世界に誇る日本の時計産業

 日本を代表する産業と言えば、多くの人がトヨタのような自動車メーカーが頭に浮かべると思います。
 高度成長期に日本の「モノづくり」の象徴的存在だった、ソニーやナショナル(現パナソニック)といった電機メーカーの名前を挙げる人もいるでしょう。ちょっと詳しい人なら、インフラを支えている日立製作所のほうが強いと言う人もいるでしょう。
 
工業機械や部品、化学の分野でも、世界トップのシェアを持っている企業が多く存在することが知られています。

 そうした中、実は日本の時計産業も、世界的のトップクラスの技術を持ち、評価されています。
 
その代表的なメーカーが、セイコー・シチズン・カシオです。

 時計産業の本場といえばスイスです。
 歴史、技術、人気、世界的なシェアなど、あらゆる面において、スイスの時計産業は世界のトップにあります。
 「世界三大時計メーカー」と言われる、パテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲといったメーカーはどこもスイス。世界最古の時計メーカー・ブランパンもスイス。高級時計の代名詞的なロレックスやオメガといったメーカーもスイス。時計史上最高の天才と言われるアブラアム・ブレゲもスイス人と、とにかくスイスの時計産業には歴史と技術があり、名門ブランドが集結しています。

 時計の技術的要素というと、電池で動くクオーツ時計が発明されるまで、世の中にある時計のほとんどはゼンマイで動く機械式時計でした。
 機械式時計の構造自体は特別なものではありませんが、それを腕時計という小さなサイズに詰込み、しかも精度を出すには、非常に高い技術が必要なのです。
 そうした機械式時計の製造において世界最高の技術を持っていたのがスイスでした。

 しかし、実は日本も、スイスに負けないレベルの時計製造の技術を持っているのです。

 かつてスイスでは、時計の精度を世界で競い合う「天文台コンクール」というものを毎年開催していて、そこではいつもスイスの時計がトップを占めていたました。

 その天文台コンクールに、1964年から日本のセイコーが挑戦を始めました。
 
セイコーは明治十四年に創業した服部時計店を前身とする、日本で最も古い時計メーカーで、参加当初こそスイス勢に負けていたものの、1967年には、なんとセイコーの時計がコンクールの上位を独占するほどになったのでした。

 天文台コンクールは、世界大会と言いながらも、実質的にはスイスの技術力を世界にアピールする場のようなものでした。
 しかし、それを日本のメーカーに占拠されたのでは具合が悪くなり、なんとそれ以降中止されるという事態にまでなったのです。

 百年近い伝統のあるコンクールを廃止に追い込んだセイコーの名はこうして世界に知れ渡ったわけですが、セイコーが世界の時計業界にもっと大きな影響を与えたのが、クオーツ時計の量産化の成功です。

 ゼンマイ仕掛けの機械式時計と違い、電池で動くクオーツ式時計は、非常に精度が高く安定していて、ゼンマイをいちいち巻かなくて良いため扱いも楽な時計です。

 そのクオーツ式の腕時計の量産化に成功したのがセイコーでした。
 
発売当初は機械式よりも高価な時計でしたが、セイコーが1970年代に量産化に成功して安価に販売すると、世界的大ヒットになりました。

 安くて正確なセイコーのクオーツ時計は、それまでの高くて精度の悪い機械式時計を一気に駆逐し、これによって、世界中の時計メーカーが次々と廃業に追い込まれます。
 アメリカに至っては、タイメックスただ一社を除く全ての時計メーカーが倒産、もしくは他国に買収され、消滅しました。
 そして、それまで時計業界の王者として君臨していたスイス国内ですら、時計事業者が半分以上倒産し、国会で討議されるほどの大事件になったそうです。

 このことを時計史においては「セイコーショック」や「クオーツショック」と呼ばれています。

 ただ、1980年代以降、スイスの時計業界は戦略的な業界再編を行って盛り返し、現在は再び時計産業のメッカとしての地位を復権しましたが、セイコーの技術力の高さは今もなお世界のトップクラスにあります。

 次にシチズンですが、シチズンは「市民に親しまれるように」という意味を込めてその社名がつけられたことでわかるように("citizen"は「市民」の意味)、大衆時計の製造販売をポリシーとするメーカーで、大正七年に創業された尚工舎時計研究所を前身とする、歴史ある会社です。

 機械式時計の技術も持っていますが、機械式時計は良い物を作ろうとするとどうしても高価になってしまうため、安価に量産できるクオーツ時計に主軸をおいています。

 シチズンの何よりの特長は、ソーラー時計やGPS電波時計といった、時計の最先端技術のパイオニアであることです。
 それらの技術力はセイコーを凌ぎ、世界一とも言われています。

 最先端の技術を持ちながら、大衆向けのラインにおいても安くて品質の高い時計を製造するシチズンは「技術のシチズン」と呼ばれ、かつてムーブメントの製造においては世界一の生産量を誇り、現在でも日本国内では売上第一位のメーカーです。

 時計マニアの中には、クオーツ時計は電子機器であって本物の時計ではない、というおかしな人もいるようですが、単純に「時間を見る道具」としての「時計の進化」という点においては、ソーラー電波時計はまさに時計の進化形です。クオーツ時計やデジタル時計を否定するのは、「ブラウン管のテレビこそ本物のテレビ」「そろばんこそ本物の計算機。電子計算機は邪道」と言っているようなものです。
 文字盤に装飾を施しても高い感度で受信できる電波ソーラー時計や、耐久性の高いデュラテクト加工など、様々な領域においてシチズンは世界ーの時計の製造技術を持っているメーカーといっても過言ではないでしょう。

 そして最後にカシオですが、カシオは元々が時計メーカーではなく、計算機メーカーであったことから、機械式時計の製造技術はないものの、逆に自身の強みを活かして、デジタル時計というセイコーやシチズンとは別の領域で独自の存在感を放っているメーカーです。

 カシオの最大のヒット作と言えばG-SHOCKでしょう。
 
耐久性に最大の価値を置いたG-SHOCKは、販売当初、日本では全く売れなかったものの、海外で人気が爆発し、それが逆輸入される形で日本でも人気になったそうです。
 そのエピソードも面白く、アメリカで、G-SHOCKをアイスホッケーのパックに見立てて叩いても壊れないというCMを流したところ、「誇大広告ではないか」と苦情が出たそうです。
 そのため人気テレビ番組で検証されることになり、実際にアイスホッケーの選手がフルスイングしたり、ダンプカーでひいてみたら、本当に壊れなかったのです。
 そこから一躍話題になり、アメリカ中で人気に火が付いたそうです。

 また、時計屋ではないからこそ生まれたといえる独自のデザインには世界中に愛好者がいるそうで、映画「スピード」でキアヌ・リーブスが着用していたり、世界一の資産家ビル・ゲイツもG-SHOCKを愛用しているそうな。

 海外では、セイコーやシチズンよりも知名度が高いと言われています。

 時計マニアから言わせると、機械式時計を作れないカシオは、時計メーカーとしては一段低く見られるようですが、腕時計でありながら電話帳機能を持ったデータバンクなども、携帯電話がなかった時代には愛好者が多かったヒット作ですし、現在でも高度計など多機能を備えた登山用時計「Pro-trek」シリーズや、速度計などを備えたスポーツウォッチ「スポーツギア」など、電子時計では独壇場的な人気を誇り、時計マニア的な視点を除けば、日本を代表する優れた時計メーカーです。

 そんなわけで、日本の時計メーカーは非常に優秀なのです。
 よく、出来る男は良い時計をするとか言われたりしますが、それが本当かどうかはさておき、安直にロレックスやオメガ、女性ならカルティエやブルガリといった海外ブランドにばかり目を向けるのではなく、日本人なら自信を持って日本の時計を選ぶべきだと
思います。

 


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