ミュージカル「エリザベート」

 僕はそんなにミュージカルを観るほうではありませんが、このミュージカルはすごく好きです。

 19世紀に実在した、オーストリア=ハンガリー帝国の皇后、「エリザベート」を主人公にしたオーストリアのミュージカル。
 作曲は、アメリカのドラマや映画音楽なんかも手がけている、シルヴェスター・リーヴァイですが、この音楽が最高なのです。
 
ストーリー的にも、歴史ドラマ的な要素が強い部分が、世界史好きの僕にはなかなか良い感じ。

 主人公であるエリザベート皇后自体は、歴史的影響という点ではさほど重要ではないけれど、当時「ヨーロッパ一」とも称された美貌、そして大きく変わりつつあった世界情勢に翻弄された悲劇の人物として有名で、多くの物語や映画の主人公としてとりあげられています。
 クレオパトラや楊貴妃のような「歴史上の美女」となると、絵画や彫刻でしかイメージをたどれませんが、エリザベート皇后は生前の写真が結構残されているため、今日でもウィーンの本屋にいけば写真集が売られているそうです。

 僕が特に好きなのは、ド定番ですが、DVDでも売られている2005年のウィーン版のライブ。(youtubeに全アップされてます。…いいのか??)
 エリザベート役をマヤ・ハクフォート、トート役をマテ・カマラス、ルキーニ役をセルカン・カヤが演じているやつですが、とにかくマヤ・ハクフォートが素晴らしい!!
 
「エリザベートといえばマヤ・ハクフォート」というくらいの当たり役ですが、本当にすごくて、他のものもいくつか聴きましたが、やっぱりマヤ・ハクフォートがNo.1だと思います。
 特に序盤にソロで歌われる「Ich gehör nur mir」をはじめて聴いたときは、震えるほどに感動しました。⇒youtube

 ミュージカルに興味があってこの作品を知らない人は、是非観てほしいと思います。

 ただ、このミュージカルのストーリーは、設定が凝っているのと、エリザベートという歴史的人物の基本知識をある程度前提にしている感じがあるので、少し予備知識があったほうがより理解しやすいかも知れません。

 実在のエリザベートという人物は、本当にドラマのように数奇な運命を辿った人物です。
 
エリザベートはドイツのバイエルン地方の王族に生まれましたが、王位とは全く無関係の末子だったので、あまり堅苦しい教育は受けず、むしろ自由奔放に育ち、性格も考え方も自由主義者で、王家でありながら共和制(王のいない政治形態)の思想を持った人物でした。

 そんなエリザベートの人生を変えたのが16歳の時です。
 その類い希なる美貌から、オーストリア皇帝・フランツ・ヨーゼフ1世に一目惚れをされ、結婚することになるのです。

 そこから、自由に生きていたエリザベートの生活は一転し、厳格な宮廷作法や「皇后」としての帝王教育を受けながらの人生を歩くことになります。
 
しかし、それまでずっと自由に生きていたエリザベートには、それが大変な苦痛だったようです。
 
特に旦那であるヨーゼフ1世の母・ゾフィー大公妃のあたりは厳しく、思想は当然エリザベートとは真逆に封建的で、自由主義のエリザベートを徹底的に嫌い、激しく攻撃したそうです。

 それでもエリザベートの自由な気質は変わることはなく、皇后としての公務から逃げたりして、ゾフィー大公妃との確執はますます深まります。また、周囲からも皇后として見られ、そのように振る舞わなければならないことなど、皇后として生きること自体がエリザベートには馴染めなかったようで、そうした心情をエリザベートはいくつも詩などに残しています
 
ミュージカルの中でも、エリザベートはひたすら自由に生きたいことを主張し、先程の「Ich gehör nur mir」でもそうしたことを激しく歌いあげますが、日本語約でいうところの「じろじろ見られるのは嫌」といった言葉は、エリザベート自身が残した詩にも同じフレーズが書かれており、そうした実在の資料を踏まえながらこのミュージカルは作られています。

 このあたりは、世界史を知っていると、そうした思想問題の重みはより分かると思います。
 当時の世界情勢は本当にぐちゃぐちゃで、特にヨーロッパは封建時代から民主主義へと移行しながら再編されていく過渡期にあり、エリザベートの死後15年ほどで世界は第一次世界大戦に突入します。
 エリザベートに限らず、ヨーロッパそのものがシンプルに生きることが難しくなっていた時代で、エリザベートも、そうした時代の変化に大きく翻弄された人間の一人だったのです。

 最後は、ルイジ・ルケーニという見ず知らずの男に心臓を刺されて非業の死を遂げますが、いまだにその明確な動機は謎とされ、そこをこのミュージカルでは「エリザベートは最初から死を望んでいた」という表現がされます。
 その「死」こそが、擬人化された「トート」というキャラクターで、ミュージカルの中で、トート(死)は、常にエリザベートの傍らに潜み、ことあるごとに自分の元へ来ることを誘いかけ、エリザベートはその「死」と対話をしながら物語は展開します。(分かりやすくいえば死神のようなもの)

 それにしても、この「死」と背中合わせの設定を理解した上で、冒頭のプロローグでゾンビ達が歌う「Alle tanzten mit dem Tod」(みんな死と踊っている)を聴くと、当時のぐちゃぐちゃだった世界情勢による退廃的な世界観と見事にマッチして、たまらなくゾクゾクします。 

 とにかく、おすすめです。
 
  

 


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