衰退する百貨店に必要な努力A

 先に書いた記事では、メンズ目線を中心に書いたので、今度は女性客も含まれた内容を書こうと思います。

 百貨店はとにかく、ターゲットをきちんと考え直して売り場や売り方を見直すことです。
 百貨店が復活するために重要なターゲットは、20代後半〜30代、そして最大の人口層のある団塊ジュニア、つまり40代後半の世代です。

 先日、三越伊勢丹ホールディングスの社長のロングインタビューの記事を読んで、どうも言ってることが矛盾だらけのように感じました。(2019年の話)
 もっとも、記者のまとめ方が悪いだけかも知れませんが、とにかくターゲットがブレブレにしか思えない。

 百貨店を支えてきた層の高齢化が進み、そこの売り上げが落ちてると言いながらも、ロイヤリティーの高いお客さんを軸としたサービスが重要で、むしろ大事なことだと仰られる。
 しかし一方で、かつての伊勢丹新宿本店では、20代の顧客のシェアが20%もあったといい、今は若い顧客がいないことを問題視し、新しい顧客を開拓しないといけないという。

 それをいったら、当たり前じゃないか。
 既存客を大事にしつつ、新規客を開拓する。
 高齢化した既存の主要客を重視しつつ、若いお客さんも増やしたい。

 結局、全部じゃねえか。
 そんなの戦略じゃない。
 きちんとトレードオフできず、あれもこれもと言ってる
からどっちつかずになる。

 確かに、年間に莫大なお金を落としてくれる層は大事だ。
 百貨店の売上は外商に支えられているとも聞く。

 ただ、それが未来のある年齢層ならいいが、高齢層なら切って捨てた方が良い。
 何故なら、高齢層の購買力がこれから上向くことはおそらくなく、むしろ年齢上昇と共に下がるに決まっている。
 
だから、太客を大事にするにしても、既存の高齢客を大事にするのではなく、若い世代を新しく太客にすることを一番に考えるべきなのです。

 また、既存の高齢客にとらわれることによる大きな弊害は、そうした高齢層に軸足をおいた発想や空気は、ことに「ファッション」という領域においては、若者を遠ざける諸刃の剣だからです。

 ネットで百貨店に行かなくなった理由を見ていると、だいたい共通の理由が出てきて、それは僕がいつも感じてることとほとんど一致します。

 まず第一に、オジン・オバンくさい。お洒落感がない。
 そして次に、店員がめんどくさい。
 最後に、値札が見えづらい。

 もちろん「高い」という意見が一番多いですが、それはあえて無視します。
 高いというのは、絶対的な概念に見えて、相対的な概念だからです。
 価値が感じられれば100,000円でも安く思えるし、価値が感じられなければ10,000円でも高く感じます。

 重要なのは、価値があるのか、その価値が伝えられているかどうかです。

 百貨店で売られているものは、概ね物理的な品質は良いでしょう。
 品質自体に問題があったら、それくらいは社内の目利きで解決してください。

 ただ、デザイン性となると話は別。百貨店はダメダメだと思う。
 百貨店は、団塊世代やバブルで儲けた富裕層を軸に相手にしてきたせいか、どこを見ても全体的に年齢層高めのラインナップに見えます。
 おそらくそれは、バブルの名残……というか、後遺症だと思います。
 高度成長〜バブル期の百貨店は、決して高年齢層相手ではなく、むしろ壮年期にあった団塊世代を中心に商売をしていたことでしょう。
 けれど、そうした人々の年齢上昇と共に、百貨店の売り場年齢も上がってしまった。

 そして何より、売り場から何から、見せ方・表現方法が古くさい。
 オーセンティックなのはともかく、どうみても地味で古くさい。
 流行や若者っぽい色は浮ついている、品格が下がると思っているのかも知れないが、それは大きな勘違いだと思う。

 まあ、1990年後半からデフレ下が進み、若い人が買ってくれなくなったから仕方がない面もある。
 しかし、いつまでそれを引きずり続けるのか?
 団塊世代ももはや70代に突入。そうなると、人間としての購買意欲は劇的に低下します。

 さっさと、次世代の「富裕層」に向けた売り場改革を進めろといいたい。
 今の若者だろうと、昨今話題になっている就職氷河期世代であろうと、勝ち組はいる。
 勝ち組とまではいわなくとも、それなりにお洒落にお金をかけてもいいと思っている層は存在する。

 百貨店が相手にするのはチープな客ではないだろうけれど、若者っぽい=安っぽいではない。
 オーセンティックなテイストやトラッドなデザインだからといって古くさいとは限らないのに、百貨店の見せ方は単純に古臭い。
 若くてハイセンスな見せ方なんていくらでもあるはずだ。
 そうすることで高齢者からのクレームを恐れてるのだとしたら、そうした層は、遅かれ早かれいなくなる層であり、重視すべき相手ではないことを認識すべきだ。

 取り込むべき、次世代の特長をもっと研究し、それに合わせた売り場づくりしないと、未来はありません。

 今の40代や、30歳前後に人気のある芸能人やファッション、そしてカルチャーは何か?
 それを考えればすぐに答えは見えてくる。

 たぶん、百貨店はそういうのってチープだとか、百貨店のブランドのそぐわないと思ってるんじゃないかと思うけど、その感性が時代遅れなんです。

 50代、60代オーバーの人々には、インターネット文化や携帯、スマホ文化なんて安っぽいと思ってるかも知れませんが、青年期や幼少期からそれが当たり前だった世代には、それが常識であり、安っぽくも軽薄にも思ってないし、むしろナチュラルな感性です。
 アニメやゲームといったサブカルチャーも、ごく身近なものなのです。
 1950年〜1960年代に急速に流行ったブームを、当時チープだと思っていましたか?
 当時は、当時のシニア世代、つまり昭和初期や大正時代のファッションこそ百貨店のあるべきポジションだなんて思ってなかったですよね?
 むしろ当時は、時代の先端を走っていたはず。だから支持されたのです。

 もっと、今売るべき世代の文化に基づいた感性に、商品も売り方も全面的に見直すべきです。
 高齢層に合わせたブランド感・世界観は、もうすっぱりと斬り捨てていい。
 年間で多額のお金を落としてくれているかも知れないけれど、最低限のスペースさえ用意し、担当者さえおいておけば、たぶん売り場を変えても売上はたいして変わらないと思う。
 だって、高齢者なんて、どれだけ文句を言ってこようとも、いまさら新しい店を開拓しになんて行かないし、行く店もないから。
 ぶちぶちクレームを言いながらもやってくる。
 文句があるなら来なきゃいいのに、と思っていても、何故かまたやってくる。
 ぶっちゃけ高齢者って、そんなものです。

 あと、売り方。
 これも、抜本的に意識改革したほうがいい。
 昔は、ブランドのついた「服」や「鞄」単体でも価値があった。
 けど今は、コーディネートのほうが重要な時代で、ユニクロを上手に着こなすユニクロコーデなんかも評価されています。
 コーディネートなんて昔からファッションの基本だと思うかもしれませんが、今と昔との違いは、「インスタ映え」に代表されるSNSの普及により、見せ方のアピール方法が変わったからです。

 スマホで見る小さな画像でもわかるお洒落感となれば、全体の着こなしのほうが重要に決まってます。
 拡大しても見えるかどうかわからないブランド感なんてどうでもいい。
 けれど、スマホでも確認できるような目立つ特長やロゴとなると、逆に支持されることもある。
 この辺の微妙な塩梅が、今の時代性なんです。

 つまり、服や鞄を売るのではなく、生活の上ではもちろん、SNSにアップしても映えるような、「トータルイメージを売る」という概念に切り替えるのです。

 となれば、売り場も、コーディネートをアピールする売り場にしたほうがいいに決まっている。
 百貨店はテナントからの賃料で稼ぐ不動産業に成り下がっているとよく言われていますが、であればなおのこと、テナントが活性化したほうがいいに決まってる。
 ならば、百貨店側の役割としては、百貨店がブランドに横串を差した売り場を用意したっていいじゃないか。

 アウターはどこ、トップスはどこ、ボトムスはどこ、鞄はどこと、別々のブランドでコーディネートした着こなしをもっと紹介すればいいのに。
 百貨店は、そういうのを企画提案してこそのプロじゃないの?
 特に女性は、今でもファッション雑誌を買う人は買う。
 プロ集団が、それに負けない提案力・売り場のビジュアル性を表現できなくてどうするのか。

 モノ自体は、同じブランドなら百貨店で買おうがどこで買おうが一緒。
 あえて百貨店で買ってもらうための努力をしないといけないし、そこでしか買えないモノであれば、そのこともアピールしないと印象にも残らない。

 シナリオとして、ちゃんとモデルとストーリー、世界観も用意する。
 40代、30代に人気のモデルやタレント、そして「旬」を調べて、そこからトータルコーディネートに結びつける。
 例えば最近だと、ドラマ「わたし定時で帰ります」の吉高由里子さんと向井理さんのビジネスカジュアルのファッションが注目されました。
 向井さんは地味なのがコンセプトだったので微妙ですが、吉高さんなんて、働く女性のイメージとしてドンピシャです。
 あと、個人的には嫌いですがアイドルグループの乃木坂なんかは、お嬢様路線でファッションも注目されているから、利用価値は高い。
 未来の顧客となる先行投資的な意味も含めて、若年層の来店動機も高まるようプロモーションの裾野を広げ、まずは百貨店に足を運んでもらう・馴染んでもらう取り組みは必要なことだと思う。

 けど、実はポイントは、1990年代〜2000年代前半のリバイバルカルチャーだと思う。
 この場合は、単純に服とかじゃなく、アニメなどのサブカルチャーとコラボ
した特設コーナー。
 何故なら、今一番人口が厚いのはいうまでもなく団塊ジュニア。
 もっとも、世間ではそんなマーケティング当たり前だけど、百貨店は、王道を貫きたいのかどうか知らないが、サブカル色に走るのを避けてそういう方向性にはなかなか手を染めないけど、そこが今の日本の主役なんですよ!?

 そういう路線に走ったら、上の世代からは「品位が下がる」とクレームが来るかも知れない。
 けど、もう引退したOBのような
世代の眼を気にしてどうするんだ。

 そして、一番大事なのは、そういう旬のカルチャーとファッションを店員が熟知し、その世界観を表現できることです。
 そうした特設コーナーでは、
店員は説明に近付いてくるけど、そこでは買わなくていい。
 どころかむしろ、「そこでは買えない」方がいいくらい。
 「お買い上げは、それぞれのブランド店舗(売り場)でお買い上げください」
 とする。
 そうすれば、お金のない若者でも気兼ねなく見に来れるし、店員とのコミュニケ―ションもうざがられない。

 アパレルショップで店員が近付いてくるのがうざがられるのは、ぶっちゃけ何も買わないと気まずいようなプレッシャーがあるからです。
 はおるだけはおって買わないとか、見るだけだとバツが悪く感じたり、「いいですね〜」なんて言っておきながら、値段を見て買うのをやめると、格好悪いような気持ちにさせられるからです。

 「店員と会話したくない」なんてのは、実は本質じゃないですね。
 むしろ、買わなくていいなら、プロの店員と喋りたい客・色々教えてほしいと思ってる客はゴマンといるはず。

 特に、クオリティやサイジングに関しては素人は本当にド素人です。
 見た目が似てるからこれでいいやと、ネットで安い服を買って、ワンシーズンどころか数回でダメにしたり、実物は色や質感が全然違ったり、サイズを失敗してゴミにしているだけの、「安物買いの銭失い」をしている人は山ほどいると思います。
 
そういう素人に対して品質の良さをアピールしたり、着こなしのアドバイスをしてこそプロの腕の見せ所ではないでしょうか?

 例えばメンズで若者向けのトップスで、襟付きのカジュアルシャツの買い方をわかってない素人は多いことでしょう。
 どういう服だとパンツアウトに向いていて、どういうのはインしないとダサくなってしまうとか。
 ビジネスカジュアルを採用する企業が増える今、そうしたところにニーズが山ほどあるはずです。

 そんなことを店員が説明・提案しながらも、ここで買わなくていいですよ、むしろこれは展示品なので買えません、買いたい方はそれぞれのブランドショップに行ってくださいね、と言いきる。
 そうしたら、お客さんは安心していくらでも近付いてくると思う。

 そうやって、「もうこれを買ってしまおうかなあ……」という購買意欲だけをそそることが出来ればいい。
 それが出来れば、百貨店に足を向ける人が増え、買おうと思う人も増えると思います。
 何やかんや言って、お金を持った日本人はたくさんいます。
 結局、何にどこでお金を使いたいと思わせるかですよ。

 あと、これは百貨店に限らずセレショなんかでも、とにかく値札が見えづらい。
 これには色々理由があるそうですが、とにかくそんなのはもうどうでもいい。
 値段がわからないものは買ってもらえません。
 売る側のこだわりよりも、値札を漁ってる姿がダサイと思って手が出ない消費者心理を理解したほうがいい。
 ネットを見ている限り、値札を探っているうちに店員に近付かれて逃げるお客さんは相当数います。
 で、結局売り場に近付くこと自体を避けるわけです。

 特に百貨店は客数が少ないから、売り場に入ると店員が100%に近い確率でやってくるので、近付くことすら避けるようになります。
 
百貨店側としては、そんなくらいで避ける客は相手にしなくていいと思ってるのかも知れませんが、それこそが最も間違った殿様商売です。
 
値段が見えすぎるのは雰囲気が壊れると思っているのかも知れませんが、このご時世、値札を気にせず買い物をする人だけを相手にしようなんて姿勢では、新規客は開拓できないと思います。
 それに、値段なんて気にしない外商の顧客なんて、売り場をウロウロ歩かないんでしょう?
 誰に対する、何のための売り場の工夫なのか、よくわからない。
 このへんにも矛盾を感じますね。

 三越伊勢丹の社長は「殿様商売からの脱却」と仰られていますが、言ってる割に、本気度は全然足りないと思います。

 結局、百貨店が未来に生き残るためのターゲットはどこにあり、そのターゲットのことをちゃんと考えて、それにあった商品・売り方・売り場にチャンネルを切り替えていくこと、という、マーケティングのセオリー通りのことが必要な施策ということです。
 でも、その当たり前のことができないのは、百貨店の過去からの体質にそれを阻む要素が多分にあるように思うので、それを壊すことがなかなか難しいのでしょうね。
 

 
 

 


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