スーツと腕時計、どっちに金をかける?

 ネットで時計談義の記事を観ていると、「服は安物でも時計には金をかけたほうがいい」と主張する人が少なからずいるようです。

 はっきりいって、これはズレた感性だと思う。

 そもそも服にも時計にもお金をかけない、という考え方はおいといて、もし「何かにお金をかけるなら」という前提での話です。

 そうなると、特に男性の場合「時計」にお金をかける人は、昔から結構いるようです。
 一点豪華主義というか、スーツは量販店の二着で○万円、靴は「靴の流○センター」の三千円の靴、しかし時計はロレックスやオメガ、というようなパターンです。

 安物の服を着ながら、時計だけに何十万・何百万もかけたり、ましてやローンを組んでまでして買う人の気が知れない。

 そうした行動につていよく、「スーツは高級で時計は安物より、スーツが安物でも時計が高級なほうがいい」と言う人がいるのです。
 その理由は、「スーツは高級でも安物でも違いに気づく人は少ないが、時計は安物と高級時計では明らかに高級感が違う」からだそうな。

 …それって結局、見栄はりたいってことかよ(笑)

 実用性でいえばむしろ、時計は高級な機械式時計より、安物のクオーツ時計のほうが精度は上です。
 スーツは、安物よりもちゃんと仕立てたスーツのほうが圧倒的に着心地が良いです。

 つまり、理屈でいえば「高級スーツと安物時計」の組み合わせのほうが、よっぽど意味がある。

 にもかかわらず、「時計」を選ぶ男性がいるのは、やっぱりバブル的な感覚がいまでも残っているからなのかなあ。

 確かにスーツって、表面でブランドとかはわからない。
 アルマーニのスーツを着たって、袖に「アルマーニ」と書いているわけじゃあない。
 その点時計は、見ればわかるものはわかります。
 それこそロレックスとか、ロゴだけでドヤれそうです。

 でも、ほとんど勘違いだと思いますね(笑)

 というのも、「スーツは見た目でわからないけど時計は見た目でわかる」という認識自体が間違ってます。

 時計が見た目でわかる、というのは、あくまで「時計に興味を持っている人」目線での話です。
 はっきりいって、世間一般の九割以上の人は、時計のブランドなんて知らないし、興味もありません。
 だから実際、高級時計をつけていても、そのことに気付く人自体が少ないのが現実です。
 「ロレックス」は知られていても、時計がロレックスであること自体にまず気付いてもらえません(笑)

 それを言ったら、実はスーツもそう。
 「安物と高級スーツは見た目でわからない」と言いますが、それはその時計オタな人が服のことを知らないだけで、スーツをオーダーメードしたり、生地や縫製などをちゃんと見て服を買っている人からすると、安物と高級スーツの違いなんて、すぐわかります。

 たぶん、人口の絶対数からすると、時計オタよりも多いと思います。
 特に女性は、高級時計よりも、良い生地を使ってる服の方が気付くんじゃないかなあ。
 時計なんてそれこそ、300万円のパテックよりも、時計オタのバカにする5万円くらいの洒落たファッション時計のほうが、パッと見だけだと高級時計って思われるかも知れない(笑)

 靴だって、合皮の靴と本革の靴との違いは見ればすぐわかる。
 ベルトも、高級ベルト同士の比較は難しいですが、やっすい合皮のベルトと、ちゃんと仕上げた本革ベルトとの違いは一目瞭然だし、特にベルト穴付近がハゲてたりしたら一瞬で気付きます。

 だいたい、高級時計は絶対金額が高い。

 スーツは30〜40万円もかければ、総理大臣やイギリスの皇太子が来ているレベルのスーツが買えますが、腕時計の場合、時計オタク的には30万円の時計なんて安物扱いで、高級時計と呼べるのは50万からとか、100万からだとか言い出す輩もいるくらいです。
 ほんとコスパが悪い。

 ロレックス一本に100万円かけて、スーツは量販店の2〜3万円の安物を着るくらいなら、時計は30万円のグランドセイコー、スーツを15万でオーダーして3着くらい、靴に5万円で2足、ベルトに1万円、カバンに5万円、残りのお金でシャツを買う、というほうが、よっぽど賢くてお洒落だと思います。
 もっとも、時計に30万円も、相当マニアな領域だと思いますけどね。あくまで100万円使い切るのを前提にした場合の配分です。

 あと、○歳になったらいくらくらいの時計がふさわしいか?とか、年収いくらくらいだと○円くらいの時計が適当か?みたいなサイトの情報は、ほぼアテにならず、たいてい「バカ高い値段」になっているので、信用してはいけません。
 理由は単純。そういうサイトって、たいていそのおすすめの時計の販売サイトにリンクしてますよね?または、時計の広告が表示されますよね?
 つまり、あれは高級時計サイトに誘導することによる広告料を狙っているだけだからです。
 だから、安い時計やマイナーな時計はあまり出てこず、バカの一つ覚えのように「ロレックス」「ヴァシュロンコンスタンタン」といった、日本での広告活動に熱心なブランドが上位に出てくるわけです。

 だから、そうした広告のない、単純なアンケートや街角調査的での「あなたの時計はいくら?」みたいなサイトだと、時計に何十万・何百万もかける人は、たいがい数%以下の結果になってます。

 時計に興味がない人にとって、高級時計のことが全くわからないのと同じように、服にお金をかけない人には一切わからない感性かも知れませんが、良い服を持っている人からすれば、安物の服はすぐにわかります。そして、そうした層は、時計オタクよりも間違いなく多い。

 高い服しか買わないような人はそんなにいないでしょうけれど、コートやアウターは良い物を買う、とか、勝負服を持っている人は結構いると思う。
 だから、現実には「スーツは高級でも安物でも違いに気づく人は少ないが、時計は安物と高級時計では明らかに高級感が違う」じゃなくて、「時計は高級時計で安物でも気づいてもらえないが、スーツは安物か上等かは多くの人に気づかれる」が正しいように思う。

 そもそも高級品なんて一切不要、と言う人にとってはどちらもどうでもいい話だと思いますが、少しでも見た目で見栄を張りたい人で、時計だけ一点豪華でお金をかけている人は、考え方を変えた方が良いと思います。

 


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