わたし、定時で帰ります@

 内容について色々思うところの出てくるドラマ
 「働き方改革」が話題になる中、定時あがりの是非については賛否がわかれるところ。
 そもそも残業が発生する理由は、単にその人の意識とか能力だけの問題だけでなく、外的要因や個人的要因など、様々な事情がからむため、いちがいにベストアンサーなんて出せないからです。

 実際、このドラマの番宣の時に、主要キャストの一人である向井理さんが、「誰も間違っていないドラマ」と言われたそうで、題名が「定時に帰る」だからといって、定時に帰ることが絶対の正義というわけではなく、様々な働き方の人が入り乱れ、それぞれに「相応の理由」があるところがミソです。

 以下、ネタバレあるのでお気を付けください。

 全話観終えてみて、まず言えることは、やっぱり「ドラマ」だな、と。
 題名が「わたし定時で…」というわりには、ドラマの見どころは、吉高由里子さんが演じるヒロインの東山と、向井理さん演じる種田と、中丸雄一さん演じる諏訪との三角関係の成り行きを楽しむ少女漫画です(笑)
 仕事ドラマだと思って観ると、無理のある設定や演出が多すぎて、真面目に議論してもしょうがないストーリーになってます。
 

 放映期間中、ネットでは、定時帰りにこだわる東山に対して、その考え方を理解できないのは古い人間だとかいう論調の評がよく出てきていましたが、このドラマの東山をモデルにしてどうのというのには疑問を感じます。
 何故なら、この
ドラマは恋愛を軸に構成されているので、仕事ドラマとしては矛盾が多すぎるからです。

 例えば、東山が定時に帰ることによって終わらない仕事は、実は種田が残業したり休日出勤したりして全部丸被りし、陰でフォローしています。
 これって、本当の意味で定時で帰れていると言えるのか??
 
仕事が出来る・超イケメンの種田から、それだけ愛されている東山という存在が、女子から見て「最高」なのはわかるし、恋愛ドラマとしてはそれでいいけど、それで東山の「働き方」を見習えとか言われても?? と思います。

 最後も結局、種田が不眠不休で働いて、東山も倒れるまで働いてやっと間に合った、という展開。
 それで「自分を大事にしないと」とか、「休んでください! なんでそこまでして仕事するんですか?」とか言われても説得力ゼロです。「やんなきゃ間にあわねーじゃん」って話ですよ。

 もちろん、そんな仕事を取ってきた福永が全部悪いとはいえ、現実の中小企業の多くは、このドラマの福永ほど極端ではないにせよ、会社が生き残るために、多かれ少なかれ、無理してでも仕事を取ってこなしてるのが実態でしょう。
 それを、残業してるのは個人の仕事の進め方の問題とか、意識の問題とか言われても何も解決しません。

 それにドラマの最後では、東山が倒れて一日半眠りにつくと、種田は仕事を放棄して東山のそばで介抱にあたります。
 そこだけ見れば、「仕事より大事な女性をとった種田、素敵!」といえるかも知れない。

 けど、東山が目覚めて、「あれ?納品は?」と種田に聞けば、「間に合ったよ」と。
 ちょっと待て。なんで納品間に合ってんの??
 
逆に「納期は間に合わなかった。今会社は星印からのクレームで大変なことになってる。でも、結衣が無事ならそれでいいんだ」くらいのほうが自然だった。

 主力の二人がいきなり抜けて大丈夫な程度だったら、ただの茶番でしかない。
 むしろ、その程度の仕事に、不眠不休で働いてた種田や、倒れるまで必死になった東山はただのバカですよ。

 「ドラマ」と言ってしまえばそれまでですが、こんなファンタジーを現実のビジネスにあてはめて語るのは無理です。

 他にも、第六話はちょっと演出を作り過ぎ。来栖くんがあまりにも無能すぎ。
 会社で新入社員を預かったことのある人ならわかると思うけど、クライアントにあんなへぼいプレゼンしたら、問題になるのは来栖くんではなく、むしろ教育係りの東山のほうでしょう。
 自分が教育担当の新入社員にあんなプレゼンさせてたら、「プレゼンの内容を事前確認してなったのか」「どういう教育してんだ」って怒られますよ。
 あれじゃ、東山が優秀だから定時で帰れるという前提がおかしくなってしまう。

 にもかかわらず、やさぐれる来栖に東山が優しく声をかけているだけで、ネットでは「こんな先輩が欲しい」とその先輩ぶりを称賛する声が出てくる始末。
 なんじゃそりゃ。
 ドラマにリアリティを求めること自体がしょうがないのかも知れませんが、仕事ドラマとしては落第ポイントです。

 星印の牛松の無能さも過剰演出で、違和感を感じてしまうレベル。
 大銀行の頭取の息子だからって、あんなに無能なら一人で任せたりしないでしょ。
 大企業なら、ああいうボンボンには実務担当をセットにするのが普通
でしょう。
 それに、「課長にはいくら電話しても繋がらないんです」って、あんたらの会社にはメールもないのか??

 とはいえ、だからこの作品はだめだ、というわけではなく、単純にドラマとしては、すごく面白い!!
 何より、主人公の吉高由里子さんと、相手役の向井理さんの演技が素晴らしくはまりすぎ。
 そして、一話一話ごとの話のまとめかたの演出が上手。
 そしてそして何より、向井理さんのイケメンさがはまりすぎ!

 もっとも、自分は男なので向井理さんのカッコ良さに惚れたわけではありませんが、女子なら絶対惚れるだろう要素満載。
 仕事ができて、頼りになって、いつも自分のことを大事にしてくれて、そして長身・スマートな元スポーツマンの超イケメン。
 死角なしの「理想の男子像」です。

 一方、東山の婚約者である諏訪巧を演じる中丸雄一さんの演技は……(笑)
 あまりにも徹底されたセリフの棒読みっぷりに、ネットでも「棒丸」と揶揄されてますが、もうちょっと何とかならなかったのか?
 ジャニタレだけあって、ファン的にはそこに癒されるという意見もあるみたいだけど、ファンじゃない人からしたらただのダイコン以外の何者でもない……

 ただ、結果的にその棒っぷりが、恋のライバルである種田のイケメンっぷりを際立たせることになり、向井理の引き立て役として最高だったという意見も多数。
 でも、僕としては、中丸さんがもっとイケメンな演技をしてくれていたほうが、ヒロインの東山が、諏訪をとるか種田を取るかに揺れる姿がもっとドラマチックになり、観ていてハラハラ感がもっと増したと思うんですよね。

 シナリオ的には非現実なことは多いけど、まあ、そこはドラマと割り切れば容認。
 最後の結末についても、向井理さんはインタビューで「最後はドラマです」と答えられていました。
 つまり、エンターテイメントとして楽しんでください、ってことです。

 ただ、このドラマでもう一つ考えさせられたのは、あの東山の生き方が、主に女子を中心とする視聴者から圧倒的支持・共感を受けている、ということです。
 というのも、この
ドラマの中での東山や種田の行動は、身勝手に思えるところばかりなのに、女子達にはその部分は全スルーされているところです。

 象徴的なのが、向井さんが、酔っ払った吉高さんを「おんぶ」した回。
 あのシーンの二人を観て、「キュンキュンした!」「向井理かっこいい!」「あんな風におんぶされたい!!」と、全国の女子が絶賛し、ネットでは大盛り上がりしていました。

 いやいや、ちょっと待てよと。

 婚約者のいる女性を、いくら元カレだからって、おんぶして介抱するって、モラル的にどうなのよ?
 その場で携帯使ってタクシー呼べよって話。おんぶする必要性ゼロじゃん。
 東山も、おんぶされるのってどうなの?
 「酔ってたから」を理由にすれば何でもアリ?

 でも、相手が向井さんのような超イケメンならOKってことですか。そういうことですか。
 ネットでは、「おんぶする種田優しい」「私もおんぶされたい」って女子の書き込み多数。

 ではそんな女子に聞こう。
 酔った東山が出会ったのが「イケメン向井理」ではなく、「デブハゲ加齢臭のオヤジ上司」だったら?
 「おんぶする上司優しい」「私もおんぶされたい」って絶対言わないよね。
 「やめろキモオヤジ」「タクシー呼べよエロオヤジ」と全力バッシングされたことでしょう(笑)

 それに、貴女の婚約者の彼が、酔っぱらった元カノをおんぶして朝まで介抱してたとしたら、それを微笑ましいこととして許せますか?
 僕なら絶対無理だ。
 自分の婚約者が、元カレにおんぶされて一晩中介抱されてたよ、なんて聞いたら、そんな尻軽な女とは絶対別れる。
 ハナから種田と東山が寄りを戻す前提ならアリかも知れないが、婚約中でそれはさすがに人としておかしい。

 「酔っぱらった自分をイケメンがおんぶしてくれる」というシーンがドラマの絵的に良かったとしても、シナリオ的にはああした行動をする二人を評価する気にはなれない。

 また、東山が、元カレの実家に当たり前のように出入りしているのも疑問。
 婚約破棄した本人ですよね? どんな顔して行ってるの?
 
でも、種田の親も、東山を歓迎してる様子。
 おいおい、婚約破棄した相手で、しかも今は別の婚約者がいるんですけど??
 なんでそんな和やかでいられるの??

 ドラマとして展開は面白いけど、そういう不自然なところは、微妙にストーリーに集中できず、何より、そうした不自然さを全スルーして東山と種田を絶賛できる全国の女子の反響が理解できませんでした。

 つづく…

 

 


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