ボタンダウンシャツの着こなし

 「ボタンダウンシャツ」とは、ワイシャツの襟の端っこをボタンで留めるようになっているタイプのシャツのことです。
 スーツの発祥といえばイギリスですが、ボタンダウンシャツはアメリカ生まれのシャツなので、ボタンダウンシャツを着こなすならアメリカンスタイルをイメージするのがポイントだと思います。
 アメリカンスタイルといえばアイビールックに代表されるジャケパンスタイルですね。それこそ紺ブレなんかは、ボタンダウンシャツと抜群の相性だと思います。

 ボタンダウンシャツについては、日本の一部の服オタクや、ファッションアドバイザーを自称するYoutuberなどが、「ボタンダウンシャツはカジュアルシャツ」「ボタンダウンシャツにネクタイはNG」といった情報を流していますが、完全に間違いです。

 ボタンダウンシャツは、アメリカン・トラディショナルを代表する服飾メーカー、ブルックス・ブラザーズが1896年に考案したシャツです。
 
ポロの競技中の服装をヒントにして生まれたシャツで、「ポロカラーシャツ」とも言い、販売時はネクタイとのセットで売られていて、スーツスタイル用に作られたシャツです。
 生まれが19世紀ですからアメリカではトラディショナルなシャツといえ、ハーバードやイエール大学をはじめとするアイビーリーガー達の間で愛用されたので、アイビールックの定番でもあり、1960年代にヒットしたアメリカのテレビドラマ「奥様は魔女」のダーリンのスーツスタイルはボタウンダウンシャツでした。

 アメリカ生まれのため、スーツ発祥の地であるイギリスやヨーロッパではややマイナーな存在ではありますが、日本では戦後にアメリカ文化の影響を大きく受けたことと、1960年代のアイビーブームを代表にアメリカンスタイルの服装が流行したので、日本ではその頃からボタンダウンシャツが広まり定着しました。
 1967年にスタートしたモンキーパンチ原作の漫画『ルパン三世』の次元大介も、当時のトレンドの影響か、ボタンダウンシャツにネクタイが定番スタイルです。

 ただ、「ボタンダウンシャツはフォーマルに不向き」というのは正しい部分もあり、そういう意味ではカジュアルシャツに分類されるとは言えます。
 なぜこのような曖昧な表現になるかというと、そもそも日本では「フォーマル」の認識が曖昧だからです。
 
本来のフォーマルとは「冠婚葬祭」のことで、欧米ではこうした儀式での服装は明確に規程されていて、それが「フォーマル」なのです。

 しかし、日本での「冠婚葬祭」となると、皇族や上流階級のプロトコルだとか、名門・名家の格式ある結婚式や葬儀とかでない限り、厳格なフォーマルウェアを着用しません。
 「葬儀」であれば喪服を着るくらいのイメージはあるでしょうけど、結婚式やパーティとかなら自由度は高いし、今時はむしろタキシードやディレクタースーツを着る人のほうが珍しいでしょう。

 なので、正式な意味での「フォーマル」となれば、ボタンダウンシャツはNG、時計はシンプル文字盤のドレスウォッチ、靴はストレートチップとかいったマナーは正しいと言えますが、現実問題として、大多数の一般的な日本人にとっての「フォーマル」となれば、結婚式とかでも今時は自由度の高く普通のスーツやネクタイで参列しているので、ボタンダウンがNGとかいうのは無意味な話でしょう。
 日本での「フォーマル」という言葉は、本来の意味での用法よりむしろ、会社の方針発表会といった行事での「ビジネスフォーマル」といった用法のほうが多く、あくまでビジネスレベルでの「かっちりした格好」という意味においては、ボタンダウンシャツでも何ら問題ないと思います。

 日本でボタンダウンシャツが広まった歴史をたどると、1960年代のアイビーブームで流行に火が付くも、1980年代頃からヨーロッパのブランドが次々と上陸し、伝統と格のあるヨーロピンアンなスタイルに人気が集まると、アイビールック自体が流行遅れとなり、バブル全盛時代にはイタリアのアルマーニのソフトスーツが流行ったりと、アメリカンスタイル自体が下火になります。
 
それがそこから2005年に「クールビズ」が生まれてから、再び人気が高まりました。
 
クールビズでノーネクタイにすると、胸元がどうしても寂しく、だらしなくも見えてしまうので、襟にワンポイント入ったボタンダウンシャツはそれを補えてちょうど良かったのです。

 ただその頃に、襟が色つきで二重になっていたり、ボタンダウンのボタンが2重にあったりと、ゴテゴテしたお洒落シャツが多く出回ったため、伝統的なスタイルにこだわるスーツマニアは、そうしたものを「邪道」として徹底的に批判しました。
 
最初にも書いたように、日本の服オタクの一部の間で、「ボタンダウンシャツはカジュアル」とか「ボタンダウンシャツにネクタイはNG」といった風潮が生まれたのは、そうしたことへの反発が大きいのかも知れません。

 また、比較的新しい世代のスーツオタクは、後発のアメリカンスタイル自体を傍流とし、「スーツ発祥地であるイギリスのスタイルこそ正義、それ以外は認めない」というような「イギリス原理主義」的な傾向の人もいて、そうなるとまた話がややこしくなります。

 ただ、ここは日本なので、そうした厳密にNGとか言うこと自体がナンセンスだと思います。

 TPOに対して「どうでもいい」というのはおかしいと思う人もいるでしょうけど、むしろ、ネットなどを検索してまことしやかにヒットするそうしたルールのほうが、少なくともこの「日本」においては実態の伴わない、偏った意見だと思います。

 特に、ボタンダウンシャツを「スポーツシャツ」とか言っちゃってる自称ファッション通とかもいますが、単にポロ競技の服装から着想を得たと言うだけで、スポーツ用に作られたわけではありませんし、そもそもスポーツ用のワイシャツなど存在しません。(ボタンダウンのワイシャツでするスポーツ競技があったら逆に聞きたい)

 イギリス原理主義のスーツオタクは、ボタンダウンシャツを着るのはアメリカ人と日本人だけで、イギリスでボタンダウンシャツを着ていくと恥をかく、と言っている人もいます。
 ですが、かつてはどうか知りませんが、現在はイギリスでもボタンダウンにノータイとか、スーツスタイルにリュックのビジネスマンがロンドンの街を歩いているので、これも実態のない話です。

 そもそも、いくらスーツの本場がイギリスとはいえ、日本のファッションをイギリス基準にすること自体に無理があると思います。
 他国の文化をリスペクトすることは大事だし、イギリス訪問するならイギリスに敬意を払って正装することだって良いことと思いますが、こと「日本」でのファッションとなれば、イギリスだけでなくアメリカにビジネスマンだって多数訪日するわけですし、そもそも
年中たいして暑くならないイギリスと、夏は亜熱帯レベルに蒸し暑い日本とでファッションを同列に考えるほうが本来おかしいのです。

 それに逆の立場で考えて、たとえばアジア好きのイギリス人が、日本の半纏を着ながら中国の人民帽をかぶって街を歩いていたとしても、それはそれで微笑ましいと思いませんか?
 そこに「半纏を着るなら人民帽なんておかしい!靴を履くな!草履か下駄を履け!」と噛みつくのは、それこそ粋じゃないと思います。
 
イギリス人だって、革靴ではアメリカ生まれのグッドイヤーウェルト製法をちゃっかり取り入れて、それが主流になってるわけですから、結局はイギリス人にとっても誰も彼もが正統派しか認めないというほどのことでもなく、好みの話です。

 ましてボタンダウンにネクタイNGとかいう微妙なルールは、一部の自称ファッション通が勝手に広めてるだけのローカルルールで、そもそもそうしたマニアがネットで広めたりしていなければ、ほとんどの人が気付かない・意識しないレベルのことだと感じます。

 確かに、ビジネスで、不特定多数の人と接する以上は、あらゆるタイプの人にも不快感を持たれないように、無難な格好をすることは大事です。
 あまり派手
な色のボタンのシャツはお堅い場には似つかわしくないかも知れませんが、透明ボタンや、スーツやネクタイの色系統と合わせたような着こなしをしていたら、気にならない人がほとんどだと思います

 そんなわけで、僕はボタンダウンシャツに平気でネクタイを締めます。
 ただ、コンセプトは持たせたいから、ボタンダウンにネクタイをあわせるならアイビーっぽいジャケパンスタイルで、ブリティッシュスタイルのネイビースーツでネクタイを締めるときは、ボタンダウンじゃないシャツを選ぶ、という具合です。
 
 

 


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