クレームに屈しないために

 日本は企業でも役所でも、クレームに過剰反応し過ぎだと思います。
 ニュースを見ていて、確かに「こんな批判されることくらい予想できなかったのか?」ということもあるけれど、「え? そんなクレームくらいでとりやめるの? これって誰得??」と思うような対応も目立つ。

 これらに対応するには、企業なりその組織が、自分たちのスタンスや考え方を、世間に対してしっかりと示し、普段から予防線をはっておこことが重要であり、有効な対策になると考えています。

 昔から、顧客満足を高めるマーケティングでは、一件のクレーム(不満足な顧客)にはその何倍ものクレーム(不満足な顧客)が存在する、と言われてきたし、グッドマンの法則では、そうしたクレームを適切に対応できれば熱烈なファンに変化になるとされ、確かにそうした側面はあるでしょう。

 しかし、「不満があっても言わない人」がいる一方で、「満足していてもそれを言わない人」も多くいます。
 むしろ、よほど感動しない限り、満足していることをわざわざ意見として出さないほうが普通です。
 「私は貴社の取り組み路線を評価します」なんてメールをいちいち入れる人なんてまれです。
 だから、現状を肯定している層の方が大きい場合だって有り得る。

 例えば、いつも通っているレストランの味が、自分の好みではない味に変わったら、「前の味のほうが良かった」というクレームを入れる人は少なくないでしょう。
 ですが、味が変わったとしても、それがより美味しい味になったとしても、「美味しくなりましたね」といった投書をするような人はまれです。

 「不満」は少しのことでも口にする人がいる一方で、「満足」はよほどのことがない限り口にしないので、どうしても「クレーム」のほうが目立ってしまうものなのです。
 にもかかわらず、たまたま入ったクレーム、まるで世間の声のように受け止めて翻弄されるのは、間違っているを超えて情けないように思うのです。

 ただ、CS活動のおいて、そうした小さなクレームでも「カイゼン」することが品質向上につながる、というのがセオリーでしたが、現代において考え直さなければならないのが、「ライトなクレーマー」の増加です。

 ライトなクレーマーとは、一見するとただのサラリーマンや主婦で、素行の大半はまともっぽく、話や常識が通じないわけではなさそうなのに、 特殊な要求をゴリ押しして来たり、従業員に暴言を吐いたり、泣くまで謝らせようとしたり土下座を要求したり、「ネットで拡散するぞ」するというような、もはやゆすり・脅しまがいのことをしてくるケースが本当に増えているということです。

 ちんぴらや反社会的な手合いは、厄介ではあるけれど、毅然とした対応が取り易い。
 むしろ難しいのは、普通っぽい人からのクレームです。

 なまじ常識がありそうに見えるから、こっちが悪いのか?? といった錯覚を引き起こし、判断を誤らせます。
 
クレームのメールや電話にしても、話が通じず罵詈雑言ばかりを並べ立ててきたら「ああ、こいつはクレーマーだ」と割り切れますが、常識的な文章だったり、言葉遣いが丁寧だったりすると、たとえ理不尽な要求であっても、つい考えさせられたりしてしまいます。

 こうした手合いは昔から存在していましたが、何故これうした「ライトなクレーマー」が増加しているかというと、インターネット、特にSNSの普及によって、何事も「自己正当化」しやすくなったことが背景にあると思っています。

  日本人は、良くも悪くも「ステレオタイプ」の傾向があり、とにかく「世間」を気にし、右に倣えの性質があります。
 
インターネットがなかった時代は、「世間」の実態を知る手段は「身近な関係」しかありませんでした。
 身近にかかわる人間関係という、ごく狭い範囲だけが基準になるため、未知の現象に対しては自分の考えが正しいかどうか確認したり、共感者を見つけることが難しかったので、自分の考えを強く主張しにくかったのです。

 しかし、インターネットで世間の様々な声が簡単に見えるようになって、世の中が変わりました。
 例えば、「カスタマーハラスメント」が話題になったとして、それで自分を省みる人が増えるかというとそうはならず、むしろ自分と同じ考えの意見を他の場所に見つけることで安心するようになってしまったのだと思います。

 例えば「yahoo知恵袋」というQ&Aサイトがありますが、明らかに非常識な内容で「私の考えは間違ってますか?」と質問したとして、それを批判する回答が10件入ったとしても、たった1件、同調する回答があると、それをベストアンサーにして、「私に共感していただける方がいて安心しました」となるようなケースをよく見かけます。
 「自分の間違いに気づかされました」というケースは圧倒的に少数です。

 なんでもかんでも法律相談しているケースも増えており、それが本当に正しい法的判断であれば良いのですが、自分の都合の悪い部分は隠して相談し、自分に都合の良い部分だけ切り取って法的解釈を利用するような、もはや「法律の悪用」のようなことをするクレーマーも少なくありません。

 まさにゲーテの言葉、「人は、わかることだけを聞いている」  です。

 ネットがなかった頃は、世間の声がわからなかったので、上司のパワハラやセクハラもそうだし、学校の教員の非常識な指導に対しても、「それが世の中の常識なのだろうか」と思って、従わざるを得なかった。
 
テレビの芸能人やコメンテーターの発言の影響力が大きかったのも、その是非を確認する場が少なかったからでしょう。
 むしろ、有名人が言うのならそうなのかも知れない、と思い込まされてしまったり。

 もちろんそうした時代には別の問題もありましたが、現在の場合、、非常識な考え方でもネットを通じて共感者を見つけやすくなったことで、悪質なクレーマー気質の人間でも自己肯定を可能にしているのだと思います。
 「バカッター」や過激なyoutuberも同じで、どれだけ炎上しても真似する輩が後を絶たないのは、類似の仲間の存在が安心感を生み、むしろ同調者を生み出しているからだと思います。

 これに対抗するにはどうしたら良いのか?
 
となると、現在のネット社会はもう後戻りしないので、発生すること自体は抑えられません。
 となれば、企業も組織側も、ネットを利用して自分の考え方やスタンスについて積極的に情報発信をし、その反響を事前確認しながら、自己のスタンスを固め続けることだと思います。

 こちらのスタンスを明確にしていないからつけ込まれるスキを作ってしまい、言われてから対応しているようだから、判断を誤ってしまったり、後手になって言い訳のように受け止められてしまうのです。

 だから、HPからyoutubeからtwitterでもなんでも活用し、自社の企業スタンスや考え方を、聞かれていなくとも先回りして発信していけば良いのです。
 そうすることで、事前の防衛策にもなるし、反響は勝手についてくるので、軌道修正もできます。

 アンケートでもなんでも、サンプル数は多い方が有効性が高いのと同じで、偶発的に入ってくる数件のクレームを重く受け止めるのではなく、言われる前から世間に問い続け、普段から何十、何百という世間の反応コメントを普段から貰っていれば良いのです。

 大きな企業ほど、イージーな情報発信によるリスクを意識してか、気軽にSNSやYoutubeなどを使わない傾向にありますが、これからは、リスクがあるから控えるのではなく、そこに本気で向き合って対策をしていく時代だと思います。
 それも、単なるクレーム対応のためではなく、市場を調査・確認するマーケティングツールとして、ブランド形成やトレンド発信のツールとしてウェイトをかけて活用していくべきでしょう。
 それを、中途半端に担当者任せにしたりするから、効果が薄かったり、分析が主観的だったり、迂闊な配信で問題を引き起こしてしまうのだと思います。

 ホリエモン氏や元ZOZO社長の前澤友作氏なんかは、聞かれなくとも自分の考えをばんばん発信するので、その分叩かれることも少なくありませんが、そうやって絶えずマーケットの反応を確認しているからこそ、支持者を集め続けられ、成功し続けているのだと思います。

(2020.10)
 

 


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