いきものがかりを評価する

 ストリート出身のJPOPのユニット「いきものがかり」って、「優秀」だと思います。
 優秀というのがどういう意味かと言うと、音楽性とか芸術性がどうのというより、「売れる事」をよく考えられ、売れるべくして売れたユニット、という意味で優秀だと思うのです。

 これは、決して皮肉で言っているわけではありません。
 音楽って、芸術ではあるけれど、娯楽であり、商業でもあると思うわけです。
 純粋に芸術のみを追求している人もいますし、むしろ芸術家としてはその方が立派なように思われる傾向にあり、人を楽しませる事を全面に意識したり、客受けを考えて音楽をするのは、ともすると芸術的観点からは卑下されたり、低く扱われることが多いように思いますが、そこは、ただ扱っているものが同じ「音楽」であるだけで、そもそもやろうとしていることの土俵が違い、どちらが高尚だとか比較すること自体が違うと思います。

 その点、いきものがかりは、おそらく「受ける音楽」をかなり意識して作っているユニットのように思います。
 もっとも、職業作曲家にはそういう人は多いですが、路上出身のバンドやユニットで、そこを割り切っているのって、意外と少ないように思います。

 いや、厳密にはストリートでもそういうバンドは少なくありませんが、売れることしか考えていない場合は、音楽性が全く伴わなかったり、既存の流行曲の真似事に寄ってしまいがちなところ、いきものががりの場合は、オリジナリティのある音楽性を備えつつも、受ける曲作りのバランスを「意図的に」取っているように思うからこそ、「優秀」だと思うのです。

 これはおそらく、リーダーの水野良樹さんの手腕だと思います。
 いきものがかりの最大の魅力は、言うまでもなく吉岡聖恵さんのボーカルですが、その魅力を引き出しているのは、水野さんの曲づくりだと思うのです。

 そもそも、いきものがかりは、山下穂尊さんに誘われて水野さんと二人でスタートしたユニットですが、結成動機は「女の子にモテたかった」ことらしいです(笑)
 動機の原点がそこですから、水野さんにとっての音楽というもの自体が、内在する精神性とか芸術の追求とかではないところに、よくいう自己陶酔系のバンドマンとの根本的な違いがあったのでしょう。

 で、路上でただ弾き語りをしていても、なかなか足を止めて聴いてもらえない。
 
そこで、短時間で印象付けるために、曲の頭にサビを持ってくる曲構成にしたとか。
 だから、いきものがかりの曲には頭サビが多いそうです。

 JPOPの王道的な構成である、A−B−サビの構成ではサビまで待ってもらえない。
 だから、サビ−A−B−サビ構成にして、道行く人をすぐにキャッチ出来るようにしたと。

 これって、文字にすると簡単な話ですが、実際、音楽仲間では当たり前の話ではないんですよね。

 何故なら、通常、音楽に燃えてる奴らと言うのは、自分の演りたい曲を歌いたい、この曲の聴いてもらいたい、が先にあるのが普通で、「お客さんの足を止めるため」を先に考えて曲を作ったりしませんから。
 そんな意図で曲構成を考えていたら、音楽に熱いヤツほど、「そんな考え方は邪道だ!」と言ってブチ切れます(笑)

 曲作りも、吉岡さんの声域や声の性質をよく考えて作られてます。
 当たり前といえば当たり前のことなのですが、これも、普通のアマチュアミュージシャンというのは、えてして自分の理想の音楽が先にあって、プレイヤーの技量や相性は無視して曲作りをしたりすることが往々にしてあるものです。

 このへん、水野さんは非常にバランスよく、言ってしまえば、ストリートミュージシャンでありながら、最初から職業作曲家っぽいんですよね。

 このへん、さすが一橋大に入れるだけあって、賢いのでしょう。
 といっても、音楽というのは頭が良ければ売れるわけではなく、音楽的素養がなければ話にならないわけで、水野さんは、高い音楽的才能を持ちつつも、その感性に溺れることなく、理知的に使いこなしているわけですから、「優秀」という表現が似つかわしく思うんですよね。

 よく、テレビ局で、アーティストではなくスタッフと勘違いされて受付で呼び止められる…なんて話がネタにされているように、水野さんは、最初から自分自身が主役を目指していなかったからそうしたスタイルでいるのかも知れないし、だからこそ、バランス良く出来るのかも知れませんね。

 僕も、そんな風にやりたかったなあ(笑)
 
バンドをやっていた頃、自分はひたすら「もっとポップでキャッチーな曲をやろうぜ!」と提唱していたのに、他のバンドメンバーには一切聞き入れてもらえませんでした。
 まあ、僕がバンドをやっていた当時は、軽音部に所属するような奴らって、たいてい洋楽かぶれでJPOPを見下す傾向にありましたからね。それでいて自分達のオリジナルは日本語で歌うわけだから、結局JPOPになってしまうのに、おかしな感じでした。
 もっとも、自分自身にもそういう時期があっただけに、気持ちはわかるけど、メジャーを目指すなら割り切りと計算高さもいるだろうと思っていたので、それを巧く使い分けることが出来るいきものががりを優秀だと思い、リスペクトしているわけです。

 

 


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