若手社員を優遇するのは間違い

 最近、新卒でも高待遇とか、20代で年収1,000万みたいなニュースを良く目にするようになりました。
 若手不足で、人材獲得競争が激しい昨今、そうした発想に陥る心理はわかります。

 また、辞められたら困るとばかりに、新入社員を過保護に扱ったり、ハラスメントを異常に気にして腫れ物を扱うように接したり、「働き方改革」の弊害としてヒラの若手社員の労働環境が良化する一方、中堅管理職の労働環境が悪化しているというニュースもよく目にします。

 はっきりいって、それらは全て悪手です。

 改善すべきは、むしろ中堅以上の社員の環境と待遇で、若手社員はもっと激務にして良い、というか、そうすべきです。
 もっとも、法令違反はしてはいけません。サービス残業を強要するのは間違っています。
 しかし、36協定内できちんと残業代を支払う限り、それは違法でもブラックでもありません。
 だから、新入社員に残業させて中堅社員を早く帰らせたほうが良いくらいだと思います。

 何故かというと、若いうちに優遇されてしまうと、そこ以上上がることが難しくなり、下がることもできなくなるからです。

 とある研究によると、人は、生活環境が良くなっていくことで幸福度が増していくそうです。
 年収の絶対額そのものよりも、年収が上昇していくプロセスのほうが、より強く幸せを感じる、ということです。
 もちろん、そのベースが低すぎたら別ですが、一般的に、年収が400万、500万、600万と、上昇していく時が一番精神的にも充実感を感じるようです。

 それが、700万を超えたあたりから、幸福度が停滞し、むしろ下がっていくそうです。
 そこには大きく二つの理由があり、一つには、生活ステージの変化によるもの。
 年収300万台の新卒から500万くらいまでは、どちらかというと質素な生活がベースになりますが、その頃は、年収の上昇とともに日々の暮らしが上昇していくことが実感できる時期であり、600万を超えるあたりから、生活水準が完全にワンランク上がります。
 だから、自分が成長・出世しているような実感があり、幸福度数が上昇するのです。

 しかし、そこから上のランクとなると、次元が異なります。
 下のランクから上がったばかりの時は満足感があっても、気が付くと、中流層の暮らしとしては下のランク、つまり「中の下」であることを意識しはじめる。それが700万円くらいだそうで、そうなると幸福度が感じられなくなるそうです。

 また、そのあたりからもう一つの理由に入り、普通の会社で年収600万円を超えてくるのは、30代の中盤から40代でしょう。
 そうすると、家族を持ち、子供が生まれます。
 すると出費が一気に増えるため、年収が多少上がっても、生活水準は変わらないどころか、むしろ下げなければならないこともあります。

 といって、年収が1,000万円を超えるとなると、大半の人にとっては狭き門で、その領域への上昇する人の数は圧倒的に減少します。
 そのため、年収700万円あたりから多くの人の幸福度数の上昇は停滞・鈍化していく、と言われています。

 何が言いたいかというと、人は、体感できる暮らしの「上昇」に伴って幸せや充実感を感じられるので、それを若くして手にしてしまったら、そこからの上昇はどうやって感じさせるのか? ということです。

 もちろん、新入社員で年収1,000万を与え、そこからも毎年50万くらい上昇し、30代には1,500万、40代には2,000万円となるなら良いでしょう。
 でも、決してそれを約束するものではないし、実力があれば可能かも知れませんが、現実的には下がるか、よほどの実績を上げない限り1,000万から頭打ちになるのではないでしょうか。
 そうなると、行き着く先は退職です。

 会社からすると、「1,000万円も出しているのに不満を持つなんて」と思うかも知れませんが、人間の心理とはそういうものです。

 以前、結果さえ出せば店長でも年収2,000万超えも可能という、実力主義で有名だった某飲食企業の人と飲んで話をしたことがありました。
 その会社は、それによって一時は飛ぶ鳥を落とす勢いがあったのに、次第に業績がみるみる悪化していきました。
 その理由を聞くと、そこには行き過ぎた成果主義が理由の一つとして大きい、と言われてました。

 成果主義を取り入れたことで、確かに一時はものすごい勢いで伸びたけど、給料も青天井というわけにはいかず、待遇を上げ続けるには限界があったと。
 これは飲食だからだというのもありますが、飲食店にはキャパに限界がありますから、従業員の待遇上昇と、企業の規模の成長とのバランスが悪かったというわけですね。

 報酬を最大の動機付けにすると、待遇が頭打ちになった途端に、急激にモチベーションを失ってしまう。
 また、そういう人は、ひとたび業績が落ちたりすると、待遇の格下げを受け入れられないんだと。

 一度スターになってしまうと、もうそこからは下がれないそうです。
 まるで、アイドルのようですね。
 
で、結局は辞めていったり、独立していくことになる。

 もっとも、そこから次々に新しい人が出てくればいいけれども、一度上にいる人間がそうなっていくと、下の人間も、夢を持てなくなってしまうそうです。
 そんな競争を耐え続ける自信は持てない、結局は長く居られない会社だと思われてしまうと。

 待遇だけをモチベーションにしたことの限界、とその人は言っていました。

 だから、大手企業にありがちな、新入社員の甘やかしも大いに疑問を感じますね。
 入社から数年の間は、人事部が目を光らせてやたら過保護に扱い、残業は極力させず、規程休日をしっかり消化させようとし、新入社員が少しでも不満を漏らすと、上司のハラスメントではないかと大騒ぎしたり。

 会社は「今の若者は昔とは云々……」を大義名分のようにして新入社員を保護しますが、そんなのは全くもって的外れです。
 何故なら、彼等が理解する「労働環境」というのは、目先の自分の休みだけでなく、日々眼にする、目の前にいる先輩、特に上司の環境も含まれているからです。

 新入社員のうちは、やたら守ってもらえてしっかり休めるけど、役職付きの先輩を見ていると、思うように休めず働き、管理職に至っては、疲れ切っていたりする。

 そんなのを見て、誰がその会社に長くいたいと思うでしょうか?
 管理職になりたいと思うでしょうか?

 今がどんなに楽だろうと、長く働けば働くほど過酷になると思われてしまったら、そうなる前に見切りをつけて早く辞めよう、と思うのが当然ではないでしょうか。

 若手社員の離職率が高い会社の多くは、そのことに気付いていないか、軽視し過ぎているのではないでしょうか?
 (違法労働でブラックな会社は別として)

 企業が求める人材、続けて欲しいと思う社員とは、将来、優秀なマネージャー、エンジニアになってほしい社員ですよね?
 ならば、
新入社員にとって、自分の未来の姿である先輩社員や上司が輝かずして、どうして長くいたいと思ってもらえるのでしょうか?

 むしろ、若手には負荷をかけてでも、先輩や管理職は悠々と仕事をしていて、「俺らみたいになりたかったら早く仕事を覚えて一人前になりな」と言えるのが、正しい環境ではないでしょうか。

 先の年収と幸福度の話と同じで、ステップアップとともに働く環境が良化してこそ、幸福度が増すというものではないでしょうか。

 これを「前時代的な感覚だ」と思ったとしたら、それは勉強不足です。
 確かに時代は変わったので、負荷をかけるといっても、先ほども書いたように違法労働をさせるのは間違っています。

 ですが、人間の心理構造なんてのは、今も昔も、基本的には変わりません。
 心が出来ていないのはいつの時代の若者も同じ。
 大事なことは、どういった目標・目的意識を持たせるかです。

 その最たる例が、芸能界です。
 あの世界は、いまだに旧態依然的なところがあり、新米は虐げられたり、過酷な扱いを強いられたりしますが、それを「現代の若者」であっても、ある意味受け入れているのです。
 それは、スターになれば、どんな未来が待っているかを見据えているからです。
 ただ、その未来に期待できなかった時や、受け入れられなくなった人が、辞めていくわけです。
 確かに、コンプライアンスについては芸能界でも強まってきているようですが、今の若者であっても、多少過酷な環境を受け入れられているという事実には変わりません。

 一方、一般の企業はどうでしょうか?

 若手社員のモチベーションを高めるために、その会社の中での社員としての未来像をしっかり示せていますか?
 むしろ、未来像は微妙なのに、今の待遇・環境ばかりを取り繕って繋ぎとめようとしていませんか?

 もちろん、「やりがい搾取」は間違っているし、世間並みの給与で、きちんとコンプライアンス内で働かせる限り、過剰に保護する必要もなければ、高待遇にする必要もないと思います。

 特に収入は、本質的にそれほど高い給料を若者は求めていないと思います。
 若いうちは、よほど給料が安すぎない限り、知識や経験、スキルが高まること、そしてそれが認められて評価されていくという承認欲求のほうが高いと思います。
 給与・待遇への要求が高まるのは、30代になって中堅意識が生まれ、同期社員や昔の同級生との待遇差が気になりだしたり、家族が出来て物理的に出費や行動制約が増え、お金と時間が欲しいと思う頃です。

 そうした行動心理の本質を見ずして、若手社員を甘やかすのは愚の骨頂です。
 「働き方改革」の名のもとに、新入社員や若手社員には定時帰宅・休みを完全確保し、その社員は、その余暇を存分に活かして資格の勉強をし、こっそり就職活動をし、見事にステップアップして転職したり、公務員になったりする。

 そういう話を聞くたびに、日本の大企業の人事部って、「ば か な ん じ ゃ な い か ?」って思います(笑)

 若者は決して、「プライベートで遊び呆けていないと耐えられない」わけじゃない。
 仕事をしながら夜の専門学校に通ったり、資格試験の勉強をしている若者は少なくありません。
 冷静に考えると、そういう若者は、それだけ意欲的に自己研鑽する体力・精神力を持て余していた、ってことです。
 そうした若い社員の行動意欲を満たす課題を企業側がなぜ用意できないのか?
 そのことが一番の問題です。

 
 若手社員に意欲を持たせる課題設定は難しいですが、考えもなしに若手社員に自由を与える余力があるのなら、まずは先輩社員や管理職に自由を与えることです。
 新入社員に高い給与を割り当てる人件費の原資があるのなら、それを中堅以上の社員に回して、子供が出来ても苦しくない家庭生活を送っている先輩社員の姿を見せることです。
 若手社員に長く続けてもらいたいなら、まずはそれに取り組む方が、
よっぽど効果があると思います。

 


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