** テーブルマナー講座 **

フランス式とイギリス式

●成立の背景

 まず、基礎知識として、日本で知られている西洋料理のテーブルマナーには、大きくフランス式とイギリス式の二つの形式があることを知っておきましょう。

 いきなりここから入るには、理由があります。

 テーブルマナーが要求されるシチュエーションの一番といえば、やはりフランス料理店に食べに行く時だと思うので、このページではフランス式をベースにして解説をしようと思いますが、厄介なことに、日本ではイギリス式のテーブルマナーが主流だった時代があり、また、その作法は、フランス式と大きく違う部分があるからです。

 そのため、マナー教室でも年配の講師と若い講師とでは言ってることが若干違ったり、マナー本によっても記述が違ったりして、混乱することがあるため、ここではあえて、そうなってしまった時代背景を先に説明しておきます。

 江戸時代に鎖国をしていた日本では、明治になって西洋文化が流入し、テーブルマナーもその時に入ってきましたが、その時、皇室を中心として、日本の上層階級がお手本としたのは、イギリス王室の作法だったのです。

 また、開国時の日本にやってきた外国人はイギリス人が一番多く、日本海軍も作法はイギリス海軍を手本にするなど、日本が西洋文化を吸収しようとした初期の頃は、イギリスの影響を強く受けました。

 そのため、かつての日本ではイギリス式のテーブルマナーが主流で、現在でもその名残が多くあります。
 なお、皇室の作法をはじめ、日本の公式行事では、現在でもイギリス式のマナーが用いられているそうです。

 しかし、海外旅行や留学・移住も当たり前になった今日では、フランス料理を食べるならフランス式のマナーが当たり前になり、むしろフランス式のマナーのほうが今の日本人にとっては一般的になっていると思います。 

 しかし、代々きちんと家で子供を躾けているような文化レベルの高い家庭ほど、昔ながらのイギリス式が微妙に混じっていたりするので、現在でも日本のテーブルマナーは、フランス式とイギリス式が入り乱れているのが実情なのです。

 ここで問題になるのは、フランス式とイギリス式とでどれほど違うのか?ということになりますが、イギリス式とフランス式とでは、場合によっては作法が全く逆になってしまうくらいの違いがあるから面倒なのです。

 例えば、フランス式のフォークの使い方は、フォークの腹側(曲線の内側)を使って、料理を「すくう」ように乗せて食べます。

 一方イギリスでは、フォークの背側(曲線の外側)に料理を乗せて食べる、というように、全く真逆です。

 ただの地域性の違いで済めば良いのですが、厄介なのは、フランスでは、フォークの背に料理を乗せるとイギリス式の作法は「みっともない行為」とされ、逆にイギリスでは、フランス式のマナーは「みっともない」とされていたのです。

 何故そうなってしまったかというと、それは歴史を遡り、古くは14世紀〜15世紀の百年戦争、そしてアメリカやインドの植民地支配を巡っての抗争、ナポレオン時代のイギリスへの大陸封鎖など、イギリスとフランスは、歴史的に長い時代にわたって対立していたのです。

 その対抗意識から、テーブルマナーに関して、いくつかの部分でわざとフランスとイギリスは違う作法になったそうです。

 そうして、フランスでは、イギリス人のようにフォークの背に料理を乗せて食べることをバカにし、イギリスでは、フランス人にようにフォークの腹に料理を乗せて食べることをバカにする、といった感じです。

 つまらない話ですが、こうやってお互い意地を張り合っていたわけですね。

 今日では、そのような対立意識も遠い昔の話となり、フランスに行ってイギリス式のマナーで食べたからといってバカにされることはないと思いますが、「変わった食べ方をしてるなあ」と思われる可能性があるので、その違いを理解しておくにこしたことはありません。

 「同じ西洋のマナーなんだから、細かいことはいいんだよ!」

と決めつけるのは早計です。

 例えば、日本と韓国ではどちらもお箸と茶碗を使いますが、食事の作法は全く違います。
 日本では、
お茶碗は手に持って食べないと行儀が悪いと言われますが、韓国では茶碗はテーブルに置いたまま食べなければマナー違反です。

 つまり、日本と韓国では、「お茶碗でご飯を食べる」という同じ行為であっても、マナーは全く逆です。

 でも、そうしたことを、西欧の人が、「日本も韓国も似たようなもの」と言って、区別なく扱われたらどう感じますか?

 日常の食事なら、さほど気にしないかも知れません。
 しかし、それなりの格の高い料理店での食事となると、やはり日本料理店なら正しい日本式で、韓国料理店なら正しい韓国式で臨んだほうが好ましいのではないでしょうか。

●ライスの食べ方

 ちなみに、洋食屋でライスはどのように食べたら良いのでしょうか?

 結論から言うと、「正式な食べ方はない」という回答になります。

 年配の人でよく、「ライスをフォークの背に乗せて食べる」という食べ方をする人がいて、この是非についてよく話題になりますが、これは、料理をフォークの背に乗せて食べるイギリス式の名残りでしょう。

 そもそも、西洋料理では、ガルニ(付け合わせ)としてピラフやリゾットのような米料理が添えられることはありますが、日本の洋食店のように、別皿でライスが出てくることはまずありません。

 南欧の米料理やイタリアのリゾット、スペインのパエリアなどはスプーンで食べることがありますが、これらは日本のライスみたいにおかずと別々に食べるわけではなく、単品の米料理です。

 つまり、「白いライスの食べ方」自体が、西洋のマナーには存在しません。

 しかし、日本の洋食店ではパンの代わりにライスを別皿に盛って出したりするので、イギリス式のマナーを習った昔の人がそれを食べようとした時に、イギリス式作法を守ってわざわざフォークの背に乗せて食べる、という形になったのでしょう。

 ただ、高度成長期以降、日本人が簡単に海外に行くようになり、本場フランスでフランス人の食べ方を見てきた人にとっては、フォークの背に料理を乗せて食べる日本人の食べ方を、「おかしい」と感じるようになりました。

 それに、イギリス式と言っても、白いライスをフォークの背に乗せるなんてことは、イギリスはもちろん、ヨーロッパ中を見ても存在しないので、何式とか関係なく、単純に違和感を持たれてしまうようになりました。

 とはいえ、そもそも「お皿に盛ったライス単品」が日本独自の食べ方なので、本質的にはフランス式もイギリス式も何もないわけです。

 こうした歴史的経緯を勉強していない最近のマナー講師の中には、この食べ方を一方的に批判する人がいますが、日本に洋食文化が持ち込まれてきた歴史的な背景から考えれば、イギリス式しか知らなかった時代の人が、お皿に盛られたライスを食べようとして、フォークの背に乗せて食べたとしても、決して間違った食べ方だとは言えないと思います。

 また、洋食屋でライスの皿を手に持って食べる人もよく見かけまますが、西洋ではお皿を手に持って食べないので、そうした食べ方はおかしい、という人もいます。

 確かに、フォークで食べるなら、お皿を手に持つのは変かも知れませんが、最近ではお箸を出す洋食屋やフランス料理店も少なくありません。
 そこで、お箸でライスを食べるとなると、お皿をテーブルに置いたままだと、逆におかしいような気もします。このあたりも、そもそも西洋に存在しないスタイルの議論なので、もはや何が正とかはないでしょう。

 あえて正しいマナーで食べることを徹底するなら、ライスはお茶碗で提供すべきであり、それを箸で食べるのが正しいのかもしれません(笑) 

 しかしながら、今日の日本の現実としては、テーブルマナーの主流はフランス式で、こうした歴史的な薀蓄なんて知らない方が普通なので、ライスはフォークですくって食べるのが無難だと思います。

 


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