村下孝蔵さん

 僕が特別好きなアーティストの一人。
 全盛期は1980年代なので、厳密には僕の世代ではありませんし、スタイルもフォークなので、聞いた感じだと70年代と思う人もいるかも知れません。

 この人の作品の素晴らしいのは、独創性が高く唯一無二なところはもちろん、日本の童謡を感じさせるような、独特の日本的情緒に溢れているところです。
 一番のヒット曲というと「初恋」ですが、僕的には「踊り子」や「少女」といった短調の曲や、短調と長調が交錯する「ロマンスカー」「かざぐるま」「陽だまり」といった陰影ある楽曲が何ともいえず素晴らしいと感じます。

 声を聴くととても爽やかなので、どんな爽やかボーイが歌っているのかと思いきや、バリバリの小太りのおじさんというギャップも何ともいえない(笑)

 1980年代の歌謡界って、歌手にアイドル性が求められていた時代なので、村下さんのメジャーデビューにあたっては、事務所でもそのルックスのせいで評価が分かれたようですね。
 そのため、デビューしてしばらくはレコードのジャケットに顔写真を使ってもらえず、「初恋」が大ヒットして全国のレコード店に自分のレコードが並んでいるのに、ファンにすらなかなか顔を覚えてもらえなかったそうです。
 デビューしてすぐ肝炎で体を壊し、テレビ出演する機会が少なかったのも顔が知られていない理由にあったみたいです。

 そんな、曲が有名になっても顔が知られてない村下さんには、面白いエピソードがあります。
 カラオケのある飲み屋で飲んでいた時、たまたま村下さんの歌が好きだというお客さんが隣にいたそうです。
 そこで、ファンサービスも含めて、自分の曲をカラオケで歌ったところ、当然のごとく拍手喝采。
 …ですが、席に戻ると、そのファンという人からは、「本人みたいに上手ですね」と言われたという(笑)

 ファンにすら自分の顔を知られていないことに、村下さんはひどくガッカリしたそうで、そこからレコードに自分の写真を使ってもらうようお願いしたとか。

 村下さんは、高血圧性の脳内出血で、四十九歳という若さで急逝されました。
 1999年のことでしたが、新聞でそのニュースを見た時は、本当に残念でした。

 フォークシンガーって、ぞれぞれ唯一無二の個性を持っているものですが、それでも系統や、路線的なものはあります。
 ですが、村下さんのスタイルは、同じ系統の他のアーティストは見当たらず、本当に唯一無二の存在です。

 爆発的には売れなかったようですが、それは村下さんの童謡的なノリと雰囲気ゆえのことかも知れませんね。
 童謡も、誰もが知っていて、馴染みやすいですが、大ヒットするようなものではありません。
 村下さんの歌って、日本人なら自然に耳に入り、どこか懐かしいような、親しみやすい気持ちになる人は多いと思いますが、大流行したり、マイブームになるような感じではないように思います。

 一番のヒット曲というと「初恋」ですが、本当の意味で村下ワールド全開なのは、「少女」「かざぐるま」といった曲だと思います。
 『めぞん一刻』という漫画のアニメ版主題歌として作られた「陽だまり」も名曲。「踊り子」もいいなあ。アレンジが演歌っぽいのが残念だけど「春雨」のサビも素晴らしい。
 ちなみに、ご本人の一番のお気に入り曲は「ロマンスカー」だそうです。

 本当に名曲が多いので、知らない人はぜひ聞いて欲しいと思います。 
 

 


 →TOPへ