを落としたせいで停電になって営業停止することだってあるくらいですから、そんなことが月に一回やそこらあったくらいで、店が潰れたりしません。

 もちろん、頻繁に病欠で一時閉店ばかりするようなら経営的にもまずいでしょうけど、そうなったらそれは飲食に限らずビジネスマンとしての基本的な問題なので、相応の処罰の対象にすれば良いだけの話です。

 小売店は、たとえ交代制にしようが何だろうが、法定休日数(一か月の日曜日の数)は定休日がなければならない、と法規制すれば、世の中は変わり、飲食業の労働環境は、劇的に改善されると思います。

 もっとも、個人経営の小さな店などでは、休みを強要されることで売上が不足し、逆に生活できなくなっては困るし、そもそも個人商店では店主の自由で店を休めるので、規制の対象となるのは、法人化した飲食店や、一定の規模以上の飲食企業、とすれば、現実性が少しは増すでしょう。

 もっとも、政界や官僚に進むような人間は、飲食業界なんて見下している人間も多そうなので、飲食業界のことをそこまで考えてくれる人はいないかも知れませんが、定休日の設定は、経営者自身で決められることです。

 飲食業界の職場環境向上のためにも、こうした考えを持った経営者が、一人でも現れれば良いのに…と思います。

 Cは、業界というよりも「お客さん」という、外の人間がからむことなので、少し難しいかも知れません。
 ただでさえ、「お客様は神様です」などという言葉があるような日本で、お客さんの善意によって改善されることを求めても、なかなか実現しないでしょう。

 だから、この問題を解決するには、飲食業界全体が、「客に媚びない、お客様は神様じゃない」という認識を共有し、飲食業の労働環境や精神衛生上の障害となるような運営・サービス・価格のあり方を見直すべきなのです。

 洗脳教育や無休営業による「神サービス」や、どう考えてもギリギリすぎる人件費構成で価格設定をする飲食店経営者がいれば、それを弾劾し、「従業員とお客さんとの関係はあくまで対等」という基本認識のもと、サービス・労働に見合った対価の得られる価格・市場形成を、業界全体で目指すべきです。

 本人がいくら「自己実現のため」「ホスピタリティ」「納得してやってる」などと嘯いたとしても、無理難題・傍若無人なことでも自分を殺してサービスしたり、長時間労働していたり、休まず働いている事実があれば、その実態を暴き、「人権無視・労働基準法違反で経営している店を認めていいのか!健全な市場形成・文化社会を破壊している!」と弾劾すべきなのです。 

 「お客様は神様」的な思考のお客さんによって、従業員が病んだり、休みを潰されたり残業が発生するというのは、飲食に限らず、多くの業界でよくある話のようです。

 富裕層がメイン顧客である百貨店や老舗ホテルですら、横暴なお客さんの要望に苦しめられる話は、ネットでもいくらでも出てくる話です。

 このことからも、街の飲食店が、不特定多数の幅広い層を相手にしているからに限ったことではなく、客商売をしていると必ず直面する問題なのです。(金持ちならモラルが高いというわけではありませんが…)

 この@〜Cのことを、飲食店関係者、または外食を愛する一般顧客の、一人でも多くの人が共感し、そうなるよう向かっていけば、いつか日本の飲食業界もブラックではなくなるのではないかと思います。

 飲食業界は、サービスや料理が好きで入ってくる人が多い業界です。

 それなのに、長時間労働や、理不尽なお客さんによって苦しめられて挫折する人が後を絶たず、そのせいで、志の高い人ほど去っていき、逆にポリシーのない人が残ったり、仕事がなくて行き場のない人のたまり場だと言われてしまったりするのだと思います。

 だから、ブラックな職場環境さえ改善されれば、本当にサービス・料理が好きな人が、挫折せずに仕事を続け、外食文化の、ひいては日本の食文化のレベルが上昇していくのではないか、と思います。

 

 


 →TOPへ