西野カナ

 若い女性のカリスマとして一時代を風靡した女性歌手、西野カナさん。
 僕は結構リスペクトしてます。

 「西野カナ」という存在を初めて知ったのは、会社の先輩からでした。
 居酒屋で音楽の話になった時、「最近、とんでもなく酷い歌手がいる」と言って出てきた名前が西野カナさんで、僕はその時、西野カナさんのことを知りませんでした。
 その先輩いわく、「なんであんなのがデビュー出来たのか理解できない」と、相当な酷評だったので、そんなに酷いのなら一度聴いてみたいと思いながらも、それきりになっていました。

 そしてある日、ラジオをかけながら車を運転していたら、若い女性ボーカルの歌が流れてきました。
 その歌声自体は、特に上手いとか下手とかは感じなかったのですが、衝撃だったのが、聴こえてくる歌詞の、ありえないほどのわかりやすさ!

 歌って、J-POPであっても、ポエミーなところが少なからずあるもので、初めて聴く歌だと、単語やフレーズが断片的に心に引っかかることはあっても、歌詞全体の意味なんて理解できないことのほうが多いのではないかと思います。

 しかし、その時ラジオから流れてくる歌の歌詞は、まるで話し言葉のように、それも女子高生の恋バナをそのまま聴いているかのように、ストレートにその意味が理解出来たのでした。

 その歌は「Go for it」という歌でしたが、僕はその時、そのあまりのわかりやすさに衝撃を受け、そのことによって、歌自体にも惹きこまれるものを感じつつ、ふいに何故か、「これってもしかして、西野カナ??」と思ったのです。

 先輩から聞いたのは、あくまで「歌がヘタ」という話だったので、西野カナさんがどういう歌を歌うのかは全く知らなかったのですが、何故かその歌を聞いた時、西野カナさんのような気がしたのです。

 案の定それは、西野カナさんの歌でした。

 こうして西野さんの歌を知って、「ああ、こりゃ受けるな」と納得しました。

 ただ、歌が下手とも思わなかったので、何故先輩があれほどまでにこの人をこきおろすのか?と思ってネットで調べてみたら、どうも西野カナさんは、若い世代からは圧倒的な支持をうけつつも、過激なアンチも結構いることがわかりました。

 その理由は、西野カナさんの歌詞にあるようです。
 僕にとっては、そのわかりやすさが衝撃的なまでに新鮮だったのですが、嫌いな人 ─ たいてい年齢が上の世代 ─ からすると、詞になっていない、芸術性がない、幼稚過ぎる、と思えるようです。

 うーむ、わからなくもない。
 確かに、正直でストレートで、文学的な語彙感はあまりありません。
 でも、だからといって西野さんの歌詞を低く評価するのは、違うと思うんですね。

 あの言葉と表現方法は、決してレベルが低いとか幼稚だからではなく、意図的にそうしているものだと思うのです。
 
まさに女子高生のような、未成年のストレートな感性の女の子の気持ちを、そのまま言葉にして表現しているのです。

 ただ、だからこそ、そうした表現を「幼稚」と感じる人のいるのでしょう。
 しかし、僕はそうは思いません。
 何故なら、本当に子供の会話をそのまま詞にしたって、絶対にまともに歌詞として成立しないからです。

 西野さんの詞が、結果的に子供っぽく見えたとしても、だからといって、作るのが容易かどうかは別問題です。
 旋律に合わせて、不自然なリズムにならないよう言葉をのせていくというのは、そんな簡単なもんじゃありません。
 まるで女子高生の恋バナのように自然に聴こえる詞にするには、相応な工夫とセンスが必要です。

 また、音楽業界の特性もあります。
 世にいるシンガーソングライターが、みんな自分の思うがままに作詞作曲していると思ったら大間違いです。
 インディーズなら別ですが、メジャーデビューするとなると、その商業路線のために、色々なタテヤリ・ヨコヤリが入ります。
 歌詞一つとっても、かなりのチェックが入り、本人が望む・望まないにかかわらず、書き直しさせられるのもよくある話です。

 なので、西野さんにしても、顧客から西野さんに求められるイメージ、すなわち「商品」としてイメージされている存在であることが求められ、それに応じた仕事をするのが音楽業界というものです。
 本当に幼稚なだけなら、事務所からダメ出しをされ、書き直しをさせられている筈です。

 つまり、若い女性をターゲットに作られた「西野カナ」という商品に魅力を感じない人からすれば、中身がなくて幼稚に見える歌詞も、わかっていてそういう歌詞にしているのであり、実際のところ西野さん自身の天然のモノかどうかもわからず、「西野カナ」という商品に求められるニーズに見合うよう、考えられて作られた歌詞だと思います。
 その結果として、若い、それこそ女子高生、中学生でも即座に共感出来るよう、平易な言葉や表現を選び、工夫がなされ、ああした歌詞になったのだと思います。

 もちろん、西野さん自身のナチュラルな感性そのままである可能性もありますが、いずれにしろ、「西野カナ」というイメージに求められるモノ、期待に応えるモノを作ることが出来る西野さんは、本当に優秀だと思うのです。

 体型もそうだと思います。
 
西野さんは、見た目も10代〜20代前半の女性のファッションリーダーとして絶大なカリスマ性を持っていたそうですが、高校時代の西野さんは、決してスマートではなく、ややふっくらしていたそうです。
 メジャーデビュー時は少しシュッとしていましたが、デビュー後も、あれよあれよと太りだし、デビュー二年後くらいにはスマートどころかちょいポチャくらいの体型でした。

 しかし、西野さんのすごいところはそこからで、若い女性から高い人気を得たことで、そうしたファンのイメージを壊さないために、徹底的にダイエットし、モデル並みの体型にまで絞り込んだそうです。
 
そこには事務所からの指示もあったそうですが、ダイエットは、やれと言われて誰でも出来る物ではありません。

 西野さんのそうしたプロ根性も、立派だなあと思うわけです。

 …とまあ、西野カナさんを持ち上げておきながら、実のところ僕は西野さんの歌をぶっちゃけ数曲しか知らないのですが、優れた職業人の一人としてリスペクトしています。 
 

 


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