アート・ブレイキー

 ジャズ史上最高のドラマーのひとり、アート・ブレイキー。
 モダンジャズ期のドラマーで人気投票をしたら、おそらくブレイキー、マックス・ローチ、トニー・ウィリアムスの三人で評が分かれるのではないでしょうか。
 ジャズ好きには説明不要なくらいのジャズ・ジャイアンツです。

 個人的に特別の思い入れのあるジャズ・ドラマーです。
 
なぜなら、僕が生まれて初めて自分のお小遣いで買ったCDが、この人のCDだったからです。
 
中学生の時、父親の勧めで「グレンミラー物語」という映画を観て急速にジャズに興味を持った僕は、ジャズのCDが欲しくなり、そこで何となく手に取ったのが、アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズの「チュニジアの夜」というアルバム。

 アートブレイキーのことを知っていたわけではありませんが、当時ドラムをやっていたので、そのCDのラベルに、ドラムがすごいみたいなことが書かれていたので、何となく買ってしまったのです。

 …ですが、初めてそのアルバムを聴いた時は、良さが全然わかりませんでした。
 ジャズといっても、
アドリブ中心に進行するモダンジャズは、グレンミラーのようなビッグバンドのジャズとは全く異質なもので、普通の音楽にイメージするような明確な旋律や楽曲構成がないからです。

 しかもそのアルバムでの「チュニジアの夜」は、ハイスピードなアフロキューバンなので、当時の僕には、何をやっているかがさっぱりわからない。

 …と、全然良さがわからなかったにもかかわらず、これは自分の理解力が足りないからだと思って、もう少し聴いてみようと、さらに別の1枚アルバムを買ったのです。
 
そこで買ったのが、「モーニン」というアルバム。
 
選んだ理由は、アルバムの中に「ドラムサンダー組曲」なるものがあったので、激しいドラムソロなんかを期待して買ったわけです。

 そして僕は、最初の一曲目、"Moanin'"の冒頭のピアノに、わずか3秒でノックアウトされました。
 
ブルージーなピアノフレーズに、アダルトでどこか気だるそうなトーンのトランペット・サックス。
 
そして、リー・モーガンのファンキー爆裂なアドリブ。

 同アルバムに収められている"Blues March"にも大ハマリし、この日から僕はジャズに傾倒するようになり、特に「アドリブ」の魅力を感じ取れるようになったのです。

 ジャズはジャズでも、グレンミラーなんかはアドリブが少なく、ムード音楽っぽい。
 
最初はそのほうが聴きやすかったのですが、"moanin'"のリー・モーガンのトランペットや、ボビー・ティモンズのピアノのアドリブを聴いているうちに、アドリブの妙味こそジャズの醍醐味であることに気付いたわけです。

 そうすると、最初は理解できなかった「チュニジアの夜」の良さがわかってくるから面白いものです。
 いや、わかってくるというレベルではなく、痺れるほどに超カッケーと思えるようになったくらいです。
 
適当に吹いているだけにしか思えなかったリー・モーガンのソロが、とてつもなくカッコいい神フレーズに聴こえ、背筋がゾクゾクするほど興奮しました。

 アートブレイキーの話から逸れたように思われるかも知れませんが、アートブレイキーの最大の魅力は、そうした「バンド」としての魅力を引き出す力だといっても過言ではありません。

 ブレイキー率いるメッセンジャーズは、若手ジャズメンがスタープレイヤーになるための登竜門として、先のリー・モーガンはじめ、ウェイン・ショーターやフレディ・ハバード、ウィントン・マルサリスといった数多くのスーパースターを輩出しています。

 そうしたジャズ・メッセンジャーズ時代はもちろん、俗に「ハードバップの夜明け」と言われるバードランドでのライブしかり、ブレイキーの参加する演奏は名演揃いです。

 といって、ブレイキーの凄さは運営力でドラムが大したことがなかったと言っているわけではありません。
 
バディ・リッチのような超絶技巧や、マックス・ローチのように新しいスタイルを開拓したわけでもなく、超絶ドラムソロをするというわけでもないのに、「モダンジャズのドラマー」といえば3指に入るであろう、代名詞的なドラマーに数えられるゆえんは、もちろんそのセンスあふれるドラミングによるものです。

 超絶プレイはなくとも、ブレイキーのドラミングは、ジャズの魅力的なエッセンスを凝縮したようなテイストに溢れています。
 
数いるドラマーの中でも特にワイルドな音色なのに、不思議と非常に心地よく、複雑なリズムというわけでもないのに、絶妙なタイミングで良いリズムを入れてくる。単純な連打だったり、一定のリズムパターンの繰り返しだったりするのに、ブレイキーが醸し出すそれらのバッキングやフィルが、絶妙なムードとドライブ感を生み出します。

 ブレイキーは、自身のルーツであるアフリカ音楽を研究し、それをジャズドラムに取り入れたそうですが、おそらくそれによって、ブレイキー特有の色と魅力を形作っているのでしょう。

 ブレイキーは「アフリカ三部作」と称して、アフリカ音楽とジャズを融合させたアルバムを作りましたが、完結編である「ジ・アフリカンビート」は、もはやジャズではなく、ほぼアフリカ音楽。
 
これを聴くと、「ああ、ブレイキーの求めていたテイストはこれだったんだな」というのがよくわかります。

 あと、ブレイキーはすごい良い人で、親日派でもあったそうな。
 
日本を好きになった理由は、ブレイキーが初めて来日した際、日本人ファンが大歓迎して、握手を求めてきたり、一緒に写真を撮ってほしいと言われたことがきっかけだったというのは有名な話です。
 
当時の欧米社会ではまだまだ黒人差別が激しく、音楽は聴いてもらえても、人としての扱いは別問題だったらしく、それが日本では、何の抵抗もなく人間扱いされたことに、いたく感激したからだそうです。

 「良い人エピソード」としては、ある年の来日公演の際、当時若手ジャズドラマーだった猪俣猛さんがドラムのセッティングとチューニングをされた時の話を、昔ある雑誌で読みました。
 
世界的なジャズ・ジャイアンツであるブレイキーのセッティングだからと、猪俣さんは、はりきって準備をされたそうです。
 
そしてブレイキーがやってきて、音を確認すると、いたく喜び、素敵な笑顔で礼儀正しく「サンキュー」と感謝されたそうな。
 
しかし、猪俣さんがそこを立ち去った後、こっそりブレイキーの様子を見ていると、ブレイキーは太鼓のボルト思いっきり緩めだし、チューニングをゼロから全部やり直していたという…
 
猪俣さんはその時、ある意味ガッカリしたものの、ブレイキーの優しさと紳士ぶりに感激されたそうです。

 モダンジャズに興味があって、何から聴いたら良いかに迷っている人は、ぜひ「アート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズ」の「モーニン」を聴いてみてください!
 

 


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