家政婦のミタ

 最高視聴率40%を叩き出した、超有名ドラマです。
 僕は特にドラマ好きというわけではないのですが、あまりにもヒットしていたので、どれだけ面白のかと期待して観ることにしました。

 ですが、観て感じたのは、高視聴率だからといって万人受けかというと、むしろ、好みの分かれるドラマだと思いました。

 というのも、家政婦「ミタさん」をはじめとするキャラクターや様々な設定自体が、あまりにも非現実過ぎるので、リアリティを求めるタイプの人には向かないと思うのです。
 
多少細かいことは気にしない僕ですら、この独特の世界観を受け入れるには、3話を要しました。

 また、登場人物全員が揃いも揃ってクズすぎて、何一つ共感できないため、はじめは観ているのも苦痛でした。

 それでも、評判の高い理由を知りたくて、苦行のように我慢しながら見続けていたら、第3話での家政婦三田(松嶋菜々子)の、あまりにもぶっとんだ行動によって、「ああ、そういうドラマなんだ」と、気持ちがふっきれ、以降、最後まで非常に面白く観ることができました(笑)

 このドラマを、現実世界を背景にしたホームドラマだと思って観ると、たぶんこのドラマは不愉快でしかないと思います。

 けれど、このドラマは、ある意味「ドラえもん」でも観るかのように、現実と空想の世界が混じった、漫画的な世界での出来事だと割り切って観ると、とたんに面白くなります。

 そういう前提に立つと、登場人物一人ひとりが、漫画のようにデフォルメされただけで、むしろある意味非常にリアルで人間くさいドラマだと思えるようになるから不思議です。

 圧巻なのが、長谷川博己さん演じる父親です。
 120%人間のクズを見事に演じきっている、その演技には脱帽です。
 
家政婦役の松嶋菜々子さんも、持ち前の偏った演技力が、この不自然極まりないキャラクターに非常にマッチしています。
 
最初はウザいと思っていた子役たちの演技も、本当に「ウザいキャラクター」設定だったので、結果的にベストマッチしています。

(以下、ネタバレ)
 
このドラマは、ある意味、日本のドラマらしくありません。
 日本の
ドラマって、たいてい「良心」や「正義」を体現するキャラクターがいるのが王道なのに、そうした人物がどこにも出てきません。
 どいつもこいつも、本当に自己中なクズばかりなのです。

 まず、最初に主役的な位置に立っている父親が、どうしようもない人間のクズ。
 だから、はじめは観ていても感情移入できず、父親の吐くセリフに対して、いちいち何の納得感もないまま、物語が進行していきます。

 そして、物語のキー的存在である家政婦の三田は、「命令されれば人も殺しかねない」という説明があったとはいえ、それがものの喩えでなく、本当に子供を川に溺れさせようとする。
 これには不自然すぎて、最初は「いやいや、ありえねぇだろ」と突っ込みたくなりました。

 そして、ある意味「いい人」的に描かれてるっぽい、義理の妹(相武紗季)が、これまた非常識レベルにウザい。
 さらには、普通に考えると守るべき位置付けのはずの子供たちも、どいつもこいつもカス揃いなので、一体に何をどう共感すりゃいいのか、不自然かつ不愉快な展開が続きます。

 こんな、行動原理に何一つ共感できない不愉快な登場人物が、正論っぽいことをほざいて、それで物語が丸く収まったりしたら、こっちの気持ちが収まらないと感じ、腹立たしくさえ思って観ていました。

 しかし、第3話で、三田が父親の会社に行って、父親の不倫を暴露するビラを配りだした時点で、悶々としてた感情が、一気に氷解しました。

 ああ、そういうドラマなんだと。 

 このドラマは、いわゆる、日本のドラマではある意味標準的とも言うべき、勧善懲悪だとか、問題を解決する爽快系のドラマではなく、登場人物のクズっぷりを楽しむドラマでした(笑)。

 この、人間の「あほらしさ」をとことん押してくる、常識外れのふりきりっぷりは、その後も止まりません。

 最高だったのが、子供達のリーダー的存在である長女が、まさに家族が悩み苦しんでいる最中に、自分はぬけぬけと彼氏の家にお泊りにいって、ベッドでお楽しみしちゃっているところ。しかもまだ女子高生だというのに。

 それも、間接的な表現ではなく、あからさまにベッドに裸の彼氏と、その横で長女が服を着るというシーン付き。
 おいおい。女子高生にそこまで露骨な演出させるのかと(笑)
 そしてその彼氏も、実はただの体目当てのクズ男。そんな男にひっかかってる
救いようのないバカ女っぷりを、はっきり描ききる潔さ。

 しかし、それも後半になってくると、この「徹底したクズっぷり」こそが、現実の人間という気がして、だんだんリアルに感じてくるから面白い。

 まさに、人間の心の闇の「ディフォルメ」です。

 子供を作って結婚までしておきながら、「そもそも結婚する気なんてなかった」「子供を愛しているのか自分でもわからない」と開き直る父親を、最初はクズ野郎と思いましたが、実はよく考えれば、現実の男の大半も、五十歩百歩なのかも知れない。

 結婚する気のない相手と付き合い、肉体関係を持ち、別れたりを繰り返し、予定外の出来ちゃった婚をする男は、決して、現実世界でも珍しい話ではありません。ただ、そのことを口にしないだけで。

 この父親はクズには違いありませんが、決して非現実的な存在ではなく、非常に身近な存在とも言えるわけです。

 主張に一貫性がなく、わがままばかりを繰り返し、都合が悪くなるとすぐ態度を変える子供たちも、見ていて本当にイラっとすることばかりですが、現実の小学生〜高校生なんて、実際そんなものでしょう。
 物わかりよく、正義と正論に収まっていく子供の方が現実的には珍しいかも知れない。

 そして、そんなクズを演じる長谷川博己さんの演技は秀逸で、前半は本当に虫唾が走るほどのクソ野郎を演じ、それが、後半になって少しずつ真人間に近づいていく様は、見事と言うしかありません。

 最後はちょっとくどい感じがしでしたが、トータルでは、なかなか面白い作品でした。

 


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