グルメ漫画のご紹介

日本にグルメブームを作り出した存在として、
グルメ漫画の存在は外せません。
自分も、料理に興味を持った理由には、
子供の頃に読んだグルメ漫画の影響は少なからずあります。

そんなわけで、代表的なグルメ漫画について、
レストラン業界の視点で簡単に紹介します。

◆◆◆◆◆

『包丁人味平』

●原作 :牛次郎
●作画 :ビッグ錠
●発表年:1973年〜1977年
●発表紙:『週刊少年ジャンプ』

料理漫画の元祖と言われています。

日本料理の名人・塩見松造の息子・味平が、
洋食の道を志し、レストランに勤めながら、
料理対決を通じての成長を描いたお話。

描かれた時代が時代だけに、
料理のマニア度はそれほど高くはありません。

また、炎天下の中、汗だくになって
生の豚肉を捌いて料理するなど、
「それって食品衛生的にどうなの??」
と、冷静に見ればつっこみどころ満載の漫画ですが、
そうした演出は、時代性と考えて割り切りましょう。

料理対決の形式を確立したりと、
グルメ漫画のさきがけとして、
上手に作られた漫画だと思います。

現代人感覚でのグルメ薀蓄に期待しなければ、
今でも十分面白い漫画です。

◆◆◆◆◆

『美味しんぼ』

●原作 :雁屋哲
●作画 :花咲アキラ
●発表年:1983年〜継続中(2015年現在一時休載中)
●発表紙:『ビックコミックスピリッツ』

日本にグルメブームを作ったとされる、
グルメ漫画の代表的存在。

天下の食通として知られた北大路魯山人をモデルにした、
日本のグルメ会の頂点のような存在に描かれる海原雄山と、
その息子・山岡士郎を中心に巻き起こる人間ドラマ。

グルメブームを生んだだけあって、
読み手の好奇心や知識欲をくすぐる、
随所にちりばめられた食に関する薀蓄と、
必ずしも主人公が勝つとは限らない料理対決は、
非常に面白く出来ています。

初期の頃は、素人に毛が生えた程度だった食に関する薀蓄も、
原作者の知識の増強に伴ってどんどんマニアックになり、
しまいには政治思想の押しつけにまでエスカレートし、
偏った内容になって賛否分かれるようになってしまいましたが、
途中までは間違いなく名作でしょう。

味を表現するのに、ワインのソムリエの表現技法のような
手法を取り入れることで、「食べながら薀蓄をたれる」
ということを、世間のグルマンに流行らせた…気がします(笑)

どんな悩み、社会問題も、美味しい料理が全て解決するという、
これが本当に出来たら世界平和なグルメ漫画。

もっとも、特殊な知識や技術のように書かれていることが、
実はレストラン業界の人間からすれば常識レベルのことだったり、
「そんなことねぇだろ」って内容も多々あるのですが、
そこは漫画と割り切れば、十分楽しめると思います。

◆◆◆◆◆

『クッキング・パパ』

●原作 :うえやまとち
●発表年:1985年〜継続中
●発表紙:『週刊モーニング』

週刊モーニングで現在も連載が続いている長寿漫画。
一見、いかつく強面でゴルゴ13のように無口な上司が、
家では実は料理好きの優しいパパという、
料理対決が中心の他のグルメ漫画とは一線を画す、
ホームドラマ的な作品。

この漫画の最大の特徴は、出てくる料理は全て、
家庭でも作れる料理ばかりなこと。
それもそのはず、料理好きの集まった仕事場で、
実際に料理を試作してそれを漫画にしているそうです。

物語の終わりには必ずレシピと調理手順が紹介され、
使用する食材も、一般のスーパーで手に入るものばかり。

漫画としてよく出来ていながら、実用性も高いという、
一粒で二度おいしい傑作です。

◆◆◆◆◆

『ザ・シェフ』

●原作 :剣名舞
●作画 :加藤唯史
●発表年:1985年〜2013年
●発表紙:『週刊漫画ゴラク』

この漫画をグルメ漫画と呼んでいいのかどうか微妙ですが、
レストランを舞台に、根強い人気のある作品。

超一流の腕の持ちながらも、どこにも所属せず、
普通の料理を作っているのに何故か「邪道」扱いされ、
色々なところに頻繁に出没して仕事をしているのに、
「幻の料理人」扱いされている、謎の男・味沢匠。

依頼を受けると、必ず顧客を満足させる料理を作るが、
その代わりに法外な報酬を要求するという、
料理対決ものではなく、一話完結型の人間ドラマ。

簡単に言うと、「ブラックジャック」と
「ゴルゴ13」を足して、料理版にしたもの。
というか、主人公の見た目も性格も、
物語中における業界内での立ち位置も、
ほとんどブラックジャック(笑)
徹底したクールぶり、無駄話を嫌うところはゴルゴ13。
話の節まわし、必ずしもハッピーエンドとは限らない
オチのつけかた、悪役ぶってるわりに、
相手によっては報酬を取らない微妙な善人ぶり。
そのへんはかなりブラックジャック(笑)

しかし、話はよく出来てます。
ストーリー自体は上手に人間ドラマを構成し、
何でも強引に料理で解決させるわけではなく、
時には料理はストーリーの添え物だったりと、
ドラマの自然な展開を軸においた、
読んでて飽きない秀作です。

◆◆◆◆◆

『ミスター味っ子』

●原作 :寺沢大介
●発表年:1986年〜1990年
●発表紙:『週刊少年マガジン』

若年層にグルメブームを生んだ有名漫画。
大衆食堂「日之出食堂」の息子・味吉陽一が、
何故か次々と舞い込んでくる料理対決に、
天才的ひらめきを発揮して勝利していく物語。

少年誌の作品だけあって、内容はややお子様向け。
料理に関する内容は、ほとんど「子供だまし」レベルで、
主婦の知恵程度のことが天才的アイディアのように扱われ、
パスタを茹でるのにタイマーを使用することが、
前代未聞な秘策となる料理漫画。

料理そのものについてはチャチな内容ですが、
この漫画の面白さは、実は料理ではありません。

料理を食べたキャラが、
美味しさのあまりに目から怪光線を出したり、
巨大化して大阪城を破壊するという、
過剰すぎる演出のナイスなセンスこそが、
この漫画の醍醐味です。
これは決して嫌味や皮肉ではなく(笑)、
「味」という、絵と文字だけでは伝えにくいものを、
SF的な表現を用いることで伝え、成功させたことは、
漫画界におけるひとつの技術革新だったと思います。
(もっとも、はじめ原作ではそこまで激しくなかったのが、
 アニメで誇張され、それが原作に逆輸入されたらしい)


娯楽作品として読めば、
一時代を築いただけのことはある漫画だと思います。

◆◆◆◆◆

『味いちもんめ』

●原作 :あべ善太(〜1999年)
●作画 :倉田よしみ
●協力 :福田幸江(2000年〜)
●発表年:1986年〜(原作者逝去による中断の後)続編が継続中
●発表紙:『ビッグコミックオリジナル増刊号』
     ⇒『ビッグコミックスペリオール』

料理学校を出て、和食の名店に就職して修行する若者、
伊橋悟の物語。

とても面白いです。
この漫画は、グルメ漫画というより、
「料理人漫画」と言ったほうが良いでしょう。

料理がうまい・まずいの話ではなく、
ひとりの若者が、一人前の料理人に育ってく物語。

どちらかというと、食べる側ではなく、
お店側視点が中心の物語で、
レストラン業界の人間としては、
なかなか共感することの多い漫画です。

もっとも、現実の和食の修行はもっと厳しく、
漫画のようにアットホームではないと思いますが(笑)

よくあるグルメ漫画のように、
主人公が天才的な味覚の持ち主というわけでも、
いかにもマンガ的な偽善者で生真面目なわけでもなく、
料理人のくせに煙草は吸う、博打はうつ、ソープに通う、
失敗して先輩に殴られ、失敗した後輩にブチ切れるなど、
泥臭い現実的な「若者」として描かれ、
それが、少しずつ一人前の料理人として、
つまづきながら成長していくところが、
他の漫画にない独特のリアリティを持たせています。

単に技術的なことだけではなく、
一人の料理人として、料理屋として、
お客さんにどうやって満足してもらうかに悩んだりと、
すごくリアルなストーリー展開なのが面白いです。

◆◆◆◆◆

『食戟のソーマ』

●原作 :附田祐斗
●作画 :佐伯俊
●協力 :森崎友紀
●発表年:2012年〜継続中
●発表紙:『週刊少年ジャンプ』

週刊少年ジャンプで現在連載中の漫画。
定食屋「ゆきひら」の息子・幸平創真が、
日本有数の料理学校に入り、
料理人の卵たちとの対決「食戟」などを通じて
成長していく物語。

世間ではよく、「ミスター味っ子」の現代版、
という評がされることがあるようです。

確かに、基本設定が似ていて、
料理薀蓄は一般レベルだし、
食べたキャラが過激なパフォーマンスをするという
演出方法も似ています。

しかし、何と言ってもこの漫画の良いところは、
「絵が非常に綺麗」なことです。

何故かわかりませんが、
グルメ漫画は、原作と作画が分かれていても、
綺麗系の絵の作品が少ない(笑)

そうした中にあって、この漫画は、
群を抜いた画力の高さがあります。

料理は、見た目も重要なので、
絵だって綺麗で美味しく見えた方がいいですよね。
また、美味しさの演出方法が、何故かお色気路線(笑)
これも、ある意味斬新。

フランス料理で、コース料理の組み立ての難しさとか、
味ではなく段取りに手こずる現実的な描写もあったので、
奇抜なアイディアやレア食材で勝利するといった、
グルメ漫画おきまりの展開ではなく、
リアリティのある表現を開拓してくれることを期待です。

 


 →TOPへ