腕時計は必要か

 スマホが普及した今日、「腕時計は必要か・不要か」論争というのがあるそうです。
 それに加えて、「高級時計の必要性」論ですね。

 僕は、腕時計が結構好きです。
 歴史とかムーブメントとかも多少語れるくらいの、いわゆる「時計おたく」の入り口をうろついているような人種です。

 そんな僕が思うのは、「今の腕時計はアクセサリー」という認識です。

 ネットには、「ちゃんんとした時計をするのはビジネスマンの身嗜み」といった意見も見かけますが、もう古い感性だと思います。
 スマホが普及する前は、腕時計がないと普段の生活にも支障があり、仕事においては致命的といえるレベルでした。
 携帯電話は仕事として使える機能が少なかったので、会議中や商談中に携帯を取り出すのは私用メールを確認するかのような誤解を与えてしまうため、仕事中に時間を確認するには腕時計が必須で、だからどのような時計をするかというのは、スーツと同じくらいに身嗜みに含まれていました

 服や靴がTPOにそぐわないふざけた格好だったらよろしくないように、時計もカジュアルな時計は好ましくないとか、それなりの地位になればそれなりのスーツを着るように、それなりの時計をしよう、というような感じです。
 有名なサラリーマン漫画「課長・島耕作」でも、上司の中沢部長が社長になる歳、前社長から高級時計を渡されるシーンがあります。
 その時中沢部長は、そのような物で社長の風格を出そうという気はありません、と答えたものの、前社長からは、社長になったからには、会社を代表する人間として、相応の格好をしてもらわなければ困る、と言われます。

 本当にそうしなければ社長業が務まらないのかどうかはともかく、当時はそのような価値観が存在したという事例だと思います。

 ですが今や、スマホの普及によってそもそも腕時計の必要性自体がなくなっただけでなく、アップルのスティーブ・ジョブスがタートルネックにジーパンといったスタイルで公の場に出たり、IT企業を中心にパーカーやトレーナーといったカジュアルなスタイルを正装のようにしてビジネスの場に持ち込んで広めた影響もあり、スーツ文化自体が廃れつつあります。

 なので、こうなったらもう腕時計についても何をか況んや。

 服でも鞄でも、どんなコーディネートをするかで雰囲気が変わってくるように、値段やブランドではなく、服装やシチュエーションに応じて選ぶのがお洒落だなあと思います。

 たまにネットで見かける、〇歳になったら〇円以上の時計を身に着けるべき、というようなステータス論的な話は、全くもってくだらないと思っています。

 誰もが時計をつけて当たり前の時代では、どんな時計をするかで、確かに多少のステータス感はあったかも知れません。
 それなりの企業でそれなりの役職にある社員が、あまりみすぼらしい格好をしていたらいけないように、時計も、それなりのものをつけた方が良い、という感覚が生まれても、わからなくもない。

 しかし、もはや趣味やアクセサリー化したものにどれくらいのお金をつぎ込むかは、個人の主観でしょう。

 ただ、社会人として、それなりの年齢・立場になってきたら、やはり、どんな風にあったほうが良いか、ということは多少考えることは悪いことではないと思います。
 
どんなに収入や地位があっても、服や身なりなんて一切気にしない、という人もいますが、見栄をはる必要はないけど、何らかの「ポリシー」はあったほうがいいかな、と思いました。

 服なら「ユニクロや無印で十分」というポリシーだって良いと思うし、出来るだけ着心地の良い天然素材の服を選ぶ、といった実用的なポリシーだって良いことだと思うし、「日本製にこだわる」っていう、精神的なポリシーだって良いと思うんです。
 
決して、ブランド物や高級品、という意味ではありません。

 世界でも屈指の大富豪のビル・ゲイツ氏は、カシオの三千円くらいの時計を愛用されているそうです。
 ゲイツ氏が贅沢に興味のない人物だからというわけではなく、バカンスに巨大クルーザーを借り切って一週間で七億円も使うような人ですが、一人のエンジニアとして、安くて優れた時計を作るカシオをリスペクトされているからだそうです。
 アメリカの大統領が一〜二万円程度のタイメックスの時計をしているのも有名です。タイメックスはアメリカを代表する時計メーカーであることと、庶民の味方であることをアピールするためだそうです。

 地位や経済力がどうだと高級時計をしなければならないなんて常識は世界のどこにもありません。
 むしろ
そこに、金額で優劣を語ったり、金銭的に身の丈に合わない高級時計やブランド品を身に着けることこそが醜悪に感じます。

 ただ、時計は、知っている人は知っていると思いますが、実はかなりディープな世界で、見た目や実用性とは関係ない「精密機械オタク」的な要素も非常に強く、実用的には全く役に立たないけど作るのにひたすら手の込んだ複雑機構や、外からは見えない内部の部品一つひとつにまで磨きみ装飾を施すというような、完全に趣味の世界の工芸品になっていて、その結果として、値段は下は100円から上は億を超える腕時計が存在します。

 数千円とか一万そこらくらいの時計は、素材が安い合金だったり、塗料でごまかしているようなものもあり、それが五万円あたりから、素材も作りもしっかりとした時計になっていく、といった物理的な違いがあます。
 以前何かのアンケートでは、40〜50代のサラリーマンがしている腕時計の平均単価は、4〜5万円と出ていました。
 時計雑誌とかの調査だと数十万円するようなブランドものの名前が当たり前のように出てきて信用なりませんが、ヨドバシやビックカメラといった家電量販店の時計コーナーの品揃えの価格帯を見ていると、4〜5万円くらいというのは妥当な気がします。

 調べてみるとなかなか奥が深くて面白い世界だと思います。

 

 


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