若手の離職を食い止めるには

 最近、若手不足のため、企業の就職戦線は売り手市場と言われ、採用後も、早期離職が多く、それをどう食い止めるかに悩んでいる企業が多いようです。

 結論から言うと、若手社員を採用・定着させるための最大のポイントとは、中堅社員、つまり中間管理職クラスの社員の待遇や教育環境、活躍環境を手厚く整え、活き活きと輝かせることが最も重要なことだと思います。

 逆に、多くの企業がやっている悪手が、最近の若者は厳しくすると辞めると思って、やたらと甘やかしたり、過保護にすることです。
 
入社から数年の間は、とにかく人事部が目を光らせ、残業は極力させず、規程休日をしっかり消化させようとし、新入社員が少しでも不満を漏らすと、上司のハラスメントではないかと大騒ぎしたり。

 しかし、多くの企業が「今の若者は昔と違う」を大義名分のようにして新入社員を保護しますが、そんなのは全くもって的外れです。
 というのも、若者が意識する「労働環境」というのは、目先の自分の休みだけでなく、日々眼にする、目の前にいる先輩、特に上司の環境も含まれているので、そこだけでは十分ではなく、むしろ本質を外しているからです。

 自分たち新入社員は、やたら守ってもらえてしっかり休めている。
 しかし役職付きの先輩を見ていると、思うように休めず働き、管理職に至っては、疲れ切っていたりする。
 
そんなのを見て、誰がその会社に長くいたいと思うでしょうか?
 管理職になりたいと思うでしょうか??

 今がどんなに楽だろうと、長く働けば働くほど過酷になると思われてしまったら、そうなる前に見切りをつけて早く辞めよう、と思うのが当然の心理です。

 若手社員の離職率が高い会社の多くは、そのことに気付いていないか、軽視し過ぎているのではないでしょうか?
 (若手も含めて全てブラックな会社は問題外として)

 企業が求める人材、続けて欲しいと思う社員とは、将来、優秀なマネージャー、エンジニアになってほしい社員ですよね?
 ならば、
新入社員にとって、自分の未来の姿である先輩社員や上司が輝かずして、どうして長くいたいと思ってもらえるのでしょうか?

 考え方によっては、若手には負荷をかけてでも、先輩や管理職は悠々と仕事をしていて、「俺らみたいになりたかったら早く仕事を覚えて一人前になりな」と言えるくらいのほうがまだ良いかも知れません。

 これを「前時代的な感覚だ」と思ったとしたら、それは考えが浅いと思います。
 負荷をかけるといっても、サービス残業や過剰勤務といった違法労働をさせるのが間違っているだけで、そもそも36協定内で残業をさせるのは、残業代さえ正しく支払っていれば、ブラックでもなんでもない、適法行為です。

 人間の心理構造なんてのは、今も昔も、基本的には変わりません。
 心が出来ていないのはいつの時代の若者も同じで、大事なことは、どういった目標・目的意識を持たせるかです。

 最近の若者は、仕事に対して向上心がないとか出世欲がなくなったと言う人がよくいますが、そんなことはありません。
 いつの時代も、若者は刺激を求め、成長を欲しています。

 その最たる例が、芸能界です。
 芸能界は、いまだに旧態依然的なところがあり、新米は虐げられたり、個人事業主扱いでまともな労働契約自体が存在せず、過酷な扱いを強いられたりしますが、それを「現代の若者」であっても、ある意味受け入れているのです。
 それは、スターにさえなれば、輝かしい未来が待っていることを見据えられるからです。

 芸能界のコンプライアンスには問題があり過ぎですが、ここで言いたいのはあくまで、「過酷な環境でもそれを受け入れる現代の若者がいる事実」についてです。

 その一方、若手の離職に悩んでいる一般企業はどうでしょうか。
 
若手社員に対して、その会社の中での社員としての未来像をしっかり示せていますか?
 それも、未来予想図となる現実の先輩社員の扱いが微妙なのに、実態のない未来空想図ばかりで取り繕って繋ぎとめようとしていませんか?

 若者が残業をしたがらなかったり、すぐに辞めてしまったりするのは、そこでやっていることに自分の成長を感じられなかったり、その会社での未来像に魅力が感じられないからではないでしょうか。
 今と昔の違いは、若者自身というより、環境の変化です。
 昔はインターネットもスマホもなかったし、コンプライアンスもゆるかったので、会社に入れば外界から断絶して社畜にしやすかっただけのこと。
 それが今では、ネットで簡単に世の中の情報が手に入り、スマホで学生時代の友人と手軽に繋がっていられるから、簡単に情報効果もできてしまうから、昔のような一方的な洗脳指導が通用しなくなっただけなのです。

 もちろん、「やりがい搾取」は間違っています。
 ですが、世間並みの給与で、きちんとコンプライアンス内で働かせる限り、過剰に保護する必要もなければ、高待遇にする必要もないと思います。
 
特に若者は、本質的にそれほど高い給料を若者は求めていないと思います。
 よほど給料が安すぎない限り、若い人間というのは、自身の知識や経験、スキルが高まることと、それが認められて評価されていくという承認欲求のほうがより強いと思います。
 給与・待遇への要求が深刻化するのは、30代になって中堅意識が生まれたり、同期社員や昔の同級生との待遇差が気になりだしたり、家族が出来て物理的に出費や行動制約が増え、お金と時間が欲しいと思う頃です。

 そうした行動心理の本質を見ずして、若手社員を甘やかすのは愚の骨頂です。
 だから「働き方改革」の名のもとに、新入社員や若手社員には休み完全消化・定時帰宅を確保してあげようと躍起になる一方で、そうして時間的余裕のある若手社員は、その余暇を存分に活かして資格の勉強をし、こっそり就職活動をし、見事にステップアップして転職したり、公務員になったりする。

 そういう話を聞くたびに、日本の大企業の人事部って、「ば か な ん じ ゃ な い か ?」って思います(笑)

 若者は決して、「プライベートで遊び呆けていないと耐えられない」わけじゃない。
 仕事をしながら夜の専門学校に通ったり、資格試験の勉強をしている若者は少なくありません。
 逆に考えると、そういう若者は、それだけ意欲的に自己研鑽する体力・精神力を持て余していた、ということです。
 そうした若い社員の行動意欲を満たす目標設定を、企業側が与えられなかったことが一番の問題です。

 
 若手社員に意欲を持たせる課題設定は難しいと思うかも知れませんが、であればまずやることは、先輩社員や管理職の仕事環境を良くすることです。
 そうして、満足度の高い中堅社員の姿を見せることが、若手社員に長く続けてもらうことに最も
効果があると思います 

 僕は仕事柄、まさに「近頃の若者」である、多くの現役高校生・大学生と一緒に仕事をしています。
 それで思うことは、人間としての性質は、今も昔もほとんど変わっていらず、
変わったのは、外部環境です。
 今は、インターネットで、友達から、知人から、SNSから、インフルエンサーから、様々な情報が簡単に手に入ります。
 若者不足でどこも採用難だから、求人だらけでバイトなんて選び放題。だから、嫌なことがあると簡単に辞めて他を探すようになる。
 新卒社員も同じだと思います。辞めてもすぐに再就職先なんて見つかると思ってるから辞められる。
 それらの判断材料となる情報が、簡単に手に入る環境になっている。
 だから簡単に離職するのです。

 それイコール若者の気質が変わった、という判断をする人もいるでしょうけど、今の高校生や、大学生でも、仕事が面白いと思ったり、職場が楽しくて愛着を持ったら、勤務時間が過ぎてても黙って働いてくれたり、覚えたい仕事を家で覚えてきたりなんてことは、普通にあるし、高校生から大学の卒業まで、5〜6年以上続けてくれるバイトの子だって珍しくありません。

 僕が昔マネージャーをしていたレストランでは、バイトの定着率が異常に高く、一年以上の間バイトの離職がゼロで、人が増え続けたことがありました。
 
その理由は簡単で、従業員一人ひとり、新人はもちろん、中堅バイトやベテランにも、仕事のやりがいや、目指してほしいことをいつも話し、定期面談などもきちんとやっていたからです。

 ただ、僕の店のバイトの定着率が高かったこと対して、当時のミドルマネージャーは、「お前がバイトを甘やかしてるだけだ」と言ってきました。
 
バカな上司だなあ、と思いましたね。

 はっきり言って、バイトを甘やかしていたら、、むしろ離職率が上がります。
 理由は単純。
 バイトを甘やかし、レベルの低い仕事やルール違反を見逃していたら、そのバイトは仕事をなめはじめます。
 仕事をなめはじめると、仕事が面白くなくなります。
 しかし、特に飲食店の場合、バイトの意思とは関係なくお客さんはやってきますから、仕事からは逃げられません。
 そうなると、だりーなーと思いながら料理をしたり、嫌々接客をするようになります。
 そんな意識になったら、長く続くわけがありません。
 そこで仲の良い友達に、「そんなにダルいんだったら、うちに来たら? 楽しいよ?」と言われたら、すぐに鞍替えすることでしょう。

 バイトを長く続けされるには、そこで働く時間を楽しいと思わる、つまり、そこで発生すること、すなわち料理や接客の楽しさ・やりがいを教えることが一番重要なのです。
 そして何より、仕事の出来る先輩をカッコイイと思い、自分もそうなりたい、と思ってもらえるようにすることです。

 だから僕は、新人が入ってきたら、まず先に中堅のバイトに対して面談やミーティングをして、「頼れる先輩、お手本になってね」という話をしました。新しく後輩ができるとなると、誰だって嫌な先輩だとは思われたくないし、慕われたい、尊敬されたい、といった気持ちが少なからずあるものです。
 そうした気持ちや先輩としてのプライドを刺激するわけです。
 そのことが、結果的に新人にとって必ず良い影響を与えます。

 これって、部活にも似てるんですよね。
 目標もなく、ダラダラやっているだけの部活やサークルは、たいがい幽霊部員が多く、入れ替わりも激しい。
 でも、ちゃんと目標があって、試合で活躍している先輩がいると、自分もそうなりたいと思うし、試合で足をひっぱったら格好悪いと思うようになる。
 だから、自分も頑張ろうと思うようになるのです。

 友達に「うちに来ない?」と誘われても、「いや、今のバイト先が楽しいから」と思われなければいけないのです。

 お金が欲しくてバイトをするわけだから、バイト、つまり「仕事」をする以上、何かしら面倒なこと、大変なことがあることくらい、今の若者だって分かってる。
 ただそこで、大変でも、ここでなら頑張ってみてもいいな、と思えるような環境にすることが重要なのです。

 とはいえ、初めて入った職場で、初めての仕事、それもたいてい新人の仕事なんて、地味だったり下働き的な作業が多いわけだから、そう簡単にやり甲斐を感じてもらえるとは限りません。
 
だからこそ重要なのが、近くにいる「先輩」なのです。
 先輩が楽しそうに、仕事をばりばりやっていたら、「この仕事・職場ならやっていけるかな」と思うわけです。
 
結局は、「そこに長くいたいと思えるかどうか」が本質で、その瞬間が大変か、楽かではないのです。

 それを正社員に置き換えれば、仕事のやりがいを教え、成果を出して長く続けた先の自分の未来像が、どのように見えるか? ということです。
 
そうなった時のモデルは、当然目の前にいる先輩だったり、身近な上司、つまり中間管理職なわけです。

 最近、「働き方改革」の名の下、若手社員を定時に帰らせたしわ寄せを、残業のつかない中間管理職がかぶっている、という記事をよく目にしますが、それが最もダメなパターンでしょう。

 そうなってしまったら、こんな泥船早く脱出しよう、と思われるだけでしょう、

 どこの業界とは言いませんが、出世すれば芸能人や有名人と近しくなれて、グラビアアイドルなんかとウハウハできたり、有名スポーツ選手やIT企業の社長と結婚できる業界なんかでは、今の時代でも若手社員は馬車馬のように働き、上司から受ける奴隷同然の扱いにも歯を食いしばって耐え、それでもその業界で働きたいという若者が後を絶たない人気業界です。

 あまり良い例ではありませんが、結局、そこでの未来像に魅力があれば、「今時の若者」とか全く関係ないってことです。

 若者は刺激に飢えていますが、明るい未来も見えないのに要求だけ高かったら、そりゃ辞めますよ。
 でも、そこにスマートで悠々と働いている上司がいて、仕事を覚えて出世したら自分もああなれるんだ、と思えたら、やる気になれるというものでしょう。
 それが逆に、頑張った先があれか? と思われてしまったら、誰がやる気になるかって話です。

 コンプライアンス前時代も、当時の若者が決して我慢強かったわけではないと思います。
  単に、出世さえすれば、王様のように偉そうに出来るあっち側にいけると思っていたから、耐えられただけでしょう、

 ただ、新入社員を過保護にする人事部というのは、サラリーマンの化した企業共通の病なんだろうな、とも思う。
 
人事部の採用担当は、採用することと新入社員のケアに責任を負っているから、一番困ることは、自分たちが管理している間に辞められてしまうことです。
 だから、採用段階で甘いことを言い、入社してからも人事部付けの期間とか、配属して一年くらいの人事部が経過を追っている期間中に辞められないよう、全力で保護するわけです。
 配属して二年目くらいになればもう、配属先の責任と言えるから、そこから先は知らん顔。だから、三年目あたりで辞める社員が多くなる。

 しかし、採用の本質ってなんなんでしょうね?
 
考えようによっては、現実の職場適正の無い社員には早々に辞めてもらい、未来に使える人材を採用することが本質ではないのか?

 でも、大きな会社は往々にしてセクショナリズムに陥るから、自分の担当する管轄だけ・担当する間だけ、自分の評価が下がらないことに全力になる。
 大きな組織で人事部が社員一人ひとりを五年も十年も追い続けるのは大変だし、十年後に立派な人材になったところで、当時の人事部が評価されるわけでもない。
 会社の未来への責任なんて、なかなか負ってないんですよ。
 
そういう思考になるのは当然といえば当然のこと。大きな組織では、どんな部署でもそうなる。

 いずれにしろ、若手社員に長く働いてもらいたいなら、その会社の中での未来像を見せること、つまり、いかにして中堅社員が輝けるかに投資をすることでしょうね。
 人事部が真剣に研究して企画すべきことは、むしろそこだと思います。
 それに、中堅社員が輝いたら、その企業にとっても大きくプラスのはずです。
 確か、伊賀泰代氏の『生産性』という本の中でも、生産性を上げるには中堅社員が一番もポイントみたいなことを書かれていた気がします。

 未来像さえ明確になって輝いていれば、新入社員自体の扱いなんて、少々過密に要求しても良いくらいだと思います。
 むしろ若い社員は成長意欲が高いから、目標地点に魅力があれば、それを受け入れると思います。
 だから、新入社員に投下する経営資源を、もっと中堅社員に回した方が効果的だと思います。
 遠回りに見えても、それが一番の近道だと思います。

 (2020.10.10)


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