テレビのヤラセ

 テレビにはヤラセと演出が当たり前のように存在します。
 それは、バラエティだけでなく、ニュースやドキュメンタリー系の番組でも同じ。
 
僕はこれまでにテレビ番組の撮影にからんだことが何度かあるので、実体験から言っています。
 
レストランの新店オープンをドキュメンタリーにしたニュース番組では、メインの出演者として出たこともあります。
 なので、憶測だとかネットで拾った情報とかではありません。

 ただ、ものによっては、「ヤラセ」と「演出」の違いは微妙なところです。
 台本があるわけではなくても、テレビカメラを意識した結果、作為的になってしまうこととか、ヤラセなのか、演出なのか、リアルと含めるのか、微妙な部分も結構あります。

 そうした演出・ヤラセを、軽微なものから過剰なものまで、体験した範囲で順に説明していきます。

●本筋そのものには影響のない演出

 よくあるのが、音ですね。
 
実際に撮影しているときの音って、うまく拾えていなかったり、雑音が多かったりするので、後からそれっぽい音を合成するというやつです。

 これは、テレビ局に勤めている友人にも聞いたのですが、例えば、自然をテーマにしたドキュメンタリーなどで、流れる川の音とか、葉ずれの音とか、動物の動きとか、実際の現場では、なかなか綺麗に音が取れないそうです。

 実際の音がわかりにくい音だったりすると、観ている人の反響が良くないらしく、そういう場合、視聴者が一般的にイメージする川の流れの音とかを合成するそうです。

 厳密にはこれもヤラセというか捏造に入るのか?と思いもしますが、出演者だって、この音は合成ですといわれても、そうなんですか、くらいにしか思わないでしょう。

 こうした、その企画の中身自体には影響のないレベルの演出は、いくらでもあると思います。

●自主的な演出・演技

 これは本当に多い…というか、どうにも避けられないものではないでしょうか。
 どんな人でも、テレビカメラがやってきたら、いつも通りの、ありのままを撮ってもらおうとするか?
 というと、必ずしもそうはならないと思います。

 撮られる側として、これは見せたくないな、というのもあるし、いつもよりちょっと格好付けたことをしてみたりと、そういうのは絶対にあります。

 こういうケースは、制作会社からは喜ばれないやつですね。
 テレビ側としては、ありのままの舞台裏を放映したいと思っていても、見せる側の意思として、都合の悪い所は見せたくないわけです。

 僕が経験したしょうもない例としては、ある会議のシーン撮る時、通常その会議で使う部屋は、小さい雑然とした部屋で見栄えが悪いので、テレビが入る時は、大きく綺麗な会議室を使ったり、とか。

 これは、本来の事実そのものとは異なりますが、決して制作会社が指示したわけでも、台本があったわけでもなく、取材を受けている側が、その時々によって自主的に行われることなので、ヤラセというべきかは微妙なところですね。

●成り行き上用意した場面

 このあたりからは、かなり「ヤラセ」色が強くなります。

 僕が実際に体験した例をお話しします。
 とあるレストランのオープンのドキュメンタリー番組で、僕はその店のマネージャーだったので、メインの被写体として出演しました。

 制作会社の人との打ち合わせの中で、オープン業務でやることが多すぎて自宅に仕事を持ち帰ったこともある、という話をしたら、「そのシーンを撮りたい」というのです。

 でも、あくまで、そういうこともありました、と話しただけで、別に今、そうしているわけじゃない。
 でもテレビ的には、そうした「家まで仕事を持ち帰るくらい大変な姿」という絵を撮りたいわけですね。

 まあ、家まで持ち帰ったこと自体は事実なので、その話自体は嘘ではないけれど、そういうシーンが欲しいからといって、わざわざその場面を用意したら、それってヤラセじゃないの?と思いました。

 その時は大変でしたよ。
 実際、日中はオープン業務で忙しいから、そんな撮影をするとしたら、本当に深夜じゃないと無理なので、わざわざ夜の23時くらいに、僕の家にカメラの人に来てもらって、事前に用意していた仕事を家でやっているシーンを撮ったんですから。
 これって、ほぼヤラセですよね?
 もっとも、そのシーンは結局使われませんでしたが…

 また、別の番組では、すでに終わった会議について、その場面を再現して撮影したこともありました。
 制作会社的に、そうしたシーンがあったほうがストーリー的に流れが良いと思ったら、お願いされることが結構ありますね。

 まあこれも、そういう会議があったこと自体は事実なので、作り話ではないけれど、撮影された場面自体は、作り物ですよね。
 
そうなるともはや、ドキュメンタリーという観点からは、かなり「ヤラセ」です。

●作為的な編集

 この話は100%ヤラセです。
 これも自分の実体験で、かなり嫌な体験でした。
 前の話と同じオープン準備のドキュメンタリーですが、順調に進んでいるだけだと、どうもつまらないようなのです。
 だから、悪戦苦闘しているシーンをやたらと撮りたがる。

 でも、そんなのって、意図的に用意できるものではない。
 だから、僕は適当に聞き流していたのですが、上司の考えは違いました。
 ある日の
撮影中、とある料理の対応をする時、僕の知らないメニューをいきなり出されたんです。
 
それで、「ええ??こんな商品は知らないですよ…」みたいなことを言ったのですね。
 で、それが実際に映像化されると、そのセリフの部分だけが切り取られ、そこに「…と、苦し紛れに、言い訳をしてしまう」といったナレーションが付け加えられました。

 いやいや、ふざけんなと。
 言い訳なんてしてないし。これはずるいだろ、と。
 いくらなんでも、
そんな編集をされたらたまったもんじゃない。

 撮影って、ずっとカメラを回しっぱなしだったりするので、その所々を、都合よく切り貼りして、さらにナレーションで勝手な補足まで付け加えられたら、実態とは異なるものを事実っぽく演出することなんて、いくらでも出来てしまう。

 この時の僕のリアクション自体には、台本はありません。
 でも、わざとそういう反応が出そうな仕込みをして編集するなんて(この場合は制作会社だけでなくこちら側も噛んでいますが)、演出としては完全なヤラセだと思いました。

●誘導的なヤラセ

 これも前の話の続きです。
 僕が新店のマネージャーをやることについて、制作会社の人が、「こういうのってどういう基準で選ばれるんですか?テストとか、そういうのってないんですか?」と質問したんです。
 でも、多くの会社組織がそうであるように、人事異動で、何かをプロジェクトに任命されたとしても、いちいち試験とかありませんよね?
 もちろん、僕の場合も、テストなんてありませんでした。

 しかし、制作会社と打ち合わせをしてる時、そういうのがあったほうがストーリーが盛り上がるのに、という話になったら、上司がわざわざ用意したのです。
 
これはさすがに100%ヤラセじゃん、って思いましたね。

 でも、制作会社って、もって行き方が上手なんですよね。
 制作会社から、そういうシーンを用意してくれと、明確に言われたわけではないんです。
 僕が最初、「そんなのありません」と答えると、
制作会社の人は、「ええーっ、そうなんですか…ないんですか、残念ですね…そうですか、でも、ないって、不思議ですよね…」みたいな感じで、後をひくように粘るんですよね。
 そして、打ち合わせの合間合間に、今こうやって撮影しているけれど、内容によっては、放映されない、お蔵入りになる、ということもあるのでその時はご了承ください…なんてことを、うまく話に混ぜ込んでくるんですよね。
 そうすると、会社側としては、テレビで放映されたほうが知名度が絶対に上がるから、何としてもお蔵入りにはさせたくない。
 それで上司は、「実は、テストを予定してるんです」とか急に言いだして、制作会社が期待するシーンを、自主的に用意したのです。
 明らかに用意したのはミエミエですが、制作会社は、そんなこと突っ込みません。

 これって、巧妙ですよね。
 制作会社がヤラセを明言したわけではなく、あくまで、取材されている側が勝手にやったことなので、制作会社的には「ヤラセ」ではない。
でも、そうなるように仕向けてるんですよね。

 そして僕はその時、なんとそのテストで落ちました(笑)
 急増してデッチあげたテストです。しかも、内容も適当。
 わけのわかならいままやって、落とされましたが、そうすることでドラマは盛り上がるという寸法。
 規定に存在しない架空の試験を社内で唯一受けさせられ、それに落ち、そしてそれがテレビで放映されるという貴重な経験をさせていただきました(笑)

 似たようなことは、他の制作会社で、商品開発の取材を受けた時の話があります。
 その時は、商品開発の担当者を追う、という企画でした。
 そこで、ある商品開発の担当者が企画した商品が、偉い人から一刀両断に却下されてショックを受けるシーンを撮りたい、という内容でしたね。
 オーナー社長の会社ならいざしらず、それなりの規模の企業で最終答申までいった商品は、すでにその時点で大筋の承認や根回しは終わっているのが普通で、そんな簡単にひっくり返ったりはしません。
 ですが、番組的には、地味に手続きを経て商品が誕生しても面白くないから、そういう波乱のシーンを入れたい、というのです。

 テレビ番組って、なんでこう被写体に恥を欠かせたいのだろう(笑)
 そうして、会議で提案が上司からバッサリと斬り捨てられ、その担当者は失意にまま自宅に帰り一人うなだれる…というシーンが誕生しました。(この時は、その人の自宅までカメラが入りました)

 こんなのは、テレビの制作現場ではよくある話なのかもしれませんが、完全にヤラセです。

 とまあ、実体験をもとに色々書いてみましたが、制作会社なんて、結局はどこもテレビ局の下請けです。
 つまらない映像だったら採用されないし、取材される側も、何とか放映してもらうために、いかに面白く見える、反響の良いものにしようという意識が働くのは当然といえば当然で、結局その考えがヤラセの温床になるわけです。
 どこまでやるかは制作会社と取材される側のお互いのモラル次第なんでしょうけど、

 ただ、そうした取材・撮影を受けた当事者としては、ほんと嫌な印象しかありません。
 
事実に無いことを誇大に演出されたって、事実を知る関係者からしたらむずがゆい話だし、事実になく格好悪く演出されても、たまったもんじゃありません。

 でも、なんであんなヤラセの撮影に賛同したのだろう?と、自分自身でもつくづく思います。
 しかも、恥をかかせられて。
 まあ、その時は、単純に担当者の一人として、テレビ放映を実現して、売上を獲りたいと思ってたんでしょうね。
 今思えば、会社は喜んだかもしれないけど、自分自身には残ったのは、無意味な経験と、事実にない恥をかかされたけで、ばからしい話です。

 何にせよ、ヤラセはよくないと思います。

 

 


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