信頼できるレストラン批評を見分ける

 飲食店の批評は、書店で売られている出版物から、インターネットのサイト、個人のブログなど様々ありますが、より有益な情報を得るために、信用できる書き手を見つけることはポイントでしょう。

 食べログに関するコメントなんかを見ていると、「悪いコメントしか参考にしない」というのをよく見かけますが、それもどうかと思います。
 悪いコメントなら提灯記事じゃないから正真正銘の口コミだ、という理由なんでしょうけど、悪口を書く人ならその人の主観が公平だ、とは限らないし、何より「食べログ」に関しては別の問題もあります。(食べログ問題については別に書きます) 

 飲食店の批評をする人は、大まかにわけて次の4つのタイプがいるように思います。

 @甘口タイプ
 A主観タイプ
 B客観タイプ
 C辛口タイプ

 もちろん、完全にどれか、というわけではなく、2つのタイプの間、という人もいますが、傾向を分けると、このような感じだと思います。(関係者の提灯記事は除く)

 @の甘口タイプは、どこの店もあまり悪く書かない人。
 そして、どの店も、それなりに好評価で、特別気に入った店には飛び抜けて評価をします。

 こういう人は、どちらかというと享楽的で、本質的に店に優劣をつけたいわけではなく、食べ歩きを純粋に楽しんでいる人です。

 この手の人の書く内容は、あまり参考になりません。
 それは、単にいいことばかりだからというよりも、こういう人は、だいたい根がポジティブな人なので、悪い出来事でも、むしろそれをネタや話題性として受け止めて、本気で楽しめたりするくらい、普通の人と根本的に感性が違ったりするからです。
 なので、良く書いているから行ってみたけど平凡な店だった…ということが起きやすい。

 ただ、悪口を書くのが嫌いなため、悪いと思っても普通の評価にとどめるタイプの人は、Bに属します。

 Aの主観タイプは、ブロガーや口コミサイトの投稿者に最も多いタイプだと思います。
 味覚的な主観の偏りから、サービス重視タイプ、ミーハー的指向性が強い人など、多種多様なので、お店の評価がブレる一番の要因でしょう。

 表向きは客観的な評価を装っていることもありますが、その実、自分の価値観が大前提で、その判断基準を譲る気は全くありません。
 誰しも主観が入るのは当然とはいえ、完全に「
自分の好き嫌い」と自覚していても、「私の好みではない」と言って低評価をつけたりする人も少なくありません。

 この手の内容は、人によっては参考になります。
 いわゆる「自分と好みの合う投稿者を見つける」というやつです。
 
書き手と同じ趣味・嗜好の人にとっては参考になるけれど、そうでない人にとっては全く参考にならず、真逆の評価になることもあります。

 Bの客観タイプは、真の評論家ともいうべき、ストイックな分析タイプの人。
 おそらく最も参考になるタイプの人ですが、この手の人は、かなり少数です。

 自分の好み・嗜好はあるけれど、それはそれとして、客観的に店のレベルを判断し、たとえ自分の好みではなかったとしても、出来栄えのレベルが高いお店には高評価をし、自分の好みのど真ん中だったとしても、それがあくまで自分の好みに過ぎない場合は、そこは割り切って冷静にジャッジをする人です。

 一見、Aのタイプとの区別が難しいですが、この分析型の人の特徴は、周りの意見や空気に流されないことです。
 そして、
誰も評価していない店や、あまり知られていないマイナーな店に、一人だけ敢然と高評価をつけたりするのが、こういうタイプの人の最も特徴的なところです。(「高評価」であることがポイント。一人だけ低評価するのは全く違います)

 Aの人は、周りの情報に流されるミーハーな人が多い、というのもありますが、自分の趣味・主観を貫いているように見えて、周りが誰も評価していないのに、自分一人だけ高評価をする度胸のある人は少ないからです。
 何故なら、
自分の主張についてプライドを守りたいので、「味覚のレベルが低い」とか「この程度のレベルで満足する人」と思われたくないという、自己防衛の心理が働くからです。

 自分は「美味しい」思ったとしても、周りに高評価をしている人がいなかったら、自分だけそう言い切る自信がないので、文章の上ではそこそこ美味しかったとか書きつつ、点数は5段階で3くらいにしておく、みたいな。そして、周りに高評価の人が増えてきたら、あらためて点数を上げるような人。

 ただ、周りが高評価する店に対して、自分一人だけが低評価をつけることはAの人でも出来るので、そこは区別が必要です。
 何故なら、自分ひとりだけが低評価をする場合は、「自分はこのレベルでは満足できない」という主張とも取れるため、プライドは傷つくことはないからです。

 このあたりが、AとBとの明確な違いです。
 Bのタイプの人は、むしろ自分の判断力と公平性に自信とプライドを持っているので、特に「高評価のつけかた」を見ていると、その違いがわかります。

 そうはいっても、完全に自分の趣味嗜好を消すことは難しいので、Aと似た部分もゼロではありませんが、意識的に公平な判断をしようとしているので参考になりやすいです。

 Cの辛口タイプは、とにかく辛口で、めったに店を褒めない人。
 
このタイプもあまり参考になりません。

 一見するとBのハイレベル版に見えなくもないですが、極端に辛口評価ばかりする人の深層心理は、店を評価するというより、むしろ「自己顕示欲」がその本質だからです。
 
それなりに評価されている店や、話題の店を中心に回り、それに対してあえてダメ出しをすることで、「自分は並のことでは満足できないハイレベルなグルメ」ということをアピールしたいわけです。

 そして、誰が見ても「鉄板」と思える店に対してのみ高い評価をつけ、そうすることで、ただ悪口だけを言ってるのではない、と見せかけるわけです。

 この手の人は、迂闊に店を褒めて、もし後からその店で何か問題が発覚した時に、そんな店を称賛した自分のプライドが傷つくことを極度に恐れているので、滅多なことでは褒めないよう常に自己防御しています。
 例えば、味を絶賛しておきながら、実はその店は化学調味料や既製品の業務用スープを使っていた…なんてことが判明したら、その人の評価レベルが根底からがた落ちしてしまいますからね。
 その結果、「基本的に辛口」というスタンスになり、逆にあらゆる評判や情報を調べた結果、この店なら褒めて
大丈夫、と絶対の担保が取れそうな情報源のある店だけ高評価するわけです。

 そんな恣意的な判断方法だから、参考にならないのです。

 ただ、人間というものは、幸せな話よりもゴシップや悲劇のほうが大好きな生き物なので、こうした辛口批評のほうが読み応えがあったり、まるで真実を暴いているような感覚になれるので、読んでいるだけならは面白かったりします。(店からするとたまったもんじゃありませんが…)

 喩えるなら、グルメ漫画『美味しんぼ』で、素人客が喜んで食べているのを横目に、ひとり不機嫌そうな顔で「こんなもの」と呟く山岡士郎だったり、さらにその山岡士郎に対して「お前ごときに何が分かる!」と言って全否定して高笑いする海原雄山、みたいな構図ですね。

 そんなわけで、グルメの批評や、食べ歩きブログ、口コミサイトなどを見る時は、あまり甘口すぎたり、辛口すぎたり、文面にやたら自分の好みが出てくる人ではなく、いつも客観的な表現で、時には誰も注目していないマイナーな店を発掘して高評価するような人が、最も参考になると思います。

 

 


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