わたし、定時で帰ります

 色々思うところの出てくるドラマ
 「働き方改革」が話題になる中、定時あがりの是非については、賛否がわかれるところ。
 ただ、そもそも残業が発生する理由は、業種や業界慣習、会社の規模、業績、社風、個人の性格・資質、また収入の問題など、単なるその会社だけの問題だけでなく、外的要因や個人的要因など、様々な事情がからむから、いちがいにベストアンサーなんて出せないことだと思います。

 実際、このドラマの番宣の時に、主要キャストの一人である向井理さんが、「誰も間違っていないドラマ」と言われたそうで、題名が「定時に帰る」だからといって、定時に帰ることが絶対の正義とした内容というわけではなく、様々な働き方の人が入り乱れ、それぞれに「相応の理由」があるところがこのドラマのミソです。

 僕個人としては、基本的に残業や長時間労働のないドイツのような社会が理想です。

 ですが、日本がそうなれない理由は、会社や組織の個の問題というより、国民意識そのものが異なるから、という前提を持たないといけないと思います。
 
それを、単なる企業努力の問題や、「ブラック企業」という言葉で片付けたり、上司の意識だとか、個人の仕事の進め方といった「個」の問題に置き換えてしまったら、逆に解決しないと思います。

 ドラマの第二話で、定時で帰ることをモットーとする青山を演じる吉高由里子さんに、上司である種田副部長(向井理さん)が、「うちは大企業じゃないんだから」と言うシーンがあります。

 これって、正論だと思います。
 何故なら、それが「日本」という国の産業構造の実態だから、です。

 大企業だと残業がないわけではありませんし、大中小限らず、上司がしきたりや慣習として残業を強要するのなら、それはもちろん間違っています。

 ですが、ああいった制作関係の会社って、つまり下請けでしょう。
 下請けは、決められた納期までに受注したものを納品しなければなりません。
 それが間に合わなければ、残業するしかありません。
 業種にもよりますが、このあたりは、中小企業ゆえの悩みがあります。

 「そんな、スケジュール的に無理のある仕事を受けること自体が間違ってる」

 と言われたら確かにそうですが、そんなこと言っていたら仕事を取れない下請け会社がゴマンとあるのが現実です。
 でも、会社を存続するためには、仕事を受けなければ会社が存続できない。
 それこそ赤字だったりしたら、多少無理してでも仕事を受けようとすることでしょう。
 元請けは、当たり前ですが、仕事の出来栄えが同じなら、より安く、より短期間で納品してくれる下請けを選ぶのが当然です。
 「あの会社は過重残業しているから発注をやめよう」
 なんて思ってはくれません。

 「自分らしい働き方」を選ぶのは当然その人の自由だけど、それは「自分らしい働き方」のできる会社を選ぶこと、だと思うんです。
 極論を言うと、残業しない働き方を優先したいなら、公務員にでもなれと。
 なのに、残業しないと回らない会社に自分で入っておきながら、自分だけが残業しないスタンスをとるとしたら、流石にそれはちょっと違うんじゃない?と思ったりします。

 そもそも「残業」自体は、36協定などきちんとした手続きを取っていれば、非合法なことでも、ブラックなことでもありません。組織としての正当な「業務命令」です。
 残業を断ってよいのかどうかについて弁護士が回答しているサイトもありましたが、36協定などの労働協約に基づく限り、残業を一方的に拒否するほうが「違反」と回答されていました。
 サービス残業はもちろんだめですが、職場の状況と関係なく「定時ジャスト」ありきというのは、現実に立脚すると、ちょっと極端すぎます。

 あくまで「ドラマ」としては良いでしょう。
 『半沢直樹』しかり、現実にはありえないことをやってのけるからこそ、見ていて面白い、というのがドラマの醍醐味ですから。
 半沢が現実的に上司に媚びてたら面白くないし、『わたし、定時で…』の青山が、職場の空気を読んで残業を受けていたら、現実と何ら変わらなくなってしまい、ドラマにならないですからね。

 ただ、実際に半沢のように上司に対して「倍返し」なんてやれないし、青山のようの周囲の眼なんて意に介さず定時あがりなんて出来ないけど、そんなことを堂々と出来るからこそ、そんな生き方に憧れるというわけです。

 ただやはり、そう言って残業のある職場を「当たり前」とし、定時で帰れる職場を非現実に考えてしまうと、いつまでも現状の日本の長時間労働の慣習から抜け出すことができません。

 そこで、労働時間が短く生産性の高いドイツと日本では、何が違うのか?
 というと、それは、仕事を受ける側の企業のスタンスというよりむしろ、仕事を発注する側、つまり「お客様側の意識」、ひいては「社会全体の意識が違う」ことが大きいのです。

 例えば、日本では、クライアントからの要望があれば、時間外でも土日でも対応しなければならない、ということがよくありますが、ドイツでは、「今日はもう終業なので明日対応します」「休み明けに対応します」が当たり前だそうです。
 医者でも、日本では患者の容態が変化したら、いつでも主治医が飛んでくるのが当たり前ですが、ドイツでは、「今日からバカンスなので代わりの者が対応します」が当たり前。
 飲食や小売りだと、日本ではお客さんが入ってきたら、変わらないサービスで対応するのが当たり前ですが、ドイツでは、閉店時間が近づくと、お客さんが目の前にいても、ガンガン掃除や片付けをはじめ、客の対応は後回し。「まだ営業時間じゃないのか」と日本人が文句を言おうものなら、「こんな閉店間際に来るお前が悪い」という対応をされます。
 これらは、日本なら間違いなくクレームものです。
 しかしドイツでは、国民全体がこういう意識だから、長時間労働が発生しないのです。
 個人の働き方とか、自分らしい働き方とか、そういう次元の話ではありません。

 だから長時間労働が発生しないのであり、詰まるところ、社会自体がこうでないと、結局は無理だと思うんですね。

 こうした意識が生まれる背景にあるのは、単なる国民の気質だけではなく、法律自体に「閉店法」というものがあって、小売店は営業時間を制限されたり、日曜は強制的に休まなければならない、というのがあります。
 閉店法自体は残業とは直結しませんが、こうした法律があるくらいだから、国民意識が異なるのは当然。
 また、閉店法はドイツだけでなく、ベルギー、フランス、ポーランド、イギリスの一部など、ヨーロッパの多くの国が制定しています。(完全に日祝全てを休みにしているのはドイツだけのようですが)

 日本も「働き方改革」というのなら、GW十連休なんてしょうもないことをせずに、閉店法を制定すればいいのに。
 もっとも、十連休の真の狙いは働き方改革ではなく経済効果らしいですが、そうならそうとはっきり言って、「働き方改革」なんてインチキな冠をつけるのはやめてほしい。
 ネットでも賛否ありますが、そもそもGW十連休を簡単に取れるような企業や組織は、GW十連休なんて作らなくても、もともと休みが取れている企業・組織だけです。
 普段休みを取れない会社が、祝日にしたからといって休みが取れるようになるわけではない。
 100時間かかる仕事があれば、祝日があろうとなかろうと100時間かかるし、納品日が5/8と決まっていたら、GWが十連休だろうとなかろうと、5/8までに納品しないといけないことは変わらない。

 子供でもわかる話です。

 本気で「働き方改革」させたいなら、例えば勤労感謝の日は、空港や鉄道といった社会インフラ以外の企業・組織は、法律で強制的に休業させたり、年末年始・お盆・GWも強制休みにするとか。

 ただ、ドイツ国内ですら、閉店法に対して「不便過ぎる」と反対の声もあるようなので、全ての日曜を一律休みにするのは日本では難しいでしょうけど、日曜の半分は休業しなければならないとか、「祝日」は休まないといけない、というようにすればいいのに、と思ったりします。

 法律で禁止されれば、クライアントも納得せざるをえない。
 金曜日に仕事の依頼をして、「月曜にはお願いします」なんていう、インチキな中二日依頼も出来なくなります。

 もちろん、そうすることで、収支が悪化する企業も出てくることでしょう。
 しかし、法定休日を休業して採算が取れないような企業は、淘汰されるべきなのです。
 
それを企業の自己努力に任せてやらせようとするから、休みを潰してでも稼ごうとする企業を生み出してしまうのです。

 ただ、法律で一律休業させれば、業績悪化のリスクはかなり低減されるのでは?
 と思います。

 100時間かかる仕事は、閉店法ができたって、100時間かかることには変わりませんが、閉店法で休業を強制すれば、ライバル企業も含む全ての企業が休日を潰して仕事を受けたりモノを生産すること自体ができなくなるので、過当な市場競争が発生するのを防ぐことができ、それによって注文を逃す、ということは起きなくなると思うんですね。

 それを企業の個の努力でやらせようとするから、他の企業に仕事を取られてしまい、「休むと損」になってしまうのです。

 結局のところ、日本の長時間労働やブラックな職場問題って、低価格(=低賃金・サービス労働)でいかに仕事を引き受けるか・モノを売るか、のチキンレースの結果、というのが本質だと思います。
 ここを変えないと、どんなに頑張ってクリーンな職場を作っても、ブラックな企業に格安販売されて仕事をとられ、血みどろの争いの繰り返し……になるだけだと思います。

 ……と、ドラマとは関係のない話になってしまいましたが、定時あがりや労働問題の本質って、こういうところにあると思う今日この頃です。
 

 


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