君の名は

 新海誠さんの大ヒットアニメ映画、「君の名は」。
 何人かの知人が「良かった」と言うので観ましたが、なるほど、人気のほどがよくわかる、とても良いアニメでした。

 ただ、ヒット作品にはつきものかも知れませんが、「君の名は」は、評価の賛否が結構はっきりと分かれるみたいですね。
 
それもよくわかる気がします。
 批判される理由は色々ありますが、各論的な演出方法の好き嫌いはおいといて、根本的なものとしては大きく二つあり、一つは、ストーリー展開に無理・矛盾が多すぎる、という点。もう一つは、主人公二人が恋に落ちる展開が幼稚過ぎる、という点。

 一つ目の点については、些細な矛盾というより、物語の根幹にかかわる部分で不自然なため、物語として根本的に評価できないという。
 二つ目の点については、恋愛の動機付けや
心理描写があまりにも浅く軽いため、二人の気持ちに入って行けない、ストーリー全く乗れない、という。

 以下、ネタバレもあるので、観ていない方はお気を付けください。

 僕は、一つ目についてはまあまあ同意できます。
 僕自身、ファンタジー的なドラマについては、あまり細かい矛盾は気にせず、世界観が壊れなければスルーできるタイプですが、「君の名は」の場合、「時間軸のズレ」をストーリー最大のトリックにしておきながら、その肝心な仕掛けこそが一番不自然すぎるからです。

 まあ、ネットでもたいがい突っ込まれてますが、3年もズレてれば、気付かないわけがない。
 昔から「人格入れ替わり」の漫画・映画は多くありますが、入れ替わった生活をバレずにするのは現実的には不可能だし、冷静に突っ込むと「人格入れ替わり」自体が根本的に無茶な設定なんですが、ある程度は「ファンタジー」として大目に見れます。

 しかし、物語後半に、主人公が時間軸のズレに気付くことで物語が急展開するのがストーリー最大の「仕掛け」となると、物語前半でそれに気付かないのは流石にあまりにもご都合主義すぎる。

 これでは「意表を突かれた!」という気になれない。
 ていうか、別の意味では意表を突かれます。
 前半のストーリー展開が、時間がズレてたら成立しないエピソードだらけなので、予想しようがないからです。
 
だから、時間軸のズレが判明した時、「え!?」と一瞬は驚きつつも、「いやいや、おかしくね?」って、興醒めした気分になってしまいましたから。
 こういうトリックものは、きっちり「やられたー!」という気にさせないと、逆に気持ちが醒めてしまいます。

 こういう矛盾が気になる人にとっては、この作品はどうやっても評価できないでしょうね。
 生理的に無理、みたいな感じになるかも。

 ただ僕としては、その部分にはガッカリしたものの、正直この作品にストーリー性はどうでもよく、構成上の矛盾によるストレスをどれだけ差し引いても、最初から最後までひたすら美しい映像・情景を楽しめる、有り余るほどの魅力を感じました。

 二つ目の恋愛描写について、これも否定派の言うことは非常によくわかる。
 
二人の人格が入れ替わっただけで、お互いが激しく惹かれ合う理由となる出来事や理由の描写がほとんどないからです。
 ていうか、いつ、何の要素に惹かれたのかもわからないまま、勝手にお互いにとって「なくてはならない存在」になってる。

 こうなると、単にお互いがイケメン・美少女だったから、その見た目に惹かれただけ、としか理由付けできない。
 それを「運命の人」として片付けてしまっては、中身がなさ過ぎて、
恋愛ドラマとしては確かに浅い。浅すぎる。
 そのため、作者に恋愛経験が少なすぎるんじゃないか?とか、「童貞・処女の妄想ドラマ」と言われてしまったり。

 ……ただ、僕的には「漫画・アニメってそういうもんじゃないの??」って思う部分もあります。
 
少年・少女向けの漫画・アニメで、主人公やヒロインが惹かれあう動機って、ぶっちゃけ一目惚れとか見た目とかがほとんどな気がする。
 
もっとも、今の時代、アニメも大人が観る映画と同等の存在になっているため、「大人視点」で観られたら、「幼稚」という評価をする人も出てくるんだろうな、と思います。

 でも、そもそもこのアニメ、高校生が主人公で、人格が突然入れ替わるって設定自体、少年・少女漫画ですよ。
 僕は最初からそういうつもりで観ていたので、気にはなりつつも、興醒めするほどではありませんでした。
 それに、理屈なき「一目惚れ」「運命の人との出会い」というのは、いくつになっても、憧憬があるものです。
 だから、あえて理由なく恋に落ちる展開に心ときめく人もいると思います。
 変にリアルに考えず過ぎず、少女漫画だと思って気楽に観れば楽しめるのではないでしょうか。

 まあ、いくら映像美がすごいからといって、ストーリーに根本的な矛盾や無理があることを考えたら、「過大評価」と言いたくなる人の気持ちもわからなくもない。
 
興行として記録的な数値を残したので、その成績は間違いなく評価できますが、話題性の結果という見方もでき、観た人全員が高評価をしているかは別問題です。

 もし全員アンケートとかとれたら、これより興行成績は悪くとも、これより評価の高い作品がいくつもあるかも知れませんね。

 とはいえ、変に期待値を上げ過ぎず、最初から少年・少女漫画のつもりで観れば、観て決して損はない、とても面白く、何よりその絵と映像には心を奪われる、名作アニメの一つだと思います。

 

 


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