SF映画の傑作「インター・ステラ−」

 SFファンの間では評判高いSF映画「インター・ステラー」ですが、評判に違わぬ傑作です。
 クリストファー・ノーラン監督による2014年の映画ですが、評判が高いといってもこの映画の評価は少し分れていて、高い評価をする人が多数いる一方で、低評価の人も少なくない映画です。

 というのもこの映画、SF好きには評価が高く、そうじゃない人には微妙に意味が分からない映画のようです。
 また、この映画のネットの評を見ていて興味深いのは、「理系受け」する映画という評価を得ていながらも、理系といっても宇宙の話や特殊相対性理論が好きな人には評価される一方、数学や化学系の理系の人には必ずしもウケるとは限らず、逆に納得いかないという意見もあるという、評価もばらけていて面白い映画です。

 そもそもこの映画は、理論物理学者でありノーベル物理学賞受賞者であるキップ・ソーン氏の発案により作られ、制作総指揮を務めてたほどなので、シナリオの科学的アプローチはにわかレベルではありません。
 とはいえ、しょせん娯楽映画、どれだけ専門家が監修しようと、SF映画には無理やこじつけが往々にしてあるものですが、この映画に関してはかなり納得度の高い構成になっていて、個人的には観ていていちいち興奮させられる展開ばかりでした。

 この映画が優れているのは、現在の物理学で分かっている部分についてはその理論に基づいて表現し、謎になっている部分にフィクションを盛り込んだ、絶妙のバランスで仕上がっているので、SFファンや理系人間も納得の作品に仕上がっています。
 まさに、サイエンス&フィクション!

 ただその一方、ストーリー展開自体が多少の天文物理学の知識を前提にしながら進み、しかもその説明が丁寧にされないまま進むので、SFに明るくない人にとっては意味がわからなかったり、物語の展開の面白さが感じられないかも知れません。
 特にブラックホールの特異点なんて、理系どうのというより天体マニアでないと知らない知識だと思うので、なぜそれがクローズアップされるのかとか、そこから高次元の話につながる面白さがピンとこず、ただのご都合主義的な展開にしか思えないかも知れません。
 重力による時間の進み方の違いとかは、かなり精緻に計算しないとわかりません。
 もっとも、自分も計算をしながら観ていたわけではないし、特に水の惑星のところは、そんな高重力になるほどブラックホールが近いのに宇宙船の位置とか大丈夫なの? とか瞬間的には思ってはしまいましたが、それこそ精緻に計算しないとわからないことなのでスルーしましたが、気になる人はずっとひっかかって映画に集中できなくなるかも知れませんね。

 というわけでこの「インターステラー」、SFファンは必見! SFにわかは要注意……という映画です。

(以下、若干ネタバレあり)

 そしてこの映画、何より映像が美しい……!!

 まず、次元を飛び越えるワームホールを通過するときの描写が感動的でした。
 これだ! と思える、素晴らしいイメージでした……!
 あと、後半に登場する、高次元の部屋。あれも幻想的でしたね。
 実際の高次元を三次元で映像にするのは不可能ですが、こういう見せ方があるのか……! と思わせる、素晴らしいイメージでした。
 円柱のスペースコロニーを思わせる、宇宙ステーションでの野球シーンの見せ方も秀逸でした。

 SF的な疑問箇所をあげるとするなら、ブラックホールの特異点にあんな簡単に接近できるのか? というくいらいですね。
 普通に考えたら、特異点に到達する前に、超大な重力でぺしゃんこになって消滅するんじゃないかと思うところですが、ブラックホールはいまだに謎だらけの存在。観測上はとんでもない重力のはずですが、単にそれだけにとらえてしまうとおかしなことも生じるだめ、実際はどうなっているのか全くわかっていません。
 だからこそ、最後の手段として捨て身で特異点に迫ったところ、潰れてしまうことなく到達できたという展開になっているのですが、逆に謎だからこそそういう結果だってあり得る、という解釈もできるわけです。

 こうした部分が、先に書いた、絶妙なバランスです。

 だめな点としては、SF的な部分というより、単純にシナリオの一部ですかね。
 全体的として物語自体もすごく良い話にできていてます。主人公とマーフとの親子の絆とか、泣きそうになるくらい感動的でした。
 ただ、
あんな氷しかない惑星で人間が生存できると言い張るマン博士の言葉に誰も疑問や質問を投げかけない点や、マン博士の行動が無謀すぎること、主人公の息子ほうががあそこまで屈折する理由が分からない、といった点がちょっと気になったというか、別にそんな展開にしなくても良かったんじゃない? って思ったくらいですかね。

 マン博士のところは、いくら孤独に耐えられず心変わりしてしまったことはアリとして、主人公を無理に襲わなくても。
 そもそも主人公だってその時点では地球に帰りたがってたんだし、マン博士も名高い科学者なら、適当な理屈をでっちあげてメンバーの説得にかかり、地球に帰ろうと仕向けてメンバーと揉める……くらいの展開でも良かったのでは。
 あんな横暴な展開だと、乗り越えても爽快感がなく、無駄にストレスを感じさせただけのように思いました。

 息子のトムがマーフと仲違いしているのも不可解でした。
 あれだけ父親を信じていて、そりゃ20年以上も音沙汰無かったら諦める気持ちは生まれるにせよ、父親に裏切られたみたいな感じになるのは変に思いましたね。
 そもそも、宇宙で安住の地が見つけられなかったら行き倒れになるだけだし、帰ってこない=裏切られた、というより悲しむもんなんじゃないかと。
 兄妹で険悪な関係になってるのは無駄エピソードに感じましたね。
 せいぜい「いつまでも希望を持ってないで、いい加減諦めろよ! こっちだって辛いんだよ!」くらいのスタンスで良かったんじゃ無いかと。
 それに、そんな険悪な関係のわりに、妹の部屋は昔のままそっとしてるのは矛盾してるように感じました。

 まあ、といってこんなのはあら探し的なことで、総じてストーリーも素晴らしかったと思います。
 SF的にも映像的にもストーリー的にも素晴らしい
「インターステラー」、これまで観たSF映画の中では1、2を争うくらいの傑作だと思ってます。

 

 


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