次世代飲食チェーン店に必要なのは毎週の定休日

 すかいらーくグループが全店の24時間営業を取りやめる、と発表されましたが、飲食業界において次に求められることは、年中無休を止め、毎週の定休日を設けることでしょう。 

 飲食・小売業界が、この数十年の間で人件費抑制のために社員を減らし続け、多数のアルバイトに依存してきたことは周知のことです。
 また、特に年中無休で営業時間の長いチェーンの飲食店においては、下手をすると店に1人〜2人くらいしかいない
社員が休みを取るために、アルバイトを教育し、「バイトリーダー」なるものが店を守るのが当たり前になっていることも、今ではよく知られていることでしょう。

 そうなった時に常に課題とされてきたのが、作業の簡素化です。
 熟練が必要な職人技ではなく、アルバイトでも作業できるような商品だとか、設備を開発したりすることが飲食業界では重要なテーマとされてきました。

 また、昨今の「働き方改革」を受けて、より店舗従業員の負担を減らすために、機械化だとかロボット化だとかがよく話題になります。

 しかし、その方向性が上手く行くでしょうか??
 僕は、いかないと思っています。

 むしろ、プロでしか作れない料理や、熟練のサービスでなければ価値を認めてもらえない時代になるのでは?? と思っています。

 そうなった時に必要になるのが、定休日なのです。

 そもそもオーナーシェフや板前がやっているような小さな個人店には定休日があります。
 当然ですが、シェフがいないと料理が出せないし、定休日がないと休めないからです。

 最近ではチェーンの店は元気がなく、そうした小さな店のほうが元気があると言われていますが、それは当然のことのように思います。

 二十一世紀に入る前くらいまでの流通環境では、個人より大手の方が明らかに購買力がありました。
 だから、一括で大量購入する大手飲食チェーンは個人店より安く材料を仕入れ、コスパの高い商品を提供することが出来ました。
 また、人件費も安かったので、大きなハコで多くのアルバイトを雇っても、人件費が経営を圧迫しませんでした。
 
また、食品の加工技術においても、飲食店向けと家庭用の製品では歴然とした差があり、セントラルキッチンで作られた冷凍食品は、スーパーで買える冷凍食品よりもたいてい味は上でした。

 しかし現在では、日本全体の流通網が発達したため、大手チェーンだからといって特別安く商品を仕入れられるわけではなく、物によってはむしろ、町のスーパーの方が安かったりするくらいです。
 何より、冷凍食品の技術がめちゃくちゃ上がり、現在の家庭用の冷凍食品や冷蔵商品のレベルはかなり高く、バイトが作っているチェーン店の商品なんて、スーパーで買える冷凍食品と同等か、それ以下であることもあります。

 だから、味に特色のなくなった飲食チェーン店より、技術があって作りたてを提供する個人店のほうが支持されるわけです。

 ここまで書けばもうお気づきかと思いますが、飲食チェーン店が、よくレンチンだとか冷凍だとか揶揄されるような料理しか提供しなくなったのは、アルバイトが作ることが前提になっているからです。

 しかしそもそも、何故アルバイトに依存しないといけないのか? というと、社員ばかりだと人件費が高くつくし、年中無休で営業時間も長いため、運営の多くをアルバイトに任せないと社員が休めないからです。

 だから多くの外食企業が、アルバイトでも高品質な料理を提供できる調理機器や仕組みの開発に必死になっているわけですが、そこにある問題は、仮に機器の技術革新によって一瞬の成功を生み出せたとしても、あっという間に家庭に追いつかれることです。

 もし、ボタン一つで高級フレンチが作れるようなスーパー調理機器が開発されたとしても、すぐに同業他社が真似をし、数年もすれば家庭向けの小型機が開発され、あっという間に優位性は失われることでしょう。

 結局そこにある本質は、どんな料理であるかではなく、プロの手でしか実現できなかったり、家庭では手間がかかり過ぎる料理だからこそ価値が生まれるのだと思います。

 家庭料理のレベルが上がれば、飲食店にはそれを超える技術が求められるようになるわけです。

 ラーメン店の人気が高いのもまさにそれですね。
 美味しいラーメン屋が支持されるゆえんは単純で、家では真似ができない、もしくは手間がかかり過ぎる商品だからです。
 家庭用の冷凍ラーメンや冷蔵ラーメンのレベルも随分上がりましたが、まだまだラーメン専門店には及びません。
 だから人気店には行列が出来ます。

 ただ、これもよくよく過去を振り返ってみると、かつては業務用スープを少し加工した程度のラーメン店でも十分に成り立っていたのです。
 しかし、技術の進歩とともに、ラーメン屋のレベルは上がり、スーパーで買える製品や素材のレベルも上がり、そうして家庭に追いつかれたレベルの昔ながらのラーメン屋は、ほとんど潰れてしまいましたよね。
 一方、生き残っているラーメン店は、家庭では味わえないレベルを提供できる店だから生き残れるのです。

 だから、大手食品メーカーの開発する家庭用スープが今の専門店レベルになり、冷凍麺で専門店レベルの生麺を安価に再現できるようになったら……?
 おそらく、多くのラーメン屋が潰れるでしょうね。
 そうやって、追いつき、追い越していくことが繰り返されていくのです。

 このことは、あらゆる料理においても言えることだと思います。
 
飲食店が価値を生んで差別化するには、家庭では真似できない料理であることが必要条件なのです。

 もっとも、手作りの料理が価値を生むことは昔から誰もがわかっていることでした。
 しかし、それを年中無休でやっている店に押し付けたところで、数少ない社員に負担が集まるだけで、仕組みにならないのです。

 そこで、毎週定休日があって、営業時間も11:00〜21:00、しかも15:00〜18:00は準備中、としたらどうなるでしょう?

 そもそも、店をバイトに任せる必要がありません。
 バイトに任せる必要がなければ、社員でなければ出来ない調理工程でも問題ありません。
 ある意味逆転の発想ですが、ぶっちゃけ飲食店の本来の姿です。

 もちろん、それなりに大きな店であれば、全ての料理を一人で作ることは出来ないので、ある程度のアルバイトの教育は必要です。
 しかし、社員が常に調理状況をチェックし、ストーブ前やソースといった一部の仕上げだけを技術のある社員がするとか、そうなると提供できる料理の幅もレベルも全く変わります。
 目指すべきは、そうした仕組みなのです。
 
サービスにしても、「責任者を呼べ!」といわれて、「今社員はいません」なんてお粗末なことは発生しなくなります。

 高い価値の商品が提供出来れば、価格も上げられます。
 客単価が上がれば、定休日によって減少した売上の全てを回収できるまではわかりませんが、固定費分くらいの回収は可能ではないでしょうか?

 むしろ、そうすることによって、世間からよく「一か月休みなし」「外食はブラック」などと叩かれるようなことは発生しなくなり、運営管理も簡単になります。社員の残業代も減少します。

 チェーン店で毎週の定休日なんて常識外れだ、と思われるかも知れませんが、アメリカで屈指のファーストフードチェーン店である「Chick-fil-A」は、毎週日曜日が定休日です。

 そもそも、労働者には法定休日数を休ませる義務があります。
 法定休日数とは、その月の日曜日の数。
 つまり、週一回定休日があれば、完全にクリアできます。

 コンビニの元旦休日について話題になった時、「オーナーがバイトと信頼関係があれば人は集められる」と言う人がいましたが、それはそれとして、その個人の能力によって休みが取れないことが発生すること自体がおかしい。
 それに、バイトが集まり、オーナーが元旦休めたとしても、結局はそのバイトが元旦に働いているということですよね?
 確かにオーナーとの信頼関係があるからこそ、そのバイトも納得して出勤するのでしょうけれど、見方によってはただの「やりがい搾取」ではないでしょうか?

 もっとも、元旦の休日は法定休日ではありませんが、年中無休のチェーン店の店長の場合、法定休日数休めないという例はよくある話です。
 そうしたことが発生すること自体がおかしいことで、極端な話、どんなに無能な店長であっても法定休日は確実に休めるのが企業として当然のあり方であり、それが個人の能力によって左右される前提自体が時代遅れです。

 それに、飲食の仕事って、それ自体は実はすごく楽しいので、労働環境さえブラックでなくなれば、優秀な人材も集まってくるように思います。

 飲食チェーンの経営者は、よく考えるべきことと思います。

 


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