ライセンスビジネスからの脱却

 三越伊勢丹がアナスイ事業を撤退したことを受けて、これからの日本ではアパレルのライセンスビジネスが難しいだろう、といった記事が出ていました。(2019年)

 今の日本では、そもそもブランド物を売る商売自体が厳しくなっていると思いますが、これからの日本のアパレル業界に必要なことは、日本のブランドを丁寧に立ち上げて、価値あるストーリーを語り、気合を入れて宣伝していくことが大事だと僕は思います。

 近年のライセンスビジネスでのビッグニュースといえば三陽商会のバーバリーです。

 ライセンスものには色々なやり方があり、本国が厳しく監督・チェックしているものから、ほとんど名前貸しに近いものまで様々ですが、三陽商会が展開していたバーバリーでは、日本人向けに企画された商品を比較的安価に展開する「バーバリー・ブラックレーベル」なんかが良く売れていたわけです。

 日本で企画してたら「それはバーバリーじゃない」と思う人もいるでしょう。
 ですが、輸入品だけだと、超高価なものばかりになって買える人が限られてしまいます。
 だから結局、そうしたラインのものが一番売れるわけです。

 服オタクの多くは、こうしたライセンスものを評価しませんが、僕はライセンスものが必ずしもダメとは思いません。
 服オタはよく「日本で作ってる服のくせにブランド料が上乗せされるから割高だ」と言いますが、じゃあ本家のメインラインならコスパが良いかといったら別問題です。

 むしろヨーロッパのブランドものは基本的に超ボッタクリです。
 そもそもハイブランドというものは値段と品質が比例しているわけではなく、「そのブランドが欲しければその金額を出すしかない」ものです。
 だから、割高だとか、同じ値段を出すなら○○を買う、といった、コスパがどうのという発想自体がナンセンスです。

 特に革製品なら別として、服に関して云うなら、ハイブランドなら長持ちするというわけではありません。
 むしろ、上質な生地は繊細で耐久力が弱いことが多いくらいです。

 縫製が悪いとかそういうのは問題外ですが、そのレベルの話でいうなら三陽商会のバーバリーならイギリスにもひけをとりません。
 メイドインチャイナだとしても、日本の規格はかなりちゃんとしてるし、メイドインジャパンだったら、イギリスよりも質が高いと言えるかも知れないくらいです。

 だから結局、ライセンスだろうと何だろうと、そのブランド名を買っているに過ぎないと思うんです。
 その時点で五十歩百歩だと思う。

 しかし、バーバリーとの契約が切れ、「クレストブリッジ」と名前を変えたブラックレーベルは、びっくりするくらい売れなくなったそうな。

 当然といえば当然でしょうけれど、実はクレストブリッジは、バーバリーの名前を使えなくなっただけで、継続してバーバリーとデザイン契約して作っているブランドだったのです。

 中身は変わっていないのに、名前が変わると売れなくなったのは、多くの日本人が「バーバリー」という「ブランド名」が欲しくて服を買っていたことのわかりやすい証左でしょう。

 これも当然と言えば当然ですが、ここに重大なポイントが潜んでいると思うんです。

 日本人が海外ブランドに弱いことは今に始まったことではありませんが、「日本製」や「日本規格」というのも、実はすごいブランド力があると思います。
 日本規格というのは、製造場所は東南アジアだったりしても、日本の会社の基準で製造・検品しているものは、クオリティが高いということです。
 メイドインチャイナと一口に言ってもピンキリで、本当に「安かろう・悪かろう」なものから、日本の工場と同じ基準で運営されているところは、日本製に近いクオリティになります。
 例えばダイドーリミテッドが展開するオリジナルブランド「NEWYORKER」は、中国に自社工場を立ち上げて製造しているので、表記は「made in china」ですが品質は高く、僕もテーラードジャケットを持っていますがとても良い出来です。

 そこで大事なのは、そうした品質の高さを消費者に知ってもらうことです。
 
そうしたクオリティをきちんとアピールすることと、何より、その「ストーリーを構築して語ること」。
 これが重要だと思うんです。

 すでにストーリーの出来上がってる海外の有名ブランドに乗っかるのは楽です。
 また、海外というだけで、ストーリーも簡単に作りやすい。
 日本人は本当に欧米ブランドに弱いので、実は本国では大したことのないブランドが、日本では高級ブランドのような位置づけで売れたりするから、何とも間抜けな話だと思いますが、いつまでもそういう安易な手法に頼り続けてはいけません。

 インターネットが普及した今日なら、日本でブランドを確立するのは可能なはずです。
 革製品でいえばココマイスターが良い例です。
 ステマのやりすぎでマニアからは多少反感を買っているようですが、歴史の浅い会社が既存のブランドに対抗するには必要なことだと思いますし、日本製のブランドをあれだけ短期間で名を高めたことは立派なことだと思います。

 クレストブリッジにしても、バーバリーの名を冠して恥じない品質と同等である自信があるのなら、相応の宣伝……というか、伝える努力をしていれば、もっと売れる可能性は高いと思います。

 また、これは多くのライセンスブランドに言えることですが、ポールスミスのように独自のデザイン性こそが特長のような場合を除き、オーセンティックやコンサバなスタイルの分野に関して言えば、日本ブランドが確立できる時期に来ていると思います。

 高品質なものを妥当な価格で販売する力があるのなら、堂々と日本のブランドとして売って欲しいと思うのです。
 わざわざ外国のブランド名を借りて、割高にして売る必要はない。

 ただ、高級品を買う人間の心理としては、やはり「ブランド名」だって欲しい。
 だからこそ、その精神的欲求を満たすにふさわしい、魅力的なストーリーをきちんと用意し、価値として伝えることが大事だと思うのです。

 これだけ日本の景気云々言われている時に、海外のボッタクリブランドなんかにお金を落としてる場合じゃない。
 日本のメーカー、そして消費者諸君。
 意識を変えましょうよ。

 
 

 


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