残念映画「トゥモロー・ウォー」 

 駄作映画は山ほどあります。
 ただの駄作は批評するまでもありませんが、もう少し上手く作れば名作になり得たろうに、もったいないと感じる「残念映画」の解説です。

 「トゥモロー・ウォー」は、2021年のアメリカのSFアクション映画です。
 エイリアンの襲撃によって滅亡寸前に追い込まれた未来人が、過去にタイムトラベルして現代に救いを求めるという話。

 正直、脚本がかなり酷い(笑)
 じゃあ何が残念って、そこそこお金と手間はかけてそうな映画なんですよ。
 「それだけコストかけられるんなら、もう少しまともな脚本作れよ!」
 という残念さです。
 ……というか、こんな酷い脚本によくスポンサーついたなあって思うレベル。

 ちなみに、アマゾンが作った映画と思ってる人がいるようですが、違います。
 もともと劇場用だったけど、コロナで配給できなくなったのでアマゾンに売ったので配信のみになっているだけです。

(以下、ネタばれあり)

 特に酷い部分を記載します。

1.基本設定に矛盾がある

 この映画では、タイムトラベルによって発生するパラドックスの基本設定に矛盾があります。

 タイムトラベルものの映画は、1つの連続世界しかない設定と、パラレルワールドが存在する設定とで、シナリオの作り方が変わります。
 1つの連続世界しかない設定の代表は、バックトゥザフューチャーですね。
 過去を変えて元の世界に戻ると、元の世界も変わってるというやつです。
 パラレルワールドが存在する設定は、話題になったドラマ「テセウスの船」なんかそうですね。(若干矛盾がありますが)
 過去を変えたとしても、変える前の世界線はそれとは別に存在し続けてるってやつです。こうした平行世界のスタイルは、ドラえもんの魔界大冒険でも有名になりました。

 「トゥモロー・ウォー」では、過去から未来に徴兵される人物は、タイムパラドックスが起きないよう○年以内に死亡する人に限られていました。将来子供を作る予定の人が死んだりしたら未来世界と矛盾が生じるので、それを避けるためです。
 この部分だけ見ると、同一世界線での設定なんだと思いました。

 しかし後半になると、過去を変えられたとしても、未来世界が滅亡することに変わりは無い、という説明がされました。
 ってことはパラレルワールド??

 それなら、過去からどんな人物を未来に送り込もうと未来には影響を与えない。つまりタイムパラドックスは発生しないはず。
 設定が矛盾してます。

 まあ、ストーリー展開の仕掛けには影響しないのでどうでもいいといえばいいのですが、1900年代ならともかく、今時のSF系のシナリオ作るなら、こういう設定は丁寧に作らないと、どんな説明にも説得力がなくなり、それだけでSFファンは興ざめです(笑)

 この映画の場合、同一世界線の設定で統一し、「過去を変えれば未来も変わる」とすれば良かったと思う。
 そうすれば、主人公が未来の世界の娘を死なせても名分が立つ。

 「過去を変えてくれれば、私は死なないから心配しないで!」
 「そんなの、頭ではわかっていても、目の前にいる娘を見殺しになんてできるか!」

 くらいのやりとりで良かったのでは。
 もっとも、とりかえしのつかない状況にすることで感動的なシーンにしたかったんだろうけど、その演出に執着したせいで世界観をぶちこわしてしまった感じです。

2.民間人を訓練無しで徴兵する意味が不明

 タイムパラドックスを避けるために、未来に送る人は選ばないといけないのはよしとしよう。
 けど、わざわざ素人の民間人を直前に招集し、訓練無しで送り込む意味なくない?

 直近で未来に送り込むメンバーとは別に、同時進行で何ヶ月か前に徴収し、訓練を経て順次送り込めばいいと思うんだが。
 民間人を訓練無しって自殺行為にもほどがある。
 第二次世界大戦の日本では、ろくに訓練もせずに学徒動員したので、緊急事態時には起こりうることとはいえ、あの流れではおかしすぎる。
 せめて序盤は退役軍人とかを送り込み、後発隊はしっかり訓練期間を設けるとか、やりようはあるはず。

 また、色々説明しなさ過ぎでしょう。
 主人公が徴兵された時も、何を聞いてもろくに受け答えせず、高圧的な態度で検査を受けさせ、徴兵したメンバーには戦況や敵の特徴など何も教えないとか、リアリティなさすぎて白ける。

 説明をあえてしないことの意味やメリットが全くない。
 軍隊の新人に、訓練の一環として命令に従属させる躾をするのとはわけが違う。
 むしろ本人達の士気を考えたら、最敬礼をもって迎え、丁寧すぎるくらい入念な説明を行ったっていいくらいじゃないのか?

 アメリカ映画って、とにかく主人公を理不尽な状況に追い込むことで、視聴者にイライラやストレスを感じさせるのが常套手段になってるけど、それは後でスカっとさせるための布石となってはじめて意味があるもの。
 結局、ろくな説明も訓練もせずに戦地に送り込んだことに何の意味もなく、未来に送り込まれた人々は、あっけなく死んでいくばかり。

 ってことは、どうせすぐ死ぬんだから説明なんて不要ってこと?
 だとしたら、ただの不愉快映画だろ(笑)

 娯楽映画の演出として何一つ機能していない。
 このシナリオ作った奴は素人かよ。

3.攻撃手段がしょぼい

 「ロサンゼルスの決戦」同様、なぜエイリアンと戦う映画の武器ってなぜ毎度あんなしょぼいのか(笑)
 首と腹しか効かないというが、爆破が通用する相手なら、ロケットランチャーとかグレネード弾とか、もっと有効な武装あるでしょうに。
 何より、オスに効く毒があるなら、それを打ち込むのが確実じゃないのか。
 攻めてきてるのはほぼ全部オスなんだから。

 てか、ロサンゼルスの決戦同様、歩兵好きだねえ(笑)
 高層ビルの救援なら、戦闘ヘリとかで援護しろよ。

 もっとも、素人を送り込んでる時点で戦い方は限らるが、そもそも重要な救援活動なら軍人を派遣しろよ。

 そして一番あほらしかった部分。
 巣の場所わかってるならそこを爆撃して潰せよ(笑)

 生け捕りにするにしても、鎮静剤効くならなぜ銃で撃ち込まない?
 そして、司令官が直接出て行く意味。
 なんか、無理矢理主人公達のアクションシーンを入れたいがためにやってるだけにしか見えず、とにかく必然性がゼロ。

4.ロシアへの調査を拒む謎の政府長官

 いくらくそな政治家・官僚でも、あの対応はないわ(笑)

 そもそも、政府があんなわからんちんなら、突然やってきた未来人の話を聞き、世界中からの批判を受けながらも強制徴兵を実行してることと整合性がとれない。

 未来との通信が途絶えたから世界中で暴動??
 その対応に追われていてそれどころじゃない??
 ロシアは封鎖している??

 いやいや、あなた方が全面的に受け入れている未来人の「司令官」お墨付きの、世界を救える毒が作れるようになったんでしょ。
 そんな吉報が入ってるのに、政府も世界も絶望してる意味が分からない。
 「この毒を量産して備えていれば、恐るるに足りません!」といって、むしろ世界情勢は落ち着いているはずでは?
 一体、何のために毒を過去に持って帰ったのか?

 少なくともまだ数十年あるわけだから、そんな緊迫した状況になってるのはおかしな話だ。

 「未来への備えで忙しい」という理由で、「すでに地球で眠っている」という「新説」が受け入れられなかった、という話ならわかるが、世界中が絶望して暴動が多発し、世界各国が海外からの入国を断絶してるというのは全く意味が分からない。

 どのみち怪物が氷から溶けて目覚めるまで数十年あるんだから、じっくり調査して説得すればいいのに、なぜあんなに焦ってるのか。
 パラレルワールド的に、未来の娘が心配で急いでるという話なら、あの怪物の群れの中に落ちたんだからもう手遅れでしょう。
 単一の世界線なら、じっくり対処して何ら問題ない。

 とにかく辻褄があわなすぎる。

5.自分たちだけで解決しようとする無謀な主人公達

 政府に拒絶されたことで予想できましたが、自分たちだけでロシアに乗り込み、少人数で解決しようとする主人公たち。

 いやいや、無謀すぎだろ(笑)
 本当に解決する気あるのか。

 ……と、しかしあの広大なロシアの雪原で、あっという間に場所をつきとめてしまう主人公たち。
 まあ、見つからなかったら話進まないのはわかるけど、せめて日数変化の描写くらい入れたら?
 あまりにも早くに見つかりすぎで、ご都合主義にしか見えない。

 そして発見するや、「こんなの話しても、陰謀論者に潰される! だからこの場で終わらせよう!」……って、そりゃないでしょ(笑)
 普通なら考えられますよ。いきなりUFOの写真です! なんて言ってもさ。

 けど、この映画の中では、未来人がタイムトラベルしてやってきて、エイリアンによって滅ぼされようとしてる、って話で世界中が動いてるのに、いまさらUFOに対して陰謀論もないでしょ……
 主人公達のアクションシーンにもっていきたいからなんだろうけど、その説明が無理過ぎる。

 いつも思うんだけど、こうした「孤立した主人公達が団結して最後は解決」ってのがアメリカ映画ではお決まりのパターンなんだけど、最後は政府の理解を得られ、大軍を率いて圧倒的戦力で殲滅して大団円!……じゃだめなんだろうか?
 むしろそうしたほうがスカっとして爽快に思うんだけど。
 こういう、最後の最後までストレス感じながら観てるのって、無駄に疲れるだけで逆に満足度下げてるように思う。


 ……と、色々書きましたが、結構派手なアクションやCGは多用され、資金的には凝ったSFが作れたはず。
 なのに、脚本があまりにもへぼ過ぎて駄作に成り下がってしまった、残念映画でした。
  

 

 


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