関西人の庶民のソウルフード「餃子の王将」。
「30分皿洗いすれば無料」の王将
その王将チェーンの中でも、ひときわ有名なのが、京都の出町柳店。この店は、「30分間皿洗いすると無料になる」という独自ルールがあることで有名です。
サラリーマン漫画『島耕作シリーズ』にも登場し、漫画では島耕作らが皿洗いをしましたが、実際には「学生限定」のルールです。僕は大学時代にこの店の近所に住んでいたので、本当に世話になりました。
知っていたわけではなく、店の前を通りかかると、有名な「めし代のない人、ただで腹いっぱい食べさせてあげます」という手書きの張り紙を見て、貧乏学生だった僕は、思い切って飛び込みました。多い時は、週に3回くらいは通ったでしょうか。
あまりお客さんが少ないと、洗う皿がないかもしれないので、「今日は大丈夫ですか?」と聞くと、「そうやなあ、天津飯くらいやったらええなあ」とマスターが言ってくれたりして、断られたことはありません。
で、「天津飯くらい」と言っておきながら、それがまだとんでもない大盛りで、餃子までつけてくれたりします。実際には、皿洗い以外にも、調味料類の交換や、唐揚げの仕込みとか、色々な仕事をやらされたり、気が付くと30分以上仕事をしてたりしますが、タダで、本当にお腹いっぱい食べさせてくれるので文句は言えません。
あまり通い過ぎていたからか、マスターには気に入られたようで、当時店の上にあったジャズバーで飲みをおごってくれたり、「うちでバイトせえへんか。君やったら時給1,000円出したるで」と何度も言われました。
当時の京都のバイト相場は時給750円くらいだったので、すごく魅力的でしたが、僕はすでに3つのバイトを掛け持ちしていたのと、それプラスここでタダ飯食べる、という生活リズムで暮らしていたので、結局お断りしてしまいました。当時はなぜ学生限定なんだろう? と思っていましたが、今考えると、誰でもオッケーにすると、浮浪者とか、飲食店的に微妙なオッサンとかが来た時に、いちいち「アンタはだめや」というのが面倒くさいからかも知れません。
とにかく、このマスターは、本当に魅力的な人でした。
弟子に対してはめっちゃ厳しくて怖くて、暴言吐いたりしていた昔ながらの職人的なところはありましたが、お客さんにはすごく優しい。お客さんとして食べに行っても、餃子をサービスしてくれたり、唐揚げをのせてくれたり。
友達と食べにいったら、みかんとかバナナを配ってくれたり。そうしたサービスについて、当時は、自分をバイトに誘おうとしてたからサービスしてくれたのかな?と思っていたのですが、そうではありませんでした。
それがわかったのは、大学を卒業して、関東で暮らし、10年ぶりくらいにその店に寄った時。
相変わらずマスターが厨房にいて、昔を思い出しながら、天津飯を注文しました。
すると、出てきた天津飯には何故か唐揚げがのっていました。「あれ? 唐揚げのってますけど」と言ったら、マスターが「サービスや」と。
「変わらないですね。学生時代、よくここで皿洗いさせてもらいました。それで、懐かしくて寄ってみました」と言うと、「そうなん? そう言うて来てくれる奴、いっぱいおるわ。ありがとな」と。特に僕のことを覚えてくれていたわけではありませんでした。
それに、大学を出て10年、歳も30を過ぎ、貧乏な学生とは思わないだろうに、このマスターは、誰に対してもナチュラルにそういうサービスをしてる人だったのがわかりました。モノでつられて「良い人」ってのは安直かも知れませんが、とにかく人間味あふれるマスターでした。
もう結構いいお歳になられてると思いますが、いつまでも頑張っていて欲しいと思います。
いつか、何らかの形で恩返しが出来たら…とか思う、今日この頃です。