1990年代に世界の音楽会で大ブームとなった「三大テノール」(三大テナー)、ルチアーノ・パバロッティと、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス。
三大テノールは聴かねば損
歌が好きな人で、この三人のことを知らない人は、ぜひ聴いて欲しと思います。「オペラ歌手」のファンというと、クラシックファンの中でもさらにコアな部類でありながら、それがクラシックファンでない人々の間でも話題になったのは、当時としてはなかなかセンセーショナルでした。
それは僕にしても同じ。
声楽をやっていた母親の血の影響か、高校生くらいから、オペラ歌手の歌うイタリアのカンツオーネを好きになったりすることはありましたが(きっかけは音楽の授業で習った「帰れソレントへ」や「カタリ・カタリ」など)、CDを買ってまで聴いたりするほどではありませんでした。それが、この3大テナーの1994年のロサンゼルス公演がテレビで放映されるとなった時、オペラ好きの母親が「絶対に観た方がいい」というので観てみたら……どハマリ!!
序盤はオペラのアリアや、渋めの歌曲が多かったのですが、まず衝撃を受けたのは、三人の中でも最年長のパバロッティの歌う「誰も寝てはならぬ」。
歌劇『トゥーランドット』の中のアリアで、フィギュア・スケーターの荒川静香さんがスケートのバックミュージックに使用していたことでも良く知られていますが、当時「ネスカフェゴールドブレンド」のCMで、"錦織健は知っている"というナレーションとともに流れているのが耳に残っていたため、すぐに聴いた瞬間、「おっ?」と思いました。しかし、そこはさすが当代随一と言われた世界最高のテナーであるパバロッティ。
もはや宇宙的なスケールにも思えたその圧倒的歌唱力に度肝を抜かれました。
その時、ちょうど外から帰ってきた兄(クラシック音楽とは無縁の体育会系男子)も、たまたまそれを観ていたのですが、オペラなど微塵も興味のない兄ですら、「これはすごいな……」といって、笑みをこぼしていました。そして、その後に続いたのは、世界の民謡や歌謡曲、そしてアメリカのポピュラーミュージックメドレー。
オペラ歌手なんて、仰々しく歌うばかりだと思っていたし、ポップスなんて歌っても合わないと思っていたのですが、それは大きな間違いでした。ただそれは、オペラ歌手云々というより、この三人の歌手としての表現力の幅広さがあってのことではあります。
でも、オペラ歌手のように完成された歌唱力の歌い手が唄うからこその、いままでに聴いたことのないサウンドや世界観が、とても新鮮でたまらなく魅力的でもありました。
おそらく三大テナーが世界的にブームになったのも、僕と同じように感じた人が世界中に発生したからでしょう。
オペラファン以外にまでファンの裾野を広げたという点では、この三大テナーの功績はクラシック史上でも歴史的とも言える偉業だと思います。
「三大テナー」いった呼称は、この三人の前の世代にも存在していたそうですが、あくまでクラシック界での人気であり、クラシックの壁を超えて社会現象にまでなったのは、後にも先にもこの三人だけのようです。いまやパパロッティは亡くなり(2007年・72歳で永眠)、後のふたりも70歳を超え、当時のファン以外の間でその名前があがることはもうないかも知れませんが、クラシックだけに、その魅力は決して色あせないと思うので、今の人にも是非聴いて貰いたいなあ……と思います。
ワーナーミュージックさんがyoutubeでロサンゼルス公演をアップしているので、簡単に観ることができます。
全部観て欲しいといいたいところですが、最低限絞り込むとしたら、まず観ないといけなのはやっぱり、パバロッティの「誰も寝てはならぬ」⇒youtubeただ、この当時59歳なので、厳密には全盛期を過ぎてはいるのですが、初見では全くそんなことを感じさせない圧倒的迫力です。
もしこれでパバロッティに興味を持たれたら、若い頃のパバロッティの「誰も寝てはならぬ」の映像を漁ってみるのもいいと思います。
1970年代〜1980年代のパバロッティの声のすごさは尋常じゃない…
「輝く声」という表現がこれほどまでにふさわしいと思える歌い手はいないと思います。
天空の遙か彼方まで届きそうな歌声。
もっとも、若い頃はあまりにも技量が高すぎるせいか、音楽的な深みという点では、声に渋みが出てきた1990年代のほうが良いかも知れません。……と、パバロッティの話にばかりなりましたが、当時日本人の中で一番人気があったのは、プラシド・ドミンゴだったようです。
三人の中でも一番甘い声をしていて、風貌も格好良いので、特に女性ファンが多かったとか。
で、僕の一番のお気に入りは、ホセ・カレーラスでした。
歌の技量という点では、三人の中で一番声にムラがあるのですが(といっても世界トップレベルでの話)、むしろその不安定さがフレーズに表情をもたらしていて、カレーラス自身も激情的な歌い方をするので、歌に味わいがあり、歌の真似をしたくなるのは(技術的には全く真似できませんが)カレーラスでした。
パバロッティは、輝くように美しい声をしていますが、表情は全体的に軽め。(いかにもイタリア人っぽい)
ドミンゴは、とても表情豊かで完成度も高いけど、どこか計算されきったような感じで、意外性というかドキドキ感がないというか。まあ、百聞は一見にしかず。
とりあえず、歌が好きであるならば、ロサンゼルス公演でのアンコールの「乾杯の歌」と「オ・ソレ・ミオ」は、聴いとかないと、人生、損してますよ。
ぜひ、聴いて・観てください!